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(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集/131


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自分のトピックを作る
81: ブラック [×]
2015-05-27 23:36:33

 Abandoned cat(ルパン三世2nd)


 何気なしに、というより、学校の帰り道をただ帰宅するという意味だけで歩いていれば、見慣れない物がそこにあった。
 大きな段ボール箱からはみ出た腕と脚。長さ的には大人だろう。まるで捨て猫のようだ。
 布団代わりか隠しているのか恐らく後者で、ダンボールに風呂に浸かるみたいになっている誰かの上に、赤いジャケットがあった。
 飛んでいかないようになのか、ジャケットを片手で押さえ、規則正しいとは言えない動きを繰り返していた。それと同時に唸り声みたいなのが聞こえる。
 うっ……。どこかを痛めているのだろうかと思いながら、黙って見続ける。
 意識はあるのだろう、時々ジャケットを押さえていた手に力が入る。

「くっ……」

 顔を見なくてもかなり辛そうだという事が分かるが、助ける必要などない。――そう思う人もいれば、助けて後々利用しようと思う人も居る。
 俺はどちらに染まるかと問われればどちらでもあると思う。助けたところでもう手遅れだという場合もある。変に助けて後々後悔されるなら、助けない方が良いだろう。
 
 結論から言うと、俺は誰かを助ける時は「人を選ぶ」という事だ。我ながら身勝手な話だが。

 そしてこの場合。目の前には多分大人が居る。そして呻き声と共に息遣いが荒いのが、体の動きで予測できる。
 助けようと助けまいと俺の勝手だ。目の前で息絶えられても後味が悪い。体もとっくに冷えているだろう。何しろこんな土砂降りの雨で、体温が変わらないというのはないだろう。
 下がっては上がるか、下がったままか、上がったままだと思う。
 もう無意味だとは思ったけれど、一応差していた傘を誰かの上に覆ってみた。水の跳ね返る音と共に、誰かに水が当たることはない。

「誰、だ……?」

 声を出す事も辛そうだと思いながらジャケットの下から声がした。きっと初めから気配はしていたのだろう。隠すつもりもなかったし、俺が気配を消そうとしたところで所詮は子供の遊びでしかない。

「ただの通りすがりの一般人ですよ」

 そう言えば、何の真似だと問われた。そりゃそうだろう。いきなり一般人が居て、傘を差されたら誰だってそう思う。俺だって同じだ。
 顔は分からないが、声の低さで何となく不機嫌だというのが分かった。地声じゃない、怒りを含んだ声だ。

「衣食住は提供できますけど、どうします?」

 ホームレスなのかと聞かれると答えはNOだ。ただのホームレスだったら俺も近付かずにさっさと帰宅している。
 何故目の前に居る誰かに、こうやって衣食住など提供しようと思うと、見覚えのあるのがあったからだ。
 まず、赤いジャケット、そして白のスラックス、革靴、これだけだと判定しにくいのだが、先程聞いた声は、明らかにそのものだった。
 だがどうしてこんな所に居るのだろうか、もっと人通りの少ない所に居るべきだろう、学生や仕事などで通る人は多いだろう。そんな場所に居たら、ほぼ確立的に、アウトだ。こういった職業の人間は特に。

「要らねぇよ」

 拒絶。拒絶された事に何も文句はない。職業上仕方の無い事であるからして、無理に押し付けるのもよくないだろう。他に理由があるのかどうかは分からないが。

「傘は差し上げます。返品不要です。要らなくなったら捨てて下さい。せめて、この雨が止むまでは使って欲しいですが」

 地面に傘の取っ手を置き、顔の部分に当たる所を覆う様に傘を傾けた。衣食住が要らないと言うなら、せめて体調ぐらい管理して欲しいと、画面越しにしかお会いした事がなかった誰かに、遠まわしに告げてみた。
 余計なお節介でも構わないから、一瞬だけ話す事が出来て良かったのだ。例え自分がずぶ濡れになったとしても。

 **

 よく晴れた晴天の事。帰り道と行き道が違うというのも学生の気まぐれだろう。昨日の事をふと思い出して、その方向に歩いて行った。居なくなっているのかも知れない。完全にそこに居るという証拠は一切ない。
 角を右に曲がったら、昨日見た段ボール箱が存在した。昨日よりグショグショのへニョへニョ状態で。
 雨に濡れたからこんなになったのだろうと考えるまでもない。それでも、ダンボールからはみ出た腕と脚。
 段々近付いて行って、昨日と同じ人物だと見ても分かる。昨日とは様が違うが。昨日より悪化していないかと思われる呼吸の速さに、ジャケットを押さえている指先の震え。
 そして、濡れたダンボールの上から見て左端と右端に赤い染みが出来ていた。恐らく血液だ。 昨日の雨で滲んで流れて来たのだろう。
 
「寒そうですね」

 声を掛けてみた。どういう反応をするのか、また不機嫌に返事をされるのか、そういう口実を自分の中で作った。

「おめぇか」

 どうやら覚えていてくれたようで、頬が緩んだ。そうえば昨日置いていったビニール傘が見当たらないと思っていると、ダンボールで隠れていたようで、畳まれて置いてあった。
 
「傘、そこにあんだろ。それ、返しておくぜ」
「返品不要って言ったはずですけど……」

 身を屈めて横向きに置いてあった傘を手に取った。それに気が付きながらも、気付いてない振りをした。
 
「大分、声嗄れてますけど、緑茶でも飲みます? 未開封ペットボトルの」

 水筒を持っているわけではない。たまたま自販機で買った緑茶。買った癖に開けてはない。何故買ったんだと思われる。思いたければ思え。

「んあ? あぁ……」

 一瞬何を言っているのか理解出来なかったのだろうかと思ったのだが、曖昧に肯定をされ、鞄からペットボトルを取り出して、蓋を一回外してまた蓋を軽く閉め、投げ出されてる手に、ぺッペットボトルを当てた。寒い時に冷たい物を触った時の様に、ピクリと手が震えたのを目に捉えた。
 
「蓋、今さっき開けたので、開けやすいと思いますよ」

 そう言うとペットボトルを掴み、腕を引っ込めて緑茶を飲んでいく音が聞こえてきた。
 よほど喉が渇いていたのか、返って来たペットボトルはほぼ空だった。と同時にそれが付いていた。

「風邪、引きますよ」

 昨日の雨は凄かった、それでアレだけ濡れていたら風邪も引くだろう。昨日見た時、その白いスラックスは雨に濡れていた。それもビショビショに。

「あ、そう……」

 他人事の様にしたので何も言えなかった。再び腕がダンボールの外に出てきて、腕を伸ばしたので何か欲しい物でもあるのかと尋ねると、何も言わず、羽織っていたブレザーを掴んだ。
 そろそろ、カーディガンだけでも寒くはないので、衣替えしようと思っていた。だけれど、そんな事はどうでも良い。何故このように俺のブレザーを掴んだのか、それを考えるべきだ。

「んっ!?」

 急に体が文字通り跳ねた。どうしたのだろうかと思いながらも、ジャケットを剥がす事はせずに、見つめていると、脚がガクガクと震えているのに気が付いた。
 何にそんな震え上がっているのか、全く分からないが何かがあるのだろう。モゾモゾと何かが動いているのを捉えた。
 小動物ぐらいの大きさがあり、上に行ったり下に行ったりと素早い動きを繰り返している。そして真ん中あたりで動きが止まったと思ったら、それとほぼ同時に体が反り返ったをの見た。
 
「くっ、ぁ……」

 声を抑えているのだろう。つま先だけで地面に足を着け、ブレザーを握り締めている。本当にどうしたのだろうかと思っていたら「あっ」と色っぽい声が聞こえた。
 その声と同時にビクンと体が跳ねて、腕伝いに何かが顔を現した。
 チュウ。小さい鳴き声と共に、灰色の鼠が俺を見上げる。俺を食う前に俺がお前を潰す、だからそんな目で見るな。いい加減に腕から飛び降りるなりしたら良いのにと思ったので、鼠を摘まみ上げて後ろに軽く、鼠が着地できるように放り投げた。
 どこからか迷い込んできたのか、良い隠れ家だと思ったのかは分からない。

「もうどこかに行きましたよ」

 だから手を離せ、何て訳じゃない。どうして俺の服を掴んだまま一向に離す気配もないのだろう。そんな事を思っていたら、咳き込みだした。
 
「もう一度、衣食住は提供できますけど、どうします?」

 昨日と同じ質問をした。昨日より大分弱っているだろう。既に風邪も引いて意識も定かではないかも知れない。そんな事分かりもしないのに、俺は自分にそう言い聞かせた。

「……お前は、見られたくねぇ時ってあんのか?」

 急に質問をされた。全く関係のない質問。俺はどう答えるか悩んだものの、「俺は特に気にしない方です。やれって言われたから行動する方なので」と答えた。
 嘘ではない。見られたくないと言うより、見たところでだから何だというのが俺の考えな為、あまり気にした事はない。彼女とキスしていたり、それ以上の事をしているのを見られたとしても、気にはしない。
 そんな質問をしてくると言うのは、目の前で弱っている誰かは、見られたくない姿になっているかと、疑問を持つ。どうなっているのかは分からない。
 
「その質問は、貴方が見られたくないって思ってるから、俺に聞いたのですか?」
「……っせーなぁ」

 柔らかく、けれど、どこか肯定したくない返事が返ってきた。何がどうなっているのかは想像するしかない。風邪で弱っているから見られたくないのか、他に理由があるのか。

「血の付いた傘とペットボトル」

 俺の呟きに、反応した。そのままダンボールから目を逸らさずに口を開く。

「ダンボールに血の染みが出来ていたから、怪我してるのかと思った。傘が綺麗に畳まれているけれど、所々血が付いているという事は、畳んでいる最中に付いたものだと考えられる。次に渡したペットボトルに付着してた血。アレは飲み口に付いた様で、下に血が垂れていた」

 ペットボトルに付着するという事は、唇を噛み締めて切れて血が出たのか、元から唇を怪我していたと考える方が良いだろう。それに、意味もなく伸ばされた腕。
 鼠がいたから、何て訳ではないだろう。俺のブレザーを掴んだままだというのはどこか引っかかる。離してもいい筈だ。何故離さない。

「俺のブレザーを掴んだままなのは、俺にこの場を離れて欲しくないからでは?」
 
 俺の問いでやっと気が付いたようで手をゆっくりと離していった。離れていく手を見つめながら、そのまま思っていた事を口にした。

「俺は貴方が好きです。男として憧れているという意味で。こうやって会話できる事自体が俺にとってあり得ない事です。だからかも知れないです。俺が、俺自身が、貴方を助けたいと思うのは。だから、俺に、住みかだけでも提供させてください」

 そう、頼んだ。俺が人を助けるのに「人を選ぶ」のは、俺にとって当たり前の事で、今もこうやって選んだ訳だ。
 この人を助けたい。だから、ペットボトルも未開封で、意味もなく緑茶を買って、今もこうして此処に居座っている。
 その服の配色を見た時、声を聞いた時、投げ出された腕と脚を見たときにもしやと思った。そしてその通りだった。その為、余計に助けたいと思ってしまっていた。だからかも知れない。気が付いてしまっていた。
 血が付着していたビニール傘、ただ単に畳んでいたら血が付いたのかも知れない。そんな傘をわざわざ返す人など居ないだろう。それが返って来たというのは、俺に、気が付いて欲しかったからなのかも知れない。血が付いたペットボトルも同じだろう。

「……すみません。忘れて――」
「一切合切、笑うなよ」

 何事もなかったかのようにしようとしたら、急に忠告されて何かあると思いながらも肯定を表した。笑う事なんてない。
 
「笑うわけ、ないでしょう」

 俺が言ったらジャケットを剥がそうと投げ出された右腕を、ジャケットに持って行ったものの自分で剥がす事に躊躇しているのか、数秒ほど動かずにいた。
 そして小さく「わりぃが、剥がしてくんねぇか?」と問われた。YES、NOすら答えずにその大分水分を含んだジャケットに手を伸ばす。
 
「じゃ、剥がしますよ」

 一応声を掛けてジャケットを剥がした。そうすると、目元を赤くした一人の男と目が合った。
 気まずそうな顔で俺を見上げていた。そして気が付いた。ジャケットを頭から被るようにしていたのは、その三角のと長い筒状の所為だろう。と同時に、血液の臭い。
 右腹と左の太腿から血が溢れていた。撃たれたと言う方が確率的には高い。太腿には、トレードマークの一つ、黄色いネクタイが巻かれていた。
 怪我自体は問題に含まれていなかった。俺の中で未だに信用できないのが、黒い耳と尻尾。ユラユラと揺れたり、ピコピコと動いたりしている。どうしてそうなったのか何て今聞いても返ってこないだろう。

「そりゃ、アジトに帰るのは躊躇われますね」

 怪我だけならアジトに戻っていただろう。だが、一切戻ろうとしないのは、その耳と尻尾の所為だろう。戻らないのではなく、戻りたくないのだ。そして、今の姿を例え相棒ですら、見られたくなかったのだろう。

「……ダンボールの中は寒いですよ。俺の使ってない部屋、隠れ家的には使えると思いますが、助けてあげましょうか?」

 助けたいと改めて思った。こんな姿で留置所に行かせるなら、こんな道端より俺の住んでる部屋に来て欲しい。ましてや顔色も悪い状態で警察に捕まりはしないだろうけれど、絶対に警官に笑われるのが目に見えていた。

「――あぁ、助けてくれ」

 藁にもすがる思いだったのだろうか。それとも風邪を引いているのからそう見えたのかもしれない。どちらなんて言えないが、俺はその姿と、震え上がった声を聞いて、左腕で男を抱きしめた。俺が、命を掛けてでも守ってやるという意味を込めて。

82: ブラック [×]
2015-05-29 20:24:23

【土砂降りの雨 ルパン三世の場合】


「うわー、まだ降ってるよ」
「止まないね……」

 そんな話を聞きながら俺は次元の居る教室に向かった。この雨の中帰る気は更々なく、相棒の次元もそうだろうと思い、若干重たい足を動かしていた。
 どうせ傘がないんだ、帰ったら絶対に風邪を引くだろう。其れは目に見えていた。

「次元ちゃん居る?」

 ガラガラとドアを開けると、そこには次元と話をしている女子生徒の姿があり、何だか楽しそうに会話をしているようにも見えた。
 名前は確か――立花柚木(たちばなゆずき)。茶髪のセミロングで、お胸の方は不二子ちゃんよりも大分小さいが可愛らしい女の子。

「おう、ルパンじゃねぇか。なんだぁ? おめぇ傘でも忘れたか?」
「そーなの! お家まで遠いデショ? だから止むまで待ってるってわけ」

 ごくろうな事で。じゃ、俺は帰るぜ。そう言って次元は立ち上がった。
 いつも家ではぐうたらしてる癖に、帰る時はルンルンなんだから。そういうところが次元らしいったら、らしいけど。
 鞄を持って俺の方に歩いてくる次元は俺の横を通り過ぎる瞬間に、「傘は忘れんなよ」と一言余計な事を言って、帰宅してしまった。
 その場に女の子を残してまで。
 次元ちゃん!? 彼女さん置いて行ってますよ? おーい。

「次元ちゃんどしたのよ……」

 俺が途方に暮れていると柚木が「傘忘れたの? 珍しいね」と言って来るので「たまには濡れようと思ってな。水も滴るイイ男って言うだろ?」と言えば「風邪引くよ」と、間髪入れずに突っ込まれた。
 
「そうなんだなぁ。風邪引きたくねぇから、俺は残ってんだけどよ、柚木ちゃんは何で残ってんの? しかも次元と一緒に」

 次元と一緒に居た事に黒い何かが襲った。嫉妬だろうか、言葉にすれば『嫉妬』であっているはずだ。
 何故、次元と楽しそうに居たんだ。傘を持っていないなら入れて欲しいと強請っていたのだろう。それは良いとしよう。けれど、傘は持って来てある。登校の時に使わなかったのだろう、全く濡れてない傘が、机の横にかけられている。

「ルパンを待ってたから、私が」
「え? 何で?」
「一緒に帰りたかったから!」

 背後にお花が見えるのは気のせいだ。俺様が勝手につけたお花畑だ。

「へー。そう」

 たった一言返せば不満だったのか柚木は頬を膨らませて「何よー。嫌だっていうの? 折角相合傘しようと思ったのにぃー」と、言うので、女の子を大切にする俺様カッコイイ何て思った。

「ならしようじゃない。俺丁度傘ないんだよなー。柚木ちゃん入れて?」
「うん!」

 互いにノリが良いと時々歯止めが利かなくなる。そういう時が柚木と居る時は多い。

 **

 学校から出てしまうと、無性に恥ずかしさを覚える。俺達以外皆相合傘などしていないから、余計にそう感じてしまう。

「ルパン、ごめんね。無理に一緒に帰らせたみたいで……」

 身長的にも俺が傘を持つことになり、柚木が濡れないようにしていると、柚木が小さく呟いたので、少し驚いた。
 それでも顔に出す事はせずに、ニコニコといつもの「お調子者」の笑顔を浮かべながら「なぁーに、傘が無かったのは事実だしよ、俺にとったらラッキーってモンよ」何て、何の励ましにもならない言葉を吐いた。

「うん、でも……ごめんね。忘れ物したから取りに行く、ルパン先に帰ってて」

 何かを言う前に柚木は俺から離れて行った。傘から出て行ったのだ。
 当然体中雨に濡れる羽目になるのに、太ももまでの長さのスカートを穿いた女の子は、走って傘の外に出て行った。

「柚木ちゃーん?」

 声を叫ぶようにして出しても返事はなく、ただひたすらに真っ直ぐ走って行った。


 そんな姿を見せられたら、追いかけないわけにはいかないデショ。だから追いかけた。
 ビニール傘を持ちながら逃げていった女の子を追いかけて、すぐに見つけた。路地裏に隠れていた。

「そんなトコに忘れ物なんてするのか」

 声をかけたら自分でも驚くほどに棘のある言い方だと思う。パチパチパチ、雨が跳ね返る音と共に、柚木は驚いた顔で見上げながら「先に帰ってって、言ったのに……」と、最早涙なのか雨なのか分からないが、目元を濡らしながら口を開く。
 口が動くたびに、唇から放たれる白い息と荒い息が怯えてるようにも思えた。

 気が付けば腕が勝手に動いていて、気が付けば傘を手放して羽織っていたブレザーを脱いで柚木の頭に被せていて、気が付けば柚木を抱きしめていた。

「んのバカ! 風邪引くだろ! 忘れ物なんてしてねー癖に!」

 思わず怒鳴ってしまった。ありゃ、こりゃ、余計に怯えられたぜ! と思ったところでもう遅い。震えながら「ごめん」と謝る柚木を力いっぱい抱きしめた。女心なんて分かっちゃいない。
 実際不二子の様に強欲で我侭なら何をすれば良いか何てすぐに分かる。だが、不二子と柚木は違う。どんな高級な物をプレゼントしたとしても、喜ぶかもしれないが、それと同時に思うのは申し訳なさだろう。不二子はそんなのお構いなしだ。
 
「風邪引くだろ、取り合えず暖めるとこ行こうぜ」

 そう言ったものの、周りには住宅しかなく、あるとすれば学校と、公園だった。飲食店がちらほらとあるのだが、こんな姿で行く訳にもいかず、どうしたモンかと思っていると、大分先にあるホテルが見えた。
 
「ルパン」
「どしたの?」
「熱い」

 もしかしてと思ったので、額に手を当てて熱を測るとかなりの熱があった。さすがに俺も風邪を引いたらやばいから傘を取って水を切って、柚木を歩かせる羽目になったのは悪いが、歩いてホテルに向かった。

「ルパン……ここって」

 ラブホテル。カップルの男女が一夜を過ごすことで有名な。

「襲いやしねぇよ」

 一言自分に言い聞かせるように放ち、チェックインをして、部屋に辿り付いて、靴を脱いで服のまま風呂場に直行した。
 どうせ濡れてるのだし、柚木も裸を見られるよりよっぽどましだろう。

「ルパン、熱い!」
「ちょっと我慢しなさいって」
「そうじゃなくて、お湯が熱い! 温度下げて!」

 どうやらお湯の温度が熱かったらしい。温度確認をすると46度。そりゃ熱出てても熱いデショうに。お湯の温度を下げて、頭からシャワーをぶっ掛けて、体が温まったところでその場でバスロープに着替えさえた。
 
「制服乾燥機にかけるからちょっとの間コレ着てて頂戴」
「うん……」

 熱があるのに会話できるのが意外だ。そして俺の目の前で躊躇いもなく脱ぎ始めたモンだから驚いちゃったじゃないの。まぁ、襲ってないけど。
 それから柚木をベッドで寝かせて俺も体を風呂で温めて、バスロープに着替えて(其れしかなかったんだ)柚木の様子を見ていた。

「ルパン……」
「なぁに」
「何でもない」

 そう言ってそのまま目を瞑ったのを見た。

 **

 翌日、熱は下がっていたので柚木を家まで送り、また学校生活が始まった。
 俺と次元、五右ェ門と不二子に柚木。この5人でバカ騒ぎをして、銭形に追い掛け回される。
 それだけの日々に戻った。戻ってしまった。
 
 俺はきっと、このことには気付きたくないのだ。

83: ブラック [×]
2015-06-13 01:55:47

 人形と怪盗紳士(ルパン三世2nd 鏡音リン)


 儚い――想い思い重い空が覆うそんな頃の想い。薄暗い灰色の空に、ゆっくりとけれど、意味を持って落ちてくる白い埃。その埃は汚くはなく、肌に触れた途端溶けてしまうぐらい儚く、冷たいもの。
 
 外の冷えとは別に、家の中は外から見るとぼんやりとオレンジに光っている。暖炉やランプの明かりだろう。
 そんなどこにでもある――あっては困るのだが、まぁ、どこにでもある家の窓に人影が映るのを、一人の小さい少年が見つけた。
 少年の歳はまだ5歳ぐらいで、子供用のコートに身を包みながら人影を見つめる。

『もう、リンがやって来て結構経つんじゃないのけ?』

 少年が中を覗こうとした所で、大人の声が部屋中に響く。少年は急いで身を隠すが、その大人には気付かれていたようで窓越しに微笑まれた。
 それだけで少年は自分が何かをされると誤解し、早足に去って行ってしまった。

「……ありゃま」

 肩を竦め笑う緑ジャケット――ルパン三世は、己の腹黒さを消しつつも『可愛らしい子供が去ってしまって残念』という設定で、笑みを浮かべた。その様子を、黒一色に統一されたソファに寝転んでいる死神と呼ばれた男――次元大介が鼻で笑う。

「おめぇ、初めから気付いてたろ」

 最初から、そこに少年が居た事にも、リンが居たことにも気付きながら、口に出した「結構経つ」。日にち的はそんなに経っていない。
 今が世界一般で「冬」と称するなら、リンとルパンが出会ったのは秋ぐらいだ。

「何の事よ。次元ちゃん。そこにガキが居た事も、今ドアに隠れてるリンの事もなーんも知らない俺に」

 ニヤニヤしながら窓とドアに指を差し、最後は己の顔に手を当て肩を揺らしながら不気味に吐息を吐き出す。その表情はやっぱり「帝国」の者だった。

「俺様はね、本当は金にも宝石にも興味がねぇ。ただそれを盗む過程が好きなだけ。こだわるとしたら女ぐれぇだなぁ」
「てめぇらしい」

 一言そう言って次元は立ち上がり、ドアノブを回した。ドアで隠れるようにしていたリンは、数歩前に歩き、次元を廊下に通すけれどルパンからは見えないように再びドアの影に隠れる。
 そんな動作をしているリンをボルサリーノの下から数秒見つめ、低い声で告げた。

「お前さんがそんなんじゃ、アイツもあんなだぜ。しっかり届けな」

 次元の声に何の意味があったのかはリンはすぐに理解した。

「――なぁ」

 声が掛かった。次元はもう居ない。自室に戻っている。ドアは半開き。怒りとも、脅しとも取れるその低い声は今まで聞いたことがないぐらい。
 固まっていると次第にコツン。コツン。と足音が聞こえてくる。――怖い。

 何年振りの感情だろうか、それを言うにはもうちょっと前のことなのだが。
 あの黒き、衣を羽織っている頃は決して思う事はなかった事だろう。衣の色が黒から赤に変わるだけで何が変わるのか、そんな事誰も答えてくれやしない。
 だから何なのか、色が変わっただけ。そう返答される。

「何ですか? 三世様」

 至って平常心。揺れない心。揺れない瞳。作り出した『忠実』。

「出て来い」

 『主人の命令』逆らえぬ『犬』。それは造り物だからだという訳ではない。リン自身が「ルパンのいう事を聞く」という命令文を脳に打ち込んだからである。
 だから、従順な犬になったリンは主人がリードを引いたのならば、停止しなければならない。
 それ以上に動いてはならない。

「かしこまりました」

 無機質な声で、姿を現す。瞳には色など映さず、表情など作らず、そこに存在する便利な犬で居る。
 それが幸せなのかと尋ねると彼女は「はい」と答えるだろう。

「何で隠れてた?」
「訳はありません。ただ、次元様との談笑を邪魔しないよう、外に居たまでです」
 
 主人を思ってした事。――機械はそう答える。

「ふぅん。それで?」
「……何でしょう?」
「とぼけんじゃねぇ。用があんならさっさと話せ。こっちは忙しいんだ。お前みたいなカスな不良品に構ってる暇はないって事、忘れんな」

 消えろ。冷たく言い放った言葉。決して女にはそんな冷たくて汚い言葉を放つ。しかも鋭い目つきで。

「はい」

 くるりと向きを変えて、リンはリビングと呼ばれてるその部屋を出た。

 ――お前さんがそんなんじゃ、アイツもあんなだぜ。

 ふと、次元の言葉を思い出した。そんな最後だった。

 **

「なにぃ~!?」

 オイ次元それ本当か!? 朝から怒鳴り声がリビングに響く。今日は合流した和服の男――石川五右ェ門が、次元と向かい側のソファに腰掛けながら怒鳴り声の本人、ルパンと次元の会話を聞いている。

「冗談言うかよ」

 それより俺のマルボロ返せ、と相変わらずヘビースモーカーな所を見せながらも、朝からバーボンを煽るのはどうかと思わせるほど、ボトルが並べられおり、灰皿にも煙草が積まれていた。

「それよりお前、昨日何言ったんだ?」
「…………」
「よほど酷な事を申したのでござるな」
「んな事言ってねぇ!」

 バンッ、勢いよく叩かれたテーブルは少し浮いて、細々としたネジなどは衝撃で床に落ちてしまう。そんな事も気にせず、一人掛けのソファに乱暴に腰掛けて、脚を組みながら舌を打つ。
 盛大に聞こえた舌打ちは止む事なく規則的に、しかし怒りを含まれて耳障りなほど鳴り響く。

「そんなに心配なら捜してくれば良かろう」

 いい加減しろと言うように五右ェ門が口を開く。――舌打ち。
 
「良いか! ルパンファミリーは俺様が「王様」だ! 王様が直々に出て行くわけねぇだろ。逃げたい奴は逃がしておけば良いんだ」

 冷たく言い放った瞬間に、窓の外を眺めながら、少し瞳を揺らした。らしくないなと次元は思うが口には出さず、酒を煽る。
 こういう時この相棒は面倒だ。気が付いてるくせに受け入れるのが怖いのか、あえて突き放している。そうすれば、寄って来ないと信じ込んで。

『――えー、今、入った情報によりますと、中学生くらいの少女が交差点でバイクに乗っていた男性と思われる容疑者に後頭部を――』
『現在地XX地点、少女の怪我は――……』

 プツン。点けたテレビの電源が切れた。チャンネルを持っているのはルパンだ。しかも凄い形相で。
 何が凄いのかと言うと、怒り、恐れ、不安、自己嫌悪、そういった負の感情が集合したような表情になっているからである。
 昨日みたいに寒くはなく、外も晴れている。何故こんな「冬」に外はこんなにも緑が多いのかと言う疑問だが。

「行かねぇのか? 相棒」
「うるせぇ」

 低い声なのに、ジャケットを羽織ってリビングの外に出る。色は「赤」。初めて会った時の色だ。

「アイツも困ったものだな……」
「『優しい紳士』を演じられなかったルパンの野郎。きっと後悔してんぜ」
「しかし、お主が盗聴とは珍しい」
「たまには、イイってモンだぜ」

 そんな会話がアジト内で繰り広げられていた。

 **

 命令、使命、存在、それら全てを与えてくれた新しき主人。陣の先頭に立ち、堂々と大胆に行うそれにいつしか心惹かれるようになった。
 そこに居たい。肩を抱かれたい。よくやったと言われ、バカ笑いしたい、そう思うようになった頃から自分自身でもコントロールできなくなった、命令文。

「お嬢ちゃん、一つ要らんか?」

 いい歳した主人が話しかける。どうやらクレープ屋のようで甘い匂いが漂う。
 種類は沢山あり、金銭的には問題ない。しかし、今の彼女にはそれすらも受け入れるほどの容量はない。だから。

「不良品には不必要です」

 きっぱり、冷酷に告げた。自分に言い聞かせるように自分は「犬」ではなく「不良品」だと。

「んなかてぇ事言わずにほら食え。金は要らねぇよ、可愛い顔が台無しだぜ」

 気前よく結構値段がするクレープを主人自ら差し出した。「だから……」要らない、そう答えようとすると、主人はニコニコと笑いながら動かない。

「ありがとうございます」

 食べ物に罪はない。だから受け取った。それだけ。
 礼をして近くにあった公園のベンチに腰掛ける。一口、口に含めば甘く少し酸っぱい味が口の中に広がる。
 まるで恋愛をしているときの甘酸っぱさに似ている。

「私は……不良品、です」

 仕事をミスしたわけではない。なら何故彼が彼女を「不良品」と呼んだのか、そんなのはその場の感情の高まりだけで、意味などない。

 公園のベンチからは入り口が良く見える。その入り口に見覚えの赤いジャケットが映る。
 もしかして、何て変な期待と共に、ジャケットは入り口から離れていく。

「……悲しくなんか、ありません」

 温かく降った雨――。そんなとき必ず拭ってくれる手があった。あの頃。それがなくなって時間が経って、違う世界を魅せられた。
 それも、もう終り。主人が消える事を望むならそれに応える。

「そんな表情でか?」

 俯いていると、上から声が響く。聞きたく仕方なかった百分の一の飴。残りが全て鞭だろうとその一掬いで、少し嬉しくなる。

「――私は不良品です。表情など存在しません」
「泣きそうじゃねぇか。良いか、もう二度とこんな真似するな。これはお前に一生与える『命令』だ。俺の前から、俺の許可もなく居なくなるんじゃねぇ」
「はい……三世様」

 その雫を拭ったのはマスターでもなければ、Pでもないけれど、その手が触れる度、抑えていた感情が溢れ出た。

「すみません……貴方が、三世様が、好きです……」

 例え1%の飴でも99%鞭でも、それでも好きな事には変わりない。自分を救ってくれて、色々な世界を見せてくれた、彼が、愛しい。
 
「謝るなっての」

 怪盗紳士は細く微笑みながら、亜麻色の髪を撫で続けた。

84: ハニー [×]
2015-06-13 02:01:52

人形と怪盗紳士の挿絵です↓
猫柳さまにお願いしました!

http://id37.fm-p.jp/data/495/195178/pri/34.jpg


『ここでちょっとしたこと』
・季節感はなし。冬なのに緑なんだ!(特に意味はなし)
・ボーカロイドのリンちゃんが赤ジャケット着てるのは殺しと嫉妬と少女をごらんください!

85: ブラック [×]
2015-06-21 18:58:52

【生理痛 ルパン三世の場合】


 誰もが心浮かれる夏――。そんな妄想は一瞬で終った。

「痛い。痛い、痛すぎる!」

 只今私、立花柚木は腹痛と腰痛に悩まされております。何故かって? そういう生き物なんだよ、女ってのは! まぁ、ごく簡単に言いますと月経でございまして。もっと分かりやすく言えば生理痛手悩まされております。

 腰の痛みが引けばお腹が……。的な状態でございます。

 ベッドに埋もれながらバイト休んでて良かったとか、明日の水泳どうしようとか、暑いとかを考えています。
 元々ルパンとデートだったのに、生理痛の所為でオジャンになってしまったのだ。私が悪い訳でも、ルパンが悪い訳でもない。悪いのは空気の読めない生理痛だ! ルパンに電話で謝罪した時凄く心配されたじゃないか!

『ルパン……。ごめんね、今日体動かなくてさ……。デートの約束してたのにさ……』

 だから、ごめんね。約束はちゃんと埋め合わせするから。それを分かっていたのか、残念がっていたのかはよく覚えていないけれど、『体は大事にしろよぉ』と言われて、小さく頷いた事は覚えている。

「痛い……」

 呟いてもどうにもならないので、暖まって寝ようとしたときだった。
 コンコン。窓からノックされた音で目を開ける。鳩でもやって来たのだろうかと、窓の方に向くと、ジーパンに茶色と黒と白のシマシマ模様のTシャツを着たルパンが居た。

「えっ……」

 声が出なかった。どうしているのか、それが疑問で仕方なかった。

「入りたいんだけど、鍵開けて頂戴」

 腰が痛いのに、何て言葉は出てこず、カチャンと鍵を開けるとルパンは部屋の中に入ってきて(勿論靴は脱いでいる)、玄関に靴を置いて、私の傍までやって来た。

「あーりゃりゃ。こりゃまた随分いたそーで」

 言葉と同時に腰を撫でられる。大きくて暖かいその手のおかげで、痛みが引いていくような気がした。
 生理痛は酷くて4日。だからどう頑張っても治らないのが面白い。薬飲んだら痛みは引くだろうけど、依存しそうなので飲まないようにしている。

「痛いの。気持ち悪い。眠いダルイ」

 脂汗を流しながらルパンにしがみ付いた。温かい。

「生理痛ならそう言えば良いのに」
「恥ずかしいの!」

 いくら付き合っているとはいえ、男性に「今日生理痛が酷くて動けない」何て恥ずかしくて言えない。
 開けたままの窓を意地で閉めるとルパンに抱きかかえられ、ベッドに移動して、気が付いたら添寝状態だった。何しに来たんだ、ルパンは。

「夏なのにエンジョイできねー何て嫌だ! って思ってるんデショ?」

 図星だ。ルパンと海に行く約束だったのに。ま、どうせそこら辺の女の子に声を掛けるのは想像ができていたので、焼きもちは妬くけれど一々気にしていたらキリがない。だから、そんな事は気にせずに海で遊ぶぜ! って思っていたら、生理ですよ! しかも2日目ですよ!? 空気読めよ! って何度も呟いた。

「はいはい。今日遊べなかった分、たーっぷり甘やかせてやるから寝ときなさい」
「へい」

 今日が学校じゃなくて本当に良かったです。そして明日の水泳は見学です。腹筋背筋、腕立てスクワット……地獄だ!

 目が覚めたらルパンが何かを作っていたのでした。たまには生理痛も悪くはない。

86: ブラック [×]
2015-06-22 01:36:51

謝罪(続き)

**

 それから一日中蓮さんとチャットのやりとりをして気が付けば夜になっていた。そんな時、携帯から着信音が響いた。
 誰から何の用なのかと思ったら大上先輩からの電話だったので、仕事の内容かと思ったから躊躇いもせずに通話をONにした。

「先輩、どうしたんです?」

 何でもない感じに尋ねる。実際特に何かを隠している訳ではないから、そんな事思う必要もないのに、どうしても見られている感じがして、パソコンを隠すような体勢になっている。

『ん? あぁ、いや別に……。ちょっと声が聞きたくなったから電話してみた』
「さよと一緒に居るんじゃないですか?」
 
 尋ねてみると、どうやらもう二人とも解散したようだったので、どこに何をしに行っていたのかは明日にでも聞いてみようと思いながらも、携帯の向こうから聞こえてくる音に耳を済ませていると、聞いた事のある音が流れた。
 どこかのコンビニにでも居るのだろう。不意に『近くに居るんだけどさ、ちょっと飲むのに付き合ってくれねぇか?』と尋ねられたので身構えてしまい「い、今からですか!? どこで……」と挙動不審になりつつも返答した。
 肩に携帯を挟みながらキーボードを打って『今日は落ちます』と文字を打ち、パソコンの電源を切る。

『どこでも良いけど。佳代が行きたい所あるなら連れて行ってやる』
「特にないですね……。私の家で飲みます?」
『佳代がそれで良いなら、な』

 一言間を置いたのが気になったけれど、それには突っ込まず、じゃぁ……。と言って電話を切って部屋の鍵を開けておいた。
 どうせ部屋の前までくるとインターホンを鳴らすのに、って鍵を開けた後に思い知った。

 **

「……なぁ」

 不機嫌そうな後輩の声。休憩中だった気がするがそういったところまではよく覚えていない。

「どうした?」

 何か不満でもあったのだろうかと思ったので、何気なく聞いたつもりだったのだけれど、良介は普段のふざけた様子は見せず、そっぽを向きながら呟いた。――否、実際には呟いていなかった。

 ――お前、佳代の事好きなんか?
 
 口の動きは確かにその文字を示していた。俺はその時どう答えたのか、今は思い出す事が出来ない。
 そんな事をコンビニを出た途端、思い出した。そういえばそんな会話したな、と。今になって思い出す。
 好きなのか、そう聞かれて俺はどう答えたのか。その答えは良い答えだったのか、悪い答えだったのか、つい最近の事のはずなのに今の俺は佳代の家に行けるという嬉しさで満たされているので、そんな事を考える暇はなかったのだろう。

 **

 ――ピンポーン。インターホンが鳴った。時刻はそこまで遅くない。午後八時半ぐらい。
 ドアを開けると、そこには昼間見た大上先輩の姿がある。まるっきり変わっていない、大上先輩の姿。

「佳代も飲めるようなの探すのに時間かかったな」
「私はお茶やジュースで合わせますよ……」

 そこまでしなくても良いのに、何て思いながらも適当に買ってきたであろうおつまみを乗せる為に、食器棚から白いお皿を出し、袋を開けた。
 ピーナッツや柿の種、チーズを焼いたお菓子など、ビールにはよく合うようなおつまみが色々とあった。

「佳代が何飲めるかよく分からねぇから、これ買ってきた」

 そう言ってビニール袋から出されたのは「カルピスチューハイ」と書かれた、お酒。ものによれば甘く、物によれば甘くないやつ。

「ありがとうございます」

 笑顔で礼を言って、二人で飲み会を行っている時。不意に携帯が鳴った。誰かからのメールで送信相手を見てみると、「蓮さん」と書かれた文字。
 大上先輩も携帯で少し調べ物をすると言っていたので、大上先輩が終るまでに返信をしようとメールを開くと『今何してるん?』と書かれていた。だから、躊躇いもせず、思ったままの事を打ち込んでいく。『仕事の先輩と飲み会しています』――と。そしたら、いきなり私以外の携帯が鳴り出す。

「やべっ……」

 大上先輩の焦るような声と共に、送信完了の文字。
 ――まさか、そんな事って。

「あ、母さんからか。脅かすなよ」

 どうやら違ったようで、同じタイミングにメールが届いたのか、と思ってはすぐに大上先輩の言葉が引っかかる。
 何かを隠しているような、予測していなかったような、そんな言葉が脳内から離れずにいる。

87: ブラック [×]
2015-07-06 23:27:39

ブログ始めました。

興味のある方は覗いてみてください。

ルパンブログ
http://rokuzyoudourito.blog.fc2.com/

88: ブラック [×]
2015-07-06 23:28:23

といっても同じ内容のものばかりですが

89: ブラック [×]
2015-07-12 20:58:19

 新しい家族


 うぎゃぁうぎゃぁ!

 ――うるさい。うるさい。耳を塞ぎたくて仕方ない。

「おーよしよし。お腹空いた? それともトイレか?」

 小さな塊を抱っこしながら兄ちゃんは何でもない顔で、話しかけている。そんな小さな赤ん坊に話しかけても、赤ん坊は「うぎゃぁ」としか泣かない。
 俺だったら色気のある声で啼けるのに、なんて人様に言えないようなことを想像する。何度目になるかも分からない抱き合いはすっかり抵抗すらなく、むしろ当たり前になってしまっていた。

「あぁ。湿ってる。いっぱい出したな」

 にっこりと笑って赤ん坊の頭を撫でている兄ちゃんを、同じ部屋で見つめるのは、はっきり言ってもう嫌だ。俺だってそんな風に扱われたことなんて記憶にあるうちはない。

「うっわ、漏らしてる」
「お前『も』同じことしてたからな」

 フイッと顔を背ける。だからなんだよ。

「ソイツにばっかり構いすぎ。俺の勉強見てくれるんじゃなかったの?」

 近づいて尋ねると兄ちゃんは困ったような顔をして、それでもやっぱり赤ん坊が優先なのか、「こいつは一人で何もできないだろ」と優しい笑みを浮かべて赤子を見つめた。
 どこからどう見ても、この赤ん坊は俺と兄ちゃんの新しい弟。

 家に居ないくせに、両親は子だけを作って仕事に行ってしまう。無責任にもほどがある。赤ん坊――柚は、兄ちゃんに着替えさせれ、嬉しそうに笑っている。

「俺の兄ちゃんなんだ!!」

 怒鳴っても仕方ないのに、怒鳴りたかった。柚はキャハハなんて本当に腹が立つ笑い方で俺の頬を小さな掌でペチペチと叩く。その所為で頭を鷲掴みしそうになって舌を打ち、布団にもぐりこんだ。

 **

 わざと眠ろうと布団に入ったものの、眠気などやってこなかったので顔を上げて辺りを見ると誰もそこには居なかった。今日兄ちゃんはバイトなのだろうかと、暫し考えていると腹部に衝撃を覚えた。かなり痛い。
 目を向ければ、柚が手を上下に振って俺の腹を叩いている。しかもとても楽しそうに。

「離せ」

 ぶっきらぼうに言ってやると、相当堪えたのか腕をピタリと止め、頬を引きつらせて文字通り泣いた。怒られた、そう思っているのだろう。実際怒ってはいないけれど、柚自体に優しくしてやりたいとも思わない。
 だからなのか、泣いていても「煩い」の一言で部屋を出た。

 リビングにも風呂場にも手洗いにも、兄ちゃんは居ないので、きっとバイトなんだろうと決めた。赤ん坊の世話なんてした事もないのに、急に押し付けられても全く世話などできやしない。
 家の中に居たら絶対に柚の顔を見ることになるので、家の外に出る。死んでしまえば良いのになんて、思ってはいけない事を普通に思った。俺の兄ちゃんを奪ったんだ、死んだところで何も変わらない。
 餓死でも事故死でも何でも良いから、兄ちゃんに近付いて欲しくない。だけど、自分の手を汚すのは嫌だと言う、我儘で汚い奴だと自分でも思う。

 ――ピタリ。急に、柚の泣き声が止んだ。外まで聞こえていたからかなり近所迷惑だろうけれど、今はどうだって良い。振り返って数秒、再び歩いていこうとすると、先ほどより大きな声で柚は泣いた。
 まだ昼間で、もうすぐ夕方に差しかかろうとしている時間帯。暑さ的には問題はない。先ほどより大きな声。一瞬で嫌な予感がした。階段から落ちたとか、ベッドから落ちたとか、そんな事が頭をよぎっては左右に振る。もう関係がない。

「どうしたのかしら?」
「大丈夫なの?」

 あまりの大声に野次馬がやってきた。巻き込まれると面倒だったので、他人の振りをしてその場を立ち去った。その後、兄ちゃんに見つけられて、何度も打たれた。自分が何をしたのか分かってるのか、とか、小さいから仕方ないだろ、とか、そんな事を聞かされて「俺は小さい頃そんな事してない!」と言った。小さい頃から好きだった。あの頃は当然『兄』として慕っていた。今は大分ズレてきているが、好きなのには変わりない。だから、小さい頃の自分は、そんなことはしてないと言った。

「してたぜ。同じ事。俺の頭叩いては何言ってるか全く分からない言葉で喋って、自分の思い通りにならなかったら泣いて。少し冷たくされただけでも泣いてたぜ、お前」

 返ってきた言葉は柚の行動そのままの言葉だった。叩く場所は違ってもしてる事には変わらない。それを聞かされて、何とも言えない気持ちになった。柚は階段から落ちたらしく、命に別状はないが、落ちた時のトラウマなどが発生するだろうと言われた。俺の所為だ。

「でも謝んない!」

 すっと、兄ちゃんの表情が消えていくのが分かる。こういう表情は大体本気で腹が立っている時。怒らせたときに兄ちゃんはこういう表情をする。

「あっそ。なら出て行け」

 それだけを零して、兄ちゃんは柚を連れて部屋から出て行った。冷たく放たれた言葉に何にも返答する事が出来ずただ、好きな相手に完璧に相手にされなくなって、頬に雨が流れた。正直言って悲しかった。蹲って涙を拭って声を押し殺して、泣いた。

「……ごめん」

 小さく零れた言葉。そこには自分しか居ない。俺だけしか居ないのに、柚に対して謝罪した。もっと他にもあっただろう。普通に相手にしてあげれば良かったのだろう。俺がまだ小さい柚に対して妬いた所為でこんなことになった。それは一生変わらない。許されるわけじゃない。だけど、好きな人にあんなに冷たくされると、俺がどれだけの言い訳を吐こうが、悪いのは俺だ。そこで気が付くのは、好きな人にそんな態度をされたくない、嫌われたくないという感情。

 ――ギィィ。ドアが少し開かれた。顔を覗かせたのは柚で四つん這いでやってくる。一生懸命にこっちまでくれば、俺の足を小さな手が掴んで「あー」と声を出した。まだ喋れない。だから泣く事でしか自分の感情や状態を伝えることしかできない。そんな小さな生き物。

「ごめんな」
「うー」

 分かっているのか分かっていないのか、俺には検討もつかないけれど、兄ちゃんの似の顔をそっと撫でてもう一度「ごめんな」と呟いた。
 ドアの向こうから時々動く音がしたけれど、その時は気にせずに柚を抱きしめた。子供だからか、体温は温かくて、そのまま柚の口にキスを落とす。――俺が悪かった。

90: ブラック [×]
2015-07-12 20:59:13

 欲しい物


「なぁ、カラオケ行こうぜ」
「あ? 面倒。パス」

 16歳になって色々面倒なことも増えた。友人の付き合いに、学校行事……。数えだしたらキリがない。何でも面倒で通しているわけではないのだが、今日は少し朝から気分は良い方だ。何でかって、それは兄貴が会いに来ると言っていたから。
 俺を世話してくれたのが兄貴で、兄貴の上にも更に兄貴が居るのだが、ソイツとはあまり喋った記憶はない。俺は兄貴にしか興味がなかったのか、一番上の兄貴などどうでも良いようで、ずっと何から何まで兄貴に付いて行った。

 だから今回のカラオケはパス。それにそんなに金を持っていないものあるし、まぁ、コイツが考えている事は予想できるので、コイツと二人きりで密室に行くのは抵抗がある。どうせロクな事しないだろ、お前。

「良いだろー? 付き合えよ。俺とお前の仲だろ?」
「どんな仲だ。それに俺は用事あるから、他の奴誘え」

 じゃぁな。小さく挨拶を交わして、教室から出て行く。例え兄弟でも16年も離れていると兄弟じゃなく、親子に見える為、学校に迎えに行くのはどうかと兄貴が言っていたので、兄貴が会えると言った日は、大体公園で待ち合わせる事にしている。

 **

 遊具なのないが、待ち合わせスポットしては問題ないだろうこの公園で、自販機の前で兄貴を見つける。何かジュースでも買うのだろうか、上手く行けば奢って貰えるなんて、どうせ全額兄貴が奢るのに、そんな事を考えて近付いていく。

「何が良い?」

 脅かそうと思って、後ろに回ったのだけれど、とっくに気付かれて肩を震わす。そんなに怯える必要がどこにあるのだろうかと自分に言い聞かせて、「……オレ」と大事な部分を聞こえない状態で伝えたので、「は?」と返される。自分で言うのも恥ずかしくて未だに単語で言えず「いつもの!」と、後ろから怒鳴ってしまう。
 それでも何も言わず、俺が好きなイチゴオレを買う兄貴は、小さい頃から変わらず好き。決して口に出す事は許されないけれど、兄貴として好きではなく、菅野良太として恋愛対象で見てしまっている。

「見た目のイメージ感なしだな、いつも」
「うるせ! 甘いのが好きで悪かったな!」
「可愛いのも好きだろ、お前」

 うっ、言葉が詰まる。甘いもの、可愛いものつまり女子が好むもの全てが好きで仕方が無い。
 ある時は身長など関係がなく、男の格好のまま、女子が入る店に入ってやった。決して、下着屋ではない。ファンシーショップや、服屋そういったところ。女性向けの店にはやっぱり女性客しかないので、店員にも「彼女さんへのプレゼントですか?」なんて何度も聞かれた。その度にいいえ、なんて言えないのではい、そうです。と答えて、適当に架空の彼女でも作っておいた。

「っで、メールで見たけど、お前の趣味がバレた……と」
「趣味じゃねぇ! 絶対趣味じゃねぇ! 好きなだけだ!」

 趣味って何だよ、俺が女装癖があるみたいな言い方。いや、別に女装が嫌いってわけじゃ、寧ろ女子の服が着れるのは嬉しいけど、週末に毎回女装して街中歩く奴じゃないからな。

「好きなだけの癖に何で女装して街中歩いていたんだ? もうそれ完全に趣味だろ、にしても友人もよく気が付いたな」
「だから俺に女装趣味なんか持ってねぇ!!」

 大声で叫ぶと、兄貴に口を押さえられる。何をするんだと言いたかったけれど、辺りに人がそんなに居なく、距離も大分あったので聞こえてはいないだろう。口を押さえられていなければ、これ以上の事を言っていたのかもしれない。

「……やっぱ声だな。女みたいに頑張って低音高音使い分けれるわけじゃないから」

 よく歌で男声で歌う女性を見る。その時に思うのが、女は男装すればバレない確率は高いだろうとよく考える。男は女声を出せないので、女装したら必ずバレる。

「俺に女装が友人にバレた、何てメールしても俺は解決できないからな」
「んな事は分かってる!」

 バラさない代わりにと言われて、ソイツと遊ぶときは必ず、女装しなければならない。そう、それが今日カラオケに誘ってきたアイツ。本心は別に女の服が着れるから良いけれど、その後が嫌だ。何かしら良く分からないおもちゃを俺に使おうとしてくるから、毎回ぶっ飛ばす。
 俺は女装してそういう遊びがしたいわけではなく、ただ純粋に女の服や、甘いものが好きなだけ。

「分かった分かった。それで、俺は今日結構空いてるけど、何かしたいことあるのか?」

 適当に流されたけれど、俺の好き嫌いについて話していても仕方がないので、何かしたいことがないかと尋ねられる前に、丁度、好みの服装をした女性が目に付き、目で追いかけて可愛い、着てみたい、なんて思っていると俺の心を見透かしたように「着たいのか?」って尋ねてきた。

「いるか! あんなフリフリなモン付いてて、短くてふんわりして、淡いピンクのスカートの左側に赤いリボンが付いてて、胸元が見えそうなぐらい開いてて、ベージュのパーカーなんて、着たくも見たくもねぇ!」
「かなり具体的に見てたな」

 言った後だからもう遅い。分かってる、本当は着たくてしょうがない。だけど、部屋の中で着て満足してそれで良いはずだったのに、最近誰かに見てもらいたい衝動がある。
 自分は男なのに、街中で「可愛い」なんて言われてみたいと思い、つい、外を歩いてしまう。
 でもそういう時に限って、同じクラスの奴や、中学の連れを良く見かける。

「き、着たいって言ったら……買ってくれんのかよ? おっさん」
「その言い方だと買ってやらない」
「兄貴」
「昔みたいにお兄ちゃんって言ってくれないと、買ってやらない」

 いつの話だよ! 覚えてねぇよ!
 突っ込みたいけれど、こう言った時の兄貴は全然何も買ってくれないので、仕方なく、本当に仕方なく、自分の欲望のためだけに「お、お兄ちゃん」と呼ぶ。
 17年も歳が離れてるのにな。これで良いのかと思って兄貴の顔を見ると、まだ 満足していないのか「昔の柚は可愛かったなぁ」何て言うので、自分の中での可愛いを探し、ぎゅっと袖を掴み「お兄ちゃん、買って?」と言った。
 恥ずかしくて今すぐにでもしゃがみ込みたい。

「はいはい。それだけで良いのか?」
「まだ、何か言わなきゃなんないのかよ」
「欲しい物はそれだけか?」

 言い直されて、暫し考え口から零れた言葉は――キス。
 覚えていないけれど、兄貴が俺にキスをしたらしい。その時のキスを上回るぐらいの、面倒で結構変な趣味の弟に、呆れながら優しくキスして欲しい。――今は、それだけで良い、はず。

91: ブラック [×]
2015-07-28 01:34:41

脱獄のチャンスは一度(ルパン三世赤ジャケ/続編ある的な雰囲気/サブ女キャラ視点)

 たった一度しかない、それでも彼は笑っていた――。

 脱 獄 の チ ャ ン ス は 一 度 


 都内某所の留置所で、一人の男が放り込まれた。名前をルパン三世というらしい。
 警官になったばかりの私は、ルパン三世という男がどんな人物なのかまだ分からない。
 極悪な奴かもしれないし、気さくな少年かも知れない。そんな期待と不安の中、私はルパン三世が放り込まれている鉄格子に向かう。
 カツンカツン、ブーツの底が冷たいコンクリートにぶつかり、この留置所全体に響かせながら私という人物が歩いている事を証明し、尚且つ主張している。

「ルパン三世――だな」

 鉄格子の上に部屋の番号が書かれていた。No.333。どれだけ3という数字が好きなのだろうか。
 手に持っていたトレーをトレーしか入らせないように作った扉の前に置き、扉を開け、トレーを中に入れる。今日の朝食のようだ。
 初めてルパン三世という男を見たが、予想以上に気さくな青年だと思った。コイツが本当に物を盗むのかと。
 遠目で見ればそれはとてもイイ男だと言える、が。私が近付いた事、扉を開けたこと、それに対して横向きの顔が一気に私の方に向く。その瞬間、ガツン。頭を叩かれたような気がした。
 瞳には一切合切、光など宿っていなくただ昔の様に笑顔を貼り付け、ただただその場に居るようにしか見えなかった。

「君新しい子? 可愛い系って言うより、美人系? でも不二子には敵わないなぁ。残念」

 クックックッ。そんな笑みで私を見た。本当に光は宿っていない。口から出てきた不二子という人が多分女だという事は予測できるが、どうしても、私はこの男が普段からこんな感じだとは思えない。

「……その不二子とやらを知らないが、侮辱罪として罪を重くしてやってもいいのだが?」
「元々ドロボーなんで、侮辱罪でも脅迫罪でも変わんないでしょ」

 腕を頭の後ろで組みながら言ったこの男が、とても哀れに思えてきた。仲間は居るのか、誰かが助けに来ているのだろうか、警官でありながら、犯罪者にあってはならない感情を覚えてしまっていた。
 もし誰も助けに来なければ、この男は死刑なのだ。 
 刑事や警官、銭形警部にしてみれば万々歳な話だけれど、この男にとってはとても辛い事だろう。人生がそこで終る、それが一番怖いのはとても承知しているつもりだ。
 我々警官も人の命を守る為の仕事であって、奪うものではない。だが、犯罪者には罪を償ってもらう必要があるため時として死刑という形になる。

「お前、仲間は居るのか?」

 朝食は一向に手をつけず、けれど自分の持ち場なんて今はないので鉄格子を握り締めながら問いを投げる。
 男は一瞬、何をバカな事を言っているという顔をした。だから「愚問だった」と、話題を終らせようとした。そしたら。

「居たぜ、結構前だったような気もするな。早撃ちのガンマンに、剣の達人に、スパイなのか盗賊なのか分からねぇ、曲者がな」
「いっ、今は、どうしているんだ? 仲間だったら、誰かが助けに来ようとするだろう……」

 男は自身の口元に人差し指を置いて、それ以上は喋らなかった。ここから先は企業秘密、と言われている気分になり何も言い返せなくなる。

 **

 ルパン三世が捕まって一週間と少しが経過した。相変わらず、瞳には光が保っていない。けれど、どこか楽しそうに鳥や虫や雲に話しかけている。
 同僚がルパン三世は狂ったんだ。なんて言い出すから、部署の中は「ルパン三世がついに狂った」という噂が響いた。死刑が近いから狂ったんだろう、また例の誤魔化しだろう。そんな会話が繰り広げられる。
 正直、私は最近警官になったばかりのヒヨコで、例の誤魔化しが何なのか知らないけれど、聞く気にもなれなかった。だって、一度脱獄されているというのが分かったのだから。
 

 そして、その日がやってきた。ルパン三世公開処刑の日。何も公開もしなくて良いのに。
 
「ついに! ルパン三世死刑執行の日がやって参りましたぁ!!」

 マイク片手に煩い銭形警部の姿。公開処刑と言っても、テレビ中継で街のど真ん中で行われるという訳でもなかった。
 私はきっと今この瞬間もテレビに映っているのだろうと思いながらも、警備を怠らず、ルパン三世を見つめる。
 両手に繋がれた手錠、首には鎖が繋がれている。
 派手な赤色のジャケット。そういえば、鉄格子の中では白黒の囚人服だったのだけれど、死ぬならいつもの服で逝かせて欲しいとの事だったので、囚人服から普段の服装になっているらしい。
 これが彼の普段のスタイル。初めて目にするので、これが「ルパン三世」という人物が常に羽織っているんだと、感動が生まれた。

「じゃぁルパン、この台の上に乗れ! 動くなよ」

 ルパン三世の足は、小さな台の上に乗った。そしてその台のすぐ目の前に大きな穴がある。
 嬉しそうにする警部を遠目で見つめながら、私は小さく俯く。結局誰も来なかった。身内も、仲間だった人も、この男に会いに来るのは三食運んで来る者か、銭形警部か、男の狂い具合を見に来る者だけだった。
 それがどうしようもなく、悲しく感じた。

「とっつあん、少しだけ良いか?」

 ルパン三世が口を開いた。銭形警部は警戒した様子はなく、けれど普段の様子でもない声で放った。

「お前の最後の言葉になるだろうからな、少しだけだ」
「あんがと」

 暗く、低く放たれたルパン三世の声。俯いていた男の頭がスッと上がり、私と目が合う。そして「今まで俺に飯持ってきてくれて、サンキューな」そう言ってルパン三世は台の上から、穴に向かって飛び降りた。
 その一瞬のはずの動きがスローモーションの様に動き、ルパン三世から目が離せないで居た私は、普段とは全く別の、信じられないものを目の当たりにする。

「ごえもーん!」

 でやぁぁぁ。声と共に刻まれていく鎖。袴姿の侍がルパンの首に繋がっていた鎖を刻む。それと同時に銃声がして、ドアが吹っ飛んだような音がし、一気に停電になる。
 真っ暗で何も見なかったのだが、一瞬にして電気は点くが、銭形警部の手に握られていた鎖は途中から切れており、そこに赤いジャケットを着た男の姿はなかったのだ。

 確かに彼は、最後の最後、自ら飛び降りる瞬間に私に向かい、口パクで『俺の仲間はサイコーよ! 女警官ちゃん』と伝えニィと楽しそうな笑みを浮かべてた。
 けれど、今まで脱獄するチャンスなら幾らでもあったはずなのに、どうして今日を選んだのか私には分からないことだろう。

「ルパーン、まてぇぇ!」

 銭形警部の声を聞きながら、ルパン三世を追うような振りをして三歩ぐらい進み、さっきまでそこにいただろう場所に戻る。 
 穴の中に隠れたのか、それともどこかに逃げてしまったのだろうか。そんな事を思っていると足元に一枚の紙を見つける。
 誰かが落としたのだろうかと拾い上げ、何か書かれているのかと真っ白な紙を裏返すと、そこにはフランス語でこう書かれていた。

『華麗なる女警官ちゃん

 本日はルパン三世脱獄ショーにお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
 さぁて、俺がどうしてあんな表情をしていたか、おめぇさんはすぐに分かるだろうな。
 脱獄がいつでも可能だって? こうやってテレビや警官が見てるときに脱獄って面白いだろ。

 じゃ、とっつあんが俺を捕まえた時にまた会おうぜ! 

 派手好きの退屈嫌いなルパン三世』

92: ブラック [×]
2015-08-05 03:53:05

雨 の 午 後 は ヤ バ イ ゼ(ルパン赤ジャケ)



 雨 の 午 後 は ヤ バ イ ゼ


 かなりの雷雨だった。朝はまだマシだったのだが、午後になってから小雨ぐらいから雷雨に変化した。
 その所為でアジト内はどんより……なんて事はないんだけれど、内の犬と猫が言い合いをしててどうにもならないのよ。

「ちょっと次元! テレビ点かないじゃない!」
「俺に言ったってしょうがねぇだろうが!」
「じゃぁ、直しなさいよ!」

 この通り、雷雨の所為で電波が受信できなくてテレビが点かないのよ。
 別に俺様はテレビが点かなくたって困りはしないけど、不二子がどうしても見たい番組があったらしく、テレビが点かないことに次元に八つ当たりって事だ。

「おめーさんが見たいんだろ? 自分で直せ」
「まぁ、女に埃だらけになれっていうの?」

 俺様テレビ直せるんだけどなぁって思いながらも、新聞をテーブルに足を投げ出して読んでいる振りをする。
 どうせ雨なんだから、外に言ってもする事はないから。

「次元! なんとかしなさいよ!」
「やなっこった!」

 低レベルな争いだと思いつつも、いい加減互いに銃とか出てくる可能性もあるので、新聞を畳み、テーブルに乱暴に置いた。
 そしたら、シンッ、と静寂が襲う。

「お前ら……。こんな雨で電波受信できるワケないでしょーが!」

 窓の外を指差して怒鳴ってやると、犬と猫は大人しくなる。

「テレビは壊れてないの、電波が受信できないの。見たい番組なら再放送するデショ。次元も分かったか?」
「…………」
「分かったか?」

 はい。二人の返事が聞こえて満足して笑顔に切り替える。
 本当、雨の午後はヤバイねぇ。

93: ブラック [×]
2015-08-05 03:54:16

ル パ ン は 燃 え て い る か(ルパン赤ジャケ)



 ル パ ン は 燃 え て い る か


 朝の事だった。ルパンを起こしに部屋へ向かい、ノックもせずにドアを開けるとルパンが燃えていた!
 何かの間違いだと思ったんだが、間違いなくルパンが燃えている。だが、苦しそうではない。
 とても嬉しそうに燃えていた。いや違う萌えていたのだ。

「ふーじこちゃん」

 何だ、夢でも見ているのか。そうか。紛らわしいな。
 
 本当に紛らわしくて仕方ないので、そのままにしておこうとドアを閉めた。

 **

 ル パ ン は 燃 え て い る か 2

 
 これは夜の事だった。リビング行くとルパンが燃えている! また不二子に萌えているのかと思いきや、本当に燃えていた。
 テーブルに向かって何かを真剣にやっているので、後ろから覗いてみると『ルパンと不二子の交換日記』と書かれた文字を見つける。
 くだらねぇな!

「仕事しろよ。ルパン」

 取り合えず一言だけ言っておいた。

 **
 
 ル パ ン は 燃 え て い る か 3

 
「次元、先に行け。コイツは俺の敵だ」

 肩と脚を負傷した俺の前に立ちルパンは愛銃を持ちながら放った。ミスをしたわけではない。
 盗めてとんずらしようとした所に、ルパンの元相棒とやらが現れた。

「何言ってやがんだ!」
「良いから行け!」

 有無を言わせぬ声で、ルパンは放って俺から離れる。元相棒はルパンを追いかけるようにして数歩走り出して、俺に銃口を向け、俺の後ろにあるガソリンタンクを撃った。
 ガソリンが流れ出したところでジッポを投げ飛ばし、完全にもう逃げなれないと思ったら、目の前に赤いジャケットが現れた。
 一瞬の事で分からなかったが、ルパンは俺を蹴飛ばし、自分が火の海の中。
 ルパンは燃えていた。


「ルパァァァン!」
「何よ煩いなぁ……」

 あれ? 生きてる。完全に火の海に居たルパンが生きている。いや、待てよ。俺確か肩と脚を怪我したはずなのに痛くない。
 よく見ても傷跡がない。そして今いる所はアジトのリビングのソファーの上……。

 夢落ちで良かった。と心底思った日だった。

94: ブラック [×]
2015-09-06 10:05:13

タ イ ム マ シ ン に 気 を つ け ろ(八世×三世)


 タ イ ム マ シ ン に 気 を つ け ろ

 なぁ、次元。時空旅行しないか? それが始まりだった。時空旅行もこの時代には簡単な事だ。だが、どこに向かうのだろうか。

「どこに行くんだ?」
「そうだなぁ――」

 **

「今日もとっつあん元気だねぇ」

 気楽に呟いており、フィアットを運転しながら後方を確認した途端――大声で叫ぶ大人二人の声が車内に響く。

「はぁ!?」
「どうも」

 どこの誰なのだろうか、よく似ているのだけれどあり得ないだろうと首を振り、そしてゆっくりと時間をかけて口を開く。

「お前さんらは、敵か? 味方か?」

 一人の髭面の男が質問に答える。味方だ、と。そういう返答に隣に居た天パの男が「一応、なんだけどね」と楽しそうに口を開く。
 フィアットの後部座席から身を乗り出し、愛車を運転していない男――次元大介の前にライターを差し出す。
 丁度懐から出す仕草を見たのだろう。その仕草に目を見開いた三世だが、何も言わずライターから放たれる火に煙草を近づける。

「暫くヨロシクなぁ~。おじいちゃん」

 **

 アジトにて。
 
「んなワケないデショーが!」

 三世の怒鳴り声が響いた。あり得ない、と。目の前に居る天パの男が『ルパン三世の子孫だと言う』。そんな訳がないとルパン三世は否定する。

「あったとしても良いだろうが、ルパっ……三世よ」

 煙草を咥えながらソファにだらしなく腰掛けている次元大介が言いにくそうにしながら、けれどもあっても可笑しくないという。
 それもそうなのだ。かつて5年程前にタイムマシンに乗った奴を見ているので、目の前に居るのが自分たちの子孫でも納得はいく。
 こっちから未来が無理でも、未来から此処までなら簡単だろう。

「次元ちゃん、お前さんはどっちの味方すんだよ!」

 次元の頭を思いっきり叩き、三世は怒りの表情を浮かべながらも呆れたようにため息をつく。
 そういえば今「次元大介」は二人居るのだ。

「聞いてる? 次元ちゃん」
「おやすみー」

 巻き込まれたくないのか、煙草を消し、ソファに身を委ねた。要は逃げたのだ。

 **

「そんなとこ行くのかルパン」
「いいデショ。タイムマシンには気をつけろってことだよ」

95: ブラック [×]
2015-09-18 20:38:13

千の翼(Reハマトラop/ルパン三世/替え歌)

理想ばっかでちっぽけだ
そんなじゃ視えやしない
お前も同じように
世界を嫌ってるから

自分の言葉で
傷ついてるフリだけで
ホントはもっとずっと

だいぶ向こうに飛べるだろう
気づくんだ
この時が 全てだと

俺様この声を
空へと漂わせて
誰とも違う頭脳
夢を視てるから
無数のこのライト
君にも見えるだろう
照らし出す空間に
いつもたどり着いてゆくんだ

絶望ばっか吐いても
何も進まないだろう
その足を動かして
自分の道がやってくる
空裂いて踊る鳥
その景色の先を
暗闇の中だけで
見てるだけじゃつまらないさぁ

気付いてねぇのかい?
この今を
変えていけるって
  

96: ブラック [×]
2015-09-21 16:16:44

俺様この歌を
一人で歌うだけで
誰も思いつかない
夢を見せるから
無数のこの歓声
君にも聞こえただろう
照らし出す星空が
見せ付けるのは此処だけじゃない

もっと変われるんだろう
描いたのはそんなしょぼい
欲しがってたものは
もう気がついてるだろう

俺様この銃を
暗闇に打ち込んで
全く違うスタンス
夢を見てるから
無数のこの盗品
君も盗ませて
輝くムーンライトを
背にして前に進むぜ

97: ブラック [×]
2015-09-21 16:41:43


海賊Fの肖像(ルパン三世2nd ひとしずくP×やま△ 海賊Fの肖像)

 何とも静かな夜、そんな時間帯にゆっくりと窓が開き一人の少年が外に飛び出す。

 おう、来たか。子供にしては渋い声が響き、少年――三世はニタァと笑みを浮かべる。まるでいつものことだと言うように。

「今日は何しようか? 次元」
「別に何でも構わねぇ」

 次元。そう呼ばれた子供は腰にマグナムを差して基本的についていくように口にする。
 
「そうだなぁ、久しぶりにアレしようぜ!」

 三世が提案した事はいつもと同じ「悪ふざけ」であり、盗みである。
 だからなんだということなのだが、金を盗むという事は久しぶりだ。


「このガキ!」
「餓鬼に餓鬼って言う方が餓鬼じゃない? おじさん」

 ――パァン。

 威嚇射撃。そんな射撃ですら怖くなったのだろう。金を盗まれた主人は後ずさり逃げていく。
 そんな様を何度も見て、そろそろ飽きてきた頃だろう。けれど盗みというのは楽しいものだ。

 **

「ルパン、何してるの?」
 
 子供にして容姿が完璧な女、峰不二子。いつものように三世の体にベタベタと触り、アレが欲しいコレが欲しいと強請り、強欲さを見せ付ける。
 次元がとてつもなく嫌っている女でもある。

「あら、やだ。十三代目のお出ましよ」

 斬鉄剣を持った日本人の子供、石川五右衛門の子孫十三代目石川五右ェ門。三世の敵である。
 一度三世を倒そうとしたのだが負けたのだ。それからは修行を続け、三世を倒すと諦めない。

「ルパン、お主ともう一度勝負致す」
「何度しても同じことよ?」

 互いに戦闘準備になれば生暖かい風邪がすり抜けていく。僅か数秒で銃声と共に、五右ェ門が蹲る。
 勝敗は決まってしまった。

「……不覚」
「俺様を倒すまで、俺様の仲間になれ」

 それが三世の命令だった。


 そうやっいても楽しい日々はすぐに去っていく。つまらない。飽きた。
 子供では出来ない事が多すぎる。どんなに高級な酒を飲んでも不味いとしか感じない。
 ただの悪ふざけも悪ふざけだと物足りない。もっと、大量に豪勢に、派手に、目立って、警戒なところから盗みたい。
 それが、三世のいつまで経っても叶う事ない夢なのだ。

 **

「じゃ、頼むぜ。五右ェ門ちゃん」

 赤いジャージを羽織り、暗闇の中迷うことなく素早く走り回り、斬鉄剣で斬られた倉庫の中に入れば、何でも吸い込む掃除機を掴みスイッチを入れる。
 そこにある、金や宝石、全部を自分の物にし、明かりがつき銭形に姿を確認され丁度全て回収し、撤収する。
 手首に手錠がはめられ、なんなく外し、SSKに乗り込み、金と宝石を抱えながら去る。

【予告上

 来週の今日、女神のダイヤを盗みに参上! ルパン三世】

 新たな予告上を残し、そして跡形もなく消えていく。
 時が経てば、飲むもの吸うもの着るもの、全てが変わるが唯一変わらない自分の欲望。

 ひたすら【終らない夢を紡ぐ】今日も明日も。

98: ブラック [×]
2015-11-02 20:43:37

なぜ、ブログのURLを張ったのだろう。ホトトギス…

あげ

99: ブラック [×]
2016-01-24 00:13:52

 やさしく(からくり卍ばーすと)

 横たわる殺戮人形からくり――。殺すと決めたはずなのに、殺せなかったこの手でそっと頬を撫でる。
 早く目を覚ましてほしい。そして、その優しい声で名前を呼んでほしい。そんな事を思っていると彼女は目を覚ます。

 焦点が合わない、ぼんやりとどこかを見つめやっと目が合った。今俺はどんな顔をしているのだろうか。憎しみに染まっているのか? 優しさに染まっているのか? いや、それとも、それ以外の色に染まっているのか?

 君が好きだと言った表情が作れているのだろうか、俺には分からない。けれど、もう君を殺したいなどとは思わない。
 ゆっくりと君の髪を梳いて大きくなったね、なんて心の中で声をかける。勿論返事などされない。

「……蓮?」

 君の唇が動く。君の目の前にいるのは君を殺そうとしていた男。不安だろうか、それとも憎らしいだろうか。俺は優しく君に声をかけれるだろうか。怯えることはない、と。
 かなりの時が経ってしまっても持っていてくれたおもちゃの指輪。きっと「椿」の心の奥底には「凛」がいたんだ。
 そう思うと、あの火の海の中、指輪を追いかけた行動に納得できる。ただの妄想に過ぎないけれど、だけれど、持っていてくれたことが何より嬉しかった。

「凛……。おはよう、それとも椿って呼んだほうが良い?」
「凛」

 どうやら自分の名前は覚えているみたいだ。だいぶ疲れているだろう。これ以上あまり無理は出来そうにもないので、日を改めて訪れる事にしようと立ち上がる。すると服の袖を引っ張られ、「どこ、行くの……?」か弱い声で尋ねられる。

「仕事だよ。凛が目を覚ました事を知らせないといけないし」
「駄目……。やめて……」
「大丈夫、もう凛を殺そうなんて思ってない」

 何に不安を抱いているのだろうか服を握るその手は全く離れない。まだ自分が殺されると思うのだろうか。頭を撫でて否定するのに溢れる涙。

「美紅様……」

 あぁ、なるほど。

「大丈夫。美紅様を殺したりしないし、今美紅様も疲れて寝ているところ。だから凛もゆっくりお休み」
「ほんと……?」
「ほんと」

 分かった。そう言って凛は手を離して安心したように瞳を閉じた。お休み。
 俺はまだまだ優しくなんてなれないだろうけれど、君が怯えないように優しくするよ。だから、安心してお休み。
 君が起きて大好きな美紅様と笑っていることを祈っているよ。だから、その為には色々な仕事をこなして来るから、俺がここに帰って来る事を祈って待ってて。

 ――行って来ます。

100: ブラック [×]
2016-01-27 02:26:01

ぬくぬく(鏡音リン ブラックスター 雨)


 鏡音リンルーム。レンがいないため、リンのみとなる。当然のようにリンモジュールは一箇所に集合する。


「寒……(さむい)」


 ブラックスターが呟く。季節に合わせてコタツを置いているのだが、外はそれ以上に寒いようでブラックスターはコタツから動こうとしない。


「んな事言ってねぇでしたく手伝えよー」


 台所から聞こえる雨の声。今、リンルームにはブラックスターと雨しかいない。他のリンモジュールは気を利かせて出て行ったのだ。どこに? どこかにだ。


「嫌……。寒……。動、無(いや。さむい。うごきたくない)」

「冬だから仕方ないだろ。ほら、わがまま言ってねぇで箸並べるとか、食器並べるとかしろ」

「嫌(いや)」


 全くいう事を聞かないブラックスターに対し、ため息を零した雨は結局いつものことだが自分で行う。

 そろそろ夕飯の時間でもあるため、時間的には問題ないし、他のモジュールも雨がどういう気持ちかも分かっているようなので、二人分しか夕飯は用意されていない。

 雨がどんな気持ちでいようとブラックスターは全く気づきもしない。何せブルームーンに気がある内は、雨の気持ちすら分からないだろう。


「せめてもうちょいスペース空けろよ」

「肯(うん)」


 よっこいしょ、なんて言いながらブラックスターは右による。コタツなのだから正面に回れば良い話なのだが、そうしてしまうとなぜだか普段より寒く感じるというブラックスターの我侭により、狭いが二人隣に並んで食事をするという習慣になっていた。

 

「いただきます」

「頂(いただきます)」


 二人の声が揃い、黙々と箸を進めていると不意に雨の頬に何かが触れる。触れたものの存在に気がつけば真っ赤な顔をして箸を落とす。


「おっ、お、お前……何して……」

「寒(さむそうだったから)」

「だからって……。俺の事、何にも知らねぇのに……」

「知(しってる)。雨、私事、好(あめがわたしのことすきなのぐらい)」


 いきなりのことについていけなくなった雨は、真っ赤な顔をしたまま小さく「一生、青見てろ」と呟いた。


 ――寒格好、暖思(さむそうなかっこうしてたから、あたためようとおもって)。

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