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自分のトピックを作る
21:
ムーン [×]
2016-03-16 19:24:57
=====
=====
そんな事が王宮内で起こっているとは、俺は全く知らなかった。
そりゃそうだ。
何処の世界に一般人が王族に「やあ!調子はどうだい?」なんて聞く奴がいる?
居たら会ってみたいもんだわ。
俺が生前勤めてた会社でも派閥はあったさ。
派閥間のエグイ貶めも見てきたよ。
敵の足の引っ張り合い。貶め合い。
ガキの喧嘩か!?って言うくらい低俗な嫌がらせもあったな。
だからかもしれない。
この世界の王宮内でも派閥が存在して、殺し合いが起こってたとしてもだ。
俺は驚かない。
歴史や小説内でそれに似たような事があったのを知ってるからな。
って、そんな事より、うちの大将達大丈夫か?
おぃおぃ、ロジャーさんよ。その樽で何樽目だよ…。
ファイン…、そんなとこで寝るな…。
はい!リカルド。店員のねーちゃんナンパすんなし!
クリフは…泣き上戸かよ…。
あれ?クウは何処だ?
………・・・・・・・・・・。
いたよ…。他のテーブルにな!
そして、何故か馴染んでる。
何やってんだか…。
そんなこんなで、無礼講どんちゃん騒ぎがあったが、次の日はいつも通りに皆起きてきた。
凄ぇよあんた達……恐れ入った!
誰も二日酔いになっていないってのが、これまた驚きだ。
昨日はあんなに飲んだから、今日は剣の練習は無しだと思ってたのにやるのかよ!
― ブンッ ブンッ
素振りの音も順調だぜ。
「ほほぅ~。大分型の移行がスムーズに出来るようになったな。
よし。今日から特訓メニュー倍でもいけるだろ」
「・・・・・・・・・・・・・。」
いきなり倍っすか?!
やれと言われればやりますけどねー。
やり通せる自信は無いぞ!
・・・・・・・・・・ハァハァ・・・・ノルマ…達成・・・・。
疲れた。
超疲れたぜ…。
しかし何だな。
まさか出来るとは思わなかったな。
俺も成長したって事か。
特訓と言う名のシゴキがちょうど終わった頃、ギルド会館に依頼を探しに行っていたファインとクウが帰って来た。
「どうだ。いい仕事はあったか」
俺の所属する『イカヅチ』団では、基本的にはギルドで仕事を貰い、魔物討伐や商人の護衛という仕事をこなしている。
目ぼしい仕事が無い時は迷宮に入り、お宝や魔石などを探す。
定住をしてので、商人の護衛をした後は、大抵その街でしばらく魔物討伐や迷宮探索などをするといった生活だそうだ。
「午後から王都に行く薬師の護衛があったっすよ。
護衛ランクAっす。
報酬は金貨一枚(10万円)っす!」
「決まったな」
次の仕事が決まったようだ。
確か王都までは馬車で一日程度のはず。
途中山賊や魔物が出没する場所はあるものの、たった一日の護衛に金貨一枚とは大盤振る舞いも良いところだ。
一体どんな荷物を護衛させられるのやら。
22:
ムーン [×]
2016-03-16 19:29:01
=====
たった一日の護衛なので、食料もさほどいらない。
王都に着けば何でも手に入るからな。
俺達イカヅチも預けてあった馬車を引きとり、荷台に荷物を詰め込む。
荷物と言っても多少の食料とテントなどの野営具しかないが。
待ち合わせの場所に行くと、一人の老人と青年が馬車に乗って待機していた。
「お待たせしました。イカヅチのロジャーです」
「よろしく頼む。ワシは薬師のセイロ。こっちは助手のガンズだ」
― えっ?セイロとガンズって・・・・正露丸!!?
俺は思わず吹き出しそうになってしまった。
笑いを必死に堪えているが、ヤバイ、吹き出しそうだ。
皆の後ろで下を向きながら笑いを堪える俺。
若干肩が小刻みに震えてたのは御愛嬌と言う事で。
ロジャー達は高額な報酬に特に疑問も抱いていないようだったが、俺は何となく警戒をしていた。
昔からよく言うだろ?
『うまい話しには裏がある』ってさ。
犯罪絡みじゃなければいいんだがな・・・・。
道の先頭をイカヅチの馬車が先行して、後から薬師達が乗った馬車が付いて来てた。
薬師達の馬車の方にはクリフとクウが御者台に座り、俺が幌の中で薬師達と一緒にいる。
俺でも一応は戦闘力の1人なんだとさ。
しかし暇だ。暇すぎる。
クリフやクウは良いよ。仲間だし話も豊富にあるだろう。
だけど俺はどうだ?
見ず知らずの初対面の爺さんとムスッとした顔をした男と向かい合ってても、面白くもなんともねぇ。
やる事もないし、荷台の荷物を眺めていると、それ程多くはない木箱の中身が気になった。
あの中にはいったい何が入ってるんだろうかと。
「あのぅ…。あれの中身って何なんですか?」
「お前には関係のない事だ」
あからさまにムッとした顔で青年が答える。
益々怪しいな…。
なので別の話しを振ってみた。
「お二人は薬師様なんですよね?」
「ふん。私達が兵隊にでも見えるというのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
何なんだこの人?!
一々突っかかってくるなぁ。
カルシウム不足か?
「ガンズ。そうイライラするものではない」
「・・・・はい。失礼いたしました」
んん~・・・。これは何か訳がありそうだな。
前世の記憶をフル活用するなら、たかが地方都市の医者が大都市になんて、学会がある時か出向する時以外はまずありえん。
この世界に学会なんてないはずだから、多分出向か。
と、すると?
大都市では手に負えなくなった症例と言う事になるな。
それも金貨一枚分の報酬を持さない程の得意先?
で、緊急で呼び出しを掛けるほどだから…大貴族か…王族?
王族と言えば、王様が病に伏してるって言ってたな…。
「王様か・・・・。」
俺はポツリと呟いた。
「な…何故それを!お前は何者だ!!」
突然大声でそう叫んだのは青年ガンズだった。
そして懐から護身用の短剣を取り出す。
「えっ?何ですか急に!?
僕、何か気に障るような事でも言いましたか?」
待て待て、落ち着けと言わんばかりに、セイロは左手を真横に差し出し、ガンズの行動を制止した。
「君は何か知ってるのかな?」
優しく諭すように尋ねる。
「いえ。ただ僕は ― 」
俺はさっき考えた推測に基づき、質問に答える。
王都には名高い薬師がいるだろうと言う事。
それなのに近隣から薬師を呼びつける疑問。
急に呼び出されたであろう、緊急の護衛募集。
その護衛にはあり得ないくらいの報酬。
これらから考えられる事は、呼び出しを掛けた相手が並の貴族や商人ではないと言う事。
そして今、国内で噂になっているのは、王様の病。
仲の悪い第一王子と第三王子の派閥問題。
このまま王様が崩御すれば、第一王子と第三王子の間で王座争いが勃発。
その戦火は一気に内乱へと発展。
内乱をしている隙に他国から攻められる危険性等を考えて、現王様の病状回復に全力を注ぐために、少しでも可能性があるのであればと、各地に散っている有能な薬師を呼び寄せた。
と言うのが俺の考えだ。
それを言ってみた。
「なるほど…。君は幼いのに賢い子供だね」
やべぇ…。精神年齢は37歳でも見た目実年齢は10歳だったわ…俺。
どうすっかな‥‥。
「君の名前は何と言うのかね」
「・・・・ハルシオンと言います」
「歳のわりにはしっかりしているな。
冒険者と言う事は、色んな国を旅しているから色々と見聞きもするだろう。
また、色々な病も目にした来たのかな?」
ん?なんか勘違いしてるみたいだけど、別にいいか。
「はぁ、まぁ、それなりに?」
確かに、生前では色々な病名を見聞きしてきたし?
あながち間違いではないわな。
などと話しをしていると、馬車が急停車した。
山賊のお出ましだ。
道脇の草叢や木の陰に隠れていた山賊達が一斉に現れた。
手には斧や剣等を持ち、十四・五人程が馬車を囲う。
ロジャー達は慣れたもので、ファインは目晦ましの光魔弾を無数に展開して賊の目の前で爆発させる。
光の爆弾を喰らうと、少しの間目が眩み何も見えなくなる。
その隙にクリフとリカルドが賊を切り付け止めを刺す。
ロジャーは炎剣で賊を火達磨にし。
クウは剣の先から、かまいたちの様な空気を圧縮した真空状態の刃を飛び出させる。
勿論人間の目には見えないものだ。
いきなり体を切り刻まれる山賊達は、自分の身に何が起こっているのかさえ分からない。
かまいたちの怖さは、切られて直ぐには痛みを感じないからだ。
自分の体から激しく流れだす血潮を見て、初めて自分が切られたんだと分かるのだ。
そんな乱戦をかいくぐり、一人の山賊が幌の中に入ろうとニヤニヤしながら荷台に手をかける。
「大人しく金目の物をよこしな」
薬師達は後ずさりをしながら
「お前達にやる物など何もない!」
そう言いながらも足元はかなり震えていた。
このままでは殺られる。
そう思った俺は剣に手をかけた。
しかし、この世界でも前世でも、俺は一度たりとも人を殺した事が無い。
殺すどころか刃物で怪我を負わせたことも無いのだ。
手が震える。
足が動かない。
男は右手に持った剣を構え、俺を切り殺そうと振り上げた。
死にたくない。
転生してからまだ、たったの十年しか生きていない。
その十年も、地獄の様な孤児院での生活。
この地に来て、楽しい事など何一つ経験していない。
やった事と言えば地獄の特訓と迷宮内での魔物狩りくらいだ。
このまま**ば悔いが残る。
この世界は『殺るか、殺られる』かのどちらかの世界。
殺されるくらいなら・・・・・俺は『殺る』方を選ぶ!
そう思ったら何かが吹っ切れた。
「シールド・ビリビリ!」
・・・・・。シールド・ビリビリって何だよ…。
とっさの事で言葉が出てこなかったんだよ。
俺だっていろいろ考えたんだぜ?
水攻めにしようか火攻めにしようか。
落雷もいいかな?ってさ。
でもさ、水攻めにしたら荷物がダメになるだろ?
火攻めはもっとダメだ。
落雷だって馬車が壊れるし…。
で、結局『ビリビリ』だよ!
ああ。ビリビリって言うのはな。
シールド全体にスタンガンの要領で電気を張り巡らさせるのさ。
あれに触ると『ビリビリ』とか『バチバチ』とか音が鳴るだろ?
そう言う事だ。うん。
相手は剣を握ってるし、伝導率は120%だろ。
一応、牛一頭なら殺せる範囲の電流を流したから生きてはいないだろうな…。
成仏しろよ…。(南無南無。
23:
ムーン [×]
2016-03-16 21:21:16
=====
山賊との戦いは五分もしないうちにけりは付いた。
流石ロジャー達だ。
イカヅチの名前は伊達じゃないね。
日も落ちてきたので、見通しが良く水飲み場がある川原で野営をする事になった。
俺達冒険者は手慣れたもので、テキパキとそれぞれがそれぞれの仕事をこなす。
食事と言っても缶詰を温めて食べるだけなのだが。
食事も終わり、食後に持参した酒を取り出しチビチビと飲みだすイカヅチ団。
一応魔物除けの為のシールドを俺が張っているので安心して飲んでるようだ。
こうして外の世界で俺が重宝がられているのも、あの孤児院のおかげかもしれない。
そう考えると今までの恨みも少しは薄らいだ。
明り取りと暖を取るために、焚火を囲み世間話をしていた。
「しかし、貴方方が王都まで護衛してくれて助かりましたよ。
今の時期は誰も王都には行きたがりませんからね」
「それはまたどうして」
セイロとロジャーが話している。
「知らないのですか?王都の流行病の事を」
「ああ。俺達はここ最近、迷宮に籠ってたからな」
「そうですか」
「で、一体どんな流行病なんだ?」
「なんでも七日~十日程高熱が出た後、全身に赤い斑点が出るそうなんです。
多くの者は助からずに七日目で死亡するとか。
今王都は殺伐としているようですよ」
俺はその話を聞いて何の病気なのか気になった。
流行病と言う事は伝染病だよな。
死ぬような伝染病って何かあったっけ?
俺が知ってる伝染病で死にかけるやつ・・・・分からん。
エイズは伝染病とは違うしな。
デング熱…あれは赤い斑点なんて出ないし…。
一体何の病気だ?
まっ。俺には関係ないか。
俺の仕事はこの人達を王都まで届ける事だもんな。
24:
ムーン [×]
2016-03-16 23:29:10
第十一話
■ まさかの伝染病 ■
次の日の昼。俺達は王都へ到着した。
いつもなら王都への出入りで賑わっている通用門がガラガラだ。
門番も心なしかやつれている様にも見える。
中に入ると、それなりに賑わってはいるが、大都会と思わすほどの賑わいではなかった。
よく見ると、所々店が閉まっている。
やはり流行病のせいなのだろうか。
薬師達を王宮へと送り届けると、王宮を守るべき兵士の数も少ない。
きっと流行病の犠牲になったのだろう。
君子危うきの近寄らず。くわばらくわばら。
25:
ムーン [×]
2016-03-16 23:30:17
=====
俺達は宿を探し、荷物と馬車を預けると、各自自由行動となった。
今回は宿屋に空室が沢山あるという事で、1人部屋が提供された。
ここしばらく1人部屋など泊まれなかったロジャー達は大喜びだ。
これでファインのイビキとかクリフの歯ぎしりで夜中に起こされなくて済むからな。
ロジャーからは極力宿から出るなと言われてたが、こんな機会はめったにないだろ?
この世界に来て十年。
初めての旅だぞ?
観光しない手があるかっつーの。
って事で、町の中心街をブラブラと歩いている。
金はこの間貰った銀貨があるし、買い食いでも堪能しようかと思う。
所々にある屋台から美味そうな匂いもしてくるしな。
一番初めに目に留まった屋台は串肉屋だ。
味付けはタレ。中々うまいぞこれ。
次は饅頭屋。
中身は何じゃろな~。
ワクワクしながらかぶりつくと。
中に入っていたのは一枚の紙。
『水難注意』だった。
何じゃこれわあああああああ?!
味は普通の蒸し饅頭だな。
小一時間ほど町の中を歩き回ると少し疲れたので、店の横に積んである木箱に腰をかけて通りを眺めていた。
今は人通りが少ない方だとは言っても、結構な人の群れだ。
少し人に酔ったかもしれない。
手に豆の様なおやつが入った袋を持ちながらボーっと人の流れを眺めていた。
するとそこに、何やら難しい顔をして仲間と話しながら歩いてくる男三人組がいた。
その向かいからは大瓶を頭の上に乗せた女性が歩いてくる。
男達はその女性を見ていない。
危ない!と思った瞬間に男達と女性がぶつかった。
バランスを崩した女性は頭の上に乗せていた瓶を、俺の方に向かって倒して来やがった。
― バシャッ
俺は思いっきり頭から水浴びをした。
俺に詫びでも入れるのかと思いきや、その女はぶつかって来た男に詫びを入れている。
「申し訳ございません。どうかお許しください」
何故男に謝るのかと思っていたら、ほんのちょっぴり水がかかったようだった。
それに対しての詫びだろう。
しかし解せぬ。
俺の方が大量に水を被ったんだがな。
俺の方は無視かい?
「これぐらい何ともない。気にするな」
そりゃそうだわな。
濡れたって言ってもほんの二・三滴だもんな。
それで怒ったらどんだけ器が小さいんだよ。って事だよな。
許して貰ったと思ったのか、その女は俺の目の前に転がってる瓶を拾い上げるとそのまま何処かに行きやがった。
おい!俺にゴメンナサイは無いのかよ!!
性格の悪い女だな…。
女の風貌か?
年の頃は三十前後ってとこかな。
美人でもなければブスでもないかな。
男の方は、なかなかイケメンだぞ。
来てる物も何となく高価そうだし。
どっかの貴族かな?
水を掛けられた男が俺の方を見て苦笑してるわ。
あっ。懐からハンカチらしき物を取り出したぞ。
ちょっぴり濡れたところを拭くのか?
いや、違うな。
俺の方に向かって歩いて来たぞ。
「災難だったね。これで拭きなさい」
おお!良い奴じゃないか!
でも布小さいよ…。足りないわこれじゃ。
「ありがとうございます」
俺はハンカチで拭き拭きした。
まぁ、魔術を使えばこれくらい直ぐに乾かせるんだけどさ。
折角の好意だから有難く受け取っておくよ。
濡れた顔と髪の毛の雫を拭きとって、男にハンカチを返そうと手を差し出したら、その男がいきなり俺に向かって倒れ掛かって来た。
今度は何だ!?
見ると男の背中には短剣が刺さっていた。
マジか・・・・。
一緒にいた男2人は、刺された男の従者のようで、一人が慌てて刺した犯人を追いかけて行く。
刺された男は赤い髪。
犯人を追って行った男は黒い髪。
付き添っている男は青い髪だ。
つまり、治癒魔法を使える者がいないと言う事だった。
周りを見てもオレンジ色の髪の人間は1人もいない。
元々オレンジと黒髪は希少価値らしい。
俺はオレンジになりそこないの金髪だ。
それでも治癒魔法が使えるかどうか、付き添っていた男が聞いてきた。
「おい!そこの子供。お前は治癒魔法が使えるか?!
いや‥‥、その色じゃ使えないか…クッソ…。誰か治癒師を呼んできてくれ!」
なんだそれ。
それが人に物を頼む時に言う言葉か?
胸糞悪い奴だな。
こう言う奴はシカトでいいな。
でも待てよ。
こいつは嫌なやつだけど、ハンカチを貸してくれたやつは良い奴だったし…。
俺の事をバカにしたりさげすんだりしなかった。
しかたがない。このままにしといたらコイツ死んじゃうもんな…。
受けた恩はきっちり返させてもらうぜ兄ちゃん。
「どいてください。僕が治しますから」
「なっ!お前なんかにできる訳が無いだろ!
この出来損ないが!」
酷い言われようだな…。
久し振りに聞いたぜ「出来損ない」発言をさ。
孤児院に居た頃は良く聞いてたけどな!
「そのまま放っておいたらその人死んじゃいますよ?」
有無を言わさず俺は刺された男の体に手をかざす。
掌から温かい波動が流れ出し、ドクドク流れていた血も止まり、男の顔に赤みが戻ってきた。
「よし。これでもう大丈夫ですよ」
俺は文句を言われる前に走って逃げた。
面倒事に関わるのはごめんだ。
この時ばかりはロジャーのシゴキに感謝した。
しごかれてなきゃ怒涛の如く逃げる事が出来なかっただろう。
マジ感謝だぜ。
26:
ムーン [×]
2016-03-17 21:14:47
=====
先ほど背中を刺されて重傷を負っていた男は、王宮に居た。
あれから数時間経過をしていたが、今はピンピンして執務をこなしている。
― コンコンッ
誰かが執務室の扉をノックする。
「入れ」
「失礼します。シュレッダー王子」
中に入ってきたのは、さっき暴漢を追いかけて行った黒い髪の男だ。
名前は『ペッパー』。王子の側近の一人だ。
年齢は二十歳前半。
「シュレッダー様を襲った男は取り押さえましたが、誰に頼まれたのかは
まだ吐いておりません。
引き続き取り調べを行いますので、もうしばらくお待ちください」
「大体の見当はつくけどね。
そう焦らなくてもいい」
シュレッダーはのんびり構えていた。
暴漢に襲われたり毒を盛られたり、こんな事は日常茶飯事だったからだ。
たまたま今回は、近くにいた子供に水をかぶせてしまい、油断してたのが原因だったのだから。
―コンコン
「入れ」
「失礼いたします」
今度は青色の髪の男だった。
「あの子供の事、何か分かったか?」
「はい。それが・・・付近の店の者にも聞いてみたのですが、見た事の無い子だと」
「そうか…」
この男もシュレッダーの側近で、名前は『シザーロン』。年齢は二十歳後半。
シュレッダーが二十三歳なので、側近兼学友として幼い頃から仕えていた二人である。
「あの子供一体何者だったんだ?」
「さぁな」
「普通あんな髪の色の子供が治癒魔法なんて使えないだろ」
いつの間にかシザーロンが王子に対しタメ口になっていた。
「私もその様な事例は聞いた事が無いな」
「ところで、父上の様子はどうだ」
「今日で高熱が十日程出てますが、昨日から少しづつ熱が下がって来てるようです」
「そう言えば医療班が、熱が下がり始めたと同時に赤い斑点が全身に現れた。
と言ってたな」
「やはりそうか。
数年に一度流行ると言われているあの奇病か。
お前達も気を付けろよ。
あれはかなりの確率で人に移るのだからな」
「「はっ!」」
一方、第三王子ジェイソン側では。
「クソッ!またしても失敗したか」
「ジェイソンよ。直接手を下さくても良い手があるぞ」
「本当か!?叔父上!」
「ああ。クックックッ」
今度はこの二人、何を企んでいるのやら…。
因みに、ジェイソンは十九歳で、若者にしては少々メタボなお腹をしている。
痩せればいい男になるだろうに。
全くもって残念な王子だった。
「で、良い案とは一体なんだ」
「王も病の峠を越えたようだし、まだしばらくは生きておるだろう。
そこでだ。」
ジェイソンはゴクリと唾を飲んだ。
「予てより根回ししていた大臣や貴族達も此方についた。
機は熟した。アレを決行する」
ウスラ大臣はニヤリと笑み浮かべ、確信に満ちた表情でジェイソンを見る。
27:
ムーン [×]
2016-03-18 21:46:26
第十二話
■ クウが流行病にかかった ■
― ハァハァハァ
脱兎の如く逃げて来た俺は、宿屋に帰って来た。
危なかったな。
あそこにいつまでも居たら完璧に厄介事に巻き込まれてたぜ。
この世界で俺みたいな奴が、癒し系ヒールを使える訳が無いもんな。
それでなくても癒し系の術は貴重だって言うし。
使える奴も極少数だそうだ。
そう考えるとファインって凄い奴だったんだな。
初めての1人部屋を堪能しながら俺は、ベッドに大きくダイブした。
ゴロンと身体を仰向けにし、部屋を出て行く前に少し開けた窓から涼しい風が入ってくる。
走って火照った体に心地良い。
サワサワと風に揺れて擦れる木々の葉音。
大樹に羽を休めに来ている小鳥のさえずり。
のどかだ。
そんなのどかで静寂した世界を壊す声が、廊下の方から聞こえて来た。
「おいクウ。本当に大丈夫か?」
「大丈夫っすよ…」
「大丈夫じゃないだろ。足元ふらついてるぞ」
「気のせいっすよ…」
「いいから寝ろ。
後でファインに診て貰え」
「へーい…」
ドアを挟んでそんな会話が聞こえて来た。
まさかクウが流行病にやられたとか?
まさかな。
瞼を閉じていたせいか、俺は段々と睡魔に侵され、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
目が覚めたのは日が沈んだころ。
腹から大きな音が鳴り、何の音かと驚いたが、単なる腹の虫だった。
最近自分の食欲の大きさに驚くばかりだ。
俺は大きな伸びを一つすると、いつもなら誰かしらが「シオン!飯に行くぞ!」と声を掛けに来るのに、今日は誰も呼びに来ない事を不思議に思った。
いつまでも寝てるから置いてかれたか?
食堂の方に下りて行って辺りを見たが、ロジャー達の姿はない。
まだ飲みに行くには時間が早いし。
久し振りにゆっくりできて皆も寝てるのか?
ちょっと様子でも見に行ってくるかな。
ロジャーの部屋のドアを小さくノックして少しだけ開けて中を見て見る。
もし寝てたらノックの音で起こすのも忍びないからな。
― カチャリ
シーンとした室内には人の気配が無い。
そう言えばクウが具合悪そうだったな。
クウの所でも行ってるか?
俺はそのままクウの部屋に向かった。
― コンコン カチャリ
居た。
ロジャーだけではなくファインも居る。
中に入ろうとしたらロジャーに止められた。
「シオン!来るな!」
「えっ?」
俺は入り口付近から二人の様子を見る。
ファインがクウの額に手をかざし、小さく首を左右に振る。
クウはベッドの中でガタガタと小刻みに震えていた。
多分高熱でも出してるのだろう。
治癒魔法のヒールは、地球で言えば外科手術の様な物だ。
内蔵や皮膚の縫合がそれに当たると考えてくれればいい。
したがって内科的治療には向いていないという訳だ。
ヒールの一段階上に当たるヒーラがそれに近いかもしれない。
毒や麻痺の治療ができるのだから。
でもそれだけだな。
ヒーラは使用者の知識量に比例するらしい。
その病気の原因と経路を理解していないと治す事が難しい。
この世界は、ヒールやヒーラに頼り過ぎていたために、医学がかなり遅れている。
最近になってようやく薬師という存在が現れたぐらいだからな。
ファインがクウの額に手をかざし熱を計っている。
その様子をロジャーが静かに見守っていた。
「熱…かなりあるんですか?」
ここからじゃ見えないな。
もう少し近寄ってみるか。
ジリジリと近寄っていると、クウの様子を見に来たクリフに背中を押された。
「シオン。そんなとこに立ってたら邪魔だろ。とっとと中に入れ」
いきなり背後から押された俺は、よろけながらロジャーにぶつかる。
「チッ。うつるかも知れないから来るなと言ったろ」
ロジャーに怒られたが俺のせいじゃないと思う。
文句なら俺を突き飛ばしたクリフに言ってくれ。
「ごめんなさい…」
一応子供らしく謝っとくか。
ふと、クウの顔を見たら、耳の後ろ辺りに赤い小さな斑点が見えた。
熱のせいか息遣いが荒い。
あれ?これって、昔俺と弟がかかったやつに症状が似てるな。
弟も耳の後ろにプチッと赤い斑点が出て、腹とか尻にも出たよな。
あれは確か麻疹だったはずだ。
まさかとは思うが一応見て見るか。
「シオン。何をやってる」
「えっと、赤い斑点が出てるかな~って思って…」
「赤い斑点だと?」
「はい。ここ。」
そう言って俺は耳の後ろを指さした。
クウの額を触るとかなり熱い。
体感温度で40度はぶっちぎってるだろう。
確か人間って42度を超えたら死ぬんだっけ?
こんな熱が何日も続いたら脳細胞がやられるのも納得だわ。
俺はクウの腕や足を見たが、赤い斑点らしきものは見当たらない。
軽く服をめくり腹を見ると、二・三個の赤い斑点がある。
ついでだから尻も見て見る事にする。
クウのズボンに手をかけてずらそうとしたら、ロジャーに止められた。
「何する気だ?」
「確認するだけですよ?」
「何をだ」
「斑点があるかどうかです」
「・・・あった」
小さな赤い斑点が数個。
これは間違いないな。
「斑点があったらどうだって言うんだ」
ロジャーは意味が分からず問いかけてきた。
「僕、この病気知ってます。
孤児院に居た頃に、仲間がこの病気になりました」
嘘じゃないぞ?
二年前に孤児院でこの病気が流行った事があるんんだ。
最初は館の子供だ1人かかったんだけど、感染力が凄くてな。
あっという間に半数が麻疹になった。
そのうちの三分の二が亡くなったけどな。
ジェシカ達は流行病が怖かったのか、病気の子供の面倒なんてみやしなかった。
ジェシカだけじゃない。
あそこにいた大人は皆知らん顔だ。
病気の子供の世話をするのは俺達ボロ小屋の子供。
何の価値もない、出来損ないのガキと言う認識だったからな。
当時俺は、麻疹と言う事は分かってたが、治療薬が無いこの世界じゃどうする事も出来なかった。
熱を下げようにも薬さえない。
ただ診てる事しか出来なかったんだ。
そのうちボロ小屋の子供にも、その症状が出た。
そうなったらうつるのが怖いのか、食事さえも与えられなくなったんだ。
俺達が使った物からうつるって言ってさ。
その子供は、高熱が数日続くと、次第に体力が低下してきたのか生気のない顔になっていった。
現代医学なら抗生剤や点滴などで、一週間や二週間食べなくても死にはしないが、
この世界での一週間は死を意味する。
特に体力の無い子供や老人がだ。
俺は段々と衰弱していく子供をみて、こんな理不尽な事があってもいいのか、と怒りを覚えた。
そして子供の額に手をかざし、
「クッソ…抗生剤さえあればウイルスを殺せるのに…」
と、呟いたら、あら不思議!
掌が温かくなってみるみるうちに子供の顔に生気が戻って来たんだ。
驚いたね。
初めは意味が分からなかったが、病気の元を特定すれば、それに合ったヒーラが流れる仕組みらしかった。
その後、その子は順調に回復して、売られて行ったけどな…。
そんな経緯から俺には自信があった。
クウの病気を治す自信が。
「僕が治してもいいですか?」
「な、なにを言ってる!
この私でさえ治せないのにお前に治せるわけが無いだろ!」
貴重な治癒魔法を使えるファインが治せない病気を、髪の色の薄い、出来損ないの子供が出来るわけが無いと言い放った。
きっとファインのプライドもあったんだろう。
「お前でも治せないんだ。
試しにやらせてみたらどうだ。
治せないなら治せないで問題がないだろう」
ファインはムスッとしていたが、ロジャーの許可も出たので、俺はクウの額に手をかざし呟いた。
勿論心の中でだがな。
『抗生剤投与、解熱剤投与、体力回復、ヒーリング』
コツはな。元の世界の薬品を想像しながら魔術を込める事だ。
多分、俺にしか出来ない裏技だな。
種は教えないけどね。
てか、教えても理解できないし想像もできないだろう。
見た事が無い代物なんだからな。
次の日から、それ程高熱も出ず、クウは順調に回復して行った。
だが、問題が一つだけ残ってしまった。
どうして俺みたいな奴がそんなに高度な魔術を使えるのかって問題がね。
その出来事の一部始終をマジかで見ていたロジャー、ファイン、クリフ。
問い詰められたが『知らぬ存ぜぬ』で押し通したよ。
あまり高度な魔術は使うもんじゃないな。
怪しまれる。
お前はいったい何者なんだってね。
俺が思うにさ、結局は髪の色の濃さと魔力なんて関係ないんじゃないかって思うんだ。
たまたま魔力量が多い奴の髪の色が濃かったってだけでさ。
クリフやリカルドだってそれほど魔力量は多くないぞ?
髪の色は普通なのにだ。
この矛盾点にみんなはいつ気が付くのやら…。
クウの流行病騒動から一週間。
順調に回復したクウは、今はもう元気になっている。
俺は面倒事がこりごりなので、以前にもまして大人しくなりを潜める事にした。
生死に関わる事以外は、何も知らない子供の振りをすると心に誓った。
28:
ムーン [×]
2016-03-19 15:51:51
■ 不穏な動き ■
あれから一年半が経った。
俺は十二歳になった。
あの後、俺達はこの国の迷宮を周った後に、隣国「シャブリ帝国」に入った。
シャブリもまた、攻略されていない迷宮が多数あるからだ。
剣の腕もだいぶ上がったぞ。
ロジャーが「それだけできれば一人前だな」って褒めてくれたしな。
魔術の方は師匠がいないから相変わらずだが、時々一緒にパーティーを組んだ人の技を見て技術を盗んだ。
なんせ生前は、職人の技術は盗んで覚えろ。と言う国風の日本で育ったからな。
お手の物だ。
チョットだけレパートリーが増えたが、あえてそれを披露していない。
また何を言われるか分かったもんじゃないからな。
それに今のところ死にそうになるような事もないし。
29:
ムーン [×]
2016-03-19 15:52:56
=====
今、全員でギルド会館に来ている。
新しい依頼を探すためだ。
「兄い、そろそろ護衛の仕事しないっすか?」
「そうだな」
「俺も新しい街に行って、可愛い子と遊びてぇや」
「それは言えてるな。この町は今一の品ぞろえだしな」
「お前達は女の事しか頭にないのか?」
ファインが呆れ顔でクリフとリカルドを見ている。
「兄い、これなんかどーっすか?」
「んん…。西の都『ドラグ』か。
ここからだと二週間はかかるか」
「でも兄い、ドラグは王都だからうまい話があるかも知れないっすよ?」
「おっ?って事は、綺麗なネーチャンもいるって事か!」
ファインは額を押さえながら呆れて溜息をついた。
「よし。お前ら。この仕事引き受けるぞ」
「「「おおー!」」」
張り紙を引きはがし受付の女の人の所に持って行く。
「では、仕事内容の確認をいたします。
出発は一週間後。
護衛の対象物は商業物資です。
馬車二台分と雇主、その手伝いの者の護衛という事になります。
報酬は金貨一枚です。
この内容でよろしいですか?」
「ああ。それでいい」
二週間で金貨一枚とは少ないような気もするが、これが普通なんだってよ。
この国でひと月生活するのに必要な金額は、贅沢さえしなきゃ銀貨五枚でお釣りが来るそうだ。
腕に自信のあるやつは一人でやる仕事みたいだな。
俺達は移動のついでにやるからこの金額でも問題が無い。
なんたって食事つきだからな!
この町の近郊にある迷宮は行き尽したから、一週間する事が何もないな。
暇だな…。
ロジャー達は酒さえ飲めりゃご機嫌だし。
俺は皆の洗濯が終わったら暇だぜ!
・・・・・・これって最早主婦じゃねーの?
元エリートの俺が主婦って・・・・。
俺よりデカイ子供…イラネ。
30:
ムーン [×]
2016-03-19 15:53:58
ロジャーとファインは昼間っから酒場で酒を飲んでるし。
クリフとリカルドはナンパに行った。
両サイドから「子供の来るとこじゃねぇ」と言われ、俺は置いてきぼりだ。
イカヅチに買われた当初は、外に出る時は誰かしらが付いて来てたが、今じゃ信頼されてるのか野放し状態。
良いんだか悪いんだか。
俺は町の郊外にある森の中に来ている。
何をしに来てるかと言うと、ちょっとした研究と隠れ特訓だ。
少し前からコツコツとやってる。
魔力量が増えてから錬金術が使えるようになったんだ。
何が作れるのかが目下の研究内容だ。
手始めに身近なところから薬を作る事にした。
薬草ならある程度は無料で手に入るからな。
そして今日挑戦するのが、体力回復の錠剤だ。
持ち運びに便利だろ?
俺の背丈ほどの草をかきわけて歩くと、拾い原っぱに出た。
色とりどりの花が咲いている。
「凄ぇ…」
半透明のアイパッドを片手に、花の種類、成分、効能などを確かめる。
ウッホッ!原料のデパートですやん♪
赤い花は止血剤。青い花は魔力補充剤。鈴なり草は体力補充。
麻痺や毒に効く薬草もある。
それだけを食べれば、それなりの効果しかないけど、俺はさらにその上をいってやる。
元エリートの俺に不可能の文字はない!なんてな。
早速試しに青い花を何本も加工する。
加工された物を二つ合わせて再度加工。
理論上はこれで効果が二倍になってるはずだ。
でも試す相手がいない…しくったな。
まぁ、適当に何個か製造してみるか。
赤い花、青い花、鈴なり草、それらにヒーラをかけて薬丸を作った。
出来上がった物は『MP・HP・怪我30%回復』だ。
これを数個と、更にその倍で錬金した『60%回復剤』も作った。
遠目で見たら、男の子が一人で花を摘み、その花を手に取ってニヤニヤしてる姿はとてつもなく不気味だと思う。
俺だってそんな奴を見かけたら、絶対に近寄りたくはないね。
「気持ち悪っ・・・・」
そんな声が何処からか聞こえた。
ん?誰かいるのか?
顔を上げてみると、そこには十五歳位の一人の少女の姿が。
誰だこいつ。
「アンタ、何一人でニヤついてるのよ。気持ち悪いわね」
いきなり「気持ち悪い」とは失礼な奴だな。
なんだ?このガキは。
失礼なやつに返事をする義理はない。
前世でもこういう類の女は存在した。
自分は良い女だとでも言いたいのか、男を見下すような態度をとるやつがな。
全ての男がチヤホヤとしてくれると思うなよ。
俺は無視をする事に決めた。
もうちょっとマシな躾を受けてから出直して来いってんだ。
「ちょっと!何無視してるのよ!聞こえてるんでしょ!?」
ああ、煩い。
お前と関わりたくないから無視してんだよ。
気づけよ。
俺がいっこうに返事もせず目も合わせない事にイラついたのか、彼女はいきなり俺が集めた花を踏み散らかした。
「あんた口が聞けないの!?それともバカなの!?」
俺が彼女を睨みつけると、彼女は益々激怒する。
「何よその目は!生意気なのよ出来損ないのくせに!!」
そう言って俺を思いっきり突き飛ばした。
確かに彼女は綺麗な顔立ちをしている。
スタイルも良い。
周りの男達も彼女の事をチヤホヤするだろう。
だがそれだけの女だ。
俺の趣味じゃない。
それなりの知識があり、思いやりのある、一般常識のある女性でなきゃ却下だ。
コイツにはその全てが無さそうだもんな…。
地面から立ち上がり、ズボンについた土や草をポンポンと払いのけてると。
「アンタ、こんなとこで何してるの。
見たとこ光属性の出来損ないでしょ?
ああ、だから一人前に剣なんか挿してるんだ」
お前こそこんな森の中で、一人で何してるんだと聞きたいとこだが、こう言う女が一番苦手だ。
きっと俺が何をいっても、何を聞いても、人の言う事なんか聞いちゃいないだろうな。
俺は溜息をつきながら。
「ハァ~…。俺が何処で何をしてようとアンタには関係が無いだろ?」
「アンタみたいに力の無い子が、こんな森の中に居たら、何かよからぬ事を
企んでるとしか考えられないでしょ!」
「はいはい、だったら今すぐ退散しますよ」
ダメだこいつ。
自分ルール以外は受け付けないらしいな。
ある程度の実験は出来たし、もう帰るか。
背中の方で何か怒鳴ってるようだが、しらね。
怒鳴り声の主を無視しつつ、俺は駆け足で原っぱを後にした。
森を抜けると町へと続く小道を歩きながら、錬金で創った丸薬を誰に試そうか考えながら。
31:
ムーン [×]
2016-03-19 18:30:31
=====
町の入り口にある一軒の民家。
その近くの畑でゴブリンが作物を引っこ抜いて荒らしているのが見えた。
持ち主らしき男性が鍬を片手に応戦している。
しかしゴブリンには全く効いていないようだ。
ゴブリンが奇声を発すると、近くに居たと思われる仲間が五体やって来た。
ゴブリンはただ暴れるだけで魔術は使えないのが幸いだ。
父親と思われる男と、その子供と思われる二人の兄妹が離れた所から大声を発し泣き叫んでいる。
「お父さん逃げて!」
「クッソ!俺も闘う!」
兄貴らしい子供の方は、緑の髪の毛で、風魔法を使ってきた。
しかし正式に学んだわけではないらしく、突風が吹くだけだった。
八歳位の子供ならそんなもんだろう。
俺は腰に挿した剣を抜き、ゴブリンに駆け寄った。
別にこの家族に恩も義理も無いが、目の前で人が殺されるのは良い気分がしないからな。
それに俺は、この人達を助けるだけの力を持っている。
ゴブリン五体なんて迷宮に居る魔物に比べれば赤子も同然だ。
出来る事はする。ただそれだけだ。
が、そんな俺の目の前を馬に乗って通り過ぎた奴がいた。
さっきの失礼な少女だ。
ゴブリンたちの所に着くと、馬から降りて魔術を放った。
青い髪のその少女は水使いだ。
水で形成した小さな矢を数本放つ。
命中率は置いておいても、その威力はすさまじい。
当たれば身体を貫通するんだからな。
急所を貫けられれば即死だ。
しかし如何(いかん)せん腕が悪いのか急所を外し、体の一部に当たるのみ。
あげくの果てには、ゴブリンと闘ってる父親に流れ矢ときたもんだ。
俺は額に手をやり首を思わず左右に振っちまったよ。
「ダメだこりゃ・・・・」
しかたがない。やっぱ俺が行くか。
足の裏に魔術を込め、地面を力一杯踏んで飛ぶように加速する。
このやり方は以前一緒にパーティーを組んだ土属性の男が使ってた魔術だ。
ゴブリンの目の前まで来ると、ボスらしきゴブリンに向かい肩から腰に掛けて袈裟切りをかます。
身体が半分になりずり落ちるゴブリン。
それを目にした他のゴブリンたちが逃げ腰になった。
「ちょっとアンタ何するのよ!危ないからどいてなさいよ!」
ノーコン美少女が俺に怒鳴る。
だが、そんなの関係ねぇ!
オッパッピー精神で残りのゴブリンも切り捨てる。
あっ、この世界に太平洋なんてないけどな!
一応平和主義者って事で…。
深く追求するのは勘弁してくれ(笑)
戦ってる最中にもノーコン美少女が、俺にも矢を飛ばしてきた。
「下手くそ!戦うんならちゃんと狙え!」
思わず怒鳴ってしまった。
うん。分かってる。
大人げないと思うよ?
まだ子供なんだし、そこまで言う事はないわな。
分かっちゃいるけど…ムカつくんだよ!!
ノーコン美少女は怒り狂って、ゴブリンじゃなく、明かに俺に向かって矢を放ちやがった。
その矢を片っ端から払落し、残ってるゴブリンを片付ける。
最後のゴブリンを倒すと、ノーコン美少女は俺の側に来て思いっきり顔面を殴りやがった。
「痛ってぇな!!何すんだよ!!」
「魔力も無いくせに余計な事をしないでちょうだい!」
「はぁ?!そんなノーコンでよく言うわ!
魔力は有ればいいってもんじゃないだろ!
使いこなせて一人前なんだよ!!
半人前が出しゃばると死ぬぞ!」
「なんですって!?
アンタみたいな出来損ないに言われる筋合いはないわ!」
「その出来損ないに助けられて、どの口がほざくんだよ!
放って置いたら死んでたぞ」
「はっ?!バカじゃないの?!
アタシが死ぬわけないでしょ!」
「お前が死ななくても、あっちの親子は確実に死んでたな」
そう言って親子の方を振り向いた。
ノーコン美少女の流れ矢に当たり、数か所から血を流している父親と子供の方を見た。
「あの怪我はお前のせいだそ」
「何よ。あれくらいの怪我。
あんなの怪我にうちに入らないわよ」
俺は溜息をついた。
「それに、助けてあげたんだから、お礼は言われても文句は言われないはずよ」
「・・・・・、お前バカだろ…。普通怪我をさせたなら「ごめんなさい」だろうが…」
「何でアタシが貧乏人に謝らなきゃいけないのよ」
「・・・・・・…。」
こりゃダメだな。
親の顔が見てみたいもんだわ。
どうせ碌な親じゃないとは思うけどな。
「あっそ。ならいーわ。じゃーな」
そう言って踵(きびす)を返し立ち去ろうとしたが、ふと丸薬の事を思い出し。
「そうだ、これどーぞ。見た目は悪いけど効き目はあると思うんで」
俺は懐からさっき錬金した万能回復60%の丸薬を手渡した。
見た目はウザギの糞に似ているが、害はない。
多分…。
だって試した事が無いんだからしょうがないだろ…?
俺が手渡した丸薬を見たノーコン美少女は。
「何!?その怪しげな玉は!
まさか毒薬じゃないでしょうね!
そんなの飲んじゃダメよ!!寄越しなさい!」
そう言って親子から取り上げようとした。
「助かりたかったらそれを飲め!
そのままだと出血多量で死ぬぞ!」
「死ぬ」と言われたのが怖かったのか、親子は丸薬を口の中に一気に放り込み呑み込んだ。
それを確認した俺は速やかにその場の離脱を試みる。
後ろから「吐き出しなさい」とか「人殺し」とか言ってるが、シラネ。
勝手にほざいてろって感じだ。
いやぁ~、マジで疲れた。
貧乏人がどうとか言ってるあたり、どっかの金持ちの娘だろう。
それにしても傲慢なガキだったな…。
あんな女、この世界に来て初めて会ったぜ。
前世じゃ結構いたから免疫があったけどさ、久々に出会うと辟易するね。
マジ勘弁だぜ。
32:
ムーン [×]
2016-03-19 21:26:21
=====
町の入り口にある一軒の民家。
その近くの畑でゴブリンが作物を引っこ抜いて荒らしているのが見えた。
持ち主らしき男性が鍬を片手に応戦している。
しかしゴブリンには全く効いていないようだ。
ゴブリンが奇声を発すると、近くに居たと思われる仲間が五体やって来た。
ゴブリンはただ暴れるだけで魔術は使えないのが幸いだ。
父親と思われる男と、その子供と思われる二人の兄妹が離れた所から大声を発し泣き叫んでいる。
「お父さん逃げて!」
「クッソ!俺も闘う!」
兄貴らしい子供の方は、緑の髪の毛で、風魔法を使ってきた。
しかし正式に学んだわけではないらしく、突風が吹くだけだった。
八歳位の子供ならそんなもんだろう。
俺は腰に挿した剣を抜き、ゴブリンに駆け寄った。
別にこの家族に恩も義理も無いが、目の前で人が殺されるのは良い気分がしないからな。
それに俺は、この人達を助けるだけの力を持っている。
ゴブリン五体なんて迷宮に居る魔物に比べれば赤子も同然だ。
出来る事はする。ただそれだけだ。
が、そんな俺の目の前を馬に乗って通り過ぎた奴がいた。
さっきの失礼な少女だ。
ゴブリンたちの所に着くと、馬から降りて魔術を放った。
青い髪のその少女は水使いだ。
水で形成した小さな矢を数本放つ。
命中率は置いておいても、その威力はすさまじい。
当たれば身体を貫通するんだからな。
急所を貫けられれば即死だ。
しかし如何(いかん)せん腕が悪いのか急所を外し、体の一部に当たるのみ。
あげくの果てには、ゴブリンと闘ってる父親に流れ矢ときたもんだ。
俺は額に手をやり首を思わず左右に振っちまったよ。
「ダメだこりゃ・・・・」
しかたがない。やっぱ俺が行くか。
足の裏に魔術を込め、地面を力一杯踏んで飛ぶように加速する。
このやり方は以前一緒にパーティーを組んだ土属性の男が使ってた魔術だ。
ゴブリンの目の前まで来ると、ボスらしきゴブリンに向かい肩から腰に掛けて袈裟切りをかます。
身体が半分になりずり落ちるゴブリン。
それを目にした他のゴブリンたちが逃げ腰になった。
「ちょっとアンタ何するのよ!危ないからどいてなさいよ!」
ノーコン美少女が俺に怒鳴る。
だが、そんなの関係ねぇ!
オッパッピー精神で残りのゴブリンも切り捨てる。
あっ、この世界に太平洋なんてないけどな!
一応平和主義者って事で…。
深く追求するのは勘弁してくれ(笑)
戦ってる最中にもノーコン美少女が、俺にも矢を飛ばしてきた。
「下手くそ!戦うんならちゃんと狙え!」
思わず怒鳴ってしまった。
うん。分かってる。
大人げないと思うよ?
まだ子供なんだし、そこまで言う事はないわな。
分かっちゃいるけど…ムカつくんだよ!!
ノーコン美少女は怒り狂って、ゴブリンじゃなく、明かに俺に向かって矢を放ちやがった。
その矢を片っ端から払落し、残ってるゴブリンを片付ける。
最後のゴブリンを倒すと、ノーコン美少女は俺の側に来て思いっきり顔面を殴りやがった。
「痛ってぇな!!何すんだよ!!」
「魔力も無いくせに余計な事をしないでちょうだい!」
「はぁ?!そんなノーコンでよく言うわ!
魔力は有ればいいってもんじゃないだろ!
使いこなせて一人前なんだよ!!
半人前が出しゃばると死ぬぞ!」
「なんですって!?
アンタみたいな出来損ないに言われる筋合いはないわ!」
「その出来損ないに助けられて、どの口がほざくんだよ!
放って置いたら死んでたぞ」
「はっ?!バカじゃないの?!
アタシが死ぬわけないでしょ!」
「お前が死ななくても、あっちの親子は確実に死んでたな」
そう言って親子の方を振り向いた。
ノーコン美少女の流れ矢に当たり、数か所から血を流している父親と子供の方を見た。
「あの怪我はお前のせいだそ」
「何よ。あれくらいの怪我。
あんなの怪我にうちに入らないわよ」
俺は溜息をついた。
「それに、助けてあげたんだから、お礼は言われても文句は言われないはずよ」
「・・・・・、お前バカだろ…。普通怪我をさせたなら「ごめんなさい」だろうが…」
「何でアタシが貧乏人に謝らなきゃいけないのよ」
「・・・・・・…。」
こりゃダメだな。
親の顔が見てみたいもんだわ。
どうせ碌な親じゃないとは思うけどな。
「あっそ。ならいーわ。じゃーな」
そう言って踵(きびす)を返し立ち去ろうとしたが、ふと丸薬の事を思い出し。
「そうだ、これどーぞ。見た目は悪いけど効き目はあると思うんで」
俺は懐からさっき錬金した万能回復60%の丸薬を手渡した。
見た目はウザギの糞に似ているが、害はない。
多分…。
だって試した事が無いんだからしょうがないだろ…?
俺が手渡した丸薬を見たノーコン美少女は。
「何!?その怪しげな玉は!
まさか毒薬じゃないでしょうね!
そんなの飲んじゃダメよ!!寄越しなさい!」
そう言って親子から取り上げようとした。
「助かりたかったらそれを飲め!
そのままだと出血多量で死ぬぞ!」
「死ぬ」と言われたのが怖かったのか、親子は丸薬を口の中に一気に放り込み呑み込んだ。
それを確認した俺は速やかにその場の離脱を試みる。
後ろから「吐き出しなさい」とか「人殺し」とか言ってるが、シラネ。
勝手にほざいてろって感じだ。
いやぁ~、マジで疲れた。
貧乏人がどうとか言ってるあたり、どっかの金持ちの娘だろう。
それにしても傲慢なガキだったな…。
あんな女、この世界に来て初めて会ったぜ。
前世じゃ結構いたから免疫があったけどさ、久々に出会うと辟易するね。
マジ勘弁だぜ。
=====
街に戻ると人々の様子がいつもと少し違った。
何処か浮足立つ様な人もいれば、不安げな顔をして通りを歩いてる人もいる。
何かあったのかと思っていると、俺の視界に人だかりが飛び込んできた。
人が集まるその場所へ行ってみると、掲示板に国が発行した紙が貼られている。
― 十五歳以上の男は兵役に就くべし。
と、だけ書いてあった。
たった一行だけだったが、この一行で人々は全てを理解したようだ。
そう。これから大きな戦が始まるのだと。
ある者は戦で手柄を立て、騎士や魔術師として国で働くという野望を夢に。
またある者は、こんな国境にいては戦に巻き込まれるんじゃないかと不安になり
国境より遠くに逃げようと考えている者もいた。
そして暗黙の了解により、この国に居る限りは、例え冒険者でも例外はないと言う事だったのだ。
このシャブリ帝国はいったい、どこと戦争をしようと言うのだろうか。
そしてロジャー達もその戦いに参加するのか。
その時俺は、何をするべきなのか。
一縷の不安が胸を過ぎった。
==========================================
ハルシオン 《ステータス》
年齢:12歳
髪色:金髪
属性:火・水・土・風・光・闇 《オールマイティー》
HP :7000/16500
MP :10000/35000
特殊スキル:錬金術
火魔術:火炎放射 他応用
水魔術:滝レベルまでOK 他応用
土魔術:土石造作 他応用
風魔術:ハリケーンレベルまでOK 他応用
光魔術:ヒール ヒーラ 万病退散
闇魔術:索敵 シールド 分身 透明化
好きな女性のタイプ:それなりの知識があり思いやりのある人 一般常識の備わってる人
33:
ムーン [×]
2016-03-19 23:56:53
第十三話
■ 西の都へ向けて ■
今日でこの国境の町マニラともお別れだ。
隣の国ゴルティアに一番近い町マニラ。
そこには両国の物流で賑わう町。
多くの商人達が住んでる町でも有名だった。
しかし最近この国で兵役を募集し始めた。
おそらく近いうちに戦争が起こるのだろう。
商人達がこの町から逃げ出しはじめているので、多分相手はゴルティアだと思う。
でもゴルティアって…、派閥争いしてなかったか?
第一皇子派と第三王子派とでさ。
ああ、そうか。
その隙を狙って戦を仕掛ける気だな。
シャブリ王というのは、中々頭が回るやつらしい。
34:
ムーン [×]
2016-03-19 23:57:48
=====
西の都ドラグまでの護衛として雇主と、町の外に出る通用門で待ち合わせだ。
俺達は時間の一時間前に到着した。
三十分ほど待ってると、大きな馬車が二台到着する。
何処かの商人が一家で引っ越しを決めたようだ。
到着した馬車の幌の中から六人程降りて来た。
各御車台には二人づつ座っている。
全員で八人の移動になるようだ。
「あっ…」
「えっ・・・」
俺は、幌から出て来た一人の人物の顔を見て驚いた。
あのガキだよ。
超失礼なノーコン美少女!
やっべえな…。
あいつ雇主の娘だったのかよ…。
こりゃあ、後でロジャーに怒られるな…。
「私はゴンザレス商会のハウルと言う者です。
二週間ほどお世話になりますよ」
あのガキの父親だ。
「こちらこそよろしくお願いします。
俺はロジャーだ」
ロジャーがまず初めに挨拶をすると、次々に挨拶をし始めた。
「ファインです。よろしくお願いします」
「リカルドといいます」
「クリフです」
「クウです」
「・・・・・・、ハルシオンです」
すると今度はハウルが自分の家族を紹介し始めた。
「これが家内のオリビアで、息子のエミリオン。
そしてこの子が娘のローズだ」
ローズの顔を見ると少し勝ち誇った様な顔をしていた。
どうせあの時の事を根に持ってて、俺の事をこき使おうと思ってる顔だ。
ふん。言っとくがな、俺達はお前に雇われてるんじゃないんだ。
お前の父親の雇われてるんだよ。
そこんとこはき違えるなよな。
なんて、いくら声を出さずに心の中で思ったからって、アイツに聞こえるわけじゃないけどな。
せめてもの抵抗だ。
憂鬱だぜ。これから二週間。
35:
ムーン [×]
2016-03-19 23:58:33
=====
護衛の担当が決まった。
荷物を積んでる馬車の護衛はクリフとリカルド。
ハウル一家が乗ってる馬車にはロジャーとファインだ。
俺とクウは先頭を走る。
こう言う時は俺の索敵スキルがものを言う。
半径二㌔なら完璧に索敵できるからな。
まぁ、いざと言う時はシールドも張れるから、本来ならハウル一家の馬車でも問題ないんだけど、俺の髪の色で不安に思うかもしれないって事でこの形になった。
俺としたらこの方が良かったけどね。
二十四時間クソ生意気なガキのお守りはごめんこうむりたい。
36:
ムーン [×]
2016-03-19 23:59:28
=====
ロジャー視点
奴隷市場でシオンを買ってから二年か。
速いもんだな。
あの時、俺達の仲間だったマイクが迷宮の門番に殺られて、新しい仲間を探しがてら、
何気なく立ち寄った奴隷市場でシオンを見つけた。
通常ああいう所に売られてくる子供の目は死んでいる。
所がどうだ。
シオンの目は死んでなかった。
それどころか強い意思の様な物さえ感じた。
クウの野郎は反対したが、俺は一目で気に入ったね。
コイツは仕込めばものになるってね。
髪の色が薄い?
そんなこたーどうでもいい。
魔力が無ければ剣を使えばいい。
シオンにはその素質がある。
そう思ったね。
初めて権を握ったと言ってたが、中々どうして。
かなり筋が良い。
最低半年はかかると思ってたが、あの野郎一週間で物にしやがった。
(紫音は生前剣道の経験あり)
それだけじゃねぇ。
いっちょ前に魔術も使えると来たもんだ。
驚いたね。まったく。
それも闇属性の魔術だ。
まぁ、本来の光属性の魔術も使えるらしいが、ファインがいるからあまり使ったところを見た事が無いな。
シオンが来た当初は、あまりにも世間慣れしてなくてな。
門番兵の前で立ち止まってジッと眺めたり、屋台を見ると飛んで行ったりと、世話の焼けるガキだった。
しかし家事能力だけは人並み外れていい腕をしてた。
掃除や洗濯はできるとしても、まさか料理まで出来るとは思わなかった。
腕前も中々のもんでな。
これが美味いんだ。
コイツが女だったら嫁に欲しいくらいだ。
毎日一緒にいるせいか、今では俺の子供のような感覚になってきてる。
俺が二十歳の時に生まれた事になるがな。
まぁ、アイツも俺に一番懐いてると思うし。
このまま俺の子として扱うのも悪くないかもしれない。
そう言えばクウが流行病にかかった時は流石の俺も驚いたな。
いや、今までシオンには驚かされてきたが、それ以上に驚いた。
まさか流行病まで治せるとは思いもしなかったからだ。
アイツの隠れた能力は一体どうなってるのやら…。
それにしても、最近のシャブリ帝国の動きは妙だ。
あの張り紙からすると、近いうちに間違いなく戦だ起こるだろう。
俺達も戦場に駆り出されるのも間違いない。
だがシオンは年齢に達してないから除外されるだろう。
シオン一人をこの国に残すのは心配だ。
どうにかしてやらないとな。
そうだ。もし戦に巻き込まれたら、シオンだけでも魔大陸に逃がしてやるか。
あの大陸なら誰もシオンの髪の事は問題にはしないだろう。
あそこは獣族と魔族の本拠地のような所だしな。
戦が終わり、平和な日常が戻ったら迎えに行けばいい。
シオンなら一人でもきっと大丈夫だ。
俺の子だしな。
フッ…。
嫁も居ないのに何を言ってるのか…。
俺も甘くなったな。
そんな事を御車台の上で考えていたロジャーであった。
37:
ムーン [×]
2016-03-26 21:46:42
第十四話
■ 水場の子狼 ■
マニラを立ってから数日が過ぎた。
今のところ順調だ。
ローズの嫌がらせも今のところない。
どうも彼女は、家族の前では良い子ちゃんを演じてるようだ。
いた居た。学校とプライベートで裏表のあるやつ。
かく言う俺もその一人だったんだけどな。
あっ。今もそうか。(笑)
街道沿いに少し開けた場所が見えた。
今日はそこで野営をする事になる。
水場までは少し距離はあるが、うちは俺がいるから水の心配はいらない。
ハウルの方もローズがいるから問題ないだろう。
そう思っていた。
ゴンザレス商会一行と俺達の馬車は少し離れた間隔で停車されて停められている。
雇用主と雇用人が同じ場所で休憩や食事をとると言う事はない。
少し離れた場所で休憩するのが常識だった。
しかし、いざと言う時に出遅れてもいけないので、あまり離れすぎない場所に陣取るのが恒例となっている。
ゴンザレス商会一行はゴンザレス商会で固まり、俺達は俺達で固まり火を起こし飯の準備だ。
いくら護衛に雇われたからと言っても、使用人の様にこき使われるのは勘弁だからな。
今朝宿屋を出発してきた時に、いつもの様に一日分の水を水瓶に入れて宿屋を立ったはずだったのだが、初夏のこの時期には珍しく今日は暑かった。
暑かったゆえに、ゴンザレス商会の人達は、自分達や馬に水をあげすぎていた。
昼休憩を取った時も、やたらと水を飲み、汗をかいて気持ちが悪いと、桶に水を汲みタオルを濡らして体を拭いていたりとしていたのは知っていたが、まさか途中で水を全て使い切っていたとは知らなかった。
どうせいつもの様に水場近くで野営でもすると思ったのだろう。
しかし、ここから水場までは森の中の獣道を歩いて一㌔は先にある。
まだ日が暮れてはいないとはいっても森の中は木がうっそうと生い茂っているために少し薄暗い。
素人が一人で行ける場所じゃないと言う事は猿にでも分かる事だった。
それでも水が無いと、食事の準備が出来ないために、困った顔をしながらゴンザレス商会の使用人の一人である、マーヤがこちらの方近づいて来た。
「あの~、ここら辺の水場は何処にあるがご存知ですか?」
「南に1㌔程行った所にあるぞ」
「遠いですね…」
その呟きを聞いた女大好きなリガルドが。
「森の中は危ないから俺が付いてってやろうか?」
「ありがとうございます。助かります」
リカルドがそう言ったのも無理はない。
マーヤは二十歳前後でプロポーションも良く美人だったからだ。
それに巨乳だ。
大概の男なら鼻の下を伸ばしてもしかたがないだろうと思うほど綺麗な女性だった。
これだけ綺麗な人なら相当モテるだろうと思ってみたが、やはり髪の色がネックなんだろうな…。
彼女の髪の色はピンク色だった。
やはり髪の色が薄いマーヤさんは、使用人達の中でも一番美人なのに、一番蔑まれた扱いだったのだ。
ぶっちゃけ、面倒事は全てマーヤさんに押し付けられていた。
他の使用人達は普通に原色に近い状態で、茶髪の男が二人とモスグリーンの男。
残りの男女は朱色の髪をしていた。
こいつらも魔力量の大きさなんて関係ないようだ。
そこそこ魔力は使えてるようだったが、俺達の中でも魔力が弱いとされているリカルド達よりはるかに少ないように思えた。
ただ単に、大きな魔術を一回でも使用可能。と言うだけの事であり、それ以下でもそれ以上でもない。
ただ単に髪の色が薄いってだけで蔑んでる。そんな世界だ。
「おいおい。リカルドが付いてったら違う意味で危なくないか?」
確かにその通りだな。と、ロジャー達が笑う。
「おい!シオン。お前が付いてってやれ」
ロジャーがいきなり俺に振って来た。
信用されてるのは良いんだけどさ、正直面倒臭いんだよな…。
「はーい」
とりあえず良い子の返事をしておこう。
俺のタイプでもある事だし。
マーヤは水瓶を取りに一旦馬車に戻り、再び俺達の前に姿を現した。
しかしその後ろから、ノーコン美少女ローズが付いて来ている。
まさか一緒に行くって言わないよな。
俺は思わず顔をしかめた。
「マーヤさん。失礼ですが後ろの方は…?」
「はい。森の中は危険だから一緒に行くとお嬢様が…」
そいつと一緒の方がよっぽど危険だわ!
「マーヤから護衛がアンタだけって聞いたら安心できるわけないでしょ?」
使用人を心配するのは良い事だが、その言い草はどうよ。
俺はチラッとロジャーの方を見た。
ロジャーは小さく頷いた。
マジか…。
マーヤさんだけならまだしも、この我儘女の子守もか…。
「よろしくお願いします」
マーヤは丁寧にお辞儀をし、ニコリと笑いかけてきた。
一方ローズの方は、「フンッ」と軽くそっぽを向く。
38:
ムーン [×]
2016-03-27 00:04:52
=====
そんなローズは放って置いてだな。
俺はサクサクと先頭を歩いた。
勿論索敵は忘れてないぞ。
半径1㌔に設定した索敵には、数体の魔物の気配があるが、どれも気配が小さいので問題は無い。
魔物に遭遇しない様に慎重に道を選び、水辺へと到着した。
水を汲んで帰ろうとした時だ。
大きな魔力を持った魔物の気配がした。
その気配を敏感に感じ取った他の魔物達は蜘蛛の子を散らすように索敵の中から次々と姿を消していく。
そして、今までゆっくりと進んできた魔力の大きな魔物は走り出したのか、物凄いスピードで此方へと突進してくるのが分かった。
「何か来る!」
その場をいち早く去ろう思ったが、無理だった。
マーヤ一人なら抱きかかえてでも走れば間に合う。
しかし、二人となれば別だ。
俺にそんな腕力はまだねぇ!
悲しい事に俺の体は発展途上の途中なんだよ。
そこら辺に居る小学六年生。
それが俺だと思ってくれればいいよ。
なっ?
客観的に見ても無理があるべ?
逃げるのが間に合わないと思った俺は、その場に二人をまとめて立たせ、急いでシールドを張った。
「そこから絶対に動くなよ!もしその輪の外に出たら死ぬと思え!」
力強い声で言った。
マーヤは素直にコクコクと頷くが、ローズは聞いちゃいねえ。
「はぁ?!なに偉そうに命令してるのよ!」
そう言って激怒しながらシールドから出やがった。
バカかこいつは?!空気を読め!もうシラネ。
こんな我儘女に構ってる暇はない。
が、ローズは俺に命令された事によほど腹が立ったのか、シールドから抜け出すや否やいきなり俺に平手打ちをくらわした。
― バチンッ
これ位は想定内だったので、とりあえず今は言い争いをしてる暇はない。
魔力の大きな魔物が此方に向かってきてるんだからな。
殴られた頬は痛かったが、それより問題は、この我儘お嬢さんを魔物から守り切らなきゃいけないと言う事に今は集中しよう。
「来るぞ!!」
― ガサガサガサッ バキバキバキ
背丈ほどの藪の中から姿を現したのは、なんとも可愛い子犬だった。
「えっ?」
俺は子犬を凝視した。
確かにこの子犬からは大きな魔力を感じる。
しかし、子犬はというと、少しやせ細った体にシルバーのゴワゴワとした毛並が相まって、とてもみすぼらしい。
パッと見、捨てられた野良犬という感じだ。
「何、この汚い犬は・・・」
ローズが子犬に向かって悪態をつく。
俺は何が何だかわからず、パッド君を召還して調べてみる事にした。
すると、この子犬は『子犬』などではなく「妖狼ベルガ―」の子狼だったのだ。
『妖狼ベルガ―』魔狼ベルガ―を束ねる頭。
魔狼の数倍の魔力を持ち、知能も高い。
属性は土で、どんなに固い地面でも強弱の操作で巣となる穴を掘る事ができる。
固い岩も鋭い牙で噛み砕き、警戒心が人一倍強い。
が、稀に人間の中で暮らす妖狼もいる。
危害を加えなければ攻撃してくる事も無い。
なるほどな~。
要はドーベルマンとかシェパードみたいなもんか。
子犬だし害はないか・・・・。
ん?なんだ?よく見るとこいつ、あちこち怪我してるじゃないか。
側に近寄っていくと、初めは警戒してた妖魔ベルガ―だったが、「クゥ~ン」と、鳴き出した。
か・・・可愛いな!
俺はどっちかというと猫派だが、犬も可愛いぞ!
連れて帰ったら怒られるかな…?
怒られるだろうな。
でも、怪我してるコイツをこのまま此処に置いて行くのもなぁ~…。
しばらく悩んでいると、いつの間にかシールドから出て来たマーヤさんも子犬の側まで来た。
しかしベルガーはマーヤさんを見て唸りだした。
― グルルルル
さっきまで大人しくしてたのに急に唸りだしたベルガーをどうしようかと考えていると、ローズが「そんな汚い犬なんか放っといてさっさと帰るわよ!」と騒ぎ出す。
それでも俺は、どうしても放って置けなくて、ベルガーを連れて帰る事にした。
怒られてもいい。
コイツの面倒は俺が見る。
そう思ったんだ。
こんなに傷だらけで、仲間も引き連れないでここに居るのには、きっとわけがあるはずだ。
群れからはぐれたとしても、ここまで怪我はしないだろう。
コイツも俺と同じで生まれて間もなく親が死んだのかもしれない。
そう思ったらどうしても放って置けなかったんだ。
知らない所に1人きりは寂しいもんな。
不安だよな。
いいぜ。俺で良いなら一緒にいてやるよ。
そう思いながら、汚れてゴワゴワなベルガーを抱き上げた。
すると、― ポーン という音が何処からともなく聞こえたかと思うと。
『お前、良い奴だな。気に入ったぞ。これからは俺が守ってやるからな!』
何処からか聞こえてくる声に、俺はキョロキョロと辺りを見まわした。
しかし、よく考えると、その声は外部からのものではないようだ。
何か…頭の中に直接話しかけられてるような…。
そんな不思議な感覚だった。
「ちょっと!その犬連れてこないでよ!汚いでしょ!」
「怪我してるんですよ。可哀想じゃないですか」
落ち着きを取り戻した俺は、いつもの良い子ちゃん仮面を被り直して受け答えをする。
「野良犬なんだから放って置けばいいでしょ!」
『俺…この女嫌い…』
やっぱり頭の中で声がする。
『俺だよ、俺。お前、名前はなんていうんだ?』
抱きかかえてるベルガーがそう聞いてきたような気がした。
俺は小さな声でぽそりと「お前、喋れるのか?」と聞いてみた。
『あ~・・・、まぁね。契約を結べば喋れるよ』
「契約?」
『お前が俺の事を大事にする。俺がお前を守る。それが契約さ』
「あっ・・・・、そう言えばそんなこと思ったかも」
『今はまだ仮契約なんだ。俺に名前付けてくれよ。』
「名前ね…。俺ネーミングセンス無いんだよなぁ…」
『何でもいいんだ』
「じゃあ、銀色の毛だからシルバーなんてどうだ?」
― ポーン
さっき聞こえた音がまた鳴った。
そして目の前にはパッド君が出た。
そこには《魔獣 妖狼ベルガー 名:シルバー》と、自分のステータス画面に書き足されていた。
その事を深く考えてなかった俺は、魔獣と言う物がペット程度のものだと思っていた。
が、後にこのシルバーが俺にとってはかけがえのない相棒になると言う事と、魔獣を従えると言う事が、この世界では大きな意味を持つと言う事に気が付くのは、まだまだ先の出来事であった。
39:
ムーン [×]
2016-03-28 22:37:09
第十五話
■ シオンとロジャーとシルバー ■
シルバーを抱きかかえながら、マーヤとローズの後を付いて行くように帰路についていると、前方から帰りが遅いとクウが迎えに来た。
「遅いぞシオン。皆が心配してるだろ…って何だその犬は!?」
クウはシオンが得体の知れない薄汚い子犬を抱いている事に気が付き、町から町へと旅をする自分達には、馬はともかくペットは飼えないというのが常識で、驚いて声を荒げて尋ねた。
「えっと・・・。拾った…。」
確かに拾った。嘘じゃない。
こいつは犬じゃなくて妖狼だよ。と言わなかっただけだ。
「拾ったじゃねーよ。犬なんて飼えるわけないだろ。
俺達は町から町へ旅する冒険者なんだぜ!?
犬なんか飼えるわけねー。
・・・・捨ててこい」
「ヤダ!」
俺は激しく抗議した。
ずっと大事にするとさっき誓ったばかりなのに、その舌の根も乾かぬうちに捨てる事なんてできない。
それに・・・こいつはもう俺の家族だ!
シルバーを捨てるくらいなら俺も捨ててくれ。
何でもするから。
何でも言う事を聞くから。
だから・・・シルバーを捨てないで。と訴えた。
「ハァ~。兄ぃに聞いてくれ」
根負けをしたクウはそう言うのが精一杯だった。
40:
ムーン [×]
2016-03-28 22:38:33
=====
野営地まで戻ってきたシオンは、クウに連れられてロジャーの元へ行った。
「遅かったなシオン…ってなんだ?そのボロ布みたいな犬は」
「・・・・・拾った」
ロジャーは、両手に力を入れてしっかりと抱いている子犬を見ながら、何となくシオンの考えている事が分かったようだ。
「で、どうしたいんだ」
俺は驚いた。
いや、聞き間違いかと耳を疑った。
捨ててこいと一刀両断にされるかと思ってたからだ。
どうしたいんだ、と聞くくらいだから、もしかしたらこのまま飼えるかもしれないと、微かだが希望を持った。
「ロジャーさん!お願いします!
僕が責任をもって面倒みるからシルバーを飼ってもいいでしょ?!」
「なんだ。もう名前まで付けちまったのか」
「お願いします!ロジャーさん!」
誠心誠意、それこそ土下座をせんばかりの勢いで頼み込んだ。
「たかが犬一匹でもな、そいつは飯を食うだろ。
そいつの飯はどうすんだ」
「僕のご飯をわけてあげます!」
「いまは良いかも知れんが…、その犬…シルバーはデカくなるんじゃないのか?」
『シオン。俺は自分の餌ぐらい自分で獲れるぞ』
「そうなのか?」
「なんだ?シオン。まさかその犬、ずっとそのままだと思ってたんじゃないだろうな」
「え?」
俺とロジャーはお互いの顔を見つめ合った。
何か話がかみ合わない。
・・・・・・ああ、そうか。
ロジャーが質問した事に対してシルバーが答えた。
シルバーの言葉を聞いて俺が返事をしたからおかしな事になってるんだ。
「えっと・・・、シルバーの餌は、自分で獲れるから心配しなくてもいいって!」
「・・・・・・そんなこと誰がいったんだ」
「・・・・・シルバーが言った。」
「ほぅー。犬が喋るとは初めて聞いたな」
ロジャーはシルバーをジーッと見つめた。
そしてある事に気が付いた。
「!!!! まさか…。」
側で二人のやり取りを眺めていたクウが、ロジャーの様子がおかしな事に気が付き声を掛ける。
「兄い。どうしたんっすか?」
シオンに抱かれながら、シオンの手や顔を舐め、「クゥーン」と鳴いている子犬を顎で指しつつロジャーは言った。
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