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自分のトピックを作る
1719:
アマツ [×]
2016-03-19 02:04:16
友達の父親が、友人から聞いたという話
【港】
とある夏の夜。
休みがとれたので、俺は海に夜釣りに出掛けた。
行ったのは山間の小さな港で、前々から気になっていた場所だった。潮の流れが丁度良く入り込み、大物が釣れると地元の漁師さんに教えて貰ったことがある。
だが、これまで一度も行ったことがない。
その理由は、漁師さんが言っていたことだ。
「ここは、潮の流れが良いって言ったけど、それをいいことに自殺する人が居るんだ。それで、『出る』って話があってなぁ……」
それを聞いてからずっと避けていたが、この日は会社の同僚もいたので思いきって行くことにしてみた。
この時、もし幽霊が出たら後で話のネタに使えるなぁ、という程度にしか考えていなかった。
あんなものを見る羽目になるなんて知らずに。
早速車を停めて釣竿を用意する。
小さな港といっても、何隻か漁船があって、波に揺られてちゃぷちゃぷ音を立てている。時折、発泡スチロールが擦れるような音も混じる。
「ここ何釣れっかな」
「さぁ?けどでっかいのは釣りたいな」
そんな風に他愛ない話をしながら釣糸を垂らす。
俺はカレイを狙う。同僚は、特にコレといった目標はないらしい。
「……」
「ふぁ~あ……」
静寂が港を包む。
波の音と、俺達の息遣いだけが聞こえるだけ。
明かりは、地面に置いてあるキャンプ用の電池式ランプだけだ。
ただ何もない時間が過ぎる。
だが、不意に同僚が急にそわそわし始めた。
「どうしたよ」
「ん?ああいや……他に誰かいるのかな、ってさ。何か、気配感じるし……」
怖いこと言うなよ。
そう言って俺は周りを確かめる。
暗くてよく見えないが、誰も居ないことはわかる。
この暗闇の中、明かりを持たずに歩くのは危なすぎる。
ふと、漁師さんの言葉が蘇る。
「………まさか、なぁ」
「ちょ、ちょいちょいちょい!」
途端、同僚が急に声を掛けてきた。
何事かと思い、行ってみる。すると
「釣れたっぽい」
「おぉー」
そいつは重畳。
が、同僚の顔はすぐに曇った。
どうやら、引きがないらしい。引っ掛かった訳ではないが、そうなると海草かゴミだろう。
さて何が掛かったか。
そう思い、海面を見てみる。すると、徐々に何かが上がってくる。同僚はバッグの中から懐中電灯を取り出した。
「あるなら言えや。この役立たず」
「うるせぇ。忘れてたんだ仕方ねぇだろ」
カチッ
懐中電灯をつけて海面を照らす。
すると、何やら黒く長いものが見えてきた。
「あー、ざんねーん。海草じゃねーか」
「かぁー!ちくしょう!………ん?」
俺は自分の竿の方へ戻る。
照らされた竿のは特に反応を示していない。
なかなか釣れないが、釣れた時が楽しいのが釣りというものだ。
餌がなくなっていないか確かめるために、リールを巻いてみる。
だが、次の瞬間
「うわわわぁ!!え、ちょ、おい!えぇ!?何だよこれぇぇぇ!!」
「あん!?」
同僚の絶叫が響く。
何があったのか見に行く。
するとそこには……
「なっ!?かっ…かっ……髪、の毛ぇ!?」
「っ!!」
懐中電灯に照らされた先……
釣り針には、大量の髪の毛が絡まっていた。
「……」
俺は、背中が寒くなるのを感じた。
よく考えてみると、空気そのものが冷たくなった気すらする。
「……やばくねぇか?!な、なぁ、もう帰ろうぜ……」
「うるせぇぞタケシ……と言いたいけど、そうだな……今日は、もう……」
何気なく、自分の釣竿を見る。
そして絶句した。
「な、な、な………」
、、
何かが、いた。
、、
ランプの光に照らされたその何かは、人の形をしていた。
だが、異様な程に膨らんでいる。
その時、俺は悟った。
、、、、、、、、、
ああ、俺にはお前を助けられない。
呻き声が聞こえた。
苦しそうだった。
きっと、死した今もなお、苦しいのだろう。
それで助けを求めているのだ。
、、
が、きっとアレは俺たちを海へ引きずり込む。
気がつけば、走っていた。
後ろから足音が聞こえるが、荒い息からして同僚だと分かる。
一目散に車に駆け込み、エンジンをつける。
ホラー映画のように、謎のエンジントラブルにはならなかったのが救いだ。
助手席に同僚がいることを確認して、一気に港の出口へ車を走らせる。
後ろにドンッ!と衝撃があったが、気にする余裕はない。
アクセル全開で港を出た。
その後、俺は自宅に到着。
同僚も俺の家に泊まることとなった。
翌日、車の後ろを見ると、まるで何かが思いきり体当たりしたようにへこんでいた。
それ以来、その港の付近には近寄っていない。
釣竿などはきっと、漁師さんが発見していることだろう。
もしかしたら、今なお海底に沈んだままの人が、いろんな場所で助けを求めているのかもしれない。
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