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(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集/131


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59: ブラック [×]
2015-04-07 04:41:05

Birds of a feather/不定期更新


 【宿泊客/Hotel guest/1st】

 友人、そう言えるのかはまだ分からない。
実際会って少し話した程度で、それで友人と言えるのなら世の中の『友人』という線引きが狂ってしまっているのだと、俺は思う。
 俺の自論だが、『友人』とは字の如く「友の人」という意味ではないと思っている。
もし『友人』が見たまま字の如くと言うのならば、友の趣味を嫌ったりしないだろう。
 「友の人」、それが『友人』の意味ならば――。

 俺にとっての『友人』と言うのはやっぱり、どこかズレているのだろうか。

 **

 客、そう言うのが正しいのか、俺の家にちとせが来る。
俺が誘ったから来たのであって無理矢理押しかけて来たという訳じゃない。

「とりあえず上がって。そのまま二階に上がったらリビングだから、先行ってて」

 ドアの鍵を開け、重たいドアを開けてちとせに告げる。
本当は俺が案内するべきなのだけれど、一階にある兄貴の仏壇に顔ぐらい見せてやろうと思い、ちとせを先に行かせた。
 そういえば最近線香も上げていない事を思い出し、頭をガシガシと掻き乱しつつ、廊下を歩いていく。
 その道中「ちあきー。本当に先に行ってて良いの?」とちとせの高い声が家中に響く。

「あぁ。先行って何か色々あるけど、どこでも良いから座っておいて」

 表情こそ分からなかったが、ドタバタと階段を上がっていく音ではなく、ゆっくりと丁寧に階段を上っていく音を耳にし、ちとせが了承したと受け取る。

 さて、と……。何日ぶりだっけ、線香上げるの。そう小声で呟き、木箱の中から緑色の棒状の線香を取り出し、近くに置いてあったマッチに火を点ける。
 ユラユラとオレンジ色に揺れながらそこにある炎は、蝋燭の火の様に存在し、暫くの間燃え続けた。

 ――チンッ……。

 控え目に鳴らした鈴が振動で僅かに揺れる。
線香に火を憑け、鈴を鳴らし、手を合わせる。

 兄貴が亡くなってからどれ程の時が経つのか、思い出せそうで思い出せない。
 俺が小さい頃に亡くなったのか、俺が中学生頃に亡くなったのか、でも一つだけ覚えているのは兄貴がしょちゅう口にしていた『死ぬならバイクで死にたい』という思いだけ叶ったという事。

 
 それから何事も無かったかの様に鞄を抱え、階段を上り、リビングに繋がるドアを開ける。
リビングは決して広くもなく、狭くもない。
 適当な配置の机とソファ。大体は兄貴の趣味だった気がする。

「ちあき何かしてた?」
「まぁ、ちょっと……」

 ちとせが首を傾げて不思議そうに尋ねてくるので、言葉を濁しながらも肩を竦め、苦笑いで返答した。
 別に言ったところで何かが変わっても俺には興味がない。
 隠す必要もないのだが、どうやら俺は他人に踏み込んで欲しくない部分があるようだ。

「……聞かない方が良さそうだから、聞かないでおく」

 物分りが良いのか、単に聞く気がないのか、どちらかは俺には分からない。
ただ、ソファに腰を下ろしているちとせに見えない様肩の力を抜き、安堵したのを俺は心の奥底で確認した。

「そういえば何も出してなかったな。えっと、今あるのは……麦茶とミルクティーか……」

 冷蔵庫を開けて、一番初めに見えたのは1Lと書かれたペットボトルが二本。
 一つは『午前の紅茶』と赤いラベルが貼られていて、もう一つは『午前の紅茶』と白いラベルが貼られていた。
 お茶とミルクティーとは良く分からないチョイスだ。
誰が買っておいたのか、俺しか居ない。

「そんな良いよ! シュークリーム奢ってもらってるし……」
「家に招き入れたらお茶ぐらい出すのが普通だろ。お茶だな」

 独り言と返答を繰り返しながら木製の食器棚から白いマグカップを二つ取り出し、ペットボトルに入っている昨日の夜沸かして、今日の朝入れたやつだと、一人で誰にでもなく心中で呟き、カップに注いでいく。

 大体9割ぐらいだろうか、お茶が入ったのでペットボトルを冷蔵庫に仕舞い、ちとせが座っている目の前に、カップを置く。
 机の上に置かれたカップは急に冷たい液体が入ったせいで、ひんやりと冷たくなっており、この季節なら少し寒さを覚える感じだろう。

「あ、ありがと」

 遠慮気味に礼を述べたちとせに鼻で笑ってから、カップを口元に持ってくる。
やっぱりというか予想を裏切らないのが良いのか、麦茶は冷たく、冷やしすぎたかと立ったまま麦茶を飲む。

「行儀悪い……」

 じと目でちとせに見つめられたので、カップを机に置き、ちとせと向かい側にあるソファーに腰掛ける。
 いつ座ってもフカフカのソファーは時々そのまま寝てしまっていた事があり、兄貴に随分と布団に行けだの、風邪引くだの、だらしないだの、と言われていたのを思い出した。
 久しぶりに線香を上げた所為で感情的になっているのか、そう思うことにして、今は忘れようと黒いソファに寝転がって窓の外を見る。

 ――雨、降りそうだな。

 雲行きが怪しくなってくれば、小雨なのか雷雨なのかは分からないが、多分、雨は降る。

「なぁ、ちとせ。雨降りそうだからさ、『賭け』してみるか?」
「賭け……?」

 突然の事で驚いたのだろう。
そりゃそうだ、俺自身も驚いている。
 何故ちとせを家に誘ったのか、多分馬が合ったんだ。
駅のホームで話している時に俺自身の中で『仲良くなりたい』そう思ったから、こうして家に誘った。
 帰るのが遅くなれば、俺が送って行こうと思っている。
同じ丹神橋市だ、そして丹神橋市はそんなに広くない、だから現在一人暮らし中の俺にはあまり問題はない。
 
 両親が共働きで滅多に家に居ない。居ても一年に2、3回ぐらい。
それでも俺は自由に過ごせていたので文句は言った記憶がない。

「そう、賭け。雨が降るか、降らないか。18時までに雨が降ったら、また雷雨なら俺の家に泊まる。降らなかったらまた小雨ならちとせは帰宅する」
「どうして急に?」
「楽しいかと思って」

 いえい、とピースサインを送ればちとせは暫し悩み、そして「乗った」と、得意げに笑った。
賭け事が好きなのだろうか、ちとせがこれといって得をする訳でもないのに何故乗ったのだろうと考えていると「何で乗ったかって顔してる」と言われた。

 肩を竦め、上半身を起こし、制服が乱れるのも気にする事なく、笑みを浮かべ「誰かと何かを賭けるって久しぶりだからな」とカッターシャツの胸ポケットから千円札を取り出す。
 その千円札を机の真ん中に置き、「勝った方がこの千円を手に入れるって事で」と、トントンと人差し指で千円札と机を一緒に突く。

 ちとせは暫くフリーズするも我に返り「高額すぎじゃない?」と首を傾げる。

「俺にとっては安い方」
「金持ちのセリフみたい」

 そんな事を言われ冗談で財布から昨日下ろした生活費の一部の一万円札を取り出し、「こっちが望みならこっちでも構わないぜ?」とヒラヒラとうちわみたいに扱う。
 そろそろ罰が当たりそうで止めておく。

「千円で良いよ」

 さすがに一万は高すぎたかと思いつつも、交渉成立し、18時までする事も無くというのもあれなので、ゲーム機を引っ張り出して来た。


 懐かしいゲーム機だと思いつつも、コントローラを握り締め、ガガガッとマシンガンやワルサーやS&WM19やM92Fショットガンなど、様々な銃が画面にチラチラと見えては消えてを繰り返す。
 何故海外のゾンビゲームにワルサーやS&Wがあるのかは分からないが、気にする事もなくワルサーの引き金を引く。

「ちあきその銃って弾数少ないよね」
「あぁ、コレ。Yボタンでマシンガンに切り替えれるけど、面倒だからこの銃のままでしてる。弾数は八発しかないけど」

 それでも結構なやり込みと言うより、人任せにゾンビを撃って貰っていたのもあって、ワルサーだけでクリアした事もあった。
 ゾンビの集団にはマシンガンやショットガンを使ったりするけれど、それ以外では基本ワルサーだったりする。

 ワルサーと言っても色々あるが俺が使っているのはワルサーAP。
確かワルサーP38の原型と言われていた気がする。
 ネットで調べた程度なので、正しいのかどうかは判断しにくい。

 ちとせはひたすらマシンガンでゾンビを撃っているので、弾の減りが早い。

「あー、また弾が無くなった……」

 ゴロン、と黒いソファに横になる。
最早自分の家の感覚になってきたのだろう、俺が楽な体勢にしろと言ったので文句など出てこないのだが、若干拗ねているのが分かる。

「単体で居る時は拳銃の方が弾の減りは遅いと思うけどな」
「そうだけどー!」

 ムゥ、その表現が似合うのか分からない。けれど、ちとせは頬を膨らませた。
不満、一瞬で単語が出てきたので軽く肩を竦め、妹を見ている気分になりつつも、実際俺には妹は居ないのだが、微笑ましく感じられた。

「ほら、此処で弾がゲットでき――ってもうゲットしてるし」

 それがないと銃が撃てないから仕方ないか、と心の中で思いながら、暫くちとせとゾンビゲームをしているとダンッ、何かがぶつかる音が耳に響く。
 ポーズ画面にして音のした窓に向けば、雫が下に落ちていくのが分かる。
粒は大きく、面倒なパターンなのだろうかと暫く見ていると次第に雫の数は増え、その度に屋根に当たる音、地面から響く音、窓に当たる音が大きくなる。
 時計を確認すれば、18時。

「俺の勝ちだな」
 
 窓の方を向きながら言っていたので、ちとせの状態に気付く事が出来なかった。
何か文句の一つでも返ってくるのだろうと思っていたのだが、うんともすんとも言わなかったのでちとせ、と声を掛けながらちとせを見れば、口元を押さえて俯いていた。

「来い」

 短く告げて、ちとせの腕を引っ張る。
力加減が分からないのでそんなに力を入れず、けれど引っ張っていけるぐらいの微妙な力加減でリビングを出て少し歩いたところにあるトイレまで連れて行く。

「マシになるまで此処に居たら良い。無理に我慢せずに吐いたって良いからな。俺はリビングに居るからマシになったら戻って来い」

 そう言い残してトイレのドアを閉めてリビングに戻る。

 ホラゲー、グロゲー、ゾンビゲー、3Dゲーによる悪酔い。
目に優しくないので長時間プレイすると頭痛や吐き気、体調不良などが起きる。
 ちとせの場合吐き気だ。
 
 ゲームをすることになった時、ちとせが「コレやりたいけど、グロゲーとか3D系のって普段しないから、気分悪くなる」と言っていた。
だから、気分が少しでも悪くなったら言えと言ったのだが、一体どの辺りから具合が悪かったのだろうか。
 それともゲームを中断したので一気に吐き気が襲ったのか、どっちにしろ、暫く休めた方が良いのでゲームの電源を切り、テレビを消した。
 
 そういう事をしている内にちとせがリビングに戻ってきて「気持ち悪い」と呟いた。

「ソファで寝といたら良い。長くゲームをしすぎたんだろ、暫く休んでたらマシになる」

 ちとせはソファに座り、お茶を飲み、ソファに横向きに転がった。

「賭けも俺が勝ちだから俺の家に居ることになるんだけどな」

 そうちとせに発して、ゲーム機を片付けていく。
 本当に、俺は一体……何がしたいのか、自分でも分からない。と目を伏せて思うのだった。

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