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【小説練習】洗脳の糸を結ぶ/1


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■: 水崎ひろね [×]
2016-04-25 20:35:24 

「一つの器に入る水の量は、器を大きくする事によって変わるのですよ」


1: 水崎ひろね [×]
2016-04-25 21:01:29

歌舞伎町から移転した母の店は、大阪の路地裏で経営を再開した。
猫が通り過ぎ、カラスが溜まり、時折聞こえる暴言や罵倒の数々が治安の悪さを物語る路地裏。

一階の店はバーの様な形。沢山の酒の数々が並び、黒い木造のカウンターや黒い皮の椅子。申し訳程度に置かれた3セット程のイス二席と丸テーブル。
全体的に黒く木造な物が並び、多くを照らさない間接照明は大人びた雰囲気。
良く言えば落ち着いたバー。悪く言えば暗いバー。

一方、二階の部屋はこじんまりとした安っぽい和室で、正直言って息苦しさしか感じない、安らぎさえも感じない酷く古い内装だった。
障子はところどころ黄ばんでいたり破れていたり、畳の隅はささくれていて押し入れからは何か出てきそうな陰密さが漂っている。

バーで働く母と、中2の私。父はどこか遠くへ行き消息不明。そんな混沌とした家庭でも、何故か「嫌」とは思えないのはただ単に欲が無いのか。
「水崎ひろね」として産まれた私に「水崎千広」という母は、どう思ったのか。
邪魔な存在でしかなかったのか、時々見せる面倒臭そうな顔が昔はとても恐ろしかった。
まるで天使の子の様な扱いは、時々自分が異常な様で不安だった。
情緒不安定な私を支える土台は「小説」しか無く、ふわふわした生き心地は誰も治してくれない。
産まれ落ちる前から「独り」を強いられていたのかもしれない。そう思う事は何度もあった。
明るい曲は馬鹿馬鹿しい、脱力系の曲は怠けているし、異常な早口の機械音は他人事、ミーハーな英語の恋は理解しにくい、やっぱり他人に没頭しやすい小説は私の支えなのだ。

ふらり、ふわふわと。短い黒髪を揺らし、セーラー服に着せられた様に無機質で意思を持っていない様な体。きっと、生き甲斐なんて妄想。哲学でも何でも無い、子供が好きそうなもの。

そうやって今日も芥川の本を捲れば淡々と。

明確に思考を巡らせた。

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