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自分のトピックを作る
61:
ムーン [×]
2016-04-11 22:19:01
一頻(ひとしき)り鍛冶屋の仕事を堪能すると、俺は古道具屋の前で立ち止まった。
店先にある台の上にはセールの文字。
少し錆びてる物も多々あるが、磨けばまだまだ使えそうな逸品がある。
セール用品程度なら俺の小遣いでも買えそうなので、何か掘り出し物が無いか眺めていた。
すると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「古道具屋って…。なんだか貧乏臭い響きよね」
声の方へ振り返ると、そこにはローズが立っていた。
振り返った俺の顔を確認したローズは。
「出来損ないの子供にはお似合いかもね」
鼻で笑うようにそう言った。
「そうですね。でもたまに掘り出し物とかがあるんですよ?
そういうのを見つけた時にはワクワクしますよ」
「ふん。こんなガラクタばかりの所に掘り出し物なんて在るわけないじゃない」
そう言いながら、ローズは古びたウエストポーチを、親指と人差し指で挟みながらブラブラとさせて持ち上げる。
「お嬢様にはガラクタにしか見えないでしょうが、僕が買えるものと言ったら、
今はこのくらいの物しかないのです」
少し悲しそうな表情で言った。
流石のローズも言い過ぎたかと、ハッとした様な顔をしたが、そこは生まれながらのお嬢様だ。直ぐに気を取り直し、踵を返してその場を去っていった。
俺はローズが抓んだウエストポーチを手に取る。
確かに指先で抓みたくなるほど汚いな。
素材は…麻?かな?
それにしては色がくすんでるな。
日に焼けたのか汚れてるのか分からない程汚いし、この所々にある赤茶色の斑点は模様なのか?
・・・・・違うな。これは血の色が変色した後だな。
ん~・・・・。一応鑑定はしておこうか。
こう言うのが掘り出し物って可能性もあるしな。
鑑定スキルを使うと、いつもお馴染みのパッド君が登場する。
パッド君に鑑定したい物の判定結果が表示された。
―――――――――――
名:無限異空間袋
特殊効果:時止
《取り扱い説明》
* 許容量無限
* 大小に関わらず収納可能
* 取り出し時はイメージをすれば取り出し可能
* 入れた時の状態をキープ
《備考》
無限異空間袋の中身:薬草×5 オリハルコン 金 銀×3 銅×4 鉄×10
ワイバーンの牙 ブルフの爪
―――――――――――
・・・・・・おいおいおい。無限異空間袋だと?マジかよ・・・・。
こんなのアニメの中だけだと思ってたぞ…。流石異世界だな。
って事は・・・・これってめっちゃ掘り出し物じゃね?
異空間袋自体はたまに見かけるが、容量制限があるもんな。
ロジャー達が持ってるやつだって、精々20個程しか中に入らないし。
そのくせメチャメチャ高いらしいけどな。
でもこれ・・・・、無限だぜ!?無限!
おまけに時止!
希少品じゃね?
それがこの値段かよ・・・・。
ここの店主見る目が無いな・・・・。俺は嬉しいけど。
ウエストポーチを手に持ち、店内に行き、店主に声を掛ける。
「これ下さい」
「あ~、大銅貨1枚だな」
ポケットから大銅貨を一枚出し、それを店主に渡す。
これが大銅貨一枚とかありえないよな。
大銅貨一枚って言ったら千円だぜ?!千円!
やべぇ。顔がニヤケル。
「ボーズ、本当にそれでいいのか?」
「うん!こう言うの僕欲しかったんだ!」
「俺も売っといてなんだけどよ。よくそんな汚いの買う気になったな」
「エヘヘヘ」
笑って誤魔化した。
おっちゃんこそ、よくこんな希少価値の物を大銅貨一枚で売ろうと思ったよな。
それも中身付きで。
俺はこのポーチの事がバレないうちに逃げるように古道具屋を後にした。
62:
ムーン [×]
2016-04-15 16:01:59
第二十話
■ 親心 ■
ロジャー視点
今日はここで野営だな。
やっと半分。まだまだ油断はできねぇな。
ん?向こうから来るのはハウルんとこの奴隷じゃねぇか。確か名前はマーヤとか言ったな。
「あの…、水場はここからどのくらい先にありますか?」
「1㌔ほど先だな。行くのか?」
「はい。足りなくなりそうなので…」
ロジャーは溜息を吐くと、
「おい!シオン。この人を水場まで案内してやってくれ」
「はーい」
そう言うと、マーヤの他にローズ嬢ちゃんまで付いて行くのを見送ったのが一時間ほど前なんだが。
帰って来ねぇ。何かあったのか?
シオンとあの嬢ちゃんは歳が近いくせに、あまり話そうとはしてなかったが大丈夫か?
あの嬢ちゃんの性格なら、シオンの事を奴隷としか見てないだろうが、喧嘩だけはしないでいてくれよ。
シオンは見た目と違って中々芯のあるやつだからな。
シオンの事だから上手く立ち回ってるとは思うが、アイツもまだまだガキだからな。
「クウ。ちょいとシオン達を見に行ってやってくれねぇか」
「シオンなら大丈夫じゃないっすか?アイツの腕ならここら辺の魔物に勝ち目は
無いっすよ?」
「まあ、そうなんだがな…」
「へぃへぃ。心配なんでやんしょ?ロジャーさんは過保護っすね」
笑ながらクウが言う。
「バッ、バカ言ってんじゃねぇよ!さっさと行ってこい!」
「へ――――――イ」
63:
ムーン [×]
2016-04-15 16:02:34
待つ事十分。草木を掻き分けてシオン達は帰って来たんだが…。
俺は幻でも見てんのか?
よく目を凝らして何度も見たが、やっぱり間違いねぇよな…。
何があった。
「それは何だ」
シオンに聞く。
「えっと・・・、怪我してるんだ。迷子なんだ。可哀想だろ?
まだ子犬なんだ、シルバーは…」
犬だと?バカ言ってんじゃねえ。
そいつは何処からどう見ても妖狼じゃねぇか。
普通の人間は犬だと言っても疑わねぇが、俺達冒険者にそれは通じねぇな。
そいつを犬だと疑わねぇ冒険者は長生きはしねぇ。間違いねぇ。
・・・・ってか、名前まで付けちまったのかよ…、全くしょうがねぇ奴だな。
ロジャーは大きなため息をつきながら、
「名前まで付けちまったもんはしょうがねぇな。バレるなよ」
そう言うと、俺に怒られると思っていたのか、俯きかげんでシュンとしていたはずのシオンの顔が急に上がったかと思うと。
「ロジャーーーー大好きーーーー!!」
そう言って俺に抱き付いてきた。
この、心に広がる温かいものはなんだ。
これが子供を持った父親の感情と言うものだろうか。
こんな気持ちに俺がなろうとはな。誰が想像したよ。
俺も驚いてるよ。まったく。
しかし、いくら妖狼の子供とは言え、災害級の魔物が人間に懐くものなのか?
ち・・・・ちょっと待て!
シオンの足首に浮かんでるあの紋様は・・・・。
あちゃー‥‥。やっちまったか・・・・。
ただのガキじゃないとは思ってたが、まさかそこまでの力があったと言う事か…。
あの紋様は間違いねぇ。主従の紋様だ。
かなりの魔力がねぇと妖狼ベルガーなんぞ使い魔になんかできるはずがねぇ。
しかしなんだ。それを無意識でやってるんだから大したガキだぜ。まったくよ…。
ほら見ろ。あいつ等も飽きれたような顔をしてるぞ。
気が付いてない振りはしてるけどな、気付いてるんだよ。
シオンの実力をな。
アイツ等もあいつ等なりにシオンの事が気に入ってるって事だな。
64:
ムーン [×]
2016-04-15 16:03:13
======
次の日。お昼を少し過ぎた頃、遠くに町が見えてきた。
今日はここで一泊だな。
シオンとシルバーは運動だと言い、馬車と並走している。
元気だな。こいつ等。
町に入るとさっそく宿屋を取り、俺達はギルドに向かった。
途中倒した魔物の戦利品が袋に入りきらなくて邪魔でしょうがねぇ。
一応ここまでの護衛の報告と、ブツの換金が目的だ。
ギルド内に子供は入れないのでシオンは留守番なんだが、ふて腐れてたな。
決まりだからしょうがない。
ふむふむ。全部で金貨三枚か。まぁまぁだな。
シオンも居ない事だし、ギルド内の酒場で一杯飲むか。
「お前等。好きなだけ飲みやがれ!」
「「「おー!」」」
カーッ!!うめぇ!!!
魔物の警戒をしなくていいってぇのはたまらんな。
いつもより数倍うめぇ!
気分よく酒を飲んでると、隣のテーブルの奴から話しかけられた。
「よう。お前さん達はどっちから来たんだ?」
「マニラだ」
「何?! ・・・・そうか。で、状況はどうなってる」
「状況?」
「知らないのか?いまあそこは大変らしいぞ」
どういう事だ。まさかもう戦争が始まったって言うのか?
「俺達が立った前の日には兵士募集の張り紙は出てたけどな」
「やはりな。マニラに居る奴らが先陣らしいぜ」
「ってぇ事は、俺達冒険者にも参加しろと言う事か」
「ああ。報酬はかなり良いらしいぞ」
今までの俺達なら即答で答えてただろう。「稼ぎ時だな」と。
しかし今はシオンが居る。どうする。
「兄ぃ。どうしやす?」
「ああ。」
「ロジャーさん。俺達は行ってもいいんだけどよ。シオンはどうするんだ?」
「ああ。」
俺は考えた。
戦争に参加する事は嫌じゃねぇ。
むしろ今までそうやって生きてきたんだ。
城の兵士たちに比べれば、俺達の方が遥かに戦い慣れてる。
団体行動は苦手でも、その場その場で臨機応変に対応できる。
奴等にとっても俺達の戦力が欲しいところだろう。
どうしたもんか。
「ロジャーさん。私に考えがあるんですが」
「聞かせろ。ファイン」
「シオンはドラグの街から船で隣国へ行かせたらどうでしょう」
「隣国だと?」
「はい。幸いシオンも剣の腕だけはそこら辺の冒険者にも引けを取りません。
それにアイツには…シルバーも付いてるので…たぶんそれなりの…」
ファインはハッキリとは言わなかったが、要するに、妖狼を使い魔にするだけの魔力があり、剣の腕も俺達には及ばないが、さっき俺に話しかけて来た冒険者よりは強いはずだ。
出会った頃の様な非力な子供じゃねぇ。そう言いたかったようだ。
「隣国にやってそれからどうする。
あいつはまだギルドには登録出来ねぇぞ」
「はい。シオンなら読み書きも出来るし、計算もできるので、何とかなるかと」
「はぁっ?!あいつ計算もできるのか!?」
「はい。以前買い物に付いて来た時に、素早く計算してましたね」
「とんでもねぇガキだな・・・・」
二人は顔を見合わせ苦笑した。
65:
ムーン [×]
2016-04-15 16:03:52
俺はとんでもねぇ買い物をしたかもしれねぇ。
ただのガキだと思ってた。
荷物持ちに丁度良いと思ってた。
安く買ったガキだ。替えはいくらでもいると持っていた。
たとえ迷宮で魔物に襲われて死んでもだ。
今までもそうだ。
**ば次を買っていた。
情なんてあるわきゃない。
悲しいというより、今回はハズレだな。とか、長持ちしたな。程度にしか思っていなかった。
それがどうだ。
俺だけじゃねぇ。他の奴等も考えてたみてぇだ。
シオンを生かす方法を。
俺達がこんな事を話し合ってるなんて、シオンは知らねぇだろうな。
知ったらどんな反応をするんだ?あの野郎はよ。
まぁ、泣こうが叫ぼうが知ったこっちゃないけどな。
生きてさえいればまた会える。
それで良い。
これが俺達五人の相違だ。
66:
ムーン [×]
2016-04-16 20:15:35
第二十一話
■ 別れ ■
あれから一週間ほどでシャブリ帝国の王都《ドラグ》にやって来た。
シルバーの事は大型犬の子犬だと言う事にしている。誰も疑ってない。
大型犬の子犬だと言い張るくらいだから、その姿もかなり大きいのだが。
ぶっちゃけ、成狼になると、ハイジに出てくるヨーゼフ位の大きさになるそうだ。
デカイな。エサ代って俺持ちなのか?・・・・頑張って稼ぐしかないか。
ローズとは相変わらずの仲だ。
しかし、アイツも少し成長したかな。
初対面の時は最悪な態度だったが、最近は大人しいもんな。
それに時々シルバーの事を見つめてるし。
だから触りたけりゃ言えば良いのにな。そこは相変わらずの察してちゃんだ。
シルバーも知ってか知らずか、俺の傍から離れようとしないもんだから、触る機会が無いらしいぞ。ヤレヤレ。
ドラグに着くまでに幾つかの町や村を通ったが、近々戦争が起こりそうだと言っていた。
村人や町の大人たちは、武具や武器を調達する姿が目立ってたな。
ロジャー達も何か隠してるみたいで、その事にはあまり触れないようにしてるのが見え見えだ。
俺はと言えば、言いたくない事を無理に聞く気もないし、そのうち話してくれるだろうとのんびり構えてたんだ。
そして今夜。その話しと言う爆弾が投下された。
食事が終わると珍しく誰も酒場には行こうとはしなかった。
何かいつもと違う、そう思ったんだが、俺は深く考えなかった。
そう。いつもとちょっと違うな。疲れてんのかな。程度にしか思っていなかったんだ。
するとロジャーから全員集合の号令がかけられた。
端から見れば出来損ないの奴隷に見えるが、そんな俺は1人部屋を貰っていた。
そこにクウが呼びに来たんだ。
「シオン。兄いんとこ行くぞ」
「会議?」
「・・・・・・・似たようなもんだ」
今まで今後の予定を組む時に俺は呼ばれた事が無いぞ。
てか、大抵三人部屋でロジャーの居る部屋でやってたんだけどな。
勿論俺もそこには居るが、「子供には関係ねぇ」の一言で隅に追いやられてたっけ。
まぁ、聞き耳のスキルを持つ俺には、2㌔以内だったら聞こえるんだけどな。
逆に言えばだ。2㌔先にでも俺を捨ててこないと無駄だと言う事だ。
「兄い、連れてきましたぜ」
ロジャーの部屋に入ると全員が集まっていた。
それも少し緊張した趣(おもむ)きで。
「シオン。俺達はこのシャブリ帝国でやらなきゃいけない事ができた。
上手くいけば儲けもデカイ。
だがな、シオン。お前は邪魔になる」
「!!!!!!!!」
邪魔ってどういう事だよ!
「ロジャーさん、そんな言い方ではシオンが誤解しますよ」
ロジャーは少し困った顔をしながら苦笑する。
「邪魔って、どういうことですか」
俺は意味が分からず問いかける。
「良く聞けシオン。この国は近々戦争になる。
シャブリ国民は当然だが、俺達冒険者も戦力の対象となる。
無論それなりの報酬は出るがな」
「それと俺が邪魔になるって、どう結びつくんですか」
「戦争に参加できるのは十五歳以上の成人男性と言う事だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「それにだな。この王都にも火種が降りかかると俺達は予想した」
クウ達四人は「うんうん」と首を小さく縦に振る。
ロジャーの話しを要約するとこうだ。
今、ゴルティア国では王座を巡り内戦中だ。
その隙を狙いゴルティア国へ行進し国を奪い領土を広げる気らしい。
正式な王様が居ない今、指揮系統もバラバラなので落としやすいと言う事だ。
しかし、この計画を考えているのはシャブリ帝国だけではなく、それそれの隣国も同じ考えらしい。
そうするとシャブリに面したアルタ国辺りが、兵士を大幅に移動した隙にこの国へ攻めてくる可能性があると言う事だった。
したがってこの王都は諸戦火の中心地になるだろうとロジャーは予測した。
が、この王都に居る限り逃げ道は無い。
東の街道はゴルティアに繋がっており戦争真っただ中になる。
北は高い山脈で《死の山脈》とも呼ばれている。超える事はできない。
南は…、当然の如くアルタ国が存在している。逃げ道は無い。
あるとすれば西側にある海から船で脱出するのみだった。詰んだね。
!!てか、船で逃げればいいじゃん!
そうだよ。皆で船で避難すればいいんだ。
「俺達は残って戦う。お前は…船で避難しろ」
「!!! 何で僕一人で逃げなきゃいけないんだよ!?
皆で逃げればいいじゃん!」
「そう言う訳にもいかねぇんだ。大丈夫だ。戦争が終わったら迎えに行く」
「ヤダ!絶対に嫌だああああああああああ!
皆と一緒が良いいいいいい!」
「我がまま言うな!これは決まった事なんだ!」
「・・・・・ヤダ…。一緒が良い・・・・」
ロジャーは困った顔で、苦笑しながらシオンの頭を撫でた。
「心配するな。必ず迎えに行く」
「そうっす。迎えに行くっすよ」
「だな。小さな島だけど良い所らしいぞ?」
「そうですねー。私達が迎えに行くまでに魔石を幾つか集めといてもらえれば
嬉しいですね」
「・・・・・・それってファインさんが欲しいだけじゃ・・・・」
「ははは、そりゃ良いな。シオン頼めるか?」
俺は涙目になっていたが、涙を流すまいと必死で堪え、「・・・・うん」と答えるのが精一杯だった。
「よし。そうと決まれば出発は明日だ」
早くね?今すぐ戦争が始まるわけでもないのに明日とか。
早過ぎだろ!!
67:
ムーン [×]
2016-04-16 20:16:15
======
まぁさ、俺が何を言おうがもう決定事項らしいし、これ以上議論しても無駄だと悟ったよ。
ロジャー達なら俺が居なくても早々簡単には死なないだろうしさ。
ここは物分りの良い子供の振りをして頷いとく方がいいよな。
「シオン、忘れ物は無いか?」
「うん。ない」
今俺が居る場所はドラグの港だ。
ここから少し離れた場所に在る《アシデ島》に行く船が出る場所である。
ここに来る前に色々と食料を買い込み無限異空間袋にも突っ込んだ。
島に行くまで五日はかかるんだとさ。
たった数ヶ月の別れのはずなのに、何でこんなに寂しいんだろうな。
もう一生会えなくなるわけでもないのに、何でこんなに胸が苦しいんだろうな。
一人暮らししてた事だってある。(前世でな)
親元離れて海外留学したことだってある。(前世で…)
訳も分からず死んで、一生両親と会えないと悟った時でさえ…こんな気持ちにはならなかった。
何でだろうな…。
そう考えてたら何か温かいものが頬を伝わった。涙だ…。
「あれ?何だこれ…」
必死に堪える涙。しかし涙は無情にも止まる事はない。
ほんと、子供の体って正直だよな。
「シオン、これ持ってけ」
ロジャーは小袋に入った物を渡す。
それはシオンの手にはとても重く、ずっしりとした固い感触がするものだった。
涙を流しながら不思議そうな顔をするシオンに向かい、
「俺が預かってたお前の取り分だ。好きに使えばいい」
中を見ると銀貨がぎっしりと詰まっている。重さからすると百枚以上はあるだろうか。
「でも…僕は…」
俺は奴隷として買われた身。金を貰えるような身分ではない。
「・・・・・お前は俺の息子だ。これ位はさせろ」
その言葉に俺は泣いた。声を上げて泣いた。
この世界に来て初めて掛けられた、俺が今までに最も欲しいと思っていた言葉だったからだ。
生まれて直ぐに親を亡くし、ずっと一人だった。
乳児院の人達は優しかったが俺にだけ優しかったわけじゃない。
孤児院では悲惨なものだった。あそこは恨みしかない。
ロジャーは厳しかったけど優しかった。
それでも他人だと思って一定の距離を取っていた。
気に食わない事があっても、飼い主だと思っていたから反抗もしなかった。
生意気なガキだったと思う。
それでもロジャーはいつも俺の事を気にかけてくれてた事は知っている。
良い事をすれば褒め、悪い事をすれば怒られて殴られた。
・・・・・そっか…、父親なら当然か…。
「ロジャァァァ…行きたくないよぉぉぉ・・・・」
俺は泣きながらロジャーにすがりついた。
ロジャーの顔も苦しそうだ。
いくらしっかりした子供だとは言っても、まだ十二歳なのだから。
心配ではないという方がおかしいのだ。
「約束だ…。必ず迎えに行く。それまで待ってろ」
ロジャーは俺を自分の体から引き剥がし、船の方へと促す。
俺が桟橋を渡るとロジャー達は俺に背を向け街の方へと歩きだして行った。
五人の背中が少し小刻みに震えているのが分かる。
あの屈強な五人が泣いてる。俺にはそう見えた。
俺に泣き顔を見られまいとして足早にこの場を離れたのだろう。
だから俺は精一杯の大声で叫んだ。
「ロジャーああああああ!クウううううううう!ファインさああああああん!
リカルドおおおおおおお!クリフうううううううう!
死ぬなよおおおおおおおおお 」と。
この雑多な人と声の中で、俺の声が聞こえたのか、五人は拳を握り締めた右手をかち上げ、別れの挨拶となった。
ただし後ろを向いたままだったがな。
俺はゆっくりと岸を離れて行く帆船の手摺に捕まり、港に居る人の姿が見えなくなるまでその場に立っていた。
足元にいるシルバーは疲れたのか、丸くなって眠ってしまったようだ。
そんなシルバーを見つめながら徐にしゃがみ込み、呟くように小声で言う。
「二人っきりになっちゃったな。・・・・・お前だけは離れて行かないでくれ…」
俺の言葉にシルバーは、目を瞑ったまま尻尾を小さく振る。
空気の読める魔物で助かった。
泣き顔は見られたくない。
今の俺の、数少ないプライドだから。
遠くに見えていたドラグの港はいつの間にか小さくなり、徐々に視界から消えていった。
よし!湿っぽいのはお終いだ。
今日からは俺とシルバーの二人っきりだ。
ロジャーが迎えに来たら、うんと強くなってる俺を見せて驚かせてやろう。
そして・・・・褒めてもらおう。
68:
ムーン [×]
2016-04-17 14:24:32
第二十二話
■ ローズと密航騒ぎ ■
前から思ってたけどさ、こっちの世界って科学力低くないか?
車の代わりに馬車。電気の代わりに電魔石。
水は井戸から汲んでくる。何世紀前の時代なんだって話だよ。
そして俺が今乗ってる船だってさ、電力無しの帆船だ。
全てが風頼りってやつだ。
普段は意識的に精霊を見えない様にしてるから気が付かなかったけど、風の精霊が帆に纏わりついてるし、甲板のあちらこちらにも多くの精霊が遊んでる姿って・・・・ちょっと可愛いぞ。
あっ…シルバーの毛の中で寝てる奴もいるわ。
あの帆先に泊まってる精霊は他の精霊より少し大きいな。
多分上級精霊だろう。
上級精霊が居るって事は、今回の旅は順調だって事でいいのかな?良いんだよな。
しかしこの船はデカいな。
遠洋なんだから小舟じゃダメだって事は分かるが、木でこれだけの船を作るのは大変だったろうな。
でもさ、魔石と言う便利アイテムがあるのに何でそれを使わないんだ?
帆船もいいけど足は遅いだろうに。
それなら風魔石を使ってスクリューみたいに使えば早く出来ると思うんだけどな。
何故しないんだろう。
まぁ、俺には関係が無いけどな。
辺りを見回すと甲板には数人の人が風にあたっている。
いくら大きな船だとは言っても船酔いをする人はいるもんだ。
俺?俺はだな。
船酔いキターーーーーーって思ったら即ヒーラーだ。
ヒーラーはいいぞ。完全回復魔法だからな。
ここの医務室にも光の魔術師が居るそうだがヒールだけらしい。
ヒールだと一時凌ぎの回復にしかならないから、一時間後にはまた船酔いが襲ってくるんだな。頑張れ。
だから甲板にいる人の九割方ヒール切れで間違いないだろうな。
俺もそろそろ中に入るか。
「シルバー、行くぞー」
『もう行くのか?』
「荷物を置きにな。」
船内に入るドアを開けると下へ降りる階段がある。
大人が横に並んで三人分くらいの幅だ。
壁には電魔石が等間隔で埋め込まれており、薄暗いが不便はない。
シルバーは俺が抱いてるので、犬嫌いの人がいても大丈夫だろう。
階段を下っていくと、地下一階は個人部屋と二人部屋、それと三人部屋がある。
その下にある地下二階は大部屋だ。
言わなくても分かると思うが、地下一階はそれなりに料金が高い。
利用するのは貴族や商人くらいなものだろう。
当然俺達は地下二階にある大部屋だ。
ドアを開けると、部屋の両脇に二段ベッドが五組づつ置かれている。
つまり、二十人部屋と言う事になる。
中を見渡す限り空きベッドは無いようだ。
階段に近い部屋は人気があると言う事だろう。
結局一番奥の部屋に空きベッドがあるのを見つけ、俺はその部屋に入った。
ドアを開けるなり部屋の奴等が俺に注目してきたが無視だ無視。
どうせ、出来損ないのガキが何でここに居るんだ?って思ってるんだろうさ。
そう言う目をしてるし。
俺は視線をスルーしつつ、空いているベッドの上へと荷物を投げ入れた。
「よっこいせっと」
短いハシゴをよじ登りながらシルバーをベッドに乗せる。
どうやらこの部屋に居るのはシャブリからの避難民っぽい。
小さな子供を連れた母子連れや年寄りが目立つ。
若い男が何人かいるけど多分、貧乏商人だな。
なるべく関わり合いにならないようにしとくか。
面倒事に巻き込まれても嫌だしな。
俺はベッドに横になり、ゴロゴロしながらシルバーと遊んでた。
「お手」
『俺は犬じゃない!』
「でもさ、これから犬の振りをするなら「お手」くらい出来なきゃダメだろ」
『そ・・そうなのか?』
「そうだよ」
シルバーは少し考えていたが、意外と素直に「お手」を習得した。
やっぱコイツ可愛い!
仰向けになってお腹を出しているシルバーに顔を埋め、思いっきりスリスリとした。
『やめろって!くすぐったいだろ!』
文句を言うが止められない。
これぞ至福のひと時というものだ。気持ちいいなぁ~。
「おい・・・。あの出来損ない、何かブツブツ言ってるぞ。」
「ああ。気持ち悪いガキだな」
「あの子の所に近寄っちゃダメよ」
物凄い言われようだな…。
『ふっ。そりゃそうだろ。
俺との会話は頭の中で出来るって言わなかったか?』
「そう言えばそうだった…」
『自業自得だ。バーカ』
・・・・・・・・・、犬にバカって言われたよ…。
『犬じゃない!俺は妖狼だ!』
「あっ・・・・・」
慣れないな…分かっちゃいるんだけどついつい言葉に出しちゃうんだよな。
気を付けよう。うん。
てか腹減ったな。
確か地下三階には食堂と売店があったはずだ。
廊下の見取り図に書いてあったはず…。もう一回確認しとくか。
その前に。
「シルバー、これ付けようか」
俺はリュックから長い紐と輪っかを取り出した。
『それは何だ』
「さぁ、シルバー。この輪っかを首に嵌めような。カッコいいぞー」
シルバーは大人しく輪っかと言う首輪をはめられた。
『その紐はどうする気なんだ?』
「これを付けないとベッドから降りれないシステムなんだ」
システムと言う言葉の意味は分からなかったようだが、ベッドから降りられないと言う事は分かったらしい。
これも大人しく装着された。
「はい、準備OK。行こうか」
首輪を付けられ、紐で繋がれたシルバーは、どこからどう見ても「犬」だった。
だが、シルバーはその事を知る由もない。
知らぬが仏とはこの事だよな。愛いやつめ。
69:
ムーン [×]
2016-04-17 14:25:20
======
地下三階。流石にシルバーを連れては食堂には入れないだろう。
なので売店の方に来た。
へぇー、結構充実してるな。それに中も広そうだ。大体コンビニと同じ位の大きさのようだ。
中の様子もコンビニの配置とさほど変わりないな。分かり易い。
入り口の側には日用雑貨。奥の方に行くと食料関係が並んでいる。
入り口付近の左手には会計台があるので、バカな考えの奴はいないだろう。
いたとしても、ここは海の上だ。逃げ道は無い。直ぐに捕まるのが目に見えてるな。
食い物は何があるのかな。
おお。焼きたてじゃないが美味そうなパンが並んでるな。
パンだけじゃ何だし、スープも欲しいよな。
てか何だよ。スープを買う時は皿持参かよ!聞いてねぇよ!
あっ!だから入り口んとこに日用雑貨が売ってたんだ…。流石商人。大阪の商人もびっくりだな、おい。
俺は適当に皿を二つ手に取る。
一つは俺の分。もう一つはシルバーの分だ。
後はパンを買って、甲板にでも出て食うかな。
あれ?この売店には水も売ってるのか。
水道とか無いから当然か。
しかに何だな。水魔法を使えないやつは不便だな。水も買うしかないとは。
食堂に比べると売店の方が幾分安いのか、あまり金のなさそうな人が目立つ。
俺もそのうちの一人なんだが。
パンやスープが多少冷えててもあまり気にならない俺にとっては有難い。
出来るだけ出費は押さえたいからな。
それに、俺は水も出せるし、温風魔法でレンジの要領で温める事も出来る。
何ら問題は無い。
パンを二つと冷えたスープを買い、俺達は甲板へと向かい階段を上がっていった。
さっきより人が多い。船酔いか?
甲板の隅の方に置いてある樽や木箱の側に行くと、ここは丁度死角になるのか誰も居ない。
此処なら人の目を気にしないでゆっくりできると、床に座り込み先ほど買った冷えたスープに温風魔法をかけて床に置く。
ほんわり湯気が立ち上がり美味しそうな匂いがしてくる。
「食べようぜ、シルバー」
ハグハグと食べながら、シルバーは「まぁまぁだな」と言いつつも完食し、満足気な顔をしている。
「静かでいいな」
『なぁ、』
「なんだ?」
シルバーは俺の顔を見ながら訝し気な顔をする。
『気になってたんだけど、聞いてもいいか?』
「答えれる質問なら答えるよ」
『ロジャー達じゃない他の人間。アイツ等はどうしてシオンの事を「出来損ない」と
呼んで蔑むんだ?』
「ああ、その事か。
人族ではね、髪の色が重要でね、色が濃い程魔力も強いって思ってるんだ。
だから僕みたいな髪の人間は魔力の低い「出来損ない」って言われてるんだよ」
『はぁ?!それって可笑しくないか?どこからどう見てもお前の方が強いだろ』
「普通の人間には見た目で強さなんて分からないよ」
『そりゃそうだけどさ…。嫌じゃないのか?』
「うん。もう慣れたしね」
『慣れるもんなのか?』
「慣れるもんなんだよ」
『シオンがそれで良いなら俺は別に構わないが……、何で何時もと話し方が違うんだ』
「ああ、今までならロジャー達がいただろ?
シルバーとは素で話してたけど、ロジャーや他の人間には年相応に話してたのは
分かるよな?」
『それは分かる』
「今までは言葉の切り替えができてたけど、これからはほぼシルバーと話す事になる。
油断してたら巣が出ちゃうじゃないか」
『出たらまずいのか?』
「まずい・・・と、思う」
『何故だ』
「結論から言えば目立ちたくないから。
生意気なガキだと思われて、喧嘩を吹っ掛けられてこられても迷惑だし。
それに、僕の力は普通じゃないからね…。
子供が一人で旅をしてたら、その力に目を付けられて利用しようと考える奴等も
出てくるだろうし。面倒だろ?」
『確かにそれは面倒臭そうだな』
「だからシルバーも協力してな」
『おう』
木箱にもたれ掛りながら話していると、人の気配が近づいて来るのを感じた。
しかしここは海の上。盗賊や魔物など現れるはずがない。
そう思い油断していた。
「えっ?!」
いきなり背後から聞こえたその声は、シオンにとっては天敵とも呼べる人物の声だった。
後ろを振り返り声の主を確認すると、そこにはローズが立っていた。
「えっ・・・・・?」
お互いに顔を見合わせて固まっている。
何でアイツがここに居るんだよ。
ドラグに居るんじゃなかったのかよ。
はぁ~・・・・、またこいつの嫌味を聞かなきゃいけないのか?
勘弁してくれよ…。
「何であんたがここに居るのよ」
「・・・・・・・・・・・」
仕方ない。無視しとこ。
「答えなさいよ!」
ああ‥‥こうなるとコイツ面倒くさいんだよな…。
仕方がないか。簡単に説明しとこう。
そう思った矢先である。
「分かった!アンタ逃げて来たんでしょ!
今王都は混乱している。その隙に逃げた。そう言う事ね!」
「な・・・・」
俺は理由を言おうとしたが、ローズは知ったこっちゃない。
口早に俺の言葉を遮り、捲し立ててきた。
「でも何であんたがこの船に乗ってるのよ。
ああ!分かったわ!あの人たちのお金を盗んで舟券を買ったのね!
あっ!まさか密航!?だからこんな場所で隠れてるのね!」
・・・・・・・・・。
初めて会った時から思い込みの激しい奴だとは思ってたが、ここまで重傷だったとはな。
怒るどころか哀れにさえ思えてきたぞ…。
ローズのあまりの言いように、シオンの傍で聞いていたシルバーもご立腹のようだ。
「グルルルル…」と、唸り声を上げていた。
「えっ?何?どうしてアタシが唸られるの?
アタシは何もしてないわよ?シルバーちゃん」
「シルバー。僕は大丈夫だから」
『シオンがそう言うなら…。でも俺は、こいつは気に入らない』
そう言うと「ふんっ」っと鼻先で大きな息を吐きそっぽを向いた。
「話はそれだけですか?ローズさん」
もう雇われている訳じゃないから「お嬢様」とは呼ばなくてもいいだろう。
赤の他人だ。関わり合いになるな。
コイツに関わると碌な事が無いからな。
「えっ?!」
「用が無いなら失礼しますね」
俺は床から立ち上がり、船内の入り口の方へと歩いていった。
「えっ?えっ?!チョット!!待ちなさいってば!」
後ろで何か叫んでるけどシラネ。
シルバーは呆れ顔で付いて来てる。愛いやつだ。
部屋に戻ると子供が青い顔をしてベッドに寝ていた。きっと船酔いだろう。
早く医務室に連れてけばいいのに。
看病をしてる母親の方も少し顔色が悪いように見えるが、母親も船酔いなのか?
でも俺がどうのこうの言える立場でもないし、言っても怪訝な顔をされるだけだもんな。
さっきだって汚物を見るような目つきで睨んでくれたしな。放っとこう。
大人なんだし、いざとなれば医務室にくらい行くだろう。
70:
ムーン [×]
2016-04-17 14:25:56
=====
あれから一時間は立ったが、医務室に行く気配はない。何故だ。
母親の方は放って置いても大丈夫そうだが、子供の方は苦しそうだな。
どうするかな・・・・。
俺は壁の方に身体を向け死角を作った。
そして無限異空間袋から薬草を幾つか取り出し魔術を込める。
初めて使う錬金魔術だが問題ないだろう。
錬金魔術を習得する前でも、二種類の薬草なら混合で来たしな。
今回は船酔い止だから三種類になる。
体力回復の薬草と気持ち悪さを消す毒消しの薬草。それともう一つ、神経強化剤の薬草だ。
何かの役に立つと思って取っといて良かったよ。
即効性がある方が良いから錠剤よりはポーションだな。
確か暇な時に幾つか作った小瓶があったはずだ。
無限異空間袋の中に手を突っ込み念じる。
『小瓶』
出て来た小瓶の中に酔い止めのポーションを入れていき、入れ終わったらコルク栓をする。
全部で十本出来上がった。
意外と沢山出来るもんなんだな。
まぁ、瓶自体も小さいけどな。
瓶の大きさは直径3㎝、高さ5㎝程度の物だ。
中の液体はピンク色をしており、お子様でも飲みやすいイチゴ味仕様だぞ。
俺ってば気の利く男だろ。
『それ、自分で言って虚しくないか?』
うるせ…。
てか、俺の思考ダダ漏れなのか!?
『そんな訳ないだろ。ダダ漏れなら煩くて仕方がない。
シオンが強く念じるか構って欲しいと思った時だけだ』
・・・・・今サラッと変な事言わなかったか?
構って欲しいとか・・・・。
シルバーは「聞こえませーん」と言うように大きな欠伸をして丸くなって目を瞑った。
何か上手くかわされた様な気もするが、聞かなかった事にしよう。
うん。そうしよう。
俺は気を取り直して残り九本のポーションを無限異空間袋の中に入れ、一本を手に持ち子供のベッドまで行った。
俺が近づいて来た事で警戒心を露わにする母親だったが、怒鳴りつけて追い払う気力がないようだ。
青い顔をしながら「何しに来たの」と言うのが精一杯の様だった。
俺は手に持ってる酔い止めを差し出し、
「これ、その子に飲ませて」
「何?この変な薬は。こんなもの飲ませてウチの子が死んだら困るわ」
「変な薬じゃないです。船酔いを治す薬です」
「・・・・・そんな高価なもの、何で貴方みたいな子供が持ってるの」
えっ?これってそんなに高価なものだったんだ…。失敗した。
何か言い訳を考えなきゃ‥言い訳言い訳…。
「えっと、父さんから渡されたんです。船に酔ったら飲めって(ロジャーごめん)」
「そう…、貴方は家族に大切にされてたのね」
なんか意味がよく分からないが、「はい」とだけ答えておいた。
多分この世界では、俺みたいな髪の色の子供は家族にも虐げられているみたいで、俺が昔いた孤児院の子供達もみな、親に捨てられた子供ばかりだった。
それに、町のかなを歩けば石を投げられる事もしばしばだ。
それだけ忌み嫌われていると言う事だ。
別に悪さをするわけでもないのにな。
でも、仕方がないと言えばしかたがないのかもしれない。
孤児院から出ても働き口などあるはずもなく、奴隷として売られるか、そこから逃げて盗賊にでも成り下がるしか生きる道は無いんだからな。
確かにさ、髪の色が薄いと魔力も小さいが、普通の濃さの奴の中にだって魔力の小さい奴もいるんだぜ?
そいつ等は虐げられなくて色の薄い俺達だけが虐げられるって可笑しくないか?
なんか変だよな。
俺の推測だ正しければ、人族そのものの魔力も低くなってきてるって事じゃないのかな。
色の濃さなんか関係が無い。そう考えれば頷ける。
現にこの母親の髪の色は緑だ。それも綺麗な緑。
それなのにパッド君で見る限りはHP:900 MP:900だぞ。俺より弱い。
まぁ、これだけあれば魔物の一匹や二匹は楽に倒せそうだけどな。
母親が俺の手からポーションを取るとそれを子供に飲ませた。
ポーションを飲んだ子供はみるみるうちに元気になり、ベッドから起き出し、「お腹空いたぁ」と言った。
母親は安堵の顔をすると鞄の中からパンを取り出し、それを子供に与える。
よほど腹が減ってたのか子供は夢中でパンを食べる。そして咽(むせ)た。
「ゲホンッゴホンッ」
子供の背中を摩る母親。見ていて微笑ましい。
俺も小さい頃は母親に同じ事をされてたっけな。(前世で)
この事が切っ掛けで、俺はこの親子と仲良くなった。
同じ部屋に居る貧乏商人達ともついでに仲良くなった。
険悪な雰囲気でいるより仲良くしていた方がいいもんな。
でも俺は、これからの事を考えると、極力魔術を使わないでおこうと考えた。
見た目判断がこの世界のデフォなら、俺はそれを利用させてもらう。
その方が厄介事に首を突っ込まなくセすみそうだからな。
71:
ムーン [×]
2016-04-17 14:26:48
=====
二日目の昼。仲良くなった数人と甲板で飯を食べていた。
売店で買った物を床に置き、昨日とは違い人がいるのでスープは冷たいままだ。
それでも美味いんだから、これを作った料理人は腕がいいな。
が。パンとスープだけと言うのも物足りない。
肉とまでは言わないが魚もたまには食べたいところだ。
運よく目の前には広大な海が広がっている事だし。
ここは一丁釣りとでも洒落込みますか。
食事が終わり、海風に当たりながらボーっとしてる大人たちを尻目に、俺は無限袋から一本の釣竿を取り出した。
「ボーズ、何をする気だ?」
「魚を釣ろうかと」
「あら良いわね。どうせなら大きいのを釣ってちょうだい」
「釣りか!ボウズ、もう一本ないのか?」
「ありませんよ…」
「そうか・・・」
何かガッカリしてるぞこのおっさん。
そんなに釣りがしたかったのか?
「代わりに釣ります?」
「いいのか!?」
やっぱり釣りをしたかったのか…。
何処にでもいるんだな。釣り吉おっさんって。
「はい、どーぞ」
おっさんは大喜びで釣竿を手にして尋ねる。
「餌は無いのか。エサは」
ああ、そうか。ここには《ルアー》と言う物が無いんだな。
俺の釣竿にはルアーが付いている。エサなど必要ないのだ。
「その糸の先についてる魚があるよね。それが餌の代わりになります」
「ほほぅ。で、この変な物は何なんだ?」
おっさんはリールを指さし聞いてきた。
リールも無かったのか…ヤバイな。誤魔化せるかな。
「それは糸の長さを調節する道具です。
そのつまみを回すと糸が短くなります。」
「ほぅー。誰が作ったんだ?」
やっぱそこ聞くか。
「・・・・父です。(ロジャーごめん!)」
「お前のオヤジさんって凄い人物なのか?」
「いえ、それ程でも?」
何故疑問形で返す。俺。
って言うか、段々ロジャーの人物像が凄い事になってきてないか?
大丈夫かな…。
高価なポーションを子供に持たし(一本銀貨二枚相当らしい)、奇妙は釣竿を作る父親。
奇天烈すぎるだろ…。自重しよう。
おっさんは意気揚々と釣竿を放り投げた。そして巻き戻す。
使い方は俺が教えたんだけどな。
三回ほどそれをやってたらアタリが来た。
「おお!?何だ何だ!?引っ張られるぞ!」
「ゆっくりと巻いてください。急激に巻くと糸が切れます」
「おっ、おお」
十五分程の格闘の末、顔を見せたのはオオヒラダイだった。
コイツの肉は美味い。市場で高値で取引される事もある魚だ。
やったな。おっさん。
「こりゃあ凄いな。市場で見た事はあっても食った事はないぞ…」
「ご馳走ですね」
そう言って俺は笑顔で答えた。
おばさんの方も高級魚が釣れた事によって、目を丸くして嬉しそうな顔をしている。
「どんどん釣っちゃいましょう!」
「おうよ!」
張り切ったおっさんの勢いは止まらず、あれよあれよと言う間に十匹ほど釣る入れ食い状態だ。
中にはイワシやサンマの様な物もあるが、時々釣れる高級魚に興奮していた。
俺達の騒ぎに気が付いた見物客も集まり、ちょっとした見世物状態だ。
その中に天敵ローズの姿があった。
「アンタ。こんな所で何してるのよ」
「見ての通り釣りですけど?」
「そんなの見れば分かるわよ!
アタシが言いたいのはね!密航者がどうして堂々とここに居るのかって事よ!」
当たりがざわつく。
「密航者だって?」
「出来損ないだ何でここに居るのか不思議だったが密航者だったのか」
「誰か船員に言いに行った方が良くないか」
「まったく図々しいわね」
などと言う暴言が聞こえてきた。
周りの反応に気を良くしたのか、ローズの顔は満足そうだ。
暫くすると船員を伴った乗客が戻ってきた。
「こいつです」
乗客の男が俺を指さすと船員が俺の腕を引っ張り怒鳴る様に言った。
「貴様、いつの間に船に乗った!」
「いつの間にって、初めっから乗ってましたが」
そう言いながらゴソゴソと無限袋から乗船の切符を取り出した。
「はい、これ。」
俺から渡された切符に不備はない。
ちゃんと魔登録をしてあるので俺の顔が浮き出ている。
こう言うのは便利だね。
「た、確かに正規の手続きで購入した物だな」
そう言うとバツが悪かったのか、連れて来た男の方に視線を向けた。
「いや…その。
そ、そう!あの子が言ったんですよ。この子供が密航者だって!」
そう言って今度はローズの方へ指をさすと。
「ほほぉ~。君がこの騒ぎの元か」
「えっ?ええっ?アタシ?!」
ローズはあたふたとしてるが、元はと言えばお前が悪いんだろ。
人の事を勝手に密航者呼ばわりしやがって。
確か十五歳は大人なんだよな。
大人なら自分のケツは自分で拭かなきゃダメなんだぞ。
あぁあ、怒られて涙目になってら。
しょうがないな、助けてやるか。
「あの~」
「なんだ?」
「ローズはチョット勘違いの激しい子なんです。許してもらえませんか?」
「なんだ?お前の知り合いか?」
「はい」
「ちっ。しょうがねぇな。今度こんな騒ぎを起こしたら只じゃおかねぇからな」
「ありがとうございます」
ふぅ~。やっと騒ぎが収まったよ…。
だから嫌なんだよローズに関わるのが。
「ふん。お礼なんか言わないからね。元はと言えばあんたが悪いんだから」
えっ?俺何かしたか?
「僕、何もしてないと思うよ?」
「昨日アタシが聞いた時にアンタ答えなかったじゃない!」
それかよ!!!
ここは一つ忠告しといた方がいいかもな。
「それはさ、初めからローズは僕の事を疑ってかかってただろ?
逃げたとか密航者だとかさ。
本当の事をいっても信じてくれないだろ?
だってローズは僕の事を見下してるんだから」
「だ、だってそれは!アンタが出来損ない…だから・・・」
ローズの声が尻つぼみになって小さくなっていった。
周りの人もローズと同じ事を思っていただろう。
だがそれでも、これだけ堂々と船内を歩いていれば密航者であるわけが無い。
もし密航がバレればす巻きにされ海の中へドボンだ。
そんなリスクを冒してまでやるバカはいないだろう。
ローズって黙ってりゃ可愛いのに喋ると残念な奴だよな。
「ところで、ローズは何でこの船に乗ってるんだ?」
「アタシはアシデ島にある魔法学院に行く事になったのよ。
で、アンタは何でここに居るのよ」
どうしても理由を聞きたいわけね。
しゃあない。教えてやるか。
「僕はロジャーに言われたんだ。
戦争が終わるまでアシデで待ってろって」
「ふ~ん。ならアシデに居る間アタシの奴隷にしてあげてもいいわよ」
「断る!」
即答で断ってやった。
なんでローズの奴隷にならなきゃいけないんだよ。
自分、何様だと思ってるんだ?
あっ。変な顔。口をパクパクさせて、陸に上がった鯉みたいだぞ。
「な、な、何よ!なんで断るのよ!!」
今度は逆切れかよ…。勘弁してくれよな・・・・。
「僕は奴隷になんかなりません。
ロジャーが迎えに来るまで一人で頑張りますので、心配は御無用です」
「一人で頑張るって言ってもお金が無きゃ生活していけないじゃない!」
「お金の事なら心配いりませんよ。
ロジャーがちゃんと持たせてくれましたから。
それに、僕は働きますからね」
「アンタみたいな出来損ないなんか誰も雇ってくれるはずないじゃない!」
「・・・・それでも僕は、一人で頑張ります」
「勝手にしなさいよね!どうなっても知らないから!」
そう言い残しローズは去っていった。
ふぅ~・・・。荒らしは過ぎ去った。やれやれだ。
後ろを振り返ると、皆がキョトンとした顔で見ている。
「どうしたんですか。そんな顔をして」
「いや・・・、凄い子もいるもんだな…と」
「ええ、本当に。どう言う躾をされたらああなるんでしょうね」
一般人から見てもローズは残念な子と言う事が良く分かったよ。
ご愁傷さま。
「それより皆さん。晩御飯の下準備に取り掛かりませんか?」
「ああ、そうだな」
こうしてこの日の晩御飯は豪華な魚料理となった。
とは言っても、甲板で火を使う事は御法度なので、食堂の厨房の人にお願いをして色々と作ってもらった。
その見返りとして、高級魚のオオヒラダイ四匹のうち一匹を厨房の人にあげた。
一匹だけだったけど大喜びだ。
なにせこの魚。幻の魚と言われるくらい警戒心が強く釣れないらしい。
また釣れたら一匹お裾分けをする事で話しが付いたのだった。
たった一匹と思うかもしれないが、この魚、体長50㎝はある。
結構食い応えがあったぞ。
そんなこんなで、二日目の夜も更けて行った。
72:
ムーン [×]
2016-04-17 20:01:38
第二十三話
■ タコと海遭難 ■
三日目。事件は起きた。
こんな海のど真ん中でどんな事件だよと思うかもしれないが、俺の目が確かなら、目の前にいるのは巨大なタコの化け物だ。
海に現れる魔物なんて初めて見たぜ。
はい!そこの人!今まで内陸に居たから見ないのが当たり前なんていうなよな。
たまにこう言う事もあるらしく、その為の専属護衛が乗っている。
でもその護衛達もこのサイズのタコは見た事が無いらしい。
あんな巨体でよくあんだけ機敏に動けるよな。
それに器用に八本の手を使い分けているぞ。
大丈夫かこの船。
太くてデカイ手?足?が勢いよく上から振り下ろされる。
何本かの足は護衛の人や乗り合わせていた冒険者によってロープで縛り固定されてるが、如何せん足が多すぎる生き物だ。埒があかない。
空いてる足で容赦なく船に攻撃が与えられ、所々穴が開いてるぞ…。
やっぱり俺も闘った方が良いのかな。
そう考えていると、巨大タコの背後に炎弾が落され、無数の炎の矢が飛んでくるのが見えた。
その矢は巨大タコに見事命中し、止めを刺す形で雷針が突き刺さる。
水と雷って相性抜群だもんな。ナンマイダ。
が。巨大タコは倒されたものの、無数に飛んできた炎の矢がこの船に数本刺さっていた。
イヤアアアアアアアアアアアアアアア!!!
これも一種のテロみたいなもんじゃねぇかよ!
前世は空で爆弾テロに合い。
今世では海で放火テロ?!
マジ勘弁して!!
船に燃え移った炎が段々と上へ登ってき、船客は大混乱だ。
こう言う時の為に避難ボートがあるらしいが、四隻ってどういう事だよ!おい!
ギュウギュウ詰めに乗ったとしても一隻に二十人が良いとこだろうがよ!
この船の乗客が何人いると思ってるんだ?
百人以上はいるぞ。
船で働いてる人も含めたらもっとだ。
無理だ。詰んだな。
てか、俺今回で何回目の詰みだ?
ああ、もう!そんな事はどうでもいいから早く逃げないと!
あっ!そんな事言ってるうちにちょっと待てって。
一隻海に降りたぞ。
ちょっと待てそこのボート。十人しか載ってないのに降ろすなや!
ああああああああああああ!!
他のボートも降りやがった!
待て待て待て!!!
お前等船乗りだろ?!
そのデカい帽子は船長じゃないのか!?
船長が我先に逃げていいのかよ!!!!
ハハハハハ・・・・。これはもう笑うしかないな…。
マジで詰んだわ・・・・。
73:
ムーン [×]
2016-04-17 20:03:13
そこに、ゆっくりではあるが一隻の船が近づいて来た。
先程巨大タコから救ってくれた術者が乗ってる船のようだ。
おかげで助かったが死にそうになってるけどな!
「おーい。今ハシゴを渡すからこっちに乗り移れ!」
火の付いてない船の反対側に回った、向こうの船の船員が言う。
船に残された皆はこれで助かると安堵の様子だ。
が、そこは人間。我先に助かろうとハシゴの奪い合いになっていき中々進まない。
そして背後からは炎が顔を出しはじめた。
「早くしろ!」
「私が先よ!」
「俺が先だ!」
醜い言い争いは止まらない。
とうとう炎が甲板まで登り、床を伝って此方の方まで燃え移って来ている。
キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
助けてくれええええええええええええええええ
死にたくねぇえええええええええええええええ
そんな叫び声が次々に上がり、等々自ら海の中に飛び込む人も出て来た。
あと数人と言う所で、炎が自船に移るのを恐れた救助の船が離れて行く。
俺はそれを眺めながら残された人の方へ振り返った。
残されたのは俺を含め五人だ。
海の上にも未だ漂ってる人が十人チョットというところだろう。
この人数なら見られても噂は広まらないだろうと、俺は魔力を使う事にした。
この人達を見捨てて自分だけ助かっても寝ざめが悪いだけだしな。
気持ちを切り替え、俺は水魔法を炎に叩き込む。
「スコール」
瞬く間に雨雲が空一ぱいに広がり、勢いよく雨が降り注ぐ。
船を覆っていた炎は十分程で鎮火した。
急に雨雲が広がった事と、水魔法をこの様な使い方をするという考えがない人達は、これは自然現象だと思っているようだ。
偶然にも雨雲が広がり雨が降り出しただけだと。
だが流石にこのままではダメだ。
船が沈没してしまう。
焼けた側面から海水が入り込み、徐々に沈んで行ってるのだ。
どうせ沈没する船だ。壊してボートを作ろう!
そしてみんなを避難させよう。
そうと決まれば行動あるのみだ。
俺は甲板の板を風圧で持ち上げて剥がし、それを錬金術でボートにした。
「おーい。ここにボートが一隻あるぞー」
そう叫ぶと残ってた人が集まって来る。
全員がボートに乗り込んだのを確認すると、俺は風魔法で浮かせて海の上に置いた。
ボートに乗り込んだ人の中に緑髪の人が二人いたからだ。
何方かが魔法で浮かせて助けてくれたと思ってくれればいい。
そう考えての事だ。
俺が乗る前にボートは降ろされたが、この状況だ。
誰も俺の事など気にしてはいないようだ。
今はそれでいい。
俺は船内に戻り、部屋に居るはずのシルバーを助けに行った。
かろうじて地下二階まで海水は入っていなかったが、時間の問題だろう。
「シルバー。逃げるぞ」
『遅かったな』
「イヤイヤ。早く自力で出てきてほしかったよ」
逃げる際に最終確認だ。
逃げ遅れてる人がいないかを。
・・・・・・・・・・結果、居た。
地下一階の一人部屋にそいつは居た。
ベッドのシーツに包まり震えてるやつがな!
「お前・・・・何で逃げなかったんだよ…」
俺の声に気が付いたそいつは、涙と鼻水でグチャグチャの汚い顔で飛び付いてきた。
「だってええええええ、怖かったんだもんんんんんん」
はいはい分かったから離れような。
そして鼻水を拭け。
俺は無限袋から一枚のタオルを取り出し、それをローズに差し出した。
「汚いからいい」
この期に及んでまだ言うか!
「行くぞ」
「イヤ!」
「はぁ?!」
「こんな顔じゃ外に出られないし!」
こいつ状況を理解していないのか?
「この船は沈むぞ。それでもいいなら僕は何も言わないよ」
「えっ?!」
やっと自分の置かれた状況が呑み込めたか。
「良く見ろ。傾いてるだろ」
「・・・・うそ。。。」
「俺は行くからな。じゃあな」
「待って!アタシも行く!」
ハァ~…、まったく世話が焼けるぜ。
急いで甲板に上がり、さっき作って置いたボートに乗り込む。
「風圧。上へ」
「えっ?浮いてる?どういう事??」
ボートはそのままゆっくりと浮上し海の上へと下りて行った。
「えっ?何で何で??」
どうせ言っても信じないだろうからこのまま無視だな。うん。
「さぁ?誰かが風魔法でも掛けてくれたんじゃないのか?」
ローズは腑に落ちない顔をしているが無視だ無視。
さてどうするかな。
帆が無きゃ風の精霊達に手伝って貰え無さそうだし。
肝心のオールも無いと来たもんだ。遭難確定かも。
ハァ~・・・・、俺一人ならどうにでもなったんだよな。
手を海に突っ込んでつむじ風を起こせばいいだけだったんだよ。
そしたらボートはスクリューを得たように快適に進んでいったのにな。
ハァ~…、こんな魔法、ローズの目の前で使えないしな…どうすっかな…。
74:
ムーン [×]
2016-04-17 20:05:05
俺達より先に避難したボートは、既に救助船に引き上げられていて、遠くにその姿が残るだけだった。
周りを見渡しても、飛び込んだ人の姿は無く、どうやら無事に拾われたようだ。
と、思っていたら、壊れた船の切端に人影が…マジかよ…。
どうせオールになりそうな板切れを探そうと思ってたところだ。
この際一人増えようが二人増えようが同じ事だな。
男だったら交代でボートを漕げばいいし、風使いなら風を起こして貰えばいい。
その他だったら?・・・・考えないでおこう。
手でボートを漕ぎながら人が居ると思われる場所に向かったが、中々先には進まない。
「ローズも手伝えよ」
「はぁ?!何言ってるのかしら。
女性に船を漕げとはあり得ないわ」
「このボートには俺とお前しかいないんだぞ。協力しろよ」
「そう言う事は奴隷の仕事って決まってるのよ。知らなかったの?」
ダメだコイツ…。話しにならん。
やっとの思いで人影の所に辿り着いたが、既に息はしていなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「行こうか」
「そうね」
アシデに着くまでずっと二人きりで、こんな態度を取り続けられるのかと思うとゾッとする。
だから俺は聞いてみた。
「一つ聞いていいか?」
「何よ」
「お前が俺の事を蔑んでるのは分かる。
でも何でそこまで格下に見られなきゃいけないんだ?」
「アンタ馬鹿じゃないの?出来損ないだからよ」
「だから自分の方が各上だと。そう言いたいんだな?」
「当たり前じゃない」
世間一般ではそういう考えだよな。
あながち間違いではない。
「なら各上のローズさん。この状況をどうにかしてもらえませんかね?」
「どうにかするって、どう言う事よ」
「そこは各上の偉いローズさんが考えてくれなきゃ、だろ?」
「何で私が考えなきゃいけないのよ」
「なら出来損ないの俺に頼るって事でいいんだな」
「頼るわけないでしょ!アンタに何ができるって言うのよ!
「ならこのまま遭難って事でいいんだな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。それはイヤ」
やっと状況が呑み込めたようだな。
こんな状況でも偉そうな態度が変わらないってのも一種の特技かも知れないな。
大物かもしれない。
「で、どうする気だ」
「・・・・・・・分かんない」
どんだけ甘やかされて育ったらこんな子供が出来るんだよ。
俺の一番嫌いなタイプだわ。
「一つ確認だが。お前は絶対に協力はしたくないんだな?」
「当たり前じゃない。
何故アタシがそんな奴隷の真似事をしなきゃいけないのか分からないわ」
「了解。よーーーーーーーーく分かった」
「ふん。分かればいいのよ、分かれば」
ローズとの話し合いの後、丁度良い長さの板切れを見つけた。
これを媒体にしてつむじ風を起こし移動する事にした。
どうせボートをどうやって漕ぐかなんてローズは知らないだろうから大丈夫だろう。
しかし問題は進む方角だな。
確かクリフが言ってたな。アシデ島は、ザイル星が見える方向にあるって。
俺は夜になるのを待って、ザイル星目掛けてボートを進める事にした。
しかし、魔物騒ぎや沈没騒ぎで昼飯を食ってない俺達は空腹だと言う事に気が付いた。
「お腹が空いたわ…。そうだ。おやつが有ったんだったわ」
ローズはゴソゴソとリュックの中を漁り、一袋のクッキーを取り出す。
俺がそれを見ていると、
「あげないわよ。あっ、でもアタシの奴隷になるんならあげてもいいわよ」
どこまで上から目線なんだか…。
働かないわ食い物は独り占めするわ、ジャイアンより酷いぞ。
「いらない」
「やせ我慢しちゃって」
何故そこで嬉しそうな顔をするんだ?
こいつどSなのか?
「自分の分はちゃんとあるんで結構です」
ローズは、何処にそんな物があるの?荷物なんて持ってないくせに。
と言いたそうな目をして俺を見る。
俺は無限袋から買い置きしておいた肉まんを三つ取り出すと、一つはシルバーに渡し食べた。
ローズはというと、その汚い袋の中に入ってたものをよく食べられるわね。と言いたそうな目をしている。
失敬な奴だ。見た目は汚くても中は異空間だから綺麗だぞ。
お腹が満たされると今度は喉が渇いて来たな。
取り敢えず水で良いか。
「シルバーも水飲むか?」
「アン♪(飲む)」
シルバーの前に皿を置き、その中に手から水を出して入れてやった。
俺も自分の皿に水を入れてゴクゴクと飲み干す。
「ぶっはぁ~。生き返った~」
「アンアン♪(最高の一杯だな!)」
「・・・・・いま、何をしたの?」
しまった!ローズが居たんだった…。
ここはもう開き直るしかないな。
「何って水を出したんだけど?」
「いえ、だから、何故水が出せるのかって聞いてるのよ!」
コイツは一々怒鳴らないと気が済まないのか?
「魔術使いなら誰でも出来る事なんだろ?
俺にだって多少の魔力くらいいるさ」
「そうよ。その通りよ。
だけどアタシが言ってるのは、水使いでもないアンタがどうして水魔法を
使えるのかって聞いてるのよ!」
「出来るんだからしょうがないだろ」
「普通は出来ないのよ!」
「だって俺は普通じゃないし。出来損ないだからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
勝った♪
あれ?何の勝負だった?これ。
75:
ムーン [×]
2016-04-19 20:02:20
第二十四話
■ ザイル星を目指したその先に… ■
あれから五日が経ったが一向に島らしき影が見えてこない。おかしい。
ローズは当然の事ながら食料など持っちゃいないし、自分の飲み水も出せないらしい。
一度やらせようとしたら、危なく船を壊されそうになってしまい、結局は俺が水係となる。
食べ物も持っていないので、仕方なく俺の常備品を分けてやったら
「そんな汚い袋に入ってる物なんて食べられるわけないでしょ!
アタシがお腹を壊したらどう責任を取ってくれるのよ!」
だとさ。
それでも空腹には勝てなかったのか、最終的には食ってたけどな。
こいつ海に捨ててもいいかな?冗談だけど。
で、文句ばかり言うから新鮮な獲りたての魚でも食わせようと思って釣ったら、今度は
「生でなんて食べれるわけないでしょ!野蛮人!!」
と、来たもんだ。
仕方がないから手造り七輪で焼いてやったよ。
土魔法で形を作って、それを火魔法で焼き固めて出来上がりの自由研究程度の造りだけど、これが結構重宝するんだわ。
そう言う訳だから食い物や飲み物に関しては問題無かったな。
じゃ、何が問題なのかというとだな。
このお嬢様、ほんとーーーーーーーーーーーに、働かない。
ただ飯食うだけの役立たず。リアル
76:
ムーン [×]
2016-04-19 20:04:16
ただ飯食うだけの役立たず。リアル
77:
ムーン [×]
2016-04-19 20:05:33
「なぁ」
「何よ」
「疲れたから少し変わってくれね?」
「まさかアタシに船を漕げと言うのかしら?」
「そのまさかだ」
「いやよ。絶対に嫌」
「お前な…、食料も俺に世話されて、揚げ句の果ては漕ぎ手も俺か?
言っとくけどな。俺はお前の奴隷じゃない」
「似たようなもんでしょ!」
「いや、全く違うから!」
そんな不毛な言い合いをしていると、シルバーが何かを感知したようだ。
鼻をヒクヒクさせながら遠くを見つめている。
『陸があるぞ。土と草の香りがする』
どっちの方角だ。
『このまま真っ直ぐだ』
分かった。ありがとう、シルバー。
俺はそのまま木の板に魔力を注ぎ込んだ。
この程度の魔力なら疲れる事はないんだが、長時間同じ体勢って言うのが疲れるんだな。
でもアシデに着けばローズからも解放されるし頑張るか!
それから一時間後。アシデ島が見えてきた。
でも何かおかしい。島にしては大きすぎる。
はて???
78:
ムーン [×]
2016-04-19 20:10:00
※お詫び
反映されない言葉が入ってたようで、変な重複になってしまいました事をお詫びいたします。
(読んでくださる方がいると信じて)笑
79:
ムーン [×]
2016-04-19 20:12:01
=====
・・・・・・・・・・ここは何処ですか?
答え。魔大陸だそうですよ、奥さん。
何でだああああああああああああああああああああ!!!!!
クリフに言われた通りに、ザイル星に向かって進めて来たのに、何で魔大陸なんだよ…。
てか、魔大陸って何処に在ったんだよ…。
怪しすぎる名前なんですけど!
でも、見た限りゴルティア国と変わりないような…。
あっ、そうでもないか。
人族より魔族や獣族の方が多いかな。
それでも一応人族も居る事だし何とかなるだろ。
こういう場合は何処に行けばいいんだ?
大使館なんてあるわけないし。
警備兵とか門番あたりに聞けば良いのかな。
取り敢えず、今晩の宿屋を探してそこで聞いてみるか。
三十分ほど前、俺達はアシデ島だと思っていた砂浜に漂着した。
そこにボートを乗り捨て、徒歩で町を目指し歩いた。
俺の探索では、二㌔ほど先に大勢の魔力反応が映し出されたので、この数からいって魔物ではなく人だろうと判断した。
あまり使われてないのか、町に続く道も細い獣道状態で、草木を掻き分けながらの移動となる。
先頭はシルバー。真ん中が俺。最後から付いて来るのがローズだったが、やれ木が当たって痛いだの、虫が飛んでるなどと文句タラタラである。
道を掻き分けながら俺は最終確認を怠らない。
いくら女の子とはいっても俺よりは二つも年上だし、世間では十五歳は成人と言われてるんだから問題ないよな。
それに、町に入ってしまえば一人でも大丈夫だろう。
元々一人でアシデに来る予定だったんだし。
「町に着いたら俺達はそこで別れるって事でいいんだよな」
「当たり前じゃない」
そんな会話の後、町に着いてみるとどうもおかしい。
異常に町がデカすぎるのだ。
そもそもアシデ島自体を知らない俺は、こんなもんなのかと思っていたが、ローズが呟いた。
「アシデ島じゃない…」
「へっ?」
「前に来た時はもっと高い家が立ち並んでたわ。それに…」
「それに?」
「魔族や獣族が多すぎる」
「・・・・・・・・・・・」
町に違和感を感じてるローズだったが、やはりここでも自分から動こうとはしない。
業を煮やした俺は、食料補給も含めて饅頭屋の屋台に近寄って行き、買い物をしながら聞く事にした。
これはクウが良く使っていた手だ。
「あばちゃん饅頭五個ちょうだい」
「あいよ」
「あっ、そうだ。僕たち此処初めてなんだけど、なんていう街なのかな?」
「何だい。お前さん一人旅なのかい?」
「うん。そんな感じ」
「ここはサフレの街だよ」
「サフレ?」
「知らないのかい?魔大陸で唯一中立の街さ」
魔大陸だってえええええええええええええ!!??
魔大陸って・・・・・何処だよ・・・・。
と言う訳で、今の状況に至る。
どうしてこうなった・・・・・。
80:
ムーン [×]
2016-04-19 20:13:01
惚けててもしょうがない。
本来行くはずだったアシデ島じゃないって事が分かった今、俺達がしなければいけない事は一つだ。
アシデ島に行く船を見つける事。
しかし困った。
船着き場に船は、今は一隻も見えない。
あるのは小型の漁船ぐらいだ。それも手漕ぎの。
船の切符売り場の様な所はあるものの、人はおらず閉まっている。
今日はもう出港はしないんだろうな。
さてどうするか。
とりあえずは日が暮れる前に宿屋でも探すか。
魔大陸と言う事だけは分かったが、それ以外の情報が全く無いのがいたいな。
・・・・・ちょっと待てよ。ここは魔大陸と言ったよな。
俺達が居た所は確か《人大陸》だったはずだ。
って事は、別の大陸と言う事か。
ユーラシア大陸とアフリカ大陸みたいに繋がった大陸なのか、それとも北アメリカ大陸の様に海を挟んでの大陸なのか…、どっちだ。
後者なら…。そう考えると冷汗が出て来た。
「何一人でブツブツ言ってるのよ。気持ち悪いわね」
ローズは俺の後ろをずっと付いて来てたようで、独り言を言ってる俺を訝しげな顔で見ている。
「取り敢えず宿屋を探すぞ」
「ちょっと!アタシに命令しないでくれる?生意気なのよアンタ!」
海遭難から五日、ずっとこの調子だ。
イラッとは来るけどもう慣れてしまっている自分が怖いわ。
「あー、はいはい。
俺は宿屋を探すけどローズは好きにしていいよ」
「ちょっ!アタシも探すわよ!」
うん。ちょっと扱いに慣れて来たぞ。
ほんと、黙ってれば可愛いのに、残念な子だよな。
宿屋を探しながら大通りを歩くと、以外と宿屋の数は多く直ぐに見つかった。
ローズも居る事だしセキュリティーの安全な宿屋を選んだ。
どうせ安宿なんかには泊まりたくない、とか駄々を捏ねるに決まっているからだ。
手頃な値段で安全そうな宿を見つけ、チェックインをするために宿の扉を開ける。
入って直ぐにカウンターがあり、右手の方には食堂の入り口がある。
外に食べに行かない分安全だな。夜中は煩そうだけど。
そうと決まれば部屋を取ろう。
俺はカウンターの上に置いてある鈴を鳴らした。
― チリン チリン…
カウンターの奥にある扉から、犬耳を頭に着け、フサフサの尻尾を揺らしながら宿屋のおっさんが出て来た。
ここは獣族の人が経営してる宿だったのか…。
おっさんはニヤニヤとしながら。
「二人かい?」と尋ねて来た。
二人って事はローズとって事だよな。
何勘違いしてるんだかこのおっさんは。
「いえ。俺とシルバーです」
そう言ってシルバーが見えやすいように、足元に大人しくいたシルバーを抱き上げた。
おっさんはシルバーの姿を見た瞬間固まっている。
どうしたんだ。一体何があった。この短時間で!
「あの~…」
ハッ!と我に返ったのか、おっさんは気を取り直し、
「えっ?!いやっ。ちょっと驚いてだな…」
歯切れが悪いが、この宿はペット禁止だったのかな。
「ここはペット禁止の宿ですか?」
「ぺっ、ペットだと?!」
何でそんなに驚くんだよ…。
従魔は良くても犬はダメなのかよ!
『俺は犬じゃない!』
シルバー、ちょっと黙ってようか。
『犬じゃないし…』
「はい、俺が飼ってるペットのシルバーです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
おっさんの目が虚ろになって何処かに彷徨っている。
いったい何だって言うんだよぉ!
『アン アン!(泊めるのか泊めないのかどっちなんだよ!)』
「は、はい!!!ご宿泊ですね!喜んでお部屋をご用意いたします!ハイ!」
えっと・・・、これはもしかして…。
俺は微妙な、犬と狼の力関係を連想した。
狼の遠吠え一つで町中の犬が反応をし吠えだすと言う話しを昔聞いた事がある。
飼い犬より野良犬。野良犬より狼。そんな感じの力関係があったはずだ。
そして犬は、自分より強い相手には腹を見せて降伏のポーズを取ると。
おっさんは腹を見せはしなかったが、完璧に降伏状態の様だった。
シルバー…怖い子。
部屋を取る前に確認しなきゃな。
「えっと。ここから船は何処まで行きますか?」
「何処に行きたいんだ」
「アシデ島です」
「アシデ島なら明後日出港するはずだよ」
「明後日ですか。なら二泊分お願いします」
「分かった。一泊大銅貨五枚で二日分だから銀貨一枚になるが良いかな?」
「それでお願いします」
俺は袋から銀貨を一枚出して渡した。
「はいよ。確かに。で、そっちのお嬢さんはどうするんだい?」
「お願いするわ」
「何泊だい?」
「二泊でお願い」
ローズも二泊取り、それぞれの部屋へと案内してもらう。
「こっちがお嬢ちゃんで、向こう側がお前さんの部屋だ。
後、晩御飯と朝食が付くから下の食堂まで降りてきな」
俺は軽く会釈をすると、自分の部屋の鍵を受け取り中に入った。
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