TOP >
その他のテーマ
自分のトピックを作る
■:
ハナミズキ [×]
2014-10-01 16:30:45
この小説は、「なんとかなるさ!」の続編になります。
なんとかなるさ!(高校生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534187/
初めての方は、こちらを読むとつじつまが合うかもしれません。
俺様、何様?女神様。(大学生編)になります。
更新に遅れを生じる事が多々あると思いますが、ご了承ください。
それと、初めにお詫びを申し上げておきます。
セイチャで目にいしたニックを何個か使用させて頂きました。<m(__)m>
1:
ハナミズキ [×]
2014-10-01 16:31:34
◆ 大学生 ◆
入学をして1週間が経ったが、この医学部と言う所は、個人主義の人が多いのだろうか。
グループになってつるんでいると言う光景が殆ど見られない。
みな本を読み、予習なのか復習なのか分からないが、何かを勉強している様だ。
その中でもたまに、クラスメイトとお喋りをしている者もいるが、その数は限られている。
そして鈴はと言うと、また和也と同じクラスになっていた。
学校が同じ。
クラスも同じ。
あげくの果てには、家まで同じときている。
それでも、和也と鈴の関係が、今までとは少し違ってきていた。
鈴の秘密を知った和也は、もう鈴の事をバカにしたり毛嫌いをしたりはしていない。
それどころか、いいライバルだと認識をしたようだ。
1年間日本で生活をして来た鈴は、今では普通に会話や行動をする事が出来るようになり、もう、和也に迷惑をかける心配がない。
高校在学中にはできなかった友達も、この1週間で出来たのだ。
この医学部と言う所は、圧倒的に女子が少ない。
医学部全体でも20人を切る。
鈴達のクラスでも5人程しかいなかった。
必然的に、その5人はグループを作る事になるが、将来は医者になろうと思うほどの才女達だ、個性が強くないわけがない。
どの女子達も、高校時代はトップクラスの成績を収めていたのだが、全国各地から集まったこの学部では、平凡な成績でしかない。
いままで、人を見下す事はあっても、見下される事はなかった。
ところが今は、自分より頭の良い人達が周りには沢山いる。
どうもそれが、彼女たちのプライドを傷つけたようだ。
初めは5人のグループだったが、直ぐに分裂をして2:3のグループが出来上がった。
鈴は自分を含め、3人のグループに属する事となる。
その友達の名は、「小泉 あい」と「五十嵐 青華(はるか)」と言う。
2:
ハナミズキ [×]
2014-10-01 16:32:11
小泉 あい。通称「あい姫」
父親が開業医で、そこの一人娘である。
気が強く、我がままではあるが、友達思いの良い子である。
五十嵐 青華。通称「はる」
自分の意見を言えない内気な女の子。
直ぐ他人の言葉に流されてしまい、自分を見失いがちになる。
青華の強みは、広い視野を持っている事だ。
そんな二人と友達になったきっかけは、入学早々、鈴と和也が親しげに話しをしているのを見て、この二人は知り合い同士だと踏んだ小泉あいが、ルックスも良く身長も高い(183cm)和也に近付くためだった。
初め、講義の時、和也に近付くために、隣の席に座り、色々と話しかけたら、「うるせぇ女・・」とポツリと呟かれ、あえなく撃沈をしたのである。
あいに話しかけられて喜ぶ男子は沢山いたが、この様に冷たくあしらわれた事は今までになかった出来事だった。
その為、正攻法では無理だと考え、和也と親しそうにしている鈴から攻めようと考えたのだ。
もし、この二人が付き合っているとしたのなら、別れさせればいいだけの事。
付き合っていなければ、仲を取り持つ協力をしてもらえばいい。
そう考えて友達になった。
青華の方はと言うと、クラスの子に馴染めないでいたところに、鈴が隣の席に座り声を掛けたのが始まりだった。
お姫様気質のあい。
内向的な青華。
そして、我が道を行く鈴。
この、三人三様の者達が、今後どう付き合っていくのかが見ものだ。
3:
ハナミズキ [×]
2014-10-01 16:32:58
あいは、鈴と和也が付き合っていない事を確かめると、早速二人の仲を持つように打診した。
すると鈴は、そういう事は自分で何とかしないと、長続きはしないからとあっさり断ったのだ。
「まさか鈴も草薙君に気があるわけじゃないわよね?」
あいは少し怒りながら鈴に詰め寄る。
「気が有るとか無いとかじゃなくって、今から人に頼る事を覚えてどうするのよ。
仮にもこれから医者になろうって人が、自分の問題も一人で解決できなくて
患者の生死に関われると思うの?」
言っている事には、一理はあると思うが、話しが大きくなりすぎている・・・。
たかが学生の恋愛と、人の生死を比べるとは・・・飛躍しすぎである。
そんなお姫様気質のあいと、この学部の女子と気が合うわけがない。
天はニ物を与えないとは良く言ったもので、この学部で見かける女子達は、ショートかセミロングの黒髪で、いかにもお勉強が大好きだ!と言う様な風貌をしている。
今までお洒落とかには無縁だったのだろう。
その中であいは、綺麗な顔立ちで、おまけに巨乳だ。
性格はさて置いても、この外見だけで男は群がって来るだろう。
頭がよくて美人な女子は、同性にひがまれ敬遠されると相場が決まっている。
少し頭がいい子なら分かるはずだ。
美人の友達の隣に映る、自分の姿を想像してみてほしい。
初対面の人から見れば、引き立て役にしか見えない。
もし自分の性格がよければ、それは良い意味で武器になるが、屈折した性格なら、妬みとひがみで、更に酷い顔に映る事だろう。
その事を知っている子は、うかつに美人には近づかないのだ。
そこへいくと鈴は、我が道を行くタイプなので、他人から自分がどう見られていようかなど
気にはしない。
自分の信じた道を歩くだけだ。
だから、あいとも、付かず離れずの良好な関係が保たれるのであった。
青華にとっては、このクラスの中で、一番話しやすかったのが鈴であり、また、一番気を使わずに済んだもの鈴だったからだ。
4:
ハナミズキ [×]
2014-10-01 16:33:37
入学式も済み、しばらくすると、新歓コンパがある。
部活や同好会の、新入生勧誘儀式の様なものだ。
美人のあいに、群がるように男子達がやって来て、自分の所に入ってくれと言い寄って来る。
まるでお菓子の欠片に群がるアリの様だ。
だが、もう一つアリの山が見えた。
それは和也に群がる女子の先輩たちだった。
その様子を遠目に見ていた鈴が「フッ」と鼻で笑う様に笑ってしまった。
あんな風にもみくちゃにされている和也を見るのが初めてだったからだ。
鈴は軽く溜息を1つ付くと、和也の元に向かって近づいて行き。
「和也~。八代教授が探してたわよ~」
「教授が!?分かった直ぐ行ってみる。みなさん、すいません。
用事が出来たので失礼します」
そう言って足早に消えていった。
「あれ?私達いつ八代教授に会ったっけ?」
青華が不思議そうに聞いてきた。
「あぁ、あれね。嘘よ」
ペロッと舌を出しながら笑って見せる鈴だった。
「ええぇぇ!?嘘だったの!?」
「だって、ああでも言わない限り、あの場から脱出できそうもなかったじゃない」
青華は、「なるほど」と言う様な顔をして微かに笑った。
5:
ハナミズキ [×]
2014-10-01 16:34:25
家に帰ると、和也がムッとした顔でリビングのソファーに座っている。
「おぃ。八代教授は呼んでないって言ってたぞ」
「あのね・・・あの場はああでも言わなきゃ、あなた、あそこから帰れなかったわよ?
お礼こそ言われても、怒られる筋合いはないと思うんだけど?」
そう言われればそうかと思った和也だったが、なんか癪に障る。
「もうちょっと違う言い方が無かったのかよ。
全くこれだから女ってやつは・・・」
「普通は分かると思うけどね~。
鈍くなければの話しだけど。」
二人の目と目の間には、火花が飛び交う。
差し詰め、蛇とマングースの睨み合いの様な光景である。
そこへ台所から母親が現れ
「お帰りなさい、鈴。美味しそうなロールケーキを買って来たのよ。食べましょう♪」
空気が読めないのか意図的なのか、母親はケーキを食べながら二人に学校の事を聞いてきた。
「二人とも学校はどう?友達とかはできたの?」
「私は出来たわよ。ママ」
「僕も知り合い程度にはできました」
鈴は楽しそうに話し、和也は淡々と質問に答えていた。
そうして大学生活は幕を開けたのだった。
6:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:30:43
◆ 休みがち ◆
新歓も終わり、校内も落ち着きを取り戻してきた頃、本格的な授業が始まった。
初めの4年間は、授業と実習が基本だ。
人体についていろいろと学ぶ事になる。
講義そのものは、鈴にとって学ぶ必要が無い。
鈴にしてみれば、学ぶどころか教える側に匹敵する人物だからだ。
そのため、学校側との条件で、講義の時間には病院の方におもむき、医師達のアドバイザー
又は、依頼された手術をこなすという事になり、実習のある時は、その実習に参加をし、さりげなく同級生たちにアドバイスを送るという日々が続いていた。
実習をする時は、4人ひとグループになって行う事が多い。
最近鈴は、講義には出ず、病院の方に通い詰めだった。
そのため、あいと青華が必然的に二人でいる事が多くなり、あいは青華を僕の様に扱っていた。
4人ひとグループとなれば、あいは当然青華と組む。
残りの二人は男子にしたいからだ。
それに、授業にほとんど出ない様な鈴が居ては、足手まといになると考えたのだろう。
どのグル―プに入ろうか考えていた鈴の所に、和也が近づいてき、
「お前の友達、たいした友達思いだな」
ニヤッと笑いながら囁いてきた。
「本当にね。じゃあ、和也の所に入れてくれない?」
和也の所は、今のところ3人で、あと一人を誰にしようか迷っていたところだった。
和也はジッと鈴を見て、「入れば?」と、首だけを仲間の居る方向に向け、OKだと言う。
ぶっきらぼうで俺様な和也だったが、良い所もあるようだ。
「宍戸 鈴です。よろしくお願いします」
グループのメンバーが決まった。
7:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:31:47
鈴と和也の他に、高橋 圭太と日向 翔がメンバーである。
鈴が自己紹介をした時に、圭太が「あれっ?」と言う様な顔をした。
去年の夏、麻酔で朦朧としている意識の中で聞いたあの声に似ていると思ったのだ。
「もう大丈夫よ。よく頑張ったわね。お疲れ様」
そう囁いていた天使の声によく似ている。
顔は見てはいないが、何故かその声だけははっきりと覚えているのだ。
しかし、翔の方はと言うと、講義をいつもサボっている鈴となど組みたくは無かった。
大きなハンデを背負う様なものだと思ったからだ。
それに、どうせ組むなら美人のあいの方がいいと思っていた。
そこにあいがやって来て
「草薙君、あい達と一緒に組まない?」
「お前と五十嵐が入ったら5人になるだろ。却下だ」
無表情で断る。
「みんなだって、あい姫が入ってくれた方が良いよな?」
同意を求める日向 翔に対し、和也はこう言った。
「ならお前が向こうに行けよ。五十嵐、お前がこっちに来い。
これなら人数的にも問題は無いな」
日向は喜んだが、あいは猛反対をした。
和也のグループに入るのは、自分の方が相応しいと言い張るのだ。
和也にしてみれば、煩い女はいらない、と言う考えで、圭太の方は、あの天使の声によく似ている鈴の事が気になっていた。
そうして新しいメンバーが決定する事になる。
講義に出ないわりには、実験や実習の内容を良く知っており、手際もいい。
メンバーが少しでも疑問に思う事には、直ぐにその答えを導いてくれる。
8:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:32:42
鈴の正体を知っている和也にとれば、それは当たり前の事で、何の不思議もなかったが、
他の二人にとっては、謎そのものでしかなかった。
解剖学が行われる時は、その手順や意味合いを、教授より解りやすく教えてくれ、更にその先の予備知識まで教える。
薬学の実験では、普通の人が知らない様な事まで知っており、その知識を惜しみなく披露してくれた。
そのおかげもあってか、鈴達のグループは、どのグループよりも成績が良かった。
そんな鈴に、最初は声にだけ興味を示していた圭太だったが、次第に、鈴自体に好意を抱くようになる。
圭太は、脳腫瘍を完治させた後の、最後の定期検診をするために大学病院の方に訪れていた。
待合室の椅子に座り、自分の番を待っている時に、白衣を着た鈴の姿をチラッと見たような気がした。
『・・・今の・・鈴ちゃん?』
まさかこんな所に鈴が居るとは思ってもみない圭太だ。
しかし実際には、鈴は圭太の経過を見にこの脳神経科まで来ていたのだ。
ついでに、他の患者の治療内容もアドバイスをし、次のバイト(手術)の予定を組むのだった。
まだ学生でありながら、若い医師達の指導医的な立場に立ち、熟練の医師達にも手術の手ほどきや新術の術式を教えていた。
そんな忙しく過ごす毎日だったが、この生活もなかなか悪いものではない。
9:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:34:54
3回生になった鈴達は、大学祭の打ち上げで居酒屋に来ていた。
人数にして20人程度だったが、皆かなりテンションが上がっていた。
それもそのはずだ。
20人のうち5人は女子で、その中には当然あい姫も居るからだ。
男子はあいの周りに群がり、食べ物やお酒を注ぐのに忙しそうだ。
「あい姫ってお酒が強かったんだね」
「ぇえ?あい、お酒は強くないよぉ」
「あい姫、このから揚げも美味しいから食べてみなよ」
「あい、もうお腹いっぱぁぃ」
あいが体をくねらせる度に胸が揺れる。
男子の視線は、その胸元に集中されていた。
しかし、あいの目的は、この飲み会で和也の隣に座り、もっと親しくなろうと言うのが目的だ。
あわよくば、酔って介抱をしてもらおうと・・。
だが現実は、和也は空いてる席に座ってしまい、その両隣にはすでに座っていた男子が陣取っていた。
近付く機会を狙ってはいたが、他の男子に囲まれ身動きが出来なくなっていたのだ。
一方、鈴と青華は隣同士に座っており、和やかに話していた。
そして逆隣りには圭太が居たのだった。
だいぶお酒の量も進んできた頃、圭太が少し赤い顔をしながら鈴を質問攻めにして来た。
「鈴ちゃんは、どんな食べ物が好き?」
「そうねぇ、ラーメンが好き!」
「俺もラーメン好きぃ~」
圭太は少し酔っている様だ。
そして続けてまた質問をする。
10:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:35:34
「鈴ちゃんの好きな男子のタイプは何ですか!」
手に持っていた箸をマイク代わりにして聞き始めた。
「好きなタイプ?あまり考えた事もなかったけど・・・そうね・・
仕事が出来る人かな?」
「仕事が出来る人?社会人が良いって事?」
隣で聞いていた青華まで質問をして来た。
「社会人って言うかね、私の仕事に理解を示してくれて、出来れば一緒に
仕事をしながら各地を回ってくれる人って言うか・・肩を並べて歩いて
くれる人がいいかな」
「それって理想の人よねぇ~」
青華がうっとりとしながら同意をする。
「じゃあさ、俺なんかどう?」
圭太の、いきなりの告白だ。
「考えとく。圭太は将来性高そうだしね」
鈴は笑いながら、さらりとその質問をかわした。
「って言うかさ、俺、鈴ちゃんの声、好きなんだ。
俺さ、むかし病気で手術した事があったんだけど、その時に聞いた天使の声に
よく似てるんだよね。鈴ちゃんの声って・・・」
「ねぇねぇ、圭太君って、もしかして鈴ちゃんのこと好きなの?」
青華がいきなり確信を付いてくる。
そこでハッとなり我に返った圭太は、益々顔を赤らませしどろもどろとしていた。
「ごめん・・・じゃなくって、えっと・・うわあああぁぁぁぁぁ・・・俺トイレ!!」
そう言って逃げて行ってしまった。
圭太は普段、自分からはあまり喋らないタイプではあるが、いつもさりげなく青華の事を助けてくれる優しい男子だ。
11:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:36:36
そんな優しい圭太の事を、青華は密かに好意を抱いていたのだった。
でも、どうやら圭太は鈴の事が好きらしい。
それでも圭太の事を諦めきれないでいる青華である。
今はこのままで良い、この関係を崩したくはない。
だから青華はそれ以上何も言わなかった。
それに、圭太は優しいけど恥ずかしがりやな所もあり、鈴からは「シャイボーイ」と
呼ばれていた。
今は、鈴の眼中には入ってはいないようだが、そのうち自分の方に目を向けて繰れれば良いなと思う青華であった。
一頻(ひとしき)り質問攻めにあった鈴は、少し喉が渇いたのか、手元にあったコーラを一気飲みした。
しかしそれは、コーラではなく、ウイスキーが入っているハイボールであった。
「ウィック・・・ヒック・・なんか気持ち良いかも・・ヒック・・」
「鈴ちゃん・・・それ・・お酒・・・」
鈴はお酒にめちゃくちゃ弱かった。
コップ半分の量で立派な酔っ払いになれる。
目はトロンとし、顔もほんのりピンク色だ。
そこに、トイレから戻って来た圭太がまた隣に座ったが、隣に居る鈴の様子が少しおかしい事に気が付いた。
ケタケタと笑いながら、圭太が注文をしたハイボールを飲み、上半身は少しフラフラと揺れている。
「シャイボーイ!かんぱ~い♪」
自分のグラスを圭太に傾け乾杯を迫る。
その様子に圭太は顔を赤らめながら、恐る恐る乾杯をするが、鈴はなおも乾杯を強要してきた。
この乾杯の儀式はいったい何時まで続くのだろうと思っていると、今度は鈴が体をピタリと圭太にくっ付け、手にはハイボールを持ったまま上目づかいに圭太に話しかける。
12:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:37:22
「シャイボーイ、顔が赤いよぉ。熱でもあるんじゃないのぉ?
このリン先生にぃ、見せてごらんなさぁい」
そう言うと、自分のおでこを圭太のおでこにくっ付けた。
驚いた圭太の顔は益々赤くなり、まるでゆでダコの様になってしまった。
「おねちゅは無いみたいでちゅねぇ~」
そう言っている鈴の顔が近い。近すぎる!
その距離15cmと言うところだろう。
その光景に気が付いたみんなの冷やかしが、一斉に始まる。
― ヒュー ヒュー ―
「不純異性交遊は禁止だぞー」
「シャイボーイが発情したか!?」
「お前らできてたのか!?」
などなど。
圭太は驚きのあまり固まったままで動けないでいる。
鈴はと言うと、圭太の肩に寄りかかって今にも寝そうな雰囲気で、目がトロンとしていた。
その時、あいに捕まり、酔った振りをしてしな垂れかかりながら、和也のプライベートを聞き出そうとしているあいに、うんざりしていた和也が急に立ち上がり、鈴の所に行くと、いきなり鈴を圭太から引き離す。
「おぃ。帰るぞ」
「ほぇ?帰りたければ一人で帰ればぁ?」
「バカか?この酔っ払いが。ほら、立て」
「ん~・・・・あれ?・・・・立てないや」
一生懸命立とうとしてはいるが、足に力が入らないようだ。
その様子を見ていた和也が、大きなため息を1つ付くと、背中を鈴に向けて急にしゃがみ込んだ。
13:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:38:35
「乗れ」
その言葉が何を意味しているものか分からなかった鈴は、キョトンとした顔をして黙ったままだ。
「何してる。早く乗れ。帰るぞ」
鈴は和也の首に手を回し、青華に手伝ってもらいながら、和也の背中に背負われて帰って行った。
家に着くと電気は消えており、家の者は皆寝ている様だ。
しかたが無いので、和也はそのまま鈴を背負い、2階にある鈴の部屋まで運び、ベッドに落とした。
そのまま放って出て行こうとしたが、鈴が上半身を起こし、おもむろに、着ていたワンピースを脱ぎ始めたのだ。
「・・・みず・・」
下着姿のまま、水を飲もうとベットの上から立ち上がろうとしたが、やはり足に力が入らないのか、ヘタリと床に座り込んでしまった。
「ハァ・・・持って来てやるからそこに居ろ」
和也は水を持ってきて、鈴に飲ませた。
飲み終わった鈴はまた立とうとしたが、やはりまだ立てない。
和也は諦めたかのように、鈴を抱き上げベッドに寝かせるのであった。
その時、首に回された鈴の手と、暖かな鈴の温もりに、和也の鼓動が少し早くなるのが分かった。
― ドキン ドキン ドキッ ドキドキ ドキ ―
そんな事とは知らず、酔っ払っていた鈴は、長年外国で暮らしていた癖が出てしまう。
14:
ハナミズキ [×]
2014-10-02 20:39:14
「和也ぁ、お休みぃ~♪」
首に回していた手に力を入れて、和也の顔を引き寄せ、お休みのキスをしたのだった。
その行為に満足したのか、鈴はスヤスヤと寝息をたて始めたのである。
和也はいったい何が起こったのか、少し頭の中を整理するために、鈴が寝ているベッドの片隅に腰を掛け、頭を押さえ込んでいる。
『ハァ~・・・なんなんだこいつは・・・?』
今はもう、面倒くさいとか嫌いとかいう気持ちは無い。
ただ、鈴と言う人間が時々分からなくなるのだ。
頭は良い。
面倒見も良い。
そして何よりも、自分と言う物を持っている。
しかし時々、妙に子供っぽく甘えてくる事もある。
このアンバランスさが危うく感じられ、守ってやらなければと言う父性本能にかられるのだった。
この4年間、いつも側で見ていた和也だからこそ分かる。
講義を抜け出し病院で数時間にも及ぶ手術をこなし、下手をすれば泊まり込みの時もある。
何日徹夜をしても、大学には必ず出席をし、何事も無かったかのように学生生活をこなしていた。
そして今日の様に甘えてくるのは、鈴の母親か和也にだけだ。
普段は淡々として無表情な時が多いのだが、素直に満面の笑みを向けるのは、この二人にだけであった。
この笑顔の意図とするところは、家族と認識しての物なのか、それとも単に、好意を持っている者に対してなのか、その意味は今のところ分かってはいない。
15:
ハナミズキ [×]
2014-10-04 21:13:05
◆ 実習 ◆
5回生ともなると、普段の授業の他に実習が入って来る。
実習と言ってもこの時期は、まだ他の先生に付いて手術の見学をしたり、臨床(*)をしたりする程度だ。
(*この場合の臨床とは、患者の診察の事をさす)
見学で回る病院も、付属の大学病院だけではなく、郊外の病院や地方の病院に、3~4ヶ月のローテーションで行かされる事もある。
鈴は、この長きに渡る実習を、地方と離島の病院に実習に行く事を願い出た。
春は東北地方、夏は北海道、秋は沖縄、冬は付属の大学病院と、日本一周でもするつもりなのかと思うほど、幅広い移動区間だ。
普通の実習生は、大きな病院にて、病院の仕組みや序列の有無、それに、外科医志望なら、どれだけ多くの手術に関われるかを考えて、実習願いを出す。
それらを全て除外し、ただ一人だけ、鈴は僻地にある病院への実習願いを出したのだ。
が、蓋を開けてみると、大学で4年間一緒にチームを組んでやって来た、和也・圭太・青華も鈴に付いて行く事を決めており、学校側に直談判をし、許可をもらったのだった。
和也は勿論、この日本で一番腕の良い医者が鈴という事を知っている。
その鈴について学べば、何処の大学病院に行っても学べない医術があるので、鈴に付いて行く事に迷いは無かった。
他の二人にしても、教授に学ぶより鈴に教えてもらった方が解りやすかった事もあり、鈴と一緒なら何処の病院でも良かったと言うのが実情だ。
春。4人は一同東北へと向かう。
東京の大学から、わざわざ青森まで来た、変わり者の4人組は、青森中央病院でも話題に上っていた。
そして、様々な憶測も飛んでいたのだった。
使えない(落ちこぼれ)の学生がやって来るとか、問題児がやって来るとか、とにかく、良い噂はされてはいなかった。
16:
ハナミズキ [×]
2014-10-04 21:16:41
4人がこれから住む所は、病院にも近い一軒家を借り、そこに4人でシェアをする事になっていた。
その方が、防犯的に考えても一番安全で、何かと便利な面もあるからだ。
最低限の家具をリースで借り、それぞれに自分の部屋を確保し、4人は近所に挨拶回りを済ませた後、遅めの夕食を取り役割分担を割り振る。
1: ゴミ出しは1週間交代でする。
2: 食事は自分の分だけでいい
3: 風呂は湯船に浸かりたい人が沸かす
4: 共同間の掃除は一日交替でやる
とにかく実習期間中は忙しい。
細かい規制は無理なので、出来る人がやる。という事らしい。
そして4人は、明日に備えて早々と睡眠につくのであった。
実習初日。
大学病院と比べれば、遥かに小さな病院だが、ここ青森ではそこそこ大きな病院だ。
まずはそこの外科に、4人同時に派遣された。
医局のドアを開けると、中に居た人達が一斉にこちらを見る。
鈴達は各自、自己紹介をする。
「慶清大学から来ました、宍戸 鈴と言います。
短い期間ではありますが、どうぞよろしくお願いします」
「同じく慶清大学から来ました、草薙 和也です。
皆様のご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願いいたします」
「わたくしも、慶清大学から参りました、高橋 圭太と申します。
ご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願い致します」
17:
ハナミズキ [×]
2014-10-04 21:17:40
「五十嵐 青華(はるか)と言います。
何もわからない若輩者ですので、ご指導のほどを宜しくお願い致します」
1人を除いては、まともな挨拶であった。
その一人と言うのが、誰の事なのかは言うまでもないが・・・。
さっそく4人に指導医が付いたのだが、そのうちの一人の指導医が、どこかで見たような気がしてならない。
和也と圭太の指導医は、30前後の若い女医で、いかにも賢そうな女医。と言う様な顔をしている、前田 美里と言う。
そして、鈴と青華を担当するもう一人の指導医も、やはり30代だろうと言う風貌で、名前が八代 忠則と言う。
「あの~、八代先生はもしかして、慶清大学の教授をやっている方の
ご親戚か何かですか?」
顔があまりにもよく似ていたので、思わず聞いてしまった鈴である。
「その人なら私の父親ですよ。
父からも、くれぐれもよろしく頼むと言われているから、安心していいよ」
つまり、鈴の事を聞いているという事だ。
後学のために、自分の息子を指導医に付けるとは、なかなか侮れない教授のようだ。
一方、和也達の指導医は、イケメン男子学生2名を両手にかかげてご満悦のようだった。
今回来る学生たちの写真を見たとたんに、自分が指導医をしたいと申し出ただけあって、好みのタイプのようである。
この機会に、運が良ければ年下の彼氏も出来るかもしれないと、甘い夢も見ていたのだ。
当然の事ながら、実習生と言う者は、医局の雑用に始まり、医局の雑用に終わる。
先生方の、論文の資料集めやカルテ処理などが、一日のほとんどを埋め尽くすのだ。
しかし、事前にその事を教えられていた3人は、鈴に言われた通りに、カルテ整理をする際には、名前・年齢・病名・治療方法などを頭に叩き込みながらこなしていた。
家に帰ってから、その日に見た患者のカルテの情報を、皆で検証するためだ。
18:
ハナミズキ [×]
2014-10-04 21:19:16
家に帰ってから、その日に見た患者のカルテの情報を、皆で検証するためだ。
青華が不思議そうに聞いてきた。
「同じ症状でもね、担当医によって微妙に治療法が違うのよ。
その少しの差が、今後どんな風に患者に影響を与えるのかっていうのをね、
個人で予測しながら観察をすると、今後似たような症状の患者さんに出会った時
治療の目安になるのよ」
「なるほどな。同じ病気でも年齢や体格差で微妙に違いが出てくるからな」
「さすが和也!その通りよ」
「フンッ」和也は鼻で返事をした。
圭太と青華は顔を見合わせ、苦笑いをする。
『この二人、仲が良いんだか悪いんだか・・・』
二人して同じことを考えていたのだった。
和也チームの一日は、午前中は病室回りの御供とカルテ整理、午後からは診療の助手をしていた。
そんな、とある回診風景での一コマ。
「真田さん(68歳)、今日は草薙先生に診て貰いましょうね」
「あきゃやだ、前田先生。
こらほど若い先生さ見て貰ったきや、妊娠しちゃうだばね」
訳(あらやだ、前田先生。こんなに若い先生に診て貰ったら、妊娠しちゃうじゃない)
診察を受けながら、なおも患者はしゃべり続けた。
「先生。うちのめらしのむごさまさだばねば?」
訳(先生。うちの娘の婿にならないかい?)
「?????」和也達には何を言っているのかわからなかった。
「でも娘さんとは年が離れすぎてませんか?」
前田先生が、真田さんに聞き返した。
「ぬらしは32歳したばって、姉さん女房さはちょうど良い年頃さ」
訳(娘は32歳だけど、姉さん女房には丁度良い年頃さ)
「32歳ならいいかもしれませんね」
それを聞いた和也は即答で断った。
「まだ学生の身なので、そういう事は考えていないですね」
「んだな?それは残念だきゃ」
訳(そうなのかい?それは残念だね)
ちょっとした外国に来た気分になっていた。
19:
ハナミズキ [×]
2014-10-04 21:21:39
しかし、この病院に若い男の先生が居るのが珍しいのか、院内を歩くたびに声を掛けられる。
特にご年配のご婦人方は、病室の前でも通りかかったものなら、手招きをして呼び入れ、あれも食え、これも食え、食べれないと言えば「持って行きまれ」(持って行きなさい)と言い、ティッシュに包んで持たせようとする。
和也はやんわりと断るが、シャイボーイこと圭太は、気の毒で断る事が出来なかった。
その為、毎日の様に何かを持たされ、患者に餌付けをされるのであった。
そして、そのご相伴に毎回授かるのが、鈴と青華なのである。
「うんうん。患者さんと仲良くなれると言うのも1つの才能なのよ。圭太」
モグモグとお菓子を頬張りながら、鈴が言う。
「そうなのかな?そうだといいな」
「考えても見なさいよ。圭太の方が和也より圧倒的に患者さんと接して会話してる時間が
長いでしょ?
その会話に中に、病気の症状がチラッと出てくるかもしれないじゃない。
例えばね、今日はいつもより腰が痛いとか、身体がちょっと怠いとか、そういう事を
普段言わない人が言ったら儲けものよ?
我慢強い人ほど何も言わないんだから。
そういう言葉を引き出せる人が、名医になれるんだから。自信もって!圭太!」
20:
ハナミズキ [×]
2014-10-04 21:22:26
「なんか、鈴ちゃんにそう言われると嬉しいな」
圭太は嬉しそうに笑顔で答えた。
そして和也の方をチラッと見ると、ムスッとした不機嫌そうな顔をしている。
ソファーに腰かけていた和也がいきなり立ち上がり、共同リビングを出て自室に行ってしまった。
「和也君、どうしたのかな?」
青華が心配そうに呟いた。
「疲れたんじゃないの?」
そんなたわいもない会話が深夜まで続くのであった。
今日は、内科から回されてきた患者が入院をした。
お腹が時々痛むが、少しすれば治るらしい。
痛む場所からして、その症状は盲腸だと判断をした医師が、念のために入院をさせて検査をする事にした。
やはり盲腸のようだ。
しかし、急を要するものではなく、薬で散らせば収まるだろうと判断をし、点滴をして様子を見る事にしていた。
鈴達4人が帰ろうとした時、ナースコールが鳴り響いた。
「203の鈴木さんが激痛を訴えてるようです」
ナースセンターに担当医が居なく、呼んでくるように言われた。
圭太と青華が、担当医である佐々木先生を呼びに行き、鈴と和也が203号室の鈴木さんの所まで行く。
【お勧め】
・初心者さん向けトピック
[0]セイチャットTOP
[1]その他のテーマ
[9]最新の状態に更新
お問い合わせフォーム
(C) Mikle