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小説/練習/26


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自分のトピックを作る
■: フルムーン [×]
2016-05-03 02:16:08 

練習で小説書いてみます。

コメントは歓迎致しますが、私以外の作品を記載する事を禁じます。

理由は簡単です。混乱と私の携帯機種によるエラーを防ぐ為です。
申し訳ありませんが、ご協力願います。


1: フルムーン [×]
2016-05-03 02:34:31

【永久の初恋】

*登場人物*

シオン
三毛猫の雄。のらりくらりと生きる野良、聡一郎に出逢って人間の優しさを知る。

垣内聡一郎
(かきうち そういちろう)
21歳。包容力溢れる動物好きな心優しい青年、三毛の野良猫にシオンと名付けた。

垣内治子
(かきうち はるこ)
44歳。戦争にて夫を無くした未亡人、聡一郎の母。厳しく、気丈に振る舞うが根は脆く弱い。

/先ずは短編

2: フルムーン [×]
2016-05-03 02:41:04

僕は野良だ。
その日1日をどう過ごそうと自由で、誰に縛られる事も無い。
縛られるだなんて飼い猫は可哀想だな、そんな風に考えるのもこれで何度目だろう。

いつもいつも、飼い猫は頭を撫でられ餌を貰う。
一方僕はと言えば魚屋から魚を拝借する、追い掛けられる…運が悪ければ少しばかり痛い目にもあう。
こんな生活、これでも僕は結構楽しい生活だと自負しているんだ。
何せ、上手く盗めた時の魚屋の顔といったら…くく。

まあ、取り敢えずは双方それなりには幸せだという事さ。

3: フルムーン [×]
2016-05-03 02:47:40

僕の家は、無い。
しかし塒(ねぐら)は確保してある、雨を凌ぐ場所は無くてはならない場所だ。
一番安全、一番広い。寺の床下を塒にしている猫は多いものさ、その日暮らしの僕にとって塒を盗られてしまう訳にはいかない。
そう、この日は少し違った。

隣町に住んでいた筈のボス猫が僕の確保した塒にどかっと腰を下ろしていた。
争う?そんな事をして何になる、負けるのがオチさ。

今日は少し遠出してみよう、新たな良い塒が見つかるかもしれない。

4: フルムーン [×]
2016-05-03 02:53:41

僕はボス猫に代わり、隣町に足を延ばした。
隣町は僕の町とは違い穏やかで、田んぼの多いのんびりとした町だった。

少し歩いた所でぽつり、ぽつりと雨が降りだした。季節は三月、冷たい雨が僕の身体を冷やしていく。
そういえば昨日今日とも飯にありつけていない、これはまずい。非常にまずい、慌てて近くの屋敷に飛び込んだ。

5: フルムーン [×]
2016-05-03 03:04:33

寺に比べれば小さいけれど、人の住む屋敷にしては大きい方だ。
庭という場所で少しでも雨を凌げる場所を探す、けれど庭木は無い。
よし、やはり床下しか無いか。屋敷に近付こうと一歩踏み出した時、僕は気付いた。

雨粒が僕を避けている、僕の周りには雨粒が落ちてこないのに少し先は雨粒が降り注いでいる。
不思議な光景に暫し地面を凝視する、すると後ろから柔らかな声が耳を擽る様に雨の代わりに降り注いだ。

「可愛いお客さんだ」

驚いた、人間は危険な物の筈だ。なのにこの人間は、何故か違う気がしたんだ。
僕を客だと言うこの人間は、一体何を考えているのだろう?

6: フルムーン [×]
2016-05-03 06:52:46

暫くの沈黙が流れた後、動いたのは人間の方だった。
僕は何故か、その人間から目を逸らす事が出来なかったんだ。真っ直ぐに、僕の姿だけを瞳に映したその人間をとても綺麗だと思ってしまったから。

「おいで、私の部屋は余りにも広い。君も一緒に来ておくれ」

着流しを羽織った和装を身に纏うその姿に目を奪われ、余りにも優しく囁くその声に聴覚を支配される。
そんな感覚が余りにも心地好くて…。

7: フルムーン [×]
2016-05-03 13:24:22

僕は気付いたら人間の部屋に居た。
僕は阿呆だ、誰が何と言おうと阿呆に違いない。人間の優しさとあの声に釣られ、今まで嫌だ嫌だと可哀想とまで言った飼い猫同様に囲われてしまうなんて。
混乱と後悔の最中、またあの柔らかな声が部屋中に優しく響く。

「お客さんは魚はお好きかな、にしんしか無くてすまないね。」

もう騙されはしないぞ、僕は人間に囲われたりはしない。
目の前に置かれた器に入った二匹の焼いたにしん、自然と近付いた人間に僕は威嚇した。

8: フルムーン [×]
2016-05-04 11:06:16

噛み付いてやろうか、引っ掻いてやろうか。けれど出来なくて、僕はただ威嚇するだけ。
人間といえば少し驚いた様な顔をしてはまた優しい笑みを浮かべる。どうせ他の人間同様、騙して痛い目に合わせようって魂胆なんだろう。
でも、僕の考えは容易く覆された。

「安心しなさい、私は君に何もしない。」

何もしない、その言葉を信用しろって言うのか。
でも、何故か僕は信じてしまう。この人間に特別な力等あるようには見えないというのに、歩み寄ってしまうんだ。

9: フルムーン [×]
2016-05-05 16:40:00

僕はにしんを一尾口にくわえた、そして焼くという行為は魚の旨味を実によく引き出す物だと知った。
焼かれたにしんは臭みもなく肝の苦味も少ない、人間や飼い猫はこんな美味なる物を食っていたのか。

もう一尾のにしんも口にする。
僕の為にだろうか、にしんからは僅かな塩味しかしなかった。

美味い物をたらふく食える生き方と自由な時間を過ごせる生き方、二通りの生き方。
今なら僕はどちらを選ぶだろう、いや、きっとどちらも選ばない。
飼い猫になるとしても、この目の前で優しく微笑み掛けている笑顔が無けりゃ飯も美味くは感じないだろう。
野良は確かに気楽だ、だけど共に命の危険も伴う事もある訳だ。

何よりこの人間が居ない、それはなんと寂しい事なのだろう。
こんな風に考える自分を、今まで想像も出来なかった。

10: フルムーン [×]
2016-05-06 18:47:48

僕は今日をこの青年の部屋で過ごす事に決めた。

やはりまだ信用しきれる訳もなく、僕は相変わらず距離をとった所に鎮座していた。
大人しく息を潜め、この青年の行動を見張る。
この頃の僕には想像なんて出来なかったが、今で言う探偵の様な気持ちであったのだろうと思う。

よく見れば青年は分厚い布の上に腰掛けている、あれは何だ。ああ、飼い猫が話していた布団という物か。
この青年はこんな時間も寝ているのか、なんて寝坊助だ。

11: フルムーン [×]
2016-05-06 20:41:10

他にも何か無いものか、辺りを見回してみると高く積み上げられた本の数々。
この青年は本なんて読むのか、僕の生まれた隣町ではこんな物を読む変わり者なんて居ない。
皆働き、活気のある男共ばかりである。

こちらの町は変わり者が多いのだろうか、そんな事を考えていると青年は口を開いた。

「君に名前はあるのかい、無いのならば私が付けても構わないだろうか」

名前、そんなものある訳が無い。ずっと野良暮らし、縛られる様な物は一つも無いのだから。

12: フルムーン [×]
2016-05-06 20:59:22

この人間は僕に名を付けて楽しいのだろうか、しかし呼び名があるという事には少し憧れた事もあった。
呼び掛けられてみたい、僕と話したい猫に名を教えてみたい。
そんな子供染みた欲、随分前に諦めた。

付けるならば勝手に付けろ、そう言うように一声だけ鳴き声を上げた。
すると青年は僕の意図を理解したかの様に微笑み、また口を開いた。

「有り難う、ならば…そうだ。紫苑という名を付けても良いだろうか、私の好きな花の名前なんだ」

シオン…僕の名はシオンか。これは良い、とても呼びやすい。
沸き上がるこの感情は、僕はきっと喜んでいるのだろう。ごろごろと鳴らす喉の音は何よりの証明だ、僕はこの青年をとても気に入った。

13: フルムーン [×]
2016-05-07 20:29:38

青年は山の様に詰まれた本の中から一冊、本を手に取り僕の元へ歩み寄って来た。
先程迄の警戒は嘘の様に解いてしまって、僕は青年が隣に座るのをじっと見ていた。
栞の挟んだページを開けば僕の前に置き、青年は何処か楽しそうで、しかし憂う様に微笑んで一言漏らした。

「紫苑、どうか君は私を忘れずに居ておくれ。」

青年はかなりの心配性だ、僕はそれ程に記憶力が悪い様に見えるのだろうか。全くもって不愉快である、しかし青年の憂いを帯びた眼差しを見ると僕は静かに尻尾を振った。

14: フルムーン [×]
2016-05-08 16:23:28

その日の時は何とも早く過ぎて行った様に感じた、何せもう夜である。

「さ、お食べ。」

青年は部屋で食事を摂る様子、そろそろ僕も腹が減ってきた。
ふと差し出されたのは青年の食事から選りすぐったおかずの数々、これはなかなかの馳走だ。

昼食べた物とは桁違いに美味と感じる。まあ、芋の煮た料理は何とも気味の悪い食感だったが、味は悪くない。
僕は余程美味そうに食していたのだろうか、青年は嬉しそうに小さく笑みを溢した。

「紫苑を見ていると、食事が美味しく感じるよ」

それは誠に良い事である。
しかし、僕を見ていると。という言葉がどうも引っ掛かる、まあ飯が美味い事に免じて目を瞑るとするか。

15: フルムーン [×]
2016-05-09 11:09:07

青年が一つ咳をした。
それは食事を終えて二、三と時を刻んだ頃。
毛繕いの為に腹を出し仰向けになっていた僕は驚き目を丸めた、青年はばつが悪そうに眉を下げた。

「すまないね、驚かせてしまった」

いや、それよりお前体調が悪いのではないか。
そう聞いても所詮は解り合えぬ猫の鳴き声が部屋に響くのみ。青年が口を開きかけるも、同時に障子が開かれる音と紡がれた青年と違う声音に僕は尻尾の毛を逆立てた。

「聡一郎、猫なんて入れて…」

障子が開かれた其処には、和服姿の似合う青年と顔立ちの似た女性が立っていた。

16: フルムーン [×]
2016-05-12 02:08:54

どうやらこの青年の名は聡一郎というらしい、僕でもそれ位気付けた。
そして女性をじっと見据えると、後ろから青年の声が聞こえた。

「母さん。雨に濡れていて、紫苑は…」

成る程、女性は青年の母親という訳か。
僕は、一体何だと言いたかったのだろう。
青年の言葉は女性の声に掻き消された。

「名前まで付けて…猫なんて入れて、もし何かあったらどうするのっ」

酷い金切り声だ。鼓膜が可笑しくなるのではないか、そう錯覚する程である。
それに、どうやら僕はこの家には不要の存在の様だ。すると突然、青年が咳き込み始めた。

「紫苑は…私の…ごほごほっ、ごほっごほっ」

口元に添えた青年の手が赤く染まる。
あれは何だ…青年は苦しいのか。

僕が人間なら、青年の背を擦ってやれる。
僕が人間なら、青年に薬を出して苦しみを和らげてやれるのに。
呆然とするなか、青年の母親の悲鳴に次ぎ医者を呼びに行く青年の母親の足音だけが響いた。

17: フルムーン [×]
2016-05-12 02:13:19

医者が来て、横たわる聡一郎の診察とやらを始める。
騒動で僕の存在は忘れてしまっているのだろう、青年の母親はただ青い顔で青年を見下ろしていた。

僕はといえば、部屋の隅でただひたすら祈っていた。
僕はまだ青年の言い掛けた言葉を聞いていない、どうしたら青年は苦しまないのか。
僕が一体、青年に何をしてやれるのか。神が居るとするならば、青年ともっと一緒に居たい。

もう、一人は嫌だ…と。

18: フルムーン [×]
2016-05-12 02:22:18

何とも身勝手な祈りである。

暫くして医者が帰った、母親は頭が痛いのだろうか。眠る聡一郎から離れ、何処かへ行ってしまった。きっと、彼女も眠りに行ったんだろう。

そっと、青年の顔を覗き込む。青年の唇の端に付いた赤、これは先程青年が口から吐き出したもの。
拭ってやろう、舌で舐めるとそれは鉄の味がした。
青年は血を吐いたという事だろうか、再び呆然と青年を見つめてしまう。

19: フルムーン [×]
2016-05-12 02:26:09

苦しいなら、僕は何をすれば良い。
辛いなら、僕が支えてやりたい。
痛いなら、僕が治してやりたい。

猫だから、何も出来なくて。
猫だから、支える事も出来なくて。
猫だから、治してあげられない。

人間だったら、こんな願いも聞き入れて貰える訳が無くて。

20: フルムーン [×]
2016-05-12 02:33:26

悲しい。
生まれて初めてそんな感情が湧く、今迄嫌いだった人間に向けてそんな事を思う。

可笑しい、全くもって可笑しいな僕は。けれど、青年を見ていると人間の真似事をしたくなる。

人間では男女が行う所を見た、飼い猫曰く好意がある者への行為だとか。
好きだ、僕はこの人間が堪らなく好きだ。だから、僕にも何か聡一郎に贈りたい。
僕は青年の口にそっと、口付けた。

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