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自分のトピックを作る
41:
ムーン [×]
2016-03-28 22:39:36
「コイツは犬じゃねぇ…。ベルガーの子供だ…」
「ベルガーって、あの妖狼ベルガーっすか!?」
「ああ」
クウもまじまじと顔を近づけて覗き込む。
銀色と言うより灰色に近い毛並。
犬にしか見えない。
しかしよく見ると、瞳の色が赤かった。
動物で赤い瞳を持つものは居ない。
動物で赤い瞳を持つもの。それは。
魔獣の中でも妖獣しかありえないのだ。
赤い瞳には強大な魔力が宿り、人と話せる獣もいるという。
しかし、それ故に、人とは相まみれる事は殆ど無い。
人間を嫌い、森の奥深くに住むという妖狼。
それが何故、シオンに抱かれてここに居るのか。
「そいつをどこで拾ってきた」
「森の水場…。
傷だらけだったんだ!
怪我してたんだよシルバーは!
親は死んじゃったんだって…。
可哀想だろ?!
放って置いたら死んじゃうよ!」
「・・・・だがそいつは魔物だぞ?
分かってるのか?」
「・・・・分かってる。
でもシルバーは悪い事なんてしないよ!」
「何でそう言い切れるんだ?
「シルバーが言ったんだ。僕を守ってやるって…」
「ちょっと待て。お前、ベルガーの子供と話せるのか?」
「うん。話せるよ?ロジャーも話せるでしょ?」
「いや…、俺は話せん。
つまりお前は、妖狼ベルガーと主従の契約をしたんだな?」
「えっ?主従の契約って?」
「ハァ~…。知らないで契約を結んじまいやがったのか…。なんて奴だ…まったく」
えっ?えっ?と、俺はロジャーとクウの顔を見た。
二人とも手で額を押さえながら首を左右に振っている。
「ダメだったの?」
「いや…、ダメじゃないさ。
ダメじゃないんだが…、魔獣というやつはな。
己より弱い者とは契約はしない。
魔獣を従える事のできる者は、一握りの強者だけだ。」
俺はロジャーの言ってる意味が分からなかった。
一握りの強者って…。
俺なんか魔術だってそれほど強いとは思えないしな。
攻撃魔術なんて属性魔術が各1~2個使えればいい方だし。
どうでもいいような闇魔術なら結構使える方なんだが、さほど戦闘では役に立ちそうにもない。
そんな俺が一握りの強者だなんてあり得ないだろ。
「分かり易く言えばだな。
魔獣を従えられる奴ってーのはな。
SSランクか魔王くらいだろうよ」
マジっすか!!?
『まっ、そう言う事だね』
シルバーが「クゥーン」と鳴いてシオンの顔を舐めた。
「ほんとお前ってやつは底が知れねぇガキだな・・・・」
「ごめんなさい・・・・」
何故か謝ってしまったシオンだった。
「しょうがねぇな。シルバーの面倒はお前が見るんだぞ、シオン」
「ありがとう!ロジャーさん!大好き!」
そう言って俺はロジャーに抱き付いた。
ああ、勘違いするなよ?
俺にそっちの気は無いからな。
野球やサッカーの試合でも、勝って嬉しい時は男同士でも抱き合うだろ?
そう言うノリだ。
間違っても俺はホモじゃねぇ!
シオンにいきなり抱き付かれたロジャーは、少し戸惑いはしたが、「俺に息子が居たとしたらこんな感じだったのかもしれないな」と、心に何か温かいものが流れるような感じがしていた。
そして、こう言う日常も悪くはないなと、微かな満足感を覚えるのだった。
42:
ムーン [×]
2016-03-30 22:06:12
第十六話
■ ゴルティア王の死 ■
ゴルティア国では、第一皇子シュレッダー派と第三王子ジェイソン派に分かれて内部分裂をしていた。
どちらが次代の王に相応しいかと言う事で揉めていたのだ。
第一皇子は思慮深く真面目で勤勉。
それ故に第一皇子を押す人も多い。
皇子が国民の事を第一に考えている事が、まっとうな考えを持っている人達にすれば至極当たり前の事だった。
しかし、第三王子を押す人達は、国民の事より、我が国をより強固たるものにする為に、軍事に力を入れる事を望んでいる。
その為には国民から取れるだけの税を搾り取る事もやぶさかではない。
他国に侵略されない事にこした事はないが、十年先、二十年先のことを考えると、どちらの王子が国の為、また国民の為に勤めるのかは一目瞭然だった。
が、いつの時代にも腹黒い奴はいるもので、国民から搾り取った税金を自分の懐に入れて財を増やそうと考える輩がいる。
そう言う者達がこぞって第三王子を押しているのである。
各王子のシンパ達は、自分達が押す皇子の良い所を連日王宮に参上して王様に進言していた。
しかし王様は未だに後継者の王子を決めかねている。
本音を言えばシュレッダーを次期王にしたい。
だが今それを言えば、確実に第三王子派の貴族が、その命を狙ってやって来るのは目に見えている。
王様が何も知らないわけではない。
ジェイソンとその取り巻き達との悪事を。
ジェイソンが第二王子と生まれたであろう第四王子の暗殺を実行した事をだ。
派閥争いをしていた貴族たちに異変が起きた。
それは、前々から根回しをしていたある計画を実行する為だ。
43:
ムーン [×]
2016-03-30 22:06:53
======
王様が謁見の間で、月に一度行われる、書類選考により緊急を要する案件を持参してきた国民との謁見の場だった。
「次の者をこれへ」
「はっ!」
護衛の一人が次の謁見者を連れて来た。
「わたくしは、マーブル村の村長、イリグルスルと申します。
此度村の外れにあります《誘惑の森》にて、この様なものを発見いたしました」
そう言って木箱に収められている赤い光を放つ水晶の様な球を見せた。
「して、それは何だ」
「はい。村に伝わる伝承では、妖精の卵ではないかと思われます」
妖精の卵と言われて興味を引いた王様は、それを間近で見たいと思った。
「どれ。それを此方へ」
護衛がイリグルスの手元から箱を受け取るとそれを側近へと渡した。
そしてそれは側近から王様へと手渡される。
箱に収められている球を手に取り覗き込むと、その球から赤い煙の様な物が湧きだし王様を包み込んだ。
慌てたのは側近や護衛達だ。
「貴様!何をした!」
イグルスを拘束しようと護衛達が取り囲んだが、イグルスは護衛兵士から剣を抜き取り切り付ける。
残りの兵士達も取り押さえようと駆けつけたが、次い次に倒されてしまい、イグルスはそのまま逃亡をしてしまった。
赤い煙が消えると、王様の姿が現れた。
しかしその姿は先程までの王様とは打って変わり、カラカラに干からびたミイラの様になっていた。
城の中は大わらわだ。
逃げた男を探すために、あちこちで索敵魔術や追跡魔術が飛び交っていた。
その異常事態に気が付いた第一皇子が謁見の間にやって来る。
「父上!どうしましたか。何があったのです」
第一皇子シュレッダーは、王座に座っている王様の姿を見つけると愕然とした。
「・・・・・・これは・・・・一体どういう事なんだ…。」
側近が簡単に説明をすると、シュレッダー皇子は何かに気が付いたようだった。
「ジェイソン…私だけでは飽き足らずとうとう父上までにも…」
そう呟くとシュレッダー皇子は決心したように、自分の側近に命じた。
ジェイソンが殺ったと言う証拠はない。
生き証人も未だ捕えられず、確証がないにもかかわらず、命じたのだった。
「ジェイソンを捕えろ」と。
44:
ムーン [×]
2016-03-30 22:07:23
=====
ジェイソンの執務室では、ジェイソンと側近、それに叔父であるウスラ大臣がいた。
四人はなにやら小声で話しをしている。
「そろそろ騒ぎが起こる頃だが」
「叔父上。その計画、当てにしていいんだろうな」
「ふん。今頃王は干からびてる頃よ」
執務室の外が俄かに騒がしくなり、衛兵達が慌ただしく走り回る足音が聞こえてきた。
ウスラ大臣はニヤリと笑みを浮かべながら。
「どうやら成功したようだな」
「これでジェイソン様の邪魔になる者は、第一皇子だけですね」
「後は内乱に持ち込んで、どさくさに紛れて殺ればいいだけよ。カッカッカ」
と、声高らかにウスラ大臣は笑いだした。
― コンコン
ジェイソンの執務室のドアを誰かだ叩いた。
「入れ」
ドアを開けて入って来たのは近衛兵達だ。
「何事だ」
ウスラ大臣がとぼけた振りをして尋ねる。
「はっ。誠に恐れ入りますが、ジェイソン王子にご同行願います」
ジェイソン達は、やっと王様が亡くなられた事を報告に来たかと安易に考えていた。
だが、もし本当に王が亡くなった事を言いに来たのなら「ご同行願います」などと言う訳が無い。
考えの浅いジェイソンは、次はシュレッダーを殺せば自動的に自分が王座に着けると思っていたのだ。
45:
ムーン [×]
2016-03-30 22:08:08
======
護衛兵に囲まれ連れて行かれるジェイソン。
その後を付いて行くように歩いてくる側近二人とウスラ大臣。
四人は王様を殺した犯人を捜しているため、護衛兵を付けて安全を確保しているものだとばかり思っていた。
ジェイソンは、王様がいる謁見の間へと連れて来られた。
そこには数人の護衛兵と、王座の前にはシュレッダーがいた。
シュレッダーは、入り口から王様の姿がハッキリと分からない位置に立ち、慌ただしく入ってくる衛兵達の話しを聞いていた。
ジェイソンは謁見の間に入るな否や、叔父であるウスラ大臣の陰謀が成功したのだと確信した。
そしてあるミスを犯した。
「父上に一体何があったのです」
その言葉を聞いたシュレッダーも又、確信をした。
「可笑しなことを聞くのだな、ジェイソン。
何故父上に何かあったと思ったのだ?」
しまった!と思ったジェイソンだったが、事すでに遅し。
「あ、兄上がここに居ると言う事は、父上に何かあったと言う事ではございませんか?」
平常心を保とうと必死ではあるが、額と背中に嫌な汗をかいている。
「確かに私がここに居ると言う事は、父上に緊急の用があったと言う事になる。
しかし、父上はここに居るではないか」
そう言うと、横に立っている側近が、王座に座っている王様の方へと手で指した。
「なっ・・・・」
「それに、この時間は民との謁見の時間だ。
それなのに何故、父上ではなく私に声を掛け尋ねた」
「そ…、それは・・・」
返答に困っているとウスラ大臣が援護射撃をしてきた。
「おそれながらシュレッダー皇子。ここに来るまでに幾人もの衛兵たちが
慌ただしく動いておりました。
その様子から王宮内で何か大事が起こったものだと考え至り、
この場に起きましても、まず初めに目に入りましたのがシュレッダー様でしたので
シュレッダー様にお声を掛けたものだと思われます」
「そ…そうです。ウスラ大臣の言う通りですよ。兄上」
シュレッダーは『白々しい。よくもその様な嘘を述べられるものだな』そう思っていた。
「兄上。父上は如何なされたのですか?
先ほどから言葉を発していないようですが、具合でも悪いのでしょうか」
「父上の事が心配か?ジェイソン」
「当たり前です!何を仰っているのです!」
「ならば自分の目で父上のご無事を確認するのだな」
『無事…だと?!そんなわけない。叔父上が失敗したのか?!』
半信半疑でジェイソンは王座に向かい歩き、そしてその姿を目にした。
「なっ…!!」
『何ともおぞましい。これが父上だと?!フッフッフ』
「一体誰がこの様な…」
ジェイソンは一瞬驚いたように見せかけ、内心ではこれで計画通りに事が運ぶと喜び、そしてそれを気取られぬ様に、父王を殺した犯人に憎しみの念を込めた。
結局犯人は分からずじまいで、早急に次の王を決めなければならない事になった。
両者供に後ろ盾となる貴族達が譲らず、王宮内では派閥による小競り合いが続いた。
派閥による小競り合いは、国民にも不安を煽り、その噂は瞬く間に各国へと届く事になる。
ある国は面白がって傍観し、またある国は、この隙にゴルティア国を攻めて我が領土にしようと、戦争の準備に入っていた
そのある国とは、隣国《シャブリ帝国》である。
シャブリ帝国の国王は、ゴルティア国に嫁がせた王女より極秘に手紙を貰っていたのだ。
ゴルティア国を領土にしなくても、その孫であるジェイソンが王になれば何も問題ない。
世間を知らないジェイソンを意のままに動かし、傀儡の王に仕立て上げればいいだけなのだから。
そんな思惑が、故郷であるゴルティア国とシャブリ帝国の間で行われているとは、シオン達は想像もしていなかった。
46:
ムーン [×]
2016-04-04 20:07:12
第十七話
■ もふもふシルバーは俺のもの ■
妖魔シルバーを飼う事を許してくれたが、二つだけ条件を付けられた。
シルバーは犬として飼う事。
絶対に妖魔だとはバレない様にする事。
単純だがこの二つだ。
この世界で魔物を使役してる人がいないわけではない。
高レベルの冒険者になれば使役する事も可能だし、実際に従魔として使役し、街中を連れて歩いている人もいるくらいだからな。
だけどな、連れて歩く従魔が問題なんだな。
普通はそれ程強い魔物を従魔になんて出来ないんだ。
精々Bランク程度さ。
そこそこ戦闘が出来て、何らかの特殊スキルがある魔物が従魔に選ばれる事が多い。
例えば、穴掘りスキルがある《モグラン》炎を吐くスキルを持つ《ファイアーラビット》何方もそれ程強くはない。
倒すにはそれ程強くはないが、従魔にするのは難しいんだなこれが。
魔物って言われるぐらいだから人慣れなんてしてない。
それどころか人間を見たら襲い掛かってくる。当たり前だよな。
だから、なるべく野性味の少ない魔物を選んで従魔にするんだ。
たまに居るんだよな。そういう魔物がさ。
で、極稀になんだが、上級魔物の中にもそう言う奴がいるわけだ。これが。
俺が今までに見た上級魔物の従魔は、大量の荷物を運ぶのに便利な力自慢の《ケンタウロス》、人や荷物を運ぶ事ができる《ワイバーン》、人を乗せて、馬以上の速さで長時間走行可能な《ブルーウルフ》ぐらいかな。
まあ、上級魔物を従魔にできる人って言えば、Aランク以上の冒険者ぐらいさ。
妖魔?無理無理無理。普通に考えればね。
妖魔って言えばSSランク以上、災害級の魔物だぜ?
ドラゴンと同じレベルの魔物だよ。
ドラゴンが炎系の魔力で町一つ消す事ができるとすれば、妖狼ベルガーは土系を含む自然魔法で町を破壊する事ができる魔物なんだよな…。
まっ、大人のベルガーならな。
シルバーはまだ子供だからそこまで力が強いとは思わないが…たぶん…。
なんせ全身傷だらけの姿で俺の前に現れたしな。
なんにせよ、今日からシルバーも俺達《イカヅチ》の一員だ。
嬉しくて顔がニヤケルぜ!
『おい。さっきから何故そんなに気持ち悪い顔で俺の尻尾を撫で繰り回してるんだ?』
「んぁ?悪い、これは本能だ!気にするな!」
コイツを俺が温水魔法で洗って綺麗にするまではさ、ただの薄汚れた灰色の野良犬だったんだ。
それが、洗い終わって乾かすと、銀色のふわふわモフモフの毛並に早変わり!
なんつーの?すんげぇ毛触りが良い!!
ヤバイな。俺、こういうの好きなんだよな。
尻尾だけでは飽き足らずに、シルバーをひっくり返してお腹の毛に顔を擦り付けながらフガフガしてしまった。
その姿をロジャーとクウが見てたらしく。
「まったくシオンは何をやってんすかね」
「ははは。シオンもああやってれば普通の子供と変わらねぇんだけどな」
「そうっすね」
おい。聞こえてんぞ。
俺の耳は地獄耳なんだからな。
・・・・・・ん~。何かさっきから視線を感じるんだよな…。
魔物の気配はないし…、人影もない…。
キョロキョロと辺りを見まわしてみると、視線の主がそこに居た。
ローズだ。
なんだあいつ。なんでこっち見てんだ?
シルバーが気になるのか?
さっきは汚い犬呼ばわりしてたけど、洗って綺麗になったら触りたいってか?
たまに居るよな。そんな奴。
まぁさ、俺の事も髪の色が薄い出来損ないって言ってたぐらいだしな。
見た目でしか判断できないんだろうな。
てか、中身より見た目重視って言った方がいいか。
あんまりお近づきになりたくないタイプだしな。
どうせこの旅だけの関わりなんだし、表面上だけは問題を起こさず付き合っとけばいっか。
でも俺からは絶対に声を掛けてやらね。
別に用事もないし声を掛ける必要もないしな。
それにアイツ。すっげぇ上から目線で話すし。イラッとくんだよな。
シルバーに触りたかったらそっちから来い。
「触らせろ」とか「抱かせろ」とか命令形じゃなく、ちゃんとお願いして来たら触らせてやってもいいぞ?
・・・・・てか、俺も大概性格悪くなったよな…。
相手はまだ十五歳の子供だっていうのによ…。ハァ~…。
今日の飯当番であるクリフとリカルド達が晩御飯の準備をしている間、俺はシルバーの毛並を堪能しながら火の番をしつつ、そんな事を考えていた。
47:
ムーン [×]
2016-04-04 20:08:17
晩御飯が食べ終わると後片付けは俺の仕事になる。
使った鍋や食器を洗うのが俺の日課になっている。
手から直接水を出せる俺が一番便利なんだってよ。
短時間で洗い終わるからな。
確かに、鍋や食器なんてそんなに使わないし、水は使い放題だし、掛かる時間としては洗って仕舞うまで十分程度だもんな。
そんなに苦にはならない。
って言うか、下働き兼雑用の名目で買われた割には楽させてもらってる方だと思うぜ?
まぁ、そりゃあ、そうだろ。
何も役に立ちそうにない出来損ないのガキが、意外や意外、希少価値の闇スキルや光スキルが使えちゃったりしたんだもんな。
他の属性スキルも使えるっちゃ使えるんだが、日常生活においての便利道具程度だし、戦闘には不向きだったつー事だ。
だが!敢えて言わせてもらう!
実はだな。水も火も、他の魔術者の実演を見て習得してるんだよな~。
内緒だけど。
何故内緒にしてるのかって?
あれだよアレ。
俺がそこまで使える奴だって分かったらさ、魔力のあまり多くないリカルド達が嫉妬しちゃうかもしれないだろ?
そうしたらさ。剣術の稽古の時にボコボコにされちまうに決まってるからさ!
体力的に俺に勝ち目は無ぇ!!
痛いの嫌いだし。
まぁ、いざと言う時はそりゃあ助けるけどさ、今んとこそんな要素ないしな。
何だかんだ言ってあいつ等って結構強いんだぜ?
俺の出る幕なんてねーよ。
よし。片付けも終わったし、シルバーにモフモフするかな。
「シルバー」
『終わったのか?』
「終わったぞー」
俺が片付けをしている間、シルバーはリカルド達にモフられてたようだ。
当然の事だが《イカヅチ》のメンバーは全員シルバーが妖魔ベルガーの子供だと知っている。
ベルガー自体を、生きてる間に拝めるような魔物じゃない事も知っている。
なんたって災害級の妖魔だから、その姿を拝んだ直後には町が壊滅して生きてなどいないのだろうからね。
「なんだ。もう行っちゃうのか?シルバーは」
シルバーが俺に呼ばれるとリカルドの手からすり抜け、俺の方へ向かって尻尾をフリフリ走って来た。
離れて行ったシルバーの後姿を見ながら、リカルドはなんか寂しそうな表情をしている。
俺の足元まで来て、クルクルと俺の周りをまわるシルバー。
「抱っこ―」と言わんばかりにピョンピョンと飛び跳ねてくる。
初やつじゃ。
早速抱かかえて焚火の側に腰を落とし、シルバーを膝の上で抱え込む。
「良い子にしてたかー?」
『ワン(当然だ)』
「お前の毛並は最高だな。癒しだよ癒し!」
そう言いながらグリグリと顔をシルバーの脇腹辺りに押し付ける。
『キャンキャンッ(くすぐったいだろ!やめろよ)』
「ちょっとぐらい良いじゃん」
『グルルル(シオンのちょっとはチョットじゃないだろ)』
「シルバーって案外ケチだね…。器がちっさいね…」
『キュ~ン?(なんだと…?)』
「だってそうじゃん。僕がシルバーに触るのは嫌がるくせに、シルバーは僕の
膝の上に乗ったり抱かれるのは好きじゃん?これっておかしくない?」
『クゥ~ン(・・・・おかしくない)』
「ふ~ん。シルバーは僕の事が嫌いなんだ…」
『クゥ~ン キャンキャンッ(そ…そんな事はないぞ!シオンの事は気に入ってるぞ)』
「何だお前等。そうやってると、シオンとシルバーは喋ってるみたいだな」
「確かに」
そう言ってロジャー達に笑われた。
喋ってるみたいじゃなくて喋ってるんだけどな…。まっ、いっか。
48:
ムーン [×]
2016-04-04 20:09:32
=====
この世界では出来損ないと呼ばれている子供を囲んで、厳つい男五人が楽しそうに笑い合っている。
端から見ればとてもシュールな光景だった。
普通出来損ないの人間は、この世界では奴隷のような存在だ。
仕事と言えば、石切り場や魔石発掘と言う様な重労働しかない。
稀にゴンザレス商会のマーヤの様に下働きとして雇ってもらえる人もいる。
そういう人はとても運が良いと言えるだろう。
それなのに、厳つい冒険者に囲まれて、奴隷の様にこき使われているわけでもなさそうなシオンの姿は、本当に不思議な光景であった。
ゴンザレス商会の人達の目には、この五人の弟なのではないかと錯覚するほどだった。
49:
ムーン [×]
2016-04-04 20:10:30
旅の行程も半分ほど進んだ頃。
ゴンザレス商会の主人ハウルはロジャーに聞いてみる事にした。
商会側の焚火から、ハウルがゆっくりとした足取りで此方の方へ歩いてきた。
「少しいいですかな」
「ああ」
「予定では後五日ほどで着くと思うが、明日からは宿に泊まれるのか?」
「そうだな。この先に小さな村が三件と町があるから大丈夫だろ」
町や村がある事は、商人なので知っていた。
が、本題はそこじゃない。
これは単なる話のきっかけだ。
「しかし、貴方達は仲が良いですな。そこの子供は誰かの兄弟ですかな?」
「シオンの事か?イヤ。シオンは二年前に俺が買ったガキだが」
「それにしては何と言うか・・・・」
「ふっ。魔力なんか無くてもシオンは賢い。今じゃ息子の様なもんだ」
「ほほぅ。大した器の方な人のようですな」
ハウルは感心しながらもシオンに興味を持ち始めたのだった。
そしてもう一人。
興味津々と言うか何と言うか、ずっと此方に視線を向けている人がいた。
ローズだ。
ローズは父親が冒険者側の焚火の方へ行った事確認すると、スタスタと歩いてきた。
「父様、何をなさってるんです?」
「いや、ちょっと話しをな」
父親に話しかけながらも、チラチラと視線がシルバーに飛ぶ。
そんな娘の様子に気が付いたハウルは。
「どうした、ローズ」
「いえ、別に…」
いえ、別に。と言いながらも、視線はシルバーに向けられていた。
「犬か?触りたいのなら触らせてもらいなさい」
「でも…」
そう言いながらローズはシルバーを抱いてるシオンに目を向ける。
ローズとシオンの目が合う。
しかしお互いに無言のままだ。
「どうした?娘に抱かせてはくれないのか?」
ハウルがシオンに問う。
ロジャーも┐(´д`)┌ヤレヤレ と言った表情でシオンに言う。
「そこのお嬢様が抱かせてほしいんだとよ」
しかし、シオンの反応はというと。
「ロジャーさん。僕にはお嬢様が「抱かせてください。お願いします」と言う
言葉は聞こえませんでしたよ?」
シオンの横に居たクゥが小声で
「そこは察してやるっすよ」
俺はクウを見ながら
「自分の気持ちは誰かが察してくれると言うのは間違いだと思います。
そういう育ち方をすると、誰かが構ってあげないと一生自立が出来ないと思うんですよ。
今は良いですよ。ちゃんと両親が揃って気持ちを察してくれてるんですから。
ですが、もし一人っきりになったらどうするんですか?
全て自分で何とかしなきゃいけなくなるんです。
頼る人なんて誰も居ないんです」
「シオン、そこまでだ」
俺は、前世と今世の記憶が走馬灯のように流れる中で一気に捲し立てた。
前世では親の引いたレールの上をのんびり走り、良い高校、良い大学へと進み一流会社に就職した。
両親は俺が何も言わなくても、俺が望んでいる事を的確に判断して、その愛情を一身に受けた。
その結果、ちょっと…いや、かなり生意気な性格になってしまったと思う。
今思えば、かなり恥ずかしく嫌な奴だったよな。
そして今世では、生まれて直ぐに母親を亡くし、父親が誰なのかもわからない。
ずっと孤児院で育った俺は、頼れる者など誰も居なかった。
自分の命は自分で守るしかなかった。
それでも前世の記憶があったおかげで、俺は心を折る事なく、あらゆる知恵を使って生き延びてきた。ロジャーに会うまでは…。
だからこそ腹が立ったんだ。
誰かが自分の心の内を察してくれるのが当たり前だと思っているローズに。
50:
ムーン [×]
2016-04-04 20:11:16
「シオンは時々鋭い事言うっすよね。
本当に子供なんすか?歳誤魔化してないっすか?」
「確かにな」
クウが場を和ますように言うと、リカルド達も「うんうん」と言うように首を振る。
その会話を聞いていたローズは顔を真っ赤にして逃げて行ってしまった。
「言い過ぎだぞシオン。後で誤って来いよ」
ファインに言われ、自分でも少し反省したさ。
いくら見た目が十二歳の子供でも、俺は精神年齢三十九歳の大人なのだ。
でも時々忘れちまうんだよな…。
普段子供の振りをしてる事が原因か?
てか、実際に子供なんだけどな。
51:
ムーン [×]
2016-04-04 20:12:43
その後少ししてから、俺はローズの所に行き、
「さっきは言い過ぎました。ごめんなさい」
ローズは勝ち誇った様な顔をして
「分かればいいのよ。気にしてないわ」
そう言って両手を俺の方へ差し出してきた。
この場合、ローズの気持ちを察するとしたら、シルバーを抱かせろ、と言う事だろう。
当然却下だ。
無言で手を伸ばすだけなんて有り得んだろ。
さっき俺が言った良い話し、全く聞いてなかったようだな。
俺はお前の下僕じゃない。
ちゃんとお願いしないと抱かせないよ~。
と言わんばかりに、踵を返しその場から立ち去る事にする。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「なんですか?僕はちゃんと謝りましたよ?では、失礼します」
「えっ?」と言う様な顔をして口をパクパクさせていた。
「だから待ちなさいって言ってるのよ!」
「何か用事でも?」
なんかちょっと面白くなってきた。
シルバーを抱きたいけど抱かせてとは言えないローズとのやり取りがだ。
チョットした悪戯心が芽生え、俺はシルバーを下におろす。
それを見たローズが抱き上げようと両手を下へ向けた時に。
「シルバー。先に皆の所に帰っといて」
『わん(わかった)』
スタスタとシルバーはロジャー達の所へ戻って行った。
「で?用事は何ですか?」
ポカーンとしてるローズに向かって聞いた。
彼女は少し中腰になって固まっている。
「もしもーし」
ローズの目の前で手をヒラヒラさせて正気に戻すと
「アンタに用事なんてないわよ!さっさと戻りなさいよね!」
怒鳴られた。
本当素直じゃないよな~。
用事がないなら戻るとするか。
皆の所に戻ると、ジト目で見られてしまった。
「まったく…。お前は大人なんだか子供なんだか分からん奴だな…」
と、ロジャーに言われてしまった。
うん。自分でもそう思うよ。ロジャーさん。
「シルバー、おいで~」
『わん(忙しい奴だな、お前は…)』
俺はシルバーを抱きしめ、モフモフを堪能しながら夜は更けて行った。
52:
ムーン [×]
2016-04-07 21:58:38
第十八話
■ 何これ? 大中小 精霊大集合だぜ! ■
野営をする時は焚火の前で、二人一組で見張りをするんだが、いつの間にか俺は寝てしまっていたようだった。
子守(俺の)兼見張りのクウが俺を起こす。
「そろそろ起きるっすよ。日が昇るっす」
眠い目を擦りながら、薄らと目を開けると、昇り始めた太陽が遠くにある山から顔を出した。
俺は大きな伸びをしながら目を開けると。
えっ?えっ?ええええええええええぇぇぇぇぇ??!
欠伸をしたままの口が閉まらない位に驚き、固まってしまった。
何ですかこれは!?
何が起こった…。
何故こんな事になってるんだ!?
てか!クウはこの変な物がウジャウジャいる事に違和感とか異常さとか感じないのかよ!
どうなってんだ一体・・・・。
俺がいま目にしている物とは、体長3cm位の大きさで、色取り取りの光の様な物で包まれている生き物だ。
赤い色、青い色、黄色い色、緑の色、茶色の色。
各々色にも強弱があり、薄い色だったり濃い色だったりとこれまた幻想的な光景だ。
そしてその光の中には、小さな女の子の姿があり、ふわふわと空中を舞っている。
何だ?この生き物は…。
よく見ると幼女の背中には、透明で小さな羽も生えている。
まさかな。違うよな?
・・・・・・でもこれってさ、お伽話によく出てくる妖精ってやつに似てるんだが…。
てかこれって触れるのか?
好奇心には勝てず、恐る恐る人差し指を差し出し、近くに居る妖精を突っついてみる。
あっ…、指の先に纏わりついて来たぞ?
この赤い妖精もどきは可愛いな。
俺は口角を上げて少しニヤけてしまった。
「シオン…。お前朝っぱらから気持ち悪いっすよ…。
なんで火を出してニヤけてるんっすか?」
クウの言葉に正気に戻った俺は自分の指先を見る。
「えっ?いつの間に?なんで?」
「そんなの俺が知るわけないっすよ」
火が出ている場所はさっきまであの妖精もどきが居た場所だ。
俺の人差し指の先から小さな火が灯っている。
それに、妖精もどきはまだ其処かしこにウジャウジャと浮遊していた。
クウには見えないのだろうか。
「他に様子がおかしいとか、違和感とか異常な感じはしないですか?」
一応聞いてみる。
「う~ん…。お前が寝ぼけてるって事以外は、異常はないっすね。
あっ!それとも魔物の気配でも感知したんっすか?!」
「・・・・いえ。してません…」
どうせ変な夢でも見て、夢と現実がごっちゃになってるんだろうと、クウは大して気にも留めずにポンポンと俺の頭を軽く叩きながら微笑んだ。
完全に子供扱いだ。
って事は、この妖精もどきみたいな奴は俺にしか見えていないと言う事なんだろうか。
俺は小首を傾げながら考えた。
すると耳元から「クスクス」と言う笑い声が聞こえてきた。
今度は何だ!?俺は首を左に回し声の主を確認する。
53:
ムーン [×]
2016-04-07 21:59:32
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
見なかった事にしよう!
俺はそっと、そいつから視線をそらした。
『チョット!なんで視線を逸らすかな。
ウチの事見えてるやろ』
そいつは俺の肩の上にちょこんと座って怒鳴っている。
何なんだこの生き物は?
さっきの妖精もどきより三倍くらいの大きさで、やはり背中には薄い透明な羽が生えている。
体長10cm位で黒髪に黒いドレスが良く似合う。
ああ。これ見た事あるわ。
何とかってアニメに出てくるキャラクターだな。
そうか。これはフィギュアか。納得。
『シオン。現実逃避は止めた方がいいよー。
やっとウチの姿が見えるようになったんやから、現実受け止めな』
「・・・・で、誰?何者?」
恐る恐る尋ねてみる。
可愛い顔をしているのに、何故か威厳を感じるその姿に少し動揺を隠せない。
『ウチの名前はベル。闇の精霊王よ。』
「精霊王!?」
『元々はアマンダの友達だったのよ。ウチは。
アマンダって言うのはアンタの母親ね。』
「・・・・母さんの名前…アマンダって言うんだ…。」
初めて聞いた母親の名前に、俺は興味を引き、ベルに色々と聞いた。
「母さんってどんな人だったんだ?」
『アマンダは思いやりのある優しい人間だったわ。
第二王妃の侍女として、この国でも誠心誠意尽してた。
多くの人に慕われてたわ。』
「・・・・母さんは俺を産んだから死んだのか?」
『そうかもしれない。でも違うわ。
アマンダは殺されたのよ。』
「殺された?誰に」
『ゴルティア国第三王子ジェイソンと、王弟ウスラ・フォルン・ミクドニアよ』
「何故母さんは殺されなきゃいけなかったんだ」
『第二王妃の侍女としていつも傍に居たアマンダを、王が見染めてしまったの。
そしてアマンダは妊娠をした。
それが貴方よ。』
「俺の父親がゴルティア国の王様…だと?
だけど、それが何で殺される事になるんだよ」
『ジェイソンとウスラが王座を狙ったからよ。
王位継承権は第一皇子のシュレッダーが一位でジェイソンは三位。
当然今のままじゃ自分に王座なんか回って来ないと思ったのね。
そこで出した結論が、邪魔者は消せ。だったのよ。
だから第二王子は殺されてしまった。
その現場を目撃してしまったアマンダも当然殺されかけたわ。
でもアマンダはウチが逃がしたのよ。
でもダメだった。逃げる時に切られた傷が原因で、シオンを産んで力尽きたのね』
「・・・・そうか」
『アマンダが死ぬ間際に言ったわ。「この子を生かせて」と。
だからウチは、ずっと見守ってた。
おかしいとは思わなかった?
なんの訓練もしないで闇スキルが使える事を。』
何かが俺の中へストンと落ちてきた感覚がした。
ずっと不思議に思ってた。
生まれた時から聞き耳と言う魔術が自然と使えていた事を。
やたらと闇スキルが使え、そのレベルもMAXだ。
ああ、そうか。そう言う事だったのかと何故か納得をした。
しかしなんだ。精霊王ってこんなにフレンドリーな口調でいいのか?
威厳とか全く感じないぞ。
まぁ、下手に威張られて上から目線で話されるよりは、よっぽど良いけどな。
「・・・・・・お前、さっきから何ブツブツ独り言いってるっすか…?」
痛い子を見る目で、クウが俺の顔を覗き込んでくる。
やはりクウには、この精霊達が見えていないようだ。
シルバーはずっと、俺の膝の上で未だ爆睡中。
「朝飯の準備するっすよ。早く顔を洗って来な」
「はーい」
馬車からタライを出し、そこに指先から出した水を入れて、その水を小さな桶に少しすくい顔を洗う。
顔を洗ったおかげで少し脳内がスッキリした。
水を入れた鍋を火にかけながら、朝食の準備だ。
芋と豆の簡単なスープを作り、皆が起きてくるのを待つ。
クウはその間にのウザギを仕留めに行った。
燻製肉だけじゃ腹持ちがしないからな。
54:
ムーン [×]
2016-04-07 22:00:18
待ってる間、精霊たちが俺の周りに集まって来たが、話しをすると言う事はないようだ。
どうやら小さい精霊は喋れないらしい。
小さい精霊に交じり、少し大きい5~6cm位の精霊がたまに居るが、そいつ等は喋れるようだった。
だが無口なのか向こうからは話しかけてくる様子はない。
「あのちょっと大きい精霊は?」
『うん?あれは上級精霊よ』
「上級精霊って?」
『小さいのが下級精霊。人間で言えば幼児ね。
少し大きいのが上級精霊。人間の年齢で言えば14・5歳ってとこかしら。
纏ってる色の魔術が使えて、それを人間に分け与える事ができるわ。
良く見てごらんなさい。
ロジャーの傍には赤い色を纏った上級精霊がいるでしょ?』
馬車の方に目を向けると、中から出て来たロジャーの傍には確かに赤い色の精霊が居た。
『だから彼は魔術が使えるのよ』
「なるほど~」
『なんだシオンは知らなかったのか?』
目が覚めたのか、足元に居たシルバーに言われてしまった。
「ああ。初めて知った。ってか、初めて精霊なんて者を見たぞ。
なんで急に見えるようになったんだろ?」
『たぶん俺のせいだな』
「何でシルバーのせいなんだ?」
『俺は自然を操る妖魔だからね。
森の中じゃ精霊達とは仲が良かったからじゃないかな。
それに、俺はシオンの従魔になったわけだし、俺の力がシオンに移っても
何ら不思議じゃないだろ。
そう言うもんだ」
「・・・・・・・そう言うもんなのか」
シルバーは面倒臭そうに大きな欠伸をして伸びをした。
『まっ、大体そう言う事ね。
だからこれからが大変かもしれないわよ?
だって貴方、良い匂いがするんですもの』
そう言ってベルは、シオンの匂いをクンクンと嗅いでいる。
匂いって何だ?匂いって?!
俺ってば精霊に食われるのか?!
マジやめて。マジ勘弁。
だからさっきから精霊が俺に寄って来るのか!
『違うわよ。精霊は人間なんて食べないわよ。
シオンの匂いを嗅ぐと癒されるのよ。
それにね。シオンに触れると元気になるって言うの?
人間で言うヒーラーの様な物がシオンから出てるのよ』
・・・・ってか・・・俺、今言葉に出して喋ってたっけ…?
痛い子やん。マジ痛い子やんか!
『喋ってないわよ』
『喋ってないな』
「・・・・・・えっ?」
『言わなかったっけ?
脳内で会話できるって』
言ってねぇし!!!
初めて聞いたし!!!!
『ごめん。言うの忘れてたわ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
俺は顔を顰(しか)めてガックリと肩を落とし俯いた。
「何朝っぱらから辛気臭ぇ顔してんだ?」
声の方を振り返れば、ロジャーが訝しげな顔で俺を見つめていた。
そして何故かおでこに手を当てられ、ロジャーは首を傾げている。
「熱は無いな」
そっちかい!
でも、痛い子を見る目で見られるよりはそっちの方がまだマシかな…。
俺は力なく笑い、誤魔化した。
55:
ムーン [×]
2016-04-11 22:12:15
第十九話
■ 無限異空間袋 ■
その日のお昼過ぎに、ゴンザレス商会一行は次の村に到着した。
小さな村だが一通りの店は揃っているようだ。
街に比べれば人は多くはないが、ある店先だけは人が集まっていた。
鍛冶屋兼武器屋だ。
錆び付いた剣や槍を手に持ち、鍛冶屋の前には長蛇の列ができている。
中で働いているオヤジさんも忙しそうに動き、汗をかいているのが遠目でも分かる。
「この村も徴兵がかかったか」
苦虫を潰したような顔で呟いたのはハウルだった。
ゴルティア国と戦争になれば、そこに近い村や町から募った兵隊達が逸早く最前線に送られる事だろう。
逆に言えば、敵地より遠い町や村の人の方が後攻めとして送られるのだ。
当然、生存確率も違ってくる。
ハウルにとっては、自分や自分の息子の生存確率を高めるために、今まさに出来るだけ遠くの町に身を置こうとしているのだ。
56:
ムーン [×]
2016-04-11 22:13:39
村に立ち寄った一行だったが、ここでの買い物はたいした無い。
したがって、今日は久しぶりの自由行動となる。
村の中なので魔物もいるわけないので護衛をする必要もないと言う事だ。
ロジャー達はここまでに来る途中で倒した魔物から出た魔石や皮や牙など、武具の道具になる物を一度ギルドに持って行き売る事にした。
荷物になるから邪魔なんだってさ。
で、俺は置いてきぼりだ。
だって、しょうがないだろ。俺はまだ冒険者にはなれないんだからな。
冒険者になるには十五歳にならないとなれない。
どんなに剣の腕が良くても、魔力が強くてもだ。
そして何よりも解せないのが、冒険者になると冒険者レベルと言う物があると言う事だ。
俺の一般的レベルはBランク相当らしいが、冒険者として登録をすればFランクから始まるんだってよ。
どんなに実力があっても、皆そこから始めると言うから驚きだよな。
ゲームで言うならレベル上げ必須と言う訳だ。
しかし!しかしだ!ふっふっふ。
これってチートっぽくね?
実力はBランク。冒険者レベルはFランク。
ヤバイでしょ。チート並みにガンガンレベルが上がっちゃうじゃないか!
なんてね。思ってた時期もありましたよ・・・・。
無理なんだってさ。
レベルを上げるには自分と同じランクの依頼を規定量こなさないとダメなんだってよ。
メンドクセー…。
それに、子供がギルド内に入るのもダメなんだってよ!
・・・・・まあいいさ。後三年もすれば俺も冒険者になれるんだからな。
それまでは我慢だ。
57:
ムーン [×]
2016-04-11 22:14:23
======
って事で、俺は今とーーーーーっても暇なんで、鍛冶屋のオヤジの仕事を覗いてる。
へー。刀ってそうやって造るのか。
あの道具があったら俺にも出来そうだな。
って、無理だよな。
あれは職人技だ。俺には無理だ。
俺に錬金術のスキルがあったらなー…。
そしたら剣やポーションも作れるのにな…。
そんなチートスキルなんて有る訳ないよな…。
『有るわよ?』
俺の頭の上に座っていた闇の妖精王ベルがそう言った。
「そんなスキル今まで見た事が無いぞ」
『そりゃそうよ。本人が望まないのに習得させるわけないじゃない』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
『あっ。でも、習得するには条件があるのよね。
ポーションなら光の上級妖精。剣なら用途によってそれぞれの上級妖精の力を
借りなきゃいけないから、まずはその上級妖精を誑かさないといけないわね』
「誑(たぶら)かすって・・・もうちょっとマシな言い方は無いのかよ」
『じゃあ…、虜にする?』
「・・・・・・‥取り敢えず言いたい事は分かった。」
『そうそう。武器のみなら土の上級精霊ね。
武器に属性加護を付けたいなら、属性ごとの精霊が必要になるわよ』
「分かった…。
上級精霊か・・・・。」
辺りを見回すと、やはり其処かしこに精霊が沢山いる。
居るにはいるが、小さい幼児精霊ばかりだ。
上級精霊は一体どこに…?
俺の考えを読んだのか、シルバーがその疑問に答えてくれた。
『上級精霊はな、小さな精霊が100人居たらその中に1人だけ居るんだ。
更にその上の精霊王も、上級精霊100人に対して一人だ』
「へー。つまり、小さい精霊が《平社員》で、上級精霊が《中間管理職》。
その上の精霊王が《代表取締役》ってとこか?」
『何だそれは?』
「・・・まあいいさ。大体分かったよ」
シルバーの説明にベルは少し付け足した。
『どーーーーしても上級精霊が見つからない時は、幼児精霊を100人使えば
その役目を果たすわよ』
「・・・・・・・・・・さいですか。」
たまに思うけどさ。この世界って結構アバウトだよな。
俺的には助かるけど。
って事で!
新しいスキルが増えましたとさ!ニンマリ
58:
ムーン [×]
2016-04-11 22:15:15
名前:ハルシオン
年齢:12歳
髪の色:金髪
戦闘スタイル:魔剣士
種族:人族
HP:9000/16500
MP:15000/35000
魔属性:オール
火:業火まで
水:滝レベルまでの垂れ流し
風:高さ5mのつむじ風まで
土:壌土 穴掘り
光:ヒール ヒーラー 万病退散 眩い光
闇:聞き耳 索敵 各種防御壁 隠し身 影分身 麻痺 催眠術
特殊スキル:錬金術 従魔使い 鑑定
従魔:妖魔ベルガー
守護妖精:闇の精霊王 ベル
好きな女性のタイプ:《教養》《思いやり》《一般的常識》のある人
59:
ムーン [×]
2016-04-11 22:16:52
名前:ハルシオン
年齢:12歳
髪の色:金髪
戦闘スタイル:魔剣士
種族:人族
HP:9000/16500
MP:15000/35000
魔属性:オール
火:業火まで
水:滝レベルまでの垂れ流し
風:高さ5mのつむじ風まで
土:壌土 穴掘り
光:ヒール ヒーラー 万病退散 眩い光
闇:聞き耳 索敵 各種防御壁 隠し身 影分身 麻痺 催眠術
特殊スキル:錬金術 従魔使い 鑑定
従魔:妖魔ベルガー
守護妖精:闇の精霊王 ベル
好きな女性のタイプ:《教養》《思いやり》《一般的常識》のある人
60:
ムーン [×]
2016-04-11 22:18:01
うん。錬金術と従魔使いってのが増えたね。
今のところ戦闘で魔術を使うのは難しいな。
これは今後の課題とするか。
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