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なんとかなるさ!/36


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自分のトピックを作る
■: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:00:11 

―  あらすじ  ―

一度見聞きした物なら完璧に覚えてしまう多才な主人公が、新たな環境に置かれ、それに順応する為の、些細な出来事の物語。


1: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:06:46


私の名前は宍戸 鈴。
人類の未来のために、父はアメリカの理化学研究所にて、新薬の開発をしていた。
その地に、母は幼い私を連れて父の元へ行き、2歳からアメリカで過ごす事になる。
アメリカの学校は、その気になればスキップをして学年を飛び級が出来るシステムがある。
私は、自分が知らない事を学ぶのが大好き性格で、その吸収力も早かった。
一度見た物は記憶にインプットをされ、歩く百科事典と陰で言われていたくらいだ。

そのおかげで、私は12歳で名門グリュスフォード大学を首席で卒業をした。
大学を卒業すると、父の働く理化学研究所に入り、父の助手として新薬の開発に努める。
しかし、私が14歳の時に父は、無理がたたったのか体を壊し、新薬完成を目前にしてこの世を去ったのだ。
父が亡き後、私がその仕事を引き継ぎ、新薬を完成させ、世界初の「細胞再生薬」が出来上がった。

父の夢を叶えた後は、自分が昔から憧れていた医療の道へと進む。
15歳で医師免許を習得し、2年間憧れのERで腕を磨いた。
17歳になった時、貧しくて医者にもかかれないと言う人達を救うために、NPOの国境なき医師団に所属をする。
どこかの国の僻地や、紛争地などにおもむき、毎日が生と死の背中合わせの中で働いたのだ。
契約が1年間だったので、18歳の時に一度母の元に帰ると、母が再婚をしたいと言った。
私は、ずっと母の側に居られるわけではないので、母の再婚には賛成をした。
しかし、母は私も一緒に日本に帰って来て欲しいと言う。
この時私は、最後の親孝行と思い、その言葉に従い、母と一緒に日本に帰って来る事となる。

まさか、再婚相手に同い年の息子が居るとは知らずに・・・。


2: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:07:29


◆ 新しい家族 ◆


鈴に、日本へ帰る決心をさせたのは、グリュスフォード大学でお世話になった、トム・シルバー教授だった。
シルバー教授は、医学界でも有名なほどの腕を持ち、新薬の研究でもその力を発揮している。
いち早く鈴の才能を見出し、愛弟子として育て上げた人物だ。
鈴にしてみれば、アメリカの父親と言ったところだろう。
そのトム・シルバーが、鈴は幼い頃から、年齢より遥かに上の大人たちとの付き合いにより、子供らしい思考や行動が出来ないでいる事を不憫に思っていた。

10代半ばで急速に精神が成長をし、その外見は、東洋人独特の童顔で、西洋人から見れば、小中学生くらいにしか見えない。
心と体がとてもアンバランスなのだ。
そのため、鈴の事を良く知っている者達でも「こんなに小さいのに賢いな」とか「まだ子供なのに、大人びた発言をして可愛い」などと、時々子ども扱いをされてしまう事もあった。

同年代の子供たちと過ごした事のない鈴にとっては、日常的な事だったが、大人たちにしてみれば、やはり小さな可愛い女の子に映るらしい。
そのギャップが可愛くて、みんなに可愛がられてはいたが、トム・シルバーだけは、普通の女の子としての幸せも味あわせてあげたかったのだろう。

18歳といえば、両親と共に生活をし、高校に通い、同級生たちと遊んだり恋をしたり・・・。
そんな日常的な生活を送らせてあげたかったのだ。
間違っても、普通の18歳の女の子は、親元を離れ未開な僻地に行ったり、紛争地に行ったりはしない。
お洒落をして、恋をして、人生を闊歩しているはずだ。
何も知らずに、華の十代を過ぎるのは勿体ない。
そう考えたから、トム・シルバーは鈴を日本の母親の元に送り出したのだった。

そして、日本へ行く鈴に、1つのアドバイスを言った。

「リン(鈴)、日本とアメリカでは環境が違う。それは分かっているね。


3: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:08:58

アメリカでのリンは、大学も卒業しているし、医師と言う職にも就いて活躍もしている。
 しかし、日本に戻れば君は、普通の高校生として生活をしなければならない。
 普通の高校生は、政界や医学界の事など全く分からないし興味もないだろう。
 だから君も、政界や医学界の事などは知らない振りをするんだ。
 日本の学校で習う勉強でもそうだ。
 君にとってはもう必要のない事かも知れないが、知らない振りをして過ごしなさい。
 周りの子に合わせて、君の本当の力は伏せておくんだ。
 分かったね。」

「分かったわ。トム。私、うまくやるから大丈夫よ」

そして鈴は日本へと旅立ったのである。



羽田空港に着くと、母親と母親の結婚相手が迎えに来ていた。

「ママ~、元気だった?」
「ママはこの通り元気よ。鈴も元気そうでよかったわ」

「初めまして、鈴です。これからよろしくお願いします」
「よく来てくれたね、鈴ちゃんが北海道から来てくれるのを楽しみにしてたんだ」

母親は再婚をする前に、鈴の事をどうすればいいのかトム・シルバーに尋ねていた。
このまま1人アメリカに残し、医師としての成長を見守るべきなのか、それとも一緒に日本へ連れて帰っても良いものなのかを、鈴の将来の事も含め、トムに相談をしていたのだった。

トムの考えは、数年間日本で年相応の生活環境を与えた方が、より成長をするだろうという事だった。
しかし、鈴が人並み外れた頭脳を持っている事や、既にアメリカでは、医師として活躍をしており、Drリン(鈴)と言う名前を知らない医者は居ないという事は、秘密にしなくてはならないと言う。
もしバレてしまえば、平穏な生活は望めないだろうという事らしい。
それに、アメリカで取った医師免許及び、国際医療免許はあるものの、将来日本での医師活動をするとすれば、日本の医師免許を取って置いた方が何かと便利だろうと言う事だった。
そこで、鈴は北海道に居る祖母の所に居る事にしておけば、多少世間ずれをしていても問題は無いだろうという事らしい。


4: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:09:56

鈴を乗せた3人の車は、東京の郊外にある新居へと向かった。
家に到着したのは午後4時ころだ。
義父の息子の姿は無かった。
どうやらどこかに出かけているようだ。

母親は久しぶりに鈴と再会をしたので、作る料理もかなり気合いが入っており、山の様なご馳走がテーブルの上に並んだ。
ご飯の準備も出来た7時には、義父の息子も帰って来た。

「ただいま」
「お帰りなさい、和也君。ご飯が出来てるから食べましょう」

和也がリビングに入ると、そこには新しい母親の子供が居た。
自分と同い年だが、生まれ月は鈴の方が早い。
鈴が4月生まれで、和也は6月生まれだ。
しかし、鈴は日本でも童顔だったようで、どう見ても15・6歳にしか見えない。
それに、どういうわけかキョロキョロとして落ち着きがないようにも見える。
何がそんなに珍しいのか、家の中を見渡していた。

「初めまして、和也です」
「初めまして、鈴と言います」

簡単な挨拶で終わってしまった。
そこに助け舟を出すかのように、義父が言う。

「和也、鈴ちゃんは明日から和也と同じ学校に通うから、朝連れてってやってくれ」
「いいよ。でも俺、明日早いけどいいのかな」

「私はかまいませんので、よろしくお願いします」

食事中ずっと、和也は笑顔を絶やさず、鈴にも気さくに話しかけてくる。


5: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:10:55

「こんな中途半端な時期に転校なんて珍しいよな。嫌じゃなかったの?」
「嫌ではありませんよ。ワクワクしてます」

和也は、田舎から出て来たおのぼりさんだから、都会が珍しいのだろうと思っていた。

次の日の朝早くに、和也と鈴は家を出て学校へと向かった。
しかし和也は、鈴のその行動に驚いた。
まず、バスの乗り方を知らない。
和也は定期を持っているので、それを見せて降りたが、鈴もその後について、お金を払わずに降りようとした。
そこで運転手に止められ、お金を請求されるが、財布の中には外国の札しか入っていなかった為、当然拒否される。
鈴の代わりに和也がお金を払い、その場を凌いだが、次に電車に乗る時も、乗り方を知らなく、ピコンピコンと大音響が構内に鳴り響く。

『・・・なんなんだ・・こいつは・・・』

いくら北海道の田舎暮らしだったとしても、バスや電車の乗り方くらいは分かるだろうと思っていた。
しかし現実は違った。
何処のド田舎から出て来たんだよ!と言いたくなるくらいの無知ぶりだった。
そして電車を降りる際に、和也は鈴に向かって呟いた。

「おぃ。俺とお前が同じ家に住んでる事は誰にも言うなよ」

鈴はキョトンとした顔をして和也を見る。

「はっきり言わせてもらうが、お前みたいな馬鹿と一緒に住んでる事は秘密にしろ!
 それと、家から1歩でも外に出たら、俺には話しかけるな。 
 分かったな!」

鈴は困惑をした。
何故なら、自分に向けられて「馬鹿」と初めて言われたからだ。
その言葉の響きに、何故か新鮮さを感じ、少し嬉しくなってしまったのである。
ニコニコとしている鈴に対し、和也は少し機嫌が悪い。
何を隠そう和也は、「馬鹿」が嫌いだったからだ。


6: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:11:55

『なんだこいつ、めんどくせー・・・』

そう思っていた。


7: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:22:14

◆ おバカな鈴 ◆


鈴は和也に言われた通りに、和也には話しかけず、黙って和也の後をついて学校までの道のりを歩いていた。
すると、後ろから女子が駆け寄って来て、和也に話しかける。

「草薙君おはよー」

先ほどまでの、機嫌の悪そうな顔はもうしておらず、笑顔で声を掛けて来た女子に対応している。

「おはよう。山下さん」

鈴は、アメリカに居たころ学んだ心理学を思い出していた。
そして何やら分析を始める。

―  これが俗にいうツンデレというやつか・・・。
   この年頃の男の子は、こういう女の子に弱い・・・と。  ―

ちょっと違うと思うが、やる事や学ぶ事が無かった鈴には丁度良い題材であった。
日本の高校とやらは、観察に匹敵する人物の宝庫のようだ。
しばらくは退屈しないだろう。

朝のホームルーム時に、担任から転校生だと紹介をされる。
なんと同じクラスに和也も居たではないか。
しかし和也は鈴から目をそらし、知らない振りをしていた。
鈴もその意図を汲み、お互い知らない振りをする。

高3の4月の終わりに転校なんてしてくる人は居ないに等しい。
するなら新学期初日か、切れがよく学期初めだろう。
中途半端すぎる。


8: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:23:02

クラスメイト達は、転校生が珍しいのか、何処から来たのか、趣味は何なのか、好きなアイドルは誰なのかと、色々聞いてくる。
しかし鈴は、「何処から来たの?」と聞かれても、北海道としか答えず、詳しい事は言おうとしない。
「趣味は何?」と聞かれても、勉強とか病気の原因を見つける事などとは言えず、「ボーっとする事?」と、疑問形で答える。
「好きなアイドルは誰?」と聞かれても、アイドルなんて知らない。
初めは物珍しく近寄ってきていたクラスメイト達も、そのうち近寄らなくなってしまっていた。



日本の学校に転校して.きて、初めてのテストが行われた。
鈴にしてみれば、9歳の時にやった懐かしい問題だ。
当然すべての答えは手に取るようにわかるが、トムと約束をしていたので、分からない振り、できない振りをしていた。
赤点ギリギリを計算しながら問題を解いていたのだ。
その結果、全ての教科の点数が30点台と言う素晴らしい成績を得た。

この学校は、成績を廊下に張り出す学校だったため、鈴は後ろから数えた方が早いと言う実績を作ってしまう。



ある日のお昼休みに、下級生の女子数人が鈴のクラスにやって来て、和也を呼び出し、校舎裏の人気の無い場所に連れて行く。

「草薙先輩。好きです。付き合ってください」

告白した子は、今年入学をした女子だった。

「今は受験の事で精一杯だから、誰かと付き合うとかは無理なんだ。ごめんね。」

申し訳なさそうな顔をして断った。
断られた女子は、やっぱり駄目だったかと言うような顔をして、その場を後にする。


9: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:23:40

1人その場に残っていた和也が、ポツリと呟いた。

「全く・・バカじゃねぇの?この時期に告白なんかするか?!普通よ・・」

その呟きを偶然聞いてしまった鈴は、その場で立ちすくしていると、人の気配に気が付いた和也に見つかってしまう。

「お前・・立ち聞きとは良い趣味してるな」
「ちがっ・・・偶然です。通りかかったら声が聞こえて・・・」

「偶然ねぇ~」

鼻で笑う様にそう言った。


鈴が教室の戻ると、女子達が何やら話をしている。
どうやら6月にある文化祭の話をしているようだ。
高校生活最後の文化祭という事もあって、変に気合いが入っている。

「カフェなんて良くない?執事カフェとかさ」
「それ良いかも~♪草薙君超似合いそう♪」
『・・・ちょう?って何?』

「メイドカフェも捨てがたいわよね~」
「激可愛な衣装着たいかも~♪」
『・・・激川・・?激流の川の事かしら・・・?』

「お化け屋敷もいいかもよ。彼氏誘ってしがみ付いちゃったりして!」
「それ最高かも!でも、その前に告らなきゃね」
『こく・・る??・・・意味が解らないわ・・日本語って難しいのね・・』

鈴には、若者言葉の略語が全く理解できていなかった。
結局、女子が言っていたカフェに決まり、男子は執事で女子はメイドという事になる。
執事やメイドには、見栄えのいい人達が選ばれ、その中に鈴はおらず、和也は当然執事になる。


10: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:24:23

身長も高く、成績は常に学年上位で、人当たりも良く優しくて親切とくればモテないわけがない。
鈴も可愛い外見はしているが、人付き合いが苦手なのと、言動がどこかおかしいので、接客業には向かないだろうという事で却下になった。
料理も出来なかったので厨房担当も無理で、残るは衣装係となるが、それもあまり得意とは言えないだろう。
それでも何とか自分に与えられた仕事をこなし、文化祭当日を迎えた。


衣装は可愛くできた。
執事役の男子も格好良い。
室内の飾りつけも完璧。
後は客の呼び込みだけだ。

3人一組でビラを配って回り、その成果もあり、なかなかの反響だ。

この学校の近くに、インターナショナルスクールがある為、毎年大勢の外国人も見に来る。
今年もやって来たようだ。
この日は、生徒たちにとっても、生きた英語を学ぶ良い機会なのだ。
流石に慣れたもので、生徒たちは恥ずかしがらずに、身振り手振りを使って、英語で接客をしている。
その光景を横目で見ながら、鈴は一緒にビラを配っている二人の後をついて歩いていた。

その時、何処からか子供の泣き声が聞こえて来た。
泣き声がする方に行ってみると、3歳くらいの可愛い白人の女の子が居た。
親と逸れてしまったのだろう。
3歳だし、泣いているしで、何を言っているのか聞き取れなかったようで、その女の子を囲んで、どうしたらいいものか相談をしていた。

周りに居た生徒達は、仕事もあるし、保健室にでも連れて行こうかと話し合っていた時。

「あの・・・私暇なので、その女の子のお母さんを探しますよ?」

鈴が声を掛けた。

「本当ですか先輩。よろしくお願いします」


11: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:24:55

鈴は女の子の手を引きながら、お母さん探しを始めた。
女の子はいまだ泣きじゃくっているままで、お母さんの手掛かりになる情報は得ていない。
人通りの少ない廊下に来ると、鈴はその女の子に話しかけた。

「もう泣かないで。お姉ちゃんがお母さんを見つけてあげるから」

流暢な英語で語り掛ける。
女の子は、初めて相手の言っている言葉が分かったのか、少し泣き止み、鈴の問いに答え始めた。

「お母さんの髪の毛の色はどんな色?」
「ヒックッ・・・ブラウン・・ヒック」

「じゃあ、お母さんのお洋服は何色だったかな?」
「ブルー・・・・ヒック」

それらの情報を元に、女の子の母親を探してみた。
10分ほど探したが近くには見当たらなかったので、女の子が泣いていた場所まで戻ってみる事にし、そこで待つ事にした。

二人は木陰に座り、人通りを見ながら、鈴は女の子に童話の話を聞かせていた。
すると女の子は、話しが面白かったのか、泣く事をすっかり忘れているかのように、目を輝かせて鈴の話しに聞き入っている。
その姿を見つけた女の子の母親がやって来ると、母親の姿を見つけた女の子はまた泣き出してしまった。

そして、女の子とその母親は、鈴にお礼を言ってどこかに消えて行ったのだった。

そんな事とは知らない、ビラ配りをしていたクラスメイトは、途中で鈴が居なくなった事に対し陰口を言っている。

「宍戸さん、ビラ配りが嫌だからってどこかに逃げたのよ」
「マジで!?やばくない!?」
「あの人、集団行動が出来ないのかしら。ほんと迷惑よね」


12: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:25:31

その話を聞いていた和也は、『あいつバカなだけじゃなくて協調性もないのかよ・・・そんな奴が家族になるなんてマジ勘弁してほしいわ・・・』そう思っていた。

鈴が、素の自分を出し、ずば抜けた頭脳を持っていると分かれば、その時はきっと、みんな引く事だろう。
同じ年でありながら、あの名門大学を卒業し、医師として活躍をしていると分かれば、嫉妬や妬みの的になるのは手に取るように想像が出来る。
かと言って、人並み以下にしかできない子を演じれば、それもまた、暗いとか協調性が無いとかで距離を置かれていた。

育った国が違うと、ここまで人格に違いが出てくるものなのだろうか。
日本では、謙虚が美徳とされているが、アメリカでは自分の言いたい事ははっきり言い、周りに流されてはいけないと教育される。
この差がクラスメイト達との溝となっていたのだ。

鈴は、自分が正しいと思った事は、即行動に移す。
相手の顔色なんか伺ってはいない。
周りと違う行動を、1人だけ行ったとしても、それが正しいと思った結果なら、どんなに批判されても後悔はしない。
でもそれは、日本で言う「空気を読めないやつ」に属するらしい。


それらの事を踏まえ、鈴は持ち前の敵御能力を発揮する。
伊達にくそ忙しいERや、国境なき医師団に居たわけではない。
NPOに派遣されてくる人達は、様々な国からやって来る。
育った環境がみんな違うのだ。
その中には日本人の医師もいた。
その人達の性格や行動を、今一度思い出してみる。

日本人は集団を好む。
何かをする時は、誰かに相談をして、了解を得てから行動に移す。
すぐ、「すみません」と謝る。
お辞儀をするのが大好き。
謙虚さが美徳。
言われなくても進んで仕事をする。


13: ハナミズキ [×]
2014-09-28 23:26:17

などと、大まかに分ければこんなところだろう。
そこで鈴は、日本に居る間は、このような振りをすればいいのだと思い、さっそく実行に移す事にした。

「宍戸さん何処に行ってたのよ。ちゃんと仕事してくれないと予定が狂うでしょ」
「すみませんでした。今度からちゃんと報告をします。申し訳ありませんでした」

鈴は深々とお辞儀をした。
前に見た日本人がこう言ってお辞儀をしていたのだ。
鈴はその真似をして見せた。
すると、「分かればいいのよ」そう言われ、あっさりと許してもらった。

同級生との付き合い方や、対処の仕方が解れば、あとは楽なものだった。
どこかのグループに属し、そのグループのリーダーの言う事を聞いていれば、変なもめ事は起こらないからだ。
だが、どのグループに入るかが問題であった。
しかし、その問題はあっさりと解決された。
文化祭の時に、ビラ配りで一緒に歩いた女子が、何かと面倒を見てくれて、自然とそのグループに入る事となる。

日本に来て2カ月。
鈴はなんとか普通の女子高生を演じていた。















14: ハナミズキ [×]
2014-09-29 15:30:26

◆ 二人だけの留守番 ◆


夏休み前に、両親が新婚旅行に行くと言い出した。
ハワイへ1週間ほど行ってくるらしい。
その間、和也と鈴の二人だけの留守番となる。

「俺達もう子供じゃないんだし、気にしないで楽しんでくるといいよ」
「悪いな、和也。鈴ちゃんの事頼むな」

「大丈夫。任せておいてよ。父さん」
「ごめんなさいね、和也君。鈴の事お願いね」

「もぅ・・ママったら、私だっていつまでも小さな子供じゃないのよ?」
「でも鈴・・あなた料理できないじゃない」
「りょ・・・料理くらいできるわよ。本当に大丈夫だってば」

確かに鈴は、料理くらいはできる。
伊達に医師団に居たわけではない。
が・・・それはすでに出来上がっているレトルトの物をアレンジするくらいだった。
野菜の名前くらいは分かるが、その野菜の姿を丸々1個見せられたら、それが何なのか分かるかどうかは疑問だ。
例えばレタス。
原形のままなら、レタスなのかキャベツなのか、区別がつくかどうか・・・。
お米だって炊いた事はないだろう。
いや、あると言えばある。
でもそれは、釜戸に薪をくべ、その上で大きな鍋を置き作る、大衆料理と言うか、僻地料理と言うか・・・。
とにかく文明の利器を使った現代料理とはほど遠いものだったのだ。
不安である。



両親が新婚旅行に行った初日の事。
晩御飯を何にしようかと、鈴は和也の部屋に行き、ドアをノックした。
和也はドアを少し開けて顔を出し、怪訝そうな顔つきで鈴を睨む。


15: ハナミズキ [×]
2014-09-29 15:31:13

「なに?」
「晩御飯は何にします?」

「いらない」
「えっ?でも・・・」

和也は、晩御飯はいらないと言い、直ぐにドアを閉めてしまった。
鈴の顔も見るのも嫌なようだ。
ドアの前で小さな溜息を1つ付いた鈴は、1階に下りて行き台所に立つ。
とりあえず、在る物で何かを作ろうと思っていたのだ。
冷蔵庫にある材料は・・・白菜少々・玉ねぎ2分の1・ピーマン1個。
冷凍庫に、肉・魚・何かわからない物体。
これしかない。

白菜と玉ねぎ、それと肉。
引き出しの中には乾燥をしたきくらげがあった。
調味料のオイスターと鶏ガラも見つけた。
これだけあれば、あれが出来ると思い、前に本場中国の医師から習った中華丼を作る事にする。
手順は覚えている。
鈴は、一度見聞きすれば完全に覚えてしまうからだ。

野菜と肉と生姜を炒めて水を入れ、戻した木耳を入れて、ガラスープで少し煮込んだ後にオイスターで味を調える。
エビやイカ等の海鮮物が無いのは少し残念だが、これはこれで良い匂いがしてきた。
仕上げの片栗粉を入れた時、その匂いに釣られるかのように、和也がリビングに下りて来て、台所に立つ鈴に視線を落とすのだった。

「丁度良かったです。中華丼が出来たんですけど、いかがですか?」
「それ、人間が食える物なのか?」

「見栄えは悪いかもしれませんけど、味は良いはずですよ」

和也は恐る恐る一口食べてみる。
確かに、見栄えは変だが味はなかなかのものであった。


16: ハナミズキ [×]
2014-09-29 15:31:52

「まぁまぁだな」

まぁまぁと言いながらも全部食べた和也は、その後お風呂に入り、そのまま部屋に戻って行った。
また一人になってしまった鈴は、食事の後片付けをしてからお風呂に入り、リビングでテレビを見ながら情報を収集する。
それがいつもの日課だ。
その後部屋に戻り、パソコンを付けるとメールが2通届いていた。
差出人はトムとジャックだ。
トムのメールには、グリュスフォード大学と姉妹校である日本の、慶清大学の研究室に所用で来日をするとのこと。
その時にぜひ会おうという事らしい。
ジャックのメールも似たような事で、トムの助手として来日をするので、東京を案内してほしいと書いてあった。
鈴は二つ返事でOKをし、来日をする8月を楽しみにするのだった。


次の日、再度トムからメールが届く。
鈴は、トムが添付をしてきたカルテと資料を見てみると、それは脳腫瘍に関するものだった。
その患者は日本人で、まだ17歳の子供だ。
子供と言っても、学年的には鈴と同級生である。

高橋 圭太 17歳。
入院している病院は慶清大学附属病院。
この少年は、脳に腫瘍が出来る病気、つまり脳腫瘍だ。
普通の腫瘍なら手術で切除が出来るが、この少年の場合は、神経と神経の間に腫瘍が出来ており、少しでも手元が狂い、脳にメスが触れてしまうと脳神経を傷つけてしまい、半身不随になりかねない場所にその腫瘍が出来ていたのだった。
いま日本に居る医者の中で、その手術を出来る者が誰もいないと言うのも、また事実である。
その為、もし病気を治したいのなら、海外に行って手術をするか、腕の良い医師を海外から呼ばなければならない。
前者の渡米にはお金がかかりすぎる。
保険がきかないので全額負担になる為、数千万は必要になるだろう。
いや。滞在費や付き添い人の生活費などを考えれば、億近い金になる事は明白だ。
一般人にそんな大金は用意が出来ない。


17: ハナミズキ [×]
2014-09-29 15:32:52

この少年はいったいどうなるのだろうかと、鈴は考えていた。
するとそこに、テレビ電話の着信が鳴る。

―  チャン チャカ チャン チャン チャーン♪  ―

ドラえもんが道具を出す時の音だ。
電話に出てみると、相手はトムだった。

「親愛なるリン。元気だったかぃ?」
「ええ、元気よ。トムも相変わらず元気そうね」

「実はリンにお願いがあってね。」
「私に?」
「そう、Dr,リンにね」

なるほど、添付してきた資料はそういう事だったのかと、思わず納得をしてしまう。

「そこでだ。Dr,リン。君にこのクランケをオペしてもらいたい。
 そろそろメスが恋しくなってきた頃だろう?」

トムは、微かに微笑みながら、画面の向こう側から甘い言葉で鈴を誘惑する。

「そのクランケは、慶清大学附属病院の患者だ。私が丁度来日するという事で、オペの
 依頼があったんだが、リンの方が適任だと思ってね。
 日本でもDr,リンの事は有名らしくてね、喜んでいたよ」

「でもトム、私の素性は・・・」
「大丈夫だ。リンの素性は秘密厳守という事にしてもらった。
 素性を知っているのは、慶清大学附属病院の脳神経外科の教授と、部長の二人。
 病院に行く時は、例の化粧をしていくといい」

「トム・・・オペに化粧は禁止では?」
「そうだったな。はっはっはっは」


18: ハナミズキ [×]
2014-09-29 15:33:53


トムは愉快そうに笑い、久しぶりに顔を合わせた鈴の事を構うのであった。
例の化粧と言うのは、昔一度、研究室のみんなに、可愛い可愛いと子ども扱いをされ、自分は立派な大人だと言わんばかりに鈴が化粧をして来た事がある。
しかしその化粧が、どこからどう見ても、あの七五三の時にする女の子の化粧のようだったのだ。
鈴の中にある大人のイメージだと、色気漂う真っ赤なルージュ。頬は健康そうなピンク色。目も大きく見せるためにラインを引き、まつ毛はツケマでバッサバサ。
そして髪の毛はアップにしてまとめている。
そんなイメージがあった。
そんなイメージ通りに仕上げて出勤をすると、同僚たちは何やら必死に笑いを堪えている様子だった。
堪え切れなくなった一人の人が笑い出すと、後に釣られるかのように皆が吹き出しはじめた。
訳を聞いてみると、子供が大人の真似をして化粧をしているみたいで、可愛かったらしい。
同じ日本人の人は、これで着物でも着たら七五三になりそうだと言ったのだ。
どちらにしても、鈴の化粧は笑いを誘うようである。

トムと二人、画面越しに話をしていると、隣の部屋に居た和也がその声を聞き、何を1人でブツブツ言っているのかと奇妙に思い、ついに頭をやられたかと鈴の部屋を訪れた。
ノックもしないでいきなりドアを開けたものだから、画面に映っているトムを隠すために変な体勢になってしまった。

「・・・・お前、1人でブツブツ言うなよな。気味悪いんだよ。静かにしろ!」

そう言い放って鈴の部屋を後にした。
和也にしてみれば、こんな気味の悪い奴には関わりたくないらしい。


19: ハナミズキ [×]
2014-09-29 15:34:45


二人で留守番をしている間、鈴は親しい友達もまだ出来ていなかったので、家に居る事は当たり前だとしても、あの和也が、学校が終わって真っ直ぐに家に帰って来ていた事の方が不思議であった。
普通なら、これだけ毛嫌いをしていたら、友達の所に寄ったり遊んだりをして、帰宅時間を遅くしそうなものだったのだが、普通に家に帰って来、毎日一緒にご飯を食べていた。

鈴の分析によると、和也は責任感が強く、両親に「よろしく頼む」と言われた手前、1人家に残しておいて何か問題でも発生すれば面倒くさい事になるので、監視をするという意味合いも含め、鈴がトラブルを引き起こさないように見張っている。
そんな状況だろうと考えた。

確かにその通りであった。
田舎者の鈴の事なので、近所迷惑とか考えず、何かをやらかしそうな雰囲気だったのだ。
そして事件はとうとう起きてしまった。


20: ハナミズキ [×]
2014-09-29 15:35:26

夜の11時を回った頃、そろそろお風呂にでも入って寝ようと思い、着替えを持って風呂場のドアを開けると、そこには風呂から出たばかりの和也が立っていた。
いきなりドアが開いたので、驚いた表情の、和也の裸体が鈴の目に飛び込んできた。
鈴にしてみれば、仕事上男の裸体などは見慣れている。
平然としたものだ。

「あっ。ごめんなさい、今出るとこですか?」

平常心で和也に問いかける。
ところが和也は、プルプルと体を震わせながら

「出て行けえええぇぇぇぇぇぇ!!」

絶叫をした・・・。

次の日には両親が新婚旅行から帰っては来たが、和也はその一件以来、今まで以上に鈴と距離を置くようになった。
バカで協調性が無く、周りの空気が読めない上に、変態と言うレッテルまで張られてしまったのである。
男の裸を見ても悲鳴一つ上げないばかりか、まじまじとガン見をしながら顔さえ赤らめない。
恥ずかしいという言葉はこいつには無いのか?!と言う気持ちで一杯であった。







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