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(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集/131


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41: ブラック [×]
2015-03-12 06:48:52

VOICE(ルパン三世/ラヴリーP/VOICE)


 雪が舞っている時期だろう。
はらり、はらりと何かを悲しむように雪の結晶が積もっていく。
 その時期からだったのかは分からない。

 ――ただ、何かを愛していたのは覚えていた。

 **

 俺は雪が降っている中、傘も差さず田舎町と呼べる町を歩いていた。

「――」

 ふと、声に出した名前は雪の中に消えていった。
 何がしたいのかは分からない。

 俺はただ、ついていくだけだった。
言われた作戦、言われた経路、立てられた計画、その全てに肯定やら否定を続け、コンビを組んでいるだけだった。

「……――」

 もう一度声に出してみる。
その声は渇いて、あの頃のような若さは持っていない。
 アイツに届く声ではなくなっていた。

 ――お前は今、何がしてぇんだ?

 飼い犬と言われるとそうなのだろう。
用心棒、殺し屋、そういった職業は雇い主が居てこそ成り立つものだ。
 雇い主が居ないと俺は何もできない一匹の野良犬だ。

「待ってろ、なんて来ねぇなら言うなよ。全く」

 雪の音にかき消されつつも俺は1人で呟いた。
 足元は雪が積もって歩くことは出来るが、辺り一面真っ白だ。
 窓から映るぼんやりした赤色は以前も同じように俺たちも浴びていた。
時にあの女がやってきて、自由気ままな女王の様に振る舞い、情報を提供し、計画を立て、裏切られる。
そんな時期もあったんだ。

 帽子に積もってくる雪を払いながら、一面真っ白の道を歩き、1本の木を求めて丘まで歩いていく。
 どうしてこんなところにアジトがあり、こんな木が立っているのかは聞いた事は無い。
 聞いたところで誤魔化されて終る。
そういう奴なのだ、アイツは。

「なぁ、お前は何がしてぇんだ? この雪ん中、俺を呼び出しておいて何お前さんはぐうすか昼寝してんだ?」

 木の目の前に立ち、話しかける。
木のすぐ隣は赤い屋根の小さな家。

 持ち主が居ないのだから、大分前に勝手に入ったところ少し生活感が残っていた。
 アイツにしては珍しいと思った。
場所を変えるときは全く生活感を漂わせることなく去っていく癖に、今回は机の上に置きっぱなしのコップや、読まれていただろう、歴史書や哲学書、そういったものがリビングのテーブルに置かれていた。
 そこで、今まで生活していたかのように。

「……なぁ、聞いてるんだろ? そこに居るんだろ? 何とか言ったらどうだ?」

 分かっている。
もう分かりきっている、この木はただの木なのだと。
 神でもなければ悪魔でもない。

「なぁ――」
『もう止めろ』

 ふと声が聞こえた。
俺が聞きたくて仕方ない声が、360°から聞こえた。
 聞き間違えるはずも無い『相棒』の声が。
 
 あのナルシストで、自由気ままで、女にだらしなくて、裏切られても何ともないと言う顔で『裏切りは女の特権みたいなモンさ』と決め台詞を吐くアイツの声が、確かに聞こえた。

 「おい! どこに居るんだ!! さっさと姿を現せ!」

 どれだけ叫んでもアイツは返事をしない。
確かに聞こえたその声を求めて、木の後ろを覗く。
 誰も居ない。

 見えるのは灰色の世界と悲しそうに啼いてる海。

 何を根拠に居ると思ったのだろうか、そろそろ戻る場所もないのに戻ろうかと思った。
それでも何処かに隠れているんだと密かに思い、ドアの目の前に立つ。
 木製で出来た古びたドア。
何度か壊れたのだろう、修理の跡がある。
 どこまでも器用な奴だ。

 ギィィと音を立てながらドアを開け、リビングに向かう。
どうせソファで寝ているんだ、それかコーヒー風呂にでも浸かっているんだろう。
 そう言い聞かせて俺は居もしない相手を捜す。

 …………。
リビングは無音だ。
 誰もそこに居ない、あの時の俺たちも、これからの俺たちも。

「そんな顔してねぇで、一杯どうよ? この酒結構いけるぜ」

 過去の記憶が蘇る。
グラス片手にボトル片手にもう酔っている状態なのだが、それでも飲もうと誘ってくる姿を思い出して頭痛がする。

「おい……」

 ぐらりと視界が歪む。
 倒れる、普段なら何とかできただろう。
今の俺にはそれほどの余裕もない。
 そのまま床に膝をついた。

 コロコロと足元に何かが転がってくる。
小さい、輪は俺の足元で円を描きながら回り、パタンッと倒れた。

『見ろこの輝き。不二子喜ぶぜ』
『また不二子かよ。懲りねぇな、全く』

 過去の記憶と今現在の場所がリンクする。
 確かに俺たちはこの角度のものは何度も見ている。
転がってきた指輪を手に取り、立ち上がってもう一度辺りを見渡す。

 家具、色、配置、確かに物は違っている。
モノクロカラーが赤色、木製テーブルがガラス製テーブル、物と色は違っているが、配置だけは変わっていなかった。
 何故前来たときに俺は気付かなかったのか、それは馴染み過ぎていたからだ。

「おもしれぇ」

 鼻を鳴らして放った言葉だった。
未だにアイツが何をしたかったのかなんてものは分からないし、分かろうとも思わない。
 俺が組んでいる相棒は何を考えているか分からない奴だ。

 久々に笑っているのが実感できた。
俺はイイ獲物を目の前にした時の笑みを零している。
 身体中が熱くなる。

 懐かしいと思える程の時は経っているのだろうか。
3年は懐かしい思い出として良いのだろうか。
 けれど、そこには『懐かしい出来事』が起きた場所だ。
 この家ではなく、前まで使っていたアジトで酒を飲み、賭け事をし、煙草を吸った、あのアジトでの出来事は『懐かしい出来事だ』。

『そうかい。喜んで貰えて光栄だ』

 そして聞こえる声。
どこかでテープでも流しているのだろうかと疑うほど大きく聞こえるが、それは俺の幻聴だ。
 アイツはもう居ない。

「お前さん、こんなところにアジトなんて持ってたか?」
『ただの気まぐれさ。もしもの事ってのも考えていたのさ』
「その結果がこの有様だ」
『……お前はこれからどうすんだ?』

 俺の頭の中でアイツが尋ねる。
これからどうするか、このまま何もないまま過ごすか、あの頃に戻るか、はたまた別の道に進んでいくか。
 
「お前さんが好き勝手やっていた様に、俺も好き勝手にさせて貰うぜ」

 片手を振って玄関に向かう。
その際アイツは何かを発する事はなかった。

 家から出て、さっきの木まで戻る。
木から崖までの距離は短い。
ここから走って飛び出たら確実に命を落とす。

 それが分かっていて崖のギリギリまで近寄り、懐からワルサーを取り出す。
弾は全部で8発。
 その1発でも脳天に当たればどうなるかは散々理解している。
 
 不思議と恐怖は襲ってこなかった。
不二子に持っていかれたと思われた指輪も、家具の配置も、読んでいる本も、全て俺に対する『挑戦』だった。
 今、俺はここに居るという嘘を作る為の。
そうする必要はあったのかは分からないが、アイツにはあったのだろう。

 だから俺も、アイツには意味がなくても俺には意味がある事を行う。

 ――チャキ。

 こめかみにワルサーを当てる。
鉄の冷たさと雪の冷たさ、冬の寒さで俺の体は冷えてきている。
 このまま外に居ても凍死するだろうが、それでは気が済まない。
殺されるなら、アイツと戦ったこの女で殺されたい。
 
「……あばよ、ルパン三世」

 ――バァン。

 発砲の音、銃口から煙が出て手の感覚がなくなり、身体中の力が抜けそのまま下に落下する。

 ――ただ、何かを愛しているのは覚えている。
――俺はルパンを愛している、それは恋愛ではなく尊敬だ。

 **

 3年前にルパン三世は「待ってろ」と言って俺の目の前から姿を消した。
どうして待ってろなんて言ったのかは分からない。
 ただ、どこかのマフィアの幹部と撃ち合いをしていたのは覚えている。
俺たちはマフィアの幹部から逃れてアジトに帰った。
 そのままルパンはアジトに帰ってこなかった。

 次の日、不二子が足腰に力が入っていなく、アジトのリビングを開けて泣いた。
「ルパンが死んだ」と、声にならない声で泣いた。

 初めは冗談だろうと思っていたが、ルパンの死がテレビでも取り上げられていた。
遺体はどこにあるのだろうかと思っていると、ICPOの手に渡っていたので、俺と五右ェ門と不二子で盗んだ。
 それで、銭形も当然追いかけて来て、いつもの様に諦めが悪い銭形なのだが、その時の銭形は本当に必死だった。
「ルパンの葬式だぁ!」と叫びながら追いかけてきた時は、あぁ、銭形も同じ事を考えてくれたのかと、銭形に捕まった。

 ルパンの死因を聞けば、1人でマフィアのボスの所に乗り込み、マフィアのボスの6歳の娘に後ろから撃たれて即死だと。
 笑える話だった。
 そして人気のないこの街で俺と五右ェ門と不二子と銭形だけで葬式を挙げた。

 俺たちはそのまま捕まるのかと思えば、銭形は俺たちを捕まえる事もなく、戻っていった。

 俺たちはそこでコンビを解消した。
ルパンファミリーは終った。

 **

 今何してんだ、何してぇんだ、俺は此処だぜ。
切なく降り積もる雪の様に眩しすぎて、強く生きてゆく華の様に幸せになれよ、五右ェ門、不二子、あと銭形。

 ――ルパン三世、おめぇと組めて楽しかったぜ。

 俺はルパンの命日の3年後に冷たい海へと落ちていった。

「ルパン三世」

 最後に大泥棒の名を口にして。 

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