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(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集/131


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52: ブラック [×]
2015-03-28 06:44:30

 愛/LOVE(オリジナル/不定期更新)


【帰宅/Return】

 帰宅。
そうただの帰宅のはずなのに、いつもと違う。
 隣に誰かが居る事なんて無かったからそう思うのだろうか。

「今日の授業ほとんど聞いてないって言うか、こう毎日プリントだと裏に落書きでもしたくなるなぁ」

 道はそんなに細くも無いのだけれど、何故だかちあきが前にいて、私が後ろにいる。
その為表情は分からないが、肩が少し上がったので笑顔を浮かべたのだろう。
 ちあきはニィっと笑って、そう言っているのだろうと予想を立てる。
その瞬間、春の風が後ろから吹いたのだけれど、それでも気にする事ではないのかちあきは笑ったまま、歩みを進めていた。

 ふと、スカートの端から黒い布が見えて、思わず目を逸らしてちあきの後ろを歩く。

「ちとせー、聞いてる?」

 くるりと振り返って私の方を向いた途端、チェックのスカートがヒラリと揺れて、少し捲れる。
見間違いではなければ、ちあきの膝には確かに黒い布が見え隠れしている。

「き、聞いてるって……」

 少し、ぎこちない返事をしながらもちあきは教室では見せなかった笑みを浮かべながらも、膝より五センチほど下にある捲れたスカートの裾を元に戻しながら、「聞いてたなら何か言ってよ。俺途中で違う道から帰って行ったのかと思った」と、口にした。

 そうじゃない、と口にしたいのだけれどあまりにも失礼に当たるだろうと思い何も見ていない風を装っているのだけれど、ちあきには見破られたのかそれともそういう表情をしていたのか、ちあきは「どしたの?」と首を傾げた。

「あー、えっと、スカートの下、何か穿いてるの? さっきから気になって……」
「あぁ。半ズボン穿いてる。長さがあるからちょっと折ってるけど」

 ほら、と言ってちあきは恥ずかしがらずにスカートの裾両手で摘まんで私にスカートの中を見せた。
女の子なのにと思うけれど、確かにちあきの言うとおり黒い半ズボンが穿かれており、別に気にする事も無く、ちあきは両手を離す。

「スカートの中見られてもズボン穿いてるぜ、って言えるから中学の時から穿いてるな」

 前を向いてちあきは続けて、ゆっくりと歩き出していく。
目の前ではないのだけれど、夕日がとても眩しく感じて顔の前に手をかざし、ちあきの後を追いながら最寄駅まで目指している。

 その道中の事。

 不意にちあきが「ちとせってさ、いじめられるの?」と尋ねてきた。
お互い名前を呼び捨てにする事の方が慣れているのか、強要はしていないけれど自然と名前を呼び捨てしていた。
 ちあきの問いにイエスともノーとも答えて良いのか分からず、「いじめの定義が分からないから何とも言えない」と返す。
 何を【いじめ】と言うのか、【いじめの定義】とは何なのか、人によって定義が違う。
 机に落書きをされていることから『いじめ』と言う人も居れば、暴力を受けたところから『いじめ』と言う人もいる。
 たいていは前者だろうけれど、私自身前者はいじめに入らない。
ただの暇つぶしだったのだろうと、そう思ってしまうから偏った考え方をしているのだと、自分でも思う。

「いじめの定義ねぇ……。大体は机に落書きされてたらいじめられてるって思うな。ちとせはそうは思わない?」
「思うか思わないかだと、思わない。かな」
「珍しい考え方」

 『珍しい』そう言ってくれたのはちあきだけな様な気がする。

 中学が同じ名取にも『いじめの定義』という話で盛り上がった事があった。
 当時はまだ仲は良い方で、普段行動も一緒だったのだけれど、名取は私と同じ高校に入学して西城に惹かれて、それからは私との縁を切った。
 人の縁なんてものはそんな程度で、特に女はとっかえひっかえが多いと思う。
 名取が絶交と言ったわけでもなく自然と縁が切れていったと言った方が早い。

 そんな事より、私と名取が仲の良い時期があってその頃に『いじめの定義』は何だと思う、なんて会話で、私がちあきに言った事をそのまま名取に言った事がある。
 その時の名取の返答が『ちとせってさ、ひねくれてるね』だった。

 ひねくれている自覚はあったものの、実際に見ている世界が楽しくなかったのか、父から聞いた話の方に惹かれたのか、おそらく両方だろうけど、対して気にはしていなかった。
 ひねくれていても私は私で、私が思った事は一意見であり、正解ではない。
それすらも考えない事に呆れていたのか、名取の発言に怒りなど湧いてこなかった。

「珍しい?」
「まぁ、珍しい方だと思う。俺の周りそんな考え方する人居なかったからな」

 それは一種の、『ひねくれ者』として捉える事が出来るセリフなのだが、その後にちあきが続けた。

「俺が言えた事じゃないけど、良いんじゃない? そう思っても。俺みたいに興味ないで片付けるよりよっぽど賢いよ」

 ふとどんな表情をしているのだろうかとちあきの隣に進み、顔を覗きこむようにすればどこか悲しんでいるように見えたのは私の錯覚なのだろうか。
 ちあきにもまた、何かがありそうな雰囲気を出しつつも人通りの少ない道を歩いていると、途端に「今日、これから時間ある?」と尋ねてくる。

「え、まぁ……あるよ」

 今日は父も帰って来ないので家には一人という状態なので、夜遊びなどはできるのだけれど、警察に補導されるのがオチなのでしないが、これから何処に行くのだろうという僅かな期待と不安で押しつぶされそうになりながらも、ちあきの隣でただ返答を待つ。
 こうやって誰かと放課後遊びたいと思っても、誰一人友人といえる友人は居ない。
数回話す程度なのはあるのだけれど、一緒に帰ったり、話をしたり、どこかに行く可能性もある会話もした事がない。

「どこか行くの?」
「行きたいけど、制服だと面倒だからな。俺の家でも来るか? 門限の時間までなら何か話していても問題ないだろ。外だと体調崩しやすくなるしな」

 そして、駅が見えて、改札口に行く前に切符を買うと言ったちあきに続いて私も切符を購入し、2番ホームが丹神橋駅行きだったので、2番ホームに向かう。
 丹神橋市は基本的に普通、快速、区間快速、全て止まるのでどれに乗っても問題はない。
だから来た電車に乗れば良いのだけれど、次の電車があと30分で来ると電光掲示板で確認したちあきは、2番ホームに向かう道中にあるシュークリーム屋でシュークリームを購入した。
 期間限定の抹茶シューだった。

「ちとせは? 甘いのと抹茶嫌いじゃなかったら買ったら?」

 一瞬どうしようかと悩みつつも抹茶も甘いのも嫌いじゃなく、寧ろ好きなので買おうと思ったのだけれどその抹茶シューが二百三十円で、今の手持ち金が百十円だった。
 千円があるかと探してみたのだけれど千円札は見つからず、買えない状態になる。

「百十円しかないから良いよ」
「一個ぐらい奢ってやるのに」
「良いよ、悪いし」
「俺この五百円崩したいから奢らせろ」

 どうして今日話したばかりのクラスメイトにそこまでするのだろうと思いながらも、ちあきを止める事は出来なくて、もう一つ抹茶シューを購入すれば私に渡してくる。

「ありがとう」

 そんなことしなくても良いのに、と思いながらも抹茶シューを受け取って一口かじれば抹茶クリームが丁度丁度良い具合の甘さで、私好みの味だった。
端から見れば女子高生2人がシュークリームを食べているだろうと思いながらも、行儀は悪いものの、食べながら2番ホームに足を進めた。

 ちあきは食べるのが早いのかもうシュークリームを食べ終わっていて、一緒についてきた包み紙をゴミ箱に捨てている。
 その様子を見ながら残り半分のシュークリームを食べながらも、ちあきが私に謝罪した。

「あ、そういえば抹茶オレ飲んでたから抹茶嫌いじゃなかったな。ごめん」

 特に気にしていない事を謝られて首を振り、気にしていないという意思を伝えつつも残り三分の一になったシュークリームを食べ、口を動かしていれば丁度アナウンスが聞こえて、あと20分で電車が来ることが分かった。

 最後の一口を食べて包み紙を全体が銀色のゴミ箱に捨て、イスに腰掛けながらちあきに尋ねた。

「どうして、そこまでするの? 今日話したばかりのクラスメイトなのに、奢ったりなんて普通は出来ないと思うけど」

 俯きながら尋ねれるとちあきが隣に座って、今日初めて聞いた時と近い声で返答した。

「『俺の周りにそんな考え方する人居なかった』って、言ったのは覚えてる?」
「うん、まぁ」
「それって捉え方によると『ちとせがひねくれ者』ってのと『俺がひねくれ者』って捉え方があるのは知ってる? 周りにそんな考えを持つ人が居ない。それってつまり、自分と考えが合わない、って事だと思わないか?」

 多分私を見ながら言っているのだろう。
だけれど、そうだとしてもどうして、私にそこまでするのか、それは分からない。
 不満、後悔、恐怖、不服、どれも違うけれど、それと似たような感情なのは分かる。
私が今、不安で疑問を持って、自分が自分じゃなくなる様な感覚に浸っているのだ、という事だけは理解ができている。
 
「でも、それだと、奢る理由にはならない」
「奢るのに理由がいるのか? 何か理由を付けて欲しいのか? あんな財布の隅から隅まで探してるの見たら買いたいって気持ちが何処かにあるって事だろ。それで、足りなかったんだから、奢ってあげた。それは理由にはならない?」

 特殊、その言葉が頭から離れない。
私ならそこに居たのがちあきじゃなくても例えちあきだとしても奢ろうとは思わなかっただろう。
 ちあきは一見冷たそうに見えてきっととても思いやりがあって、優しいのだろう。
でもそれを表に出そうとはせず、隠しているのか面倒だから出していないのかは分からないけど、私にその優しさを出したというのは、どうしてなのだろうか。

「……じゃぁ、聞くけど何で俺に忘れ物でもしたと聞いた? 普通なら俺の事は無視してると思うけど」
「それは……。理由なんてないよ……」

 純粋に忘れ物でもしたのだろうかと思ったから、そう聞いただけで、それ以外には理由がない。
それを答えても良かったのだけれど、何だか違う気がして答えずに理由はないと答えるとちあきは「ほら、理由もないのに俺とやってる事は同じじゃん」と呟いた。
 あえて聞こえるように呟いたのだろう。

「例え何か理由があったとしても人間って奴はそれを隠したがる。俺にはどうでも良いことだけどさ、ちとせが俺に話しかけたのも、俺がちとせに奢ったのも結局は形が違うだけで一緒なんだ」

 上手くまとめられた感が残りつつも、電車が来るアナウンスを聞いて、ちとせは立ち上がった。
そして七秒後に到着すると言うアナウンスの声にいつも本当なのか、と心中で突っ込みを入れながらも私も席を立ち、ちあきの隣で電車を待つ。

「ま、良いや。何か暗い話したな、この話はもう終るか」

 そうちあきが呟いている頃に電車が来て、目の前で止まり、ドアが開かれ、中から数人の人が出てきて、電車の中に入る。


『5月上旬。
ちあきの一面、というか、ちょっとした部分を知ったような気がする』

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