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小説/練習/26


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自分のトピックを作る
21: フルムーン [×]
2016-05-12 02:43:09

小さく身動ぎを見せた青年に気付き、口付けを止めると目を塞ぐ様に手で覆い震える青年。
また苦しくなったのか、慌てて青年の顔の傍へと駆け寄る。

手では覆いきれない、水が青年の目から流れ出ていた。
これは一体何だ、目から水なんて流れているのは余程辛いのか。もう慌てる事しか出来ない。
青年は小さく声を漏らした。

「紫苑は私の…大事な、家族なんだよ」

家族…僕は青年の家族だと言うのか。生まれてから親の顔も知らず、一人のらりくらりと生きてきた僕を。
不思議だ、目頭が熱い。次の瞬間、僕の目からも水が溢れ出ていた。

22: フルムーン [×]
2016-05-30 17:57:37

すると青年は驚いた様に目をまんまるくして、不思議そうに首を傾げた。

「お前…紫苑は、私の言葉がわかるのかい」

よっぽど不思議な事だったのだろうか、僕だって人間の言葉位わかるさ。
でなければ人間が怒った時、猫は逃げ出したりなんかしない。
僕は人間がする行為を真似て、頷いて見せた…それも自慢気に。

23: フルムーン [×]
2016-05-30 18:03:48

全くもって、失礼な人間だ。僕を理解力の無い、馬鹿な猫だとでも思っていたのだろうか。不愉快極まりない、そう思っても青年を嫌いだとは思わない。
この気持ちは一体何だというのか、これは僕にも理解出来ない。

「家族という表現は嫌かい、それとも嬉しいと思ってくれたのかい」

相変わらず、子供に語り掛ける様な優しい口調の青年。自惚れだと突っぱねてやりたいが、今の僕にはその余裕は無いらしい。
最後に一つ鳴き声を上げて、青年に擦り寄ってみる。流石のにぶちんでも、これ位すれば理解出来るだろう。

24: フルムーン [×]
2016-07-04 02:52:34

――ポタリ――。
一つの雫が僕の脳天に落ちてきた。一体何だというのだろう、青年は気に入らなかったのだろうか。
上を見上げれば澄ました青年の顔では無く、くしゃくしゃになった青年の泣き顔がそこにあった。

何だ、僕は間違ったのか。驚きと動揺を隠せず尻尾を垂らし耳を折る僕を見て、涙をたっぷりと浮かべたまま青年は笑った。

「有り難う。お前は優しい子だね、最後まで一緒に居ておくれ」

鼻声になり僕の頭に落ちた涙を拭う様に優しく頭を撫で、何処か意味深に何故か悲哀染みて青年は言った。

25: フルムーン [×]
2016-07-04 03:07:15

泣くな…嬉しいならば只笑っていればいいじゃないか。そう言っていても猫である僕の言葉が通ずる訳もなく、止まらない涙を只真っ直ぐに只じっと見詰める事しか出来なかった。

――――……。
青年と暮らし始めてから四度程の朝を迎えた、相変わらず青年は咳をし苦しそうにしながらも優しく澄ました顔を僕に向ける。

無理はするな、そう言ってみたのはこれで何度目か。意味の無い事でもこの青年にはいつか届く、そんな不確かな確信が僕に同じ事を繰り返させていた。

「紫苑、今日の夕食には母が鰻を用意してくれるらしいんだ。紫苑には白焼きを用意しよう、楽しみにしておいておくれ」

鰻…魚屋から盗みたくても独特な滑りで盗めなかった、あの魚か。白焼きとは何だろう、青年の出してくれる食事は毎度違えど美味な物ばかりだ此度も期待出来るだろう。僕は楽しみだ、そう返事した。

26: フルムーン [×]
2016-07-07 19:12:40

…小さく笑みを溢す青年、僕は何事かと真上の顔を見上げた。

「鰻で喜んでくれるとは、今日は吉日かな」

そうだ、青年はこんな所があった。僕の言葉は猫がよく、にゃあと言っている言葉と同じ言葉を発している筈。なのに決まって、理解している様な口振りで話すのだ。
変わった人間も居たものだ、今まで見た事も聞いた事も無い。猫の言葉がわかるなんて、とんだ変わり者だ。

そうこうしている内に空は茜色に染まっていた。

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