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(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集/131


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55: ブラック [×]
2015-03-30 04:54:14

 殺しと少女と嫉妬と(ルパン三世2nd 鏡音リン)


「おい、とっつあん!! しっかりしろ! くそっ 一体誰が……」

 黒い服を身に纏った帽子を被った男、次元大介が、1人の男に声をかけている。
声をかけていても男は起きることなくその場で倒れていた。
 男の名は銭形幸一、ルパン三世専任捜査官である。

 夜の港、人を殺すのには持って来いだろう。
海に死体を捨ててしまえば発見されるのは遅くなる。

 銭形の傍には次元、和服を着た石川五右ェ門が銭形の遺体に近寄り、次元が必死で声をかけ、五右ェ門が次元の肩に手を置いて、何も言わずにそこに居座る。

「鏡音」

 ふと、次元と五右ェ門、銭形から離れた位置に居た、赤いジャケットを羽織った男――ルパン三世が、亜麻色の髪の少女――鏡音リンの名を呼んだ。
 リンはルパンと同じジャケットを羽織って、ネクタイをし、白いホットパンツに、黒のオーバーニーを穿いている。
 格好はルパン三世なのは別に良いとして、リンは右手を後ろに、左手をポケットに入れている。
その表情は悲しそうでも、嬉しそうでもない無機質な顔で、彼女に『感情』というものが存在しないと言うのを悟らせる。

 鏡音リンには感情が存在しない、それは彼女がロボットであって、人間ではないから、というわけではない。
「ボーカロイド」として造られた彼女はその声や容姿、性格などが評価されていたが、いつの間にやら闇組織の手に渡り、『金儲けの材料』として扱われた。
 ボーカロイドでも一応は感情というものはある。
人間でなくても嬉しかったり、悲しかったりするのだ。
 それなのに何故、リンは感情をなくしたのか、金儲けの材料として扱われ、人間として扱われることなく、改造にプログラムの変更をされたのだ。

 当然機械はプログラムを変更すれば変更した通りに動く。
「鏡音リン」という、我儘で、声が高く、明るく、無邪気な女の子は「鏡音リン」という名前だけで、無機質で、命令通りに動き、表情も、感情もなくされたのだ。

 その組織は、組織の中にあるとある財宝を盗みに来たルパンによって潰れたのだが。

「何ですか? 三世様」

 無機質なその声は何を思うわけでもなく、無機質に発していた。

 ルパンの手に酔って潰れた組織が根城にしていた屋敷の瓦礫の山に、リンは何を思うこともなくその場に立っていた。
 丁度冷たい風がリンが当時羽織っていた黒いジャケットをすり抜けて、どこかの彼方に風は消えていく。
 瓦礫の山を後にしようとしたルパンと次元と五右ェ門、初めにリンの存在に気が付いたのは、次元だった。

 何か居るぜ、次元の声と共に振り返ると先ほど述べたようにリンが立っている。

 ルパンが女を大事に扱うのは今に始まった事ではない。
いつもデレデレと鼻の下を伸ばし、時に裏切られ、それでも女を恨むことはないに等しい。
 なので、この時ルパンが14歳の少女に声をかけても、次元と五右ェ門は『いつもの事か』と済ましたのだ。

 そして、リンに感情がない事を話しかけた瞬間に気付いたルパンはこの世界に1人にしておくわけにもいかず、リンの殺しの腕や盗みの腕は知っていたので、暫くの間、行動を共にしようと決めたのだ。
 彼女が元の生活に戻りたい、ボーカロイドとしてライトの下で歌いたいと願うその時までは、こうやって仲間になるつもりでいた。

 ルパンの名を教えたその時から、リンは「ルパン」ではなく「三世」に様を付けで呼ぶようになった。
 プログラム上、リンはその組織のリーダーのいう事しか聞けないようになっていたのを、組織を潰す前にリンの存在を確認したルパンは、そのプログラムを解除した。
 『自由に生き方を選べる』というプログラムにしたため、リンは自分の中で「ルパンのいう事を聞く」というプログラムを作った。


 ルパンは少し表情を曇らせて口を開いた。

「お前が……お前が銭形を殺ったのか?」

 ルパンの目には確信でもない、疑問の光があった。
本当にリンが殺したのか、それとも別の誰かが殺したのだろうか、そんな光がある中、リンは向き質な声で「否」と否定する。

「リンには殺す理由がありません。私は三世様の言う事しか聞かないよう、プログラムされています。なので命令外の事は出来ません」

 彼女の無機質な声は、宙を舞い、その場に響かせる。
そして彼女は無機質で無表情のまま続ける。

「仕事がやりやすくなって良かったじゃないですか。三世様。厄介、だったのでしょう?」

 彼女の無機質な瞳は真っ直ぐなのだ、彼女は背にしていた体を少し傾けてルパンの背中を見つめるような体勢になった。
 ルパンはリンを振り返るように見つめながらも、リンに対してではなく、銭形を殺した誰かに対して怒りを含めながら、普段の高い声とは対照的に、いつもより低い声で「厄介だと言っても殺してぇとは言ってねぇぜ」と口にした。
 その瞬間、少しだけリンのリボンがショボンとしたのはルパンは気付いていない。

「そう……ですか……」

 そして、続ける。

「リンには関係がありません。銭形警部を殺した犯人を捜すなら、早くした方がいいのでは? 逃げられてしまいますよ」
「あぁ、そうだな」

 ちらり、と銭形が被っていたハット帽を見つめ、「それもそうだな」と呟いてから、銭形の遺体に居る次元と五右ェ門に「おーい次元、五右ェ門、とっつあんの事は後にして行くぜ」と声をかけた。
 一瞬次元は信じられないという表情を浮かべたのだが、すぐにルパンが「あとはICOPさんに任せる事にしようぜ」と告げた。
 その言葉に納得した次元と五右ェ門は、遠くから聞こえるサイレンの音に気が付き、銭形から離れていく。

 ポトリ、一滴の赤い涙が地面に落ちた。

 その涙に気が付く者はおらず、ポタ、ポタ、と涙は線を描きながら落ちていく。

「でも良かったです」

 無機質な呟きだった。

「何がだよ」
「いえ、何でもありません」

 リンの呟きが聞こえたのか、ルパンは声に出すもリンは否定し、それから一呼吸置いて、自分の否定を打ち破った。

「だって、私を殺すのは貴方でしょう?」

 その背で輝く銀の刃が見えたわけでもない。
ただ、長年裏の世界で生きていると言葉の節々から誰がどんなことをしたのかと、分かってしまうのだ。
 そう今彼女が口にした言葉は所々省略されている。
 その省略された言葉をルパンはIQ300の頭で理解し、怒りを露にしながらリンに方に振り向いた。

「お前まさか!!」

 そんなルパンの様子を気にも留めないリンは、穏やかにゆっくりと口を開く。

「三世様は……銭形警部と……」

 そして、今初めてルパンとリンは目が合った。
その瞬間、リンの両手には銀に光りつつも赤い涙を流している包丁が姿を現す。

「随分仲が良いですね」

 その時浮かべた表情が今まで見てきた中で一番、人間らしい表情だった。
妖艶に、ふんわりと笑みを浮かべたリンは、ルパンを一言も発しないほどの優しい笑みを浮かべていた。

「私が殺したんですよ? 三世様」

 それはまるで、ルパンに殺して欲しいかの様な呟きだった。

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