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大学生・社会人・主婦・大人チャット
自分のトピックを作る
301:
土佐人 [×]
2015-05-18 13:44:24
「ケリィさん……」
「何だ?また何かあるのか?」
「戦いのさなか、理念のない軍人は軍人でない、と言われました。ある男に」
ソロモンの悪夢。あの男は言った。戦いの意味すら解せぬ輩に。
「理念?理想?そんなもん、いずれ見つかる」
「けど、僕にはそれが……」
「言っただろう。まずは目の前の、やるべき事を片づけるのが先だ。明日も腹一杯メシを喰いたいから戦う。好きな女を抱きたいから戦う。それも立派な理念だ。結局はそれでいいのさ。崇高な理念なんてのは、そんな小さなもんが膨れ上がって、大きくなっただけだ。それよりもまず、自分がきちっとやらなきゃならない事を片づけてからだ。それができない男に、明日の理想を語る資格はない」
コウは言葉を失った。それだけの事。たったそれだけの事だろうか。
いや。だが自分は、それだけの事すら出来ていなかったのではないか。目の前の、やらねばならない事もせず、ただ逃げていただけではなかったか。
自問する。それは過去の自分に対してだ。ケリィの言うことが全てではないだろう。しかし今の自分には充分すぎる解答だ。
----そうだ。こいつを修理して、明日はフルバーニアンのテストを行う。それだけだ。それだけを考えよう。後のことは、戻ってから考えればいい。
そう思うと、自然、ドライバーを回す手にも力が入った。
どこからか、ケリィが手配してきた推進剤を積み込みエンジンに力を入れる。スラスター推進異常なし。制御機構にも問題はないと見られない。アイドリング状態でかすかな炎をちらつかせる。ケリィは陽炎にも揺らぐその黒鉄色のノズルを見上げながら、深い感慨に浸った。
「ついに息を吹き返したか……ヴァル・ヴァロ」
モビルアーマーの名らしい。コウは満足げなケリィの表情を見ながら、かすかに微笑んだ。
そして夜が明けた。人工の太陽光が、街に降り注ぐ。フォン・ブラウンを乳白色の明りで包む。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 中巻 第6章 もがれた翼 本文 コウ・ウラキ ケリィ・レズナー より
302:
土佐人 [×]
2015-05-18 18:26:01
ガトーは肩部の可動式スラスターを下方に向けて全開。急速上昇をかける。そして一息でコンペイ島の上方に駆け登った。
ポイント0。
眼下に、無数の光点が浮かぶ。コンペイ島湾内にあふれる連邦軍の艦艇だ。ガトーは、集結した全艦艇を一望している。
無言でバズーカを構えた。アトミックバズーカ。これこそがガンダム2号機、すなわちGP02Aの、末尾のAの文字の所以(ゆえん)である。そしてこの機体を、連邦軍がAAA(トリプルエー)の最上位機密ランクで包み隠していた理由でもある。
最終セイフティ解除。
艦隊の中心点を探す。あった。立方格子状に連なる艦隊。その中心の艦に照星を重ねる。ガトー自気付いていなかったが、その艦は、まぎれもなく観閲旗艦バーミンガムそのものだった。
白い船体に幾重にもゲージが重なる。その度に、コクピット内に電子音が鳴り響いた。ロックオンの表示がモニターに現れた。
画竜点睛(がりょうてんせい)、一点の曇り無し。
ガトーは叫んだ。下方の艦隊を見おろし、力の限り叫んだ。
「再びジオンの理想を掲げるために、星の屑成就のために、ソロモンよ、私は帰って来た!」
バズーカの砲口から光が迸った。
光は閃光の矢となり、コンペイ島湾内に突き進む。
Mk.82、レーザー核融合弾。
その眠りし力が解放されたのだ。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第10章 ソロモンの悪夢 本文 アナベル・ガトー より
303:
土佐人 [×]
2015-05-19 16:17:50
よかったな。夢を追いかける徹さん、しあわせそうだったな……。
はあ、惜しかったな。
朝の連続テレビ小説『まれ』 情熱ミルフィーユ 津村徹 津村藍子 より
304:
土佐人 [×]
2015-05-20 16:21:53
改めて状況を確認する。何かが、おぼろに輪郭を整えつつあった。危険な何かが、無意識の沈殿の底から浮かび上がろうとしている。1枚のミラーを爆破。移動する2基のコロニー。遠心力による疑似重力。回転。重心軸線のずれ。偏差。そして……。
「そ、そんな!」
ニナの突然の叫びに、コウが、シナプスが、モーリスが驚愕した。構わずニナは、シナプスの机上のコーヒーカップを手に取る。そして円筒形の筆立てを。
「どういうことです、ニナさん!?」
「もし、私の想像が正しければ……」
ニナはカップと筆立てを机上で近付け、互いに渦を巻くように回転させた。
「……このカップと筆立てをコロニーに見立てます。それぞれミラーを一つずつ失ったコロニーは、重心軸がくずれて、回転に歪(ゆがみ)が生じます」
「そうだ、そしてその歪は増幅され、回転の度ごとに大きくなっていく」
「その通りよ、コウ。そして……」
カップと筆立てが描く円の直径を、ニナは徐々に大きくしていく。やがて膨らんだ円同士が傘なり合い、カップと筆立ては音をたててぶつかり合った。
「そして、激突する!?」
コウがニナの後を継いだ。
「回転運動によって得られたエネルギーは、それぞれのコロニーが損壊するほどの大きさではない。弾けるだけだ。そして弾けたコロニーの片方は、宇宙の深淵に。残るもう一つは……」
コウはニナの手からカップを取った。そのまま机の上をすべらし床の上に落とす。転げ落ちたカップは、絨毯の上にコーヒーの染みを滲ませた。
「月へのコロニー落し!」
シナプスが呻く。
「このことを、コンペイ島司令本部へ!」
モーリスは脱兎のごとく駆け去り、コウはシナプスに向かって叫んだ。
「艦長!アルビオンも転針を!」
シナプスは腕のパテックフィリップに視線を落とした。ややあって、諦めの吐息と共に言葉を吐き出す。
「この位置からでは、とても間に合わん間に合わん。とにかく今はガンダムを、GP03を!」
「な、何てことだ!」
コウはつま先で床を蹴った。その勢いで、コーヒーカップは絨毯の上を転がり、壁に当たった所で止まった。もちろん、誰もそんなものに目をくれるはずもない。しかしカップが止まった壁の上には、確かに世界地図が貼られていたのだ。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第11章 星の屑 本文 コウ・ウラキ ニナ・パープルトン モーリス シナプス艦長 より
305:
土佐人 [×]
2015-05-21 07:36:02
「思いやりは確かにうれしい。けど、俺は軍人だ。多くの人命が危うい時に、じっとしてなんか……」
その言葉を聞き、キースはわざとらしく驚いてみせた。モーラも嬉しそうに目を開く。
ついひと月前までは、戦争という言葉の意味すら判らなかった名前だけの将校が、今、自らの意志で戦いに向かおうとしている。軍人とうう職業を自分なりに理解し、その義務を遂行するために戦おうとしている。
人の成長は月日の長さでは計れない。無為に時を刻むだけの者もいれば、僅かな間に、それこそ十数年分の修練を積む者もいる。コウは後者だ。少なくとも彼は、自分自身がすべきことだけは正確に理解していた。そしてその意志に従って、GP03のパイロットに志願したのだ。
だが、彼の決意は脆くも挫かれた。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第12章 ラビアンローズ 本文 コウ・ウラキ チャック・キース モーラ・バシット より
306:
土佐人 [×]
2015-05-22 10:08:00
『阻止限界点か……』
それはコロニーの地球落着を阻止出来る、最後の境界線である。その一線を越えてさえしまえば、コロニーほどの大質量落下物を食い止める術はない。断崖に置かれた樽と思えばいい。僅かにに押せばまっ逆さまに谷底に。引き寄せれば手元に戻せる。
ジークフリート線、マジノ線など、戦史に残る様々な防衛線の中でも、これはまぎれもなく最大規模のものだろう。地球をとりまく、まさしく最後の一線なのだ。
阻止限界点通過は、地球落着時刻を遡ること5時間。あと9時間30分を残すのみだ。
「それを越せさえすれば、ついにコロニーが地球を撃つ。今しばらくだ。今しばらくの間、これを守り通さねばならん!」
『……済まない。中立を標榜する我が艦隊は、後方で高みの見物しか出来ん。許してくれ』
モニターの中で、ハスラーが僅かにうなだれる。
「何の。あえて火中の栗を拾う必要はない。ここで連邦と砲火を交えては、貴公らの大事に差し障る。事後の回収を成してくれるだけで、我らは心おきなく戦えるのだ。詫びる必要など、どこにあろうか」
『アクシズの名に誓って、それは必ず。……そう、時にガトー少佐の具合はどうか。何ぶんにも、試作機の範疇(はんちゅう)にも入る機体だ。機構上のトラブルでも出ないかと、技術者が肝をひやしているのでな』
デラーズは、後方監視モニターに目を向けた。宇宙の暗闇を背景に、小さな無数の光点が瞬いている。
「白い、悪魔か……」
『何のことだ』
「連邦の追撃艦隊は、ガトーをそう呼んでおるよ。あのモビルアーマーに、何よりふさわしい名前だと思わんか」
愉悦の笑みをハスラーに向け、視線をモニターに戻した。光点が、煌めきながら徐々に消えていく。連邦の追撃艦隊。それが蹴散らされようとしているのだ。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第13章 阻止限界点 エギーユ・デラーズ ユーリー・ハスラー より
307:
土佐人 [×]
2015-05-22 18:56:22
思えば今回の事件では、ことごとく敵に裏をかかれ続けてきた。2号機の強奪と逃走。暗礁宙域捜索。観艦式への奇襲。そしてコロニーへの進路。
----常に機先を制され続けてきた。が、今となってはどうにもならん。コロニーが地球に落着した後、敵を殲滅して、それが勝利と言えるだろうか。
もしかしたら2号機を奪われた段階で、我々の敗北は確定していたのだろうか。ふと、そんなことを考えた。
「いや、違う!」
言葉が口を吐(つ)いて出た。艦橋に居合わせた誰もが、シナプスに視線を向ける。だが、すぐにまた元の作業に戻った。
----敗北は確定していない。まだだ。少なくとも、コロニーが阻止限界点を越えるまでは、心中で呟きながら、ラビアンローズでナカト少佐が口にした言葉を思い返す。
「正義の軍隊気取りは、やめて頂きたい」
ならば、我々に悪しき軍隊にでもなれと言うのか。惨禍が人々の頭上にのしかかろうといる時に、それを無視しろとでも言うのか。
----正義の軍隊か。それも良かろう。どのみちなすべきことは一つだ。いかに多くの人命を救えるか。ただそれだけだ。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第13章 阻止限界点 本文 エイパー・シナプス ナカッハ・ナカト より
308:
土佐人 [×]
2015-05-23 06:32:10
「あのな、モーラ。間もなく全機に出撃命令が下る。俺も出ないといけない」
「……ん、だから何さ。こっちは忙しいんだ。用がないないんなら、作業に戻るよ?」
ニナとコウのじれったい関係を、愉快そうに見ていたモーラとは思えない。本心とは裏腹な、勢いだけで言ってしまった言葉だ。
立ち去ろうとしたモーラを、キースは慌てて引き留める。
「その、さ、コウと同じキャリアしかなかったのに、片方はGP03なんて化け物みたいな機を操って、俺は相変わらず、必死にベイト大尉たちね援護をするだけだ」
「連中に、また何か言われたのかい?」
「いいや、そうじゃない。ただ、何となくさ。バニング大尉に言われたことを思い出したんだ。お前の任務は、ガンダムの援護だろって。でも、今じゃそれも出来ない」
「仕方ないだろう。あれはモビルスーツって言ってるけど、全然違う機体だ。モビルアーマーみたいなもんさ」
「そうだけどさ」
いつもの陽気なキースとは、全く異なる人物のように見えた。俯き、そのまま黙り込む。が、それは間違いなくキース本人だ。普段は垣間見せない、もう一つの姿なのだ。その真意を隠すために、普段はわざと明るくふるまっているのだ。また隠された真摯(しんし)な姿があるからこそ、アフリカで09(ドム)を撃破し、月でヴァルヴァロの猛攻に苦しむGP01を援護出来たのだろう。
「今度出撃したら、もう、帰って来れないかも知れない。だから……」
「だから?」
「いや、何でもない」
「キース!」
「へ?」
モーラはおもむろにキースを引き寄せ、互いのヘルメットのバイザーを重ねた。
「帰って来たら、今度はヘルメットなしで、ね」
わざとらしくウインクして見せる。それを見たキースは、いつもの明る表情を取り戻した。
「ああ、約束だ」
そう言って、二人はそれぞれの場所に戻った。モーラは作業要員たちの群れの中に。キースは愛機のコクピットへと。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第13章 阻止限界点 本文 チャック・キース モーラ・バシット より
309:
土佐人 [×]
2015-05-23 06:32:15
「あのな、モーラ。間もなく全機に出撃命令が下る。俺も出ないといけない」
「……ん、だから何さ。こっちは忙しいんだ。用がないないんなら、作業に戻るよ?」
ニナとコウのじれったい関係を、愉快そうに見ていたモーラとは思えない。本心とは裏腹な、勢いだけで言ってしまった言葉だ。
立ち去ろうとしたモーラを、キースは慌てて引き留める。
「その、さ、コウと同じキャリアしかなかったのに、片方はGP03なんて化け物みたいな機を操って、俺は相変わらず、必死にベイト大尉たちね援護をするだけだ」
「連中に、また何か言われたのかい?」
「いいや、そうじゃない。ただ、何となくさ。バニング大尉に言われたことを思い出したんだ。お前の任務は、ガンダムの援護だろって。でも、今じゃそれも出来ない」
「仕方ないだろう。あれはモビルスーツって言ってるけど、全然違う機体だ。モビルアーマーみたいなもんさ」
「そうだけどさ」
いつもの陽気なキースとは、全く異なる人物のように見えた。俯き、そのまま黙り込む。が、それは間違いなくキース本人だ。普段は垣間見せない、もう一つの姿なのだ。その真意を隠すために、普段はわざと明るくふるまっているのだ。また隠された真摯(しんし)な姿があるからこそ、アフリカで09(ドム)を撃破し、月でヴァルヴァロの猛攻に苦しむGP01を援護出来たのだろう。
「今度出撃したら、もう、帰って来れないかも知れない。だから……」
「だから?」
「いや、何でもない」
「キース!」
「へ?」
モーラはおもむろにキースを引き寄せ、互いのヘルメットのバイザーを重ねた。
「帰って来たら、今度はヘルメットなしで、ね」
わざとらしくウインクして見せる。それを見たキースは、いつもの明る表情を取り戻した。
「ああ、約束だ」
そう言って、二人はそれぞれの場所に戻った。モーラは作業要員たちの群れの中に。キースは愛機のコクピットへと。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第13章 阻止限界点 本文 チャック・キース モーラ・バシット より
310:
土佐人 [×]
2015-05-23 06:32:42
「あのな、モーラ。間もなく全機に出撃命令が下る。俺も出ないといけない」
「……ん、だから何さ。こっちは忙しいんだ。用がないないんなら、作業に戻るよ?」
ニナとコウのじれったい関係を、愉快そうに見ていたモーラとは思えない。本心とは裏腹な、勢いだけで言ってしまった言葉だ。
立ち去ろうとしたモーラを、キースは慌てて引き留める。
「その、さ、コウと同じキャリアしかなかったのに、片方はGP03なんて化け物みたいな機を操って、俺は相変わらず、必死にベイト大尉たちね援護をするだけだ」
「連中に、また何か言われたのかい?」
「いいや、そうじゃない。ただ、何となくさ。バニング大尉に言われたことを思い出したんだ。お前の任務は、ガンダムの援護だろって。でも、今じゃそれも出来ない」
「仕方ないだろう。あれはモビルスーツって言ってるけど、全然違う機体だ。モビルアーマーみたいなもんさ」
「そうだけどさ」
いつもの陽気なキースとは、全く異なる人物のように見えた。俯き、そのまま黙り込む。が、それは間違いなくキース本人だ。普段は垣間見せない、もう一つの姿なのだ。その真意を隠すために、普段はわざと明るくふるまっているのだ。また隠された真摯(しんし)な姿があるからこそ、アフリカで09(ドム)を撃破し、月でヴァルヴァロの猛攻に苦しむGP01を援護出来たのだろう。
「今度出撃したら、もう、帰って来れないかも知れない。だから……」
「だから?」
「いや、何でもない」
「キース!」
「へ?」
モーラはおもむろにキースを引き寄せ、互いのヘルメットのバイザーを重ねた。
「帰って来たら、今度はヘルメットなしで、ね」
わざとらしくウインクして見せる。それを見たキースは、いつもの明る表情を取り戻した。
「ああ、約束だ」
そう言って、二人はそれぞれの場所に戻った。モーラは作業要員たちの群れの中に。キースは愛機のコクピットへと。
OVA『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリー』小説 下巻 第13章 阻止限界点 本文 チャック・キース モーラ・バシット より
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