TOP >
個人用・練習用
自分のトピックを作る
58:
ブラック [×]
2015-04-04 08:28:35
シークレットメモリー(ルパン三世1st/ルパン三世2nd/オリキャラ)
ふと、過去を思い出す事がある。
何気ない時に何気ない事を思い出して、それで終わる。
そんな過去話のような話。
**
「次元、今回のヤマはそう簡単に行かないのが面白くてねぇ」
緑ジャケットを着た男が黒のスラックスに両手を入れながら話す声は、とても年齢に合うとは言いがたい高い声でおちゃらけており、ニシシと良くないことを考えながら色々と危ない単語を口にしている。
「だからさぁ、今回のヤマ上手くいけば、分け前は山分けって事で」
気楽に話している男、ルパン三世は今回の仕事はそこまで難しくもなく、簡単でもない仕事に浮き足だっているが、それを隣にいる全身真っ黒な男、次元大介がその仕事の話を聞いている。
次元も今回の仕事には参加するのだが、よほど気分が良いのだろう、先ほどから同じような話ばかりだ。
そろそろ聞き飽きてきた次元は何度目か分からない溜息共に、ポケットから『マールボロ』と書かれた煙草を取り出してそっと火を点けた。
街は基本賑やかで、こんな目立った男2人が居ても街の中心部なのだから、何かのコスプレやどこかのホスト、などとしか認識されない。
それほど知名度がないとも言えるのだけれど、それはこの際無視しておこう。
「……ルパン、いい加減その話聞き飽きたぜ」
言うか、言うまいかと悩んでいたのだがもうかれこれ10回目だなと思い、100回は聞かされそうになった話題に飽きと疲れが襲い、あまり不機嫌になるような事は言いたくなかったのだが、この際仕方ないと判断して、次元が口を開く。
その瞬間、綺麗とは言いがたい二酸化炭素がしき詰まっている空気に、更に煙草の副流煙が空に舞う。
「なんでぇい、ちーっとはノリ気なのかと思ったじゃねぇか」
案外すぐに話題を切り替えようと、辺りを見渡しているルパンに次元はそれほど機嫌が良いのかと関心しつつも、とあるパン屋を目にした。
そういえば朝食も昼食も口にしていなかった事を思い出し、更にパンの匂いで空腹が刺激されてパン屋に釘付けになる。
「どした? あぁ、そう言えば何も食ってなかったな。そこのパン屋入るか」
察しが良いのか、自分がそう思ったのかは分からない次元だったが、悪い気にはならなかったので、ルパンが歩いている後ろについていきながらも、パン屋に入店した。
「いらっしゃいませ」
喫茶店とは違ってパン屋というのは案内がされないのだから、ありがたい様なそうでもないような気分に浸りながらも、トングとトレーを取ってパンを乗せていく。
適当に目に付いたパンをトレーに乗せて、先に会計をしようとした次元は、ルパンの姿を捜し、辺りを見渡せば子供の高い声が、右耳に響いた。
「あ……」
ふと視線を向けてみると、そこには小学生ぐらいの子供と、ルパンの姿があった。
恋愛小説や恋愛漫画でよくある光景だ。
ヒロインが手を伸ばした先にのちに恋をする男の手も同じ場所にある、というかなりベタなものだった。
2人が取ろうとしていたパンは残り一つのメロンパンという、ロマンもないものだ。
「おいルパン。先に会計済ましておくぜ」
ルパンに近付き、一応声をかけた次元はそのまま会計をして、窓際に近く2人掛けようの席に店員から笑顔で渡されたトレーと、その上に乗っている白い皿と数々のパンと、レジで購入したコーヒーのブラックを置いた。
この店内はどこでも喫煙が出来るようで、テーブルの上には灰皿が置かれていた。
喫煙者のルパンと次元にとってはありがたい事だ。
一方ルパンと子供は次元の様子など知らずに、沈黙が訪れている。
子供にしていれば知らないおじさん、ルパンにしてみれば素手でも殺せる程の小さなガキ。
「あ、どうぞ……」
先に口を開いたのは子供で、トングを持っていた右手をメロンパンの方に差し出して、クルリと方向を変えた。
ルパンを背にした子供は金髪で毛先が黒髪、遺伝なのか染めているのかはルパンには分かったのだけれど、同世代の子供が見れば不気味に思うだろう。
顔つきは日本人なのだろうか、肌の色は白く、一言で言ってしまえば五右ェ門と同じで顔つきはぱっと見、女っぽいのだが、高校生にでもなれば美少年に入る部類なのではと、思った。
服装や声の高さで男の子だと気付く、と言うわけでもなく、背中に背負った黒のランドセルで判断した。
「おぉ、わりぃな」
普通は大人が子供に譲るものなのだが、その逆を行った子供に笑みを浮かべながらルパンはメロンパンをトレーに乗せ、その他にも色々なパンを取り、次元と同じくレジでブラックコーヒーを購入し、会計を済ました。
「おまたせ~」
左手にトレーを乗せ右手をヒラヒラとさせながら笑みを貼り付けて、次元の元にやってくる。
ルパンが戻ってきて、席に腰を下ろした頃合に、先ほどルパンにメロンパンを譲った子供が窓際の2人掛け用席に腰掛けた。
ランドセルを隣の席に置き、まずクロワッサンを食べながらゴソゴソとランドセルの中を探っている。
子供が取り出したのは高校生が使うような筆箱、計算ドリルと書かれた練習帳、漢字練習帳と書かれたノートに、数枚のプリントだった。
トレーを窓の方にずらし、つまらなそうに筆箱の中から鉛筆ではなくシャーペンを取り出し、漢字練習帳に漢字を書いていく。
小学校で習う漢字は難しいのは少なく、大半が簡単なので意外にもすぐに片付く。
ただ単にこの子供が休み時間に漢字をほとんど終らせていただけなのだが。
漢字練習帳と書かれたノートをランドセルに仕舞い、次に計算ドリルを広げて文字を書き込んでいく。
その姿を見つめているルパンに「どうした?」と次元が声を掛ければ「いやー、懐かしいと思ってねぇ」と呟いた。
ルパンの言葉はあまり信用できないのだが、表情がどうしても穏やかに見えた次元は、短く返事をして煙草の煙を口に入れた。
計算は得意なのか、子供はすぐに計算ドリルを閉じて、ランドセルに仕舞う。
学校でほとんど済ましているのか、そうでないのかはルパンには分からないが、その光景を横目で見たり、あるいはガン見しているとふと、子供の手が止まったのに気付く。
初めは何か間違いでもしたのだろうかと思うルパンだったが、そこから暫く動かない子供の手を見ながら不思議そうな表情をしていたのだろう、再び次元から「どうした?」と声が掛けられる。
次元の問いに手で制して子供が座る席に身を乗り出してみると、子供の手の下にあるのはどうやらアンケートのプリントで、アンケート内容が『すきなもの』『しょうらいのゆめ』と、平仮名で書かれていた。
「好きなもの、ねぇ……」
ルパンが口を開いた。
いや、わざと子供に気が付かせるために声を出したのかも知れない。
「……人のプリントを盗み見ないで下さい」
隠そうとはせず、淡々と口にしながらも子供は他の箇所を埋めていき、残った二項目だけをじっと見つめている。
その表情はどこか興味が無く、好きなものも将来の夢もないように感じられた。
「いやー、さっきメロンパン譲ってくれたお礼に何か分からねぇとこあったら手伝ってやろうと思ってよ」
ルパンが無償で誰かのために何かをするという事はないのだ。
無償で行えば待っているのは、裏切りでもあり殺しでもある。
そんな世界で住んでいる人間が例え子供でも無償では動いたりしない。
普通ならそう思うだろうが、今のルパンは【とても機嫌が良い】ので、そんな事気にしないのだろう。
「おめぇさん、好きなものとかないって目してんぜ?」
「…………」
無言。
肯定と捉える事が出来るその返答はルパンは肯定と受け取り、表情を和ませて「そんなモン何でも良いだろ。書いたモン誕生日にくれたりする訳でもねぇのに無理に考える必要なんざ、ねぇよ」と実にロマンのないアドバイスをすれば、子供は思いついたようにシャーペンを走られせる。
『好きなものはない』と。
「でだ、その将来の夢とやらも適当に書いちまえ。例えばこのルパン三世の相棒になる、とか」
これまたロマンのない否、小さな子供を犯罪に巻き込もうとしている大人の図なのだが、それでもルパンなりのアドバイスはしたわけで、子供は暫し悩んだようにしつつもプリントに『何かを極める』と書いた。
それを見たルパンは口角を上げ、「銃の使い方なら教えてやるぜ!」と子供の頭を撫でながら、後ろに手を伸ばし、メロンパンを掴み自分の口に運ぶ。
次元はその光景を見ながらも『何やってんだ、コイツは』と心中で思うも、口に出して面倒なことになる可能性もあるので何も言わず、本日何本目か忘れた煙草を灰皿に押し付ける。
「おい、ルパン。ガキをからかうのもその辺りにしておけ。迷惑だろ」
一応声を掛けてみたものの、ルパンは気に入ったものを手から離さない主義なので聞く耳も持たず、いつの間にか子供の目の前の席に腰掛け、談笑をしていた。
――バカヤロウ。
次元の溜息と呆れが同時に襲ったのはこの時だった。
**
それからと言うもの、ルパンと次元はまだ仕事を終えていないので、暫く滞在する事になったのだが、何故だか子供が住んでいるところを調べ、その付近に住むようになった。
そしてその付近で住むようになってから気が付く事が多々あった。
まず、その子供の名前が『六条道恋也』ということ。
そして、あまり良い印象は近所にはないということ。
同級生にはいじめをあっているということ。
全てにおいてあのパン屋では見せなかった子供、六条道恋也は何かを持っていた。
「わー! 恋也の奴が来たぜ!」
「こっち来るなよ!」
同級生の男の子2人が恋也の前を小走りして、振り返ってから上記を言うのを何度も繰りかえしていた。
小学生だから、というのもあるのだがワンパターン過ぎて突っ込むところが多いような気がする。
「俺らにビビって路地裏に入って行ったぜ」
ビビったのではなく、面倒だから恋也は路地裏に消えた。
単に歩く距離を減らしたいというのもあったのだけれど、恋也には同い年と帰るのは気が進まなくて、面倒なことなのだ。
そんな事も知らずに2人は恋也の後をニヤニヤしながら続いていくのだ。
そしてやっぱりというか、お決まりの展開で、恋也の目の前にはクラスで一番トップと言われる存在の大将がいて、意味も無く恋也は殴られる。
子供に理由などは存在しない。
気に食わなかったから、ムカついたから、そんな誰が信用するかと言われるほどの低レベルな理由なのだ。
恋也の周りにはざっと5人。
全員同性というのもあるので力は結構なものだろう。
ランドセルを背負ってでも恋也はこの5人を置いていけるほどの脚の速さはある、けれど面倒だから行わない。
恋也は基本面倒だと思い、他人に好き勝手させている。
のちにそれを理由に色々しでかすのだが。
「コイツビビってる感ねぇな!」
ふと、一番図体のでかい子供が声を出した。
チラリと地面に叩き付けれられている体で上を見上げる。
緑色のTシャツを目にした途端、あの日の事を思い出した。
あのパン屋で出会った、ルパンと口にした男の事を。
ルパン三世と名前は聞いた事があるのだが、人物は知らない。
だからあのパン屋で出会ったのが本当にルパン三世なのかという疑いもあるので、信用はあまりしていなかったのだが、ルパンと会話した時は楽しかったな、と思い出す。
一方的にルパンが話していたのに近いけれど、飽きることはなく、奇想天外で、話し上手だとその時理解した。
――そういえば、あの煙草吸ってた人、知り合いなのか? あー、ちゃんと名前聞いておけば良かったな。
もう会うことはない。
そう決め付けてしまった恋也の頭の中には『もう一度会いたい』という思いが、消えかかっているのだ。
「これで良いだろ」
誰かが鉄の何かを壁にぶつけた音がする。
殴られるんだ、と思っても逃げようとせず、目を瞑った。――その時だった。
「こりゃまたぁ、ガキがこんな遊びをするとはねぇ」
聞き覚えのある声を聞いて目を開ける。
地面の位置から見えるのは靴だけで、どうやら2人居るようで、1人前に居る人がしゃがむのが分かった。
そしてその顔に見覚えがあり、「ルパン、三世……」と口にした。
会う事はない、そう決め付けていたのだから嬉しさもあるのだろう。
必死に俯いて涙を見せないようにしていたのだけれど、地面にいくつもの染みを見て泣いているのだと、ルパンとその後ろにいる次元は気付くが、突っ込みなどはしない。
「久しぶりだなぁ。元気にしってっか? っていう質問はあとだ」
おちゃらけた口調から少し声のトーンが低くなり、「ガキがガキを殴ってる画には興味ねぇけどよ、『相棒』に怪我負わせれちゃ洒落になんねぇから仕返しはさせてもらうぜ」と、有無も言わせず、ルパンは腕を一番図体のでかい子供に伸ばし、ドンッと前に押した。
子供は大人の力に敵うはずもなく、そのまま尻餅をつき、残り4人が睨みつけたり怒鳴ったりするも、次元の鋭い眼差しには負けるので、泣きながらその場を去っていった。
「大丈夫か?」
ルパンが恋也に問う。
恋也は頷くも5人全員に殴られたりしているので、到底大丈夫だと言える訳もなく、ルパンが恋也を背負い、アジトにしている家に連れて帰る。
幼稚園の頃親を亡くした恋也は親戚の家に預けられており、心配をかけるというので帰ろうとしたのだが、ルパンがその怪我のまま帰宅をすれば余計心配するだろうと言い、友達の家に泊まる、という口実を作った。
**
それから何週間目の事。
ルパンと恋也の関係は特に変わりはなく、子供と大人、という線が引かれている。
ならなぜあの時「相棒」と呼んだのか、それはルパンにしか分からない。
「え……?」
ふと、ルパンのアジトの前でルパンに言われた事に頭がついていかない。
『俺達はもう居なくなる』と、ルパンの口からそう言われた。
恋也がルパンが裏稼業をしていることに気付き、口には出さなかったが、ひそかに憧れを持ち始めた。
自分もその場に入る事が出来るのだろうか、何か約に立てるのだろうか、そう思いつつも、まだ小学生の身、誰も中に入れようとは思わないだろう。
だったらもう少し大人になってから仲間に入りたいと宣言しても良いだろう、と思っていた。
あるいは小学生の頃にそう言って、大人になってから再びいうのもい言いだろう、と考えていた矢先にルパンからの言葉である。
「居なくなるって? 何処かへ行くって事? 二度と帰って来ないって事?」
不満、不安、そういった負の感情に押しつぶされそうになり、肩を震わせ、目尻に涙を溜めながらルパンに問う。
緑のジャケットは恐らく何百万とするだろう、それでも構わずルパンのジャケットを握りながら嫌だ、と首を横に振る。
生きるより所、それを無くしたくはない。
ルパンがいたから耐える事のできたことも、居なくなれば耐えれないだろう。
そう思っているからそこ、近くに居て欲しい。
せめて国内でも構わない。
近所に居なくても良い、西から東に移動するなら良かった。
でもルパン達は国外に行くと告げられ、自分じゃ到底いける場所ではない事は口にせずとも分かり、必死に行って欲しくないと伝えていると急に頭を撫でられた。
顔を上げると、ルパンはこの時初めて優しい表情をしただろう。
「また戻ってくっからよ。次は10年後に戻って来てやる、だから俺が誰だか分からねぇ奴になるか、それとも一瞬でお前だと分かる奴になるか、俺も楽しみだぜ」
「そんな事言って、来ないんだろ……!」
「来てやるよ、今月の今日に」
だから、もう行くぜ。
ルパンはそう口にして優しく子供の手を離していく。
最後に片腕を上げて、近くで待機していた次元と合流し、恋也に背中を向ける。
恋也は俯きながら通り過ぎて行った影を見ることは出来ず、頬に暖かい雫を流すだけだった。
**
9月の20日。
そろそろ冬服になってきている者もいれば、まだ半そでの者もいるシーズン。
暖かい日もあれば寒い日もある、そんな体調を崩しやすい季節になっている頃、赤いブレザーを身に纏った1人の少年は街中を歩いていた。
目的は特にないのだ。
何か歩いていれば目的ができるだろう、それと、今日がその日でもある。
信用しているわけではない、何せ世界中を飛び回るのだから、忘れているだろう。
10年も経てば人は忘れるのだ。
「この前食べようよしたロー『ルパン』がさ、腐ってて――」
ふと聞いたことのある単語に耳を傾けたものの、後々全く違うものだと理解し溜息をついて、視線を上げるとそこに、見覚えのある顔が見えた。
服装は変わっているものの、帽子に髭面、猿顔にがに股は変わっておらず、自然と近付いているのが伝わり、次第に歩くペースを上げ、ぱたりと足を止める。
「わりぃな」
どうやら男は歩いていた道を塞がれたのだと思ったのだろう、すぐに体を逸らしてそのまま通り過ぎて行こうとしているのだけれど、今ここで何もしなければもう会う事はないだろうと判断し、そのまま腕を伸ばして、赤いジャケットを掴む。
「……ルパン」
そう口にして男の体を引き寄せて人の目など気にする事は無く、そのまま抱きつき、そして「会いたかった」と、男の胸に顔を埋める。
「おめぇさん、誰かと勘違いしてんじゃねぇか?」
男はこんな少年見たことないと思いながらも過去の記憶を辿り、ふと、髪の毛に見覚えがあるのを感じ、毛先まで辿っていくと、毛先が黒髪で赤いジャケットの男――ルパン三世は頬を上げた。
「大きくなりやがって」
それでもあの頃の子供はそこにいるようで、これじゃまだ「相棒」というにはまだまだだ、と思い出しながらも、ルパンは少年の両肩を持ち少年を離した。
「久しぶりだなぁ、恋也」
10年の時を越えて、再び出会ったのは奇跡なのか偶然なのか、それともルパンがたまたま仕事でやって来たのか、それは誰も知る事はない。
【お勧め】
・初心者さん向けトピック
[0]セイチャットTOP
[1]個人用・練習用
[9]最新の状態に更新
お問い合わせフォーム
(C) Mikle