TOP > その他のテーマ

時空の彼方/66


最初 [*]前頁 50レス ▼下へ
自分のトピックを作る
61: ハナミズキ [×]
2014-09-16 19:30:55

あの日から、白夜は眠るのが怖い。
眠れば決まって悪夢を見るからだ。
自分をかばい、覆い被さる夕月。
その夕月の体から大量の血が流れる。
血の気が引き、しゃべるのもやっとの姿の夕月。
蚊の鳴くような、細い声の夕月。
最後の最後まで、自分の事を心配してくれていた夕月。

血にまみれ、か細い声で発した最後の言葉

「生き・・て・・・やく・・そ・・・く・・・」

この言葉が耳から離れない。

そして夕月が自分の腕の中から消えてしまう処で、いつも決まって目を覚ます。
目を覚ませば、必ずと言ってもいいほど、白夜の目からは涙が溢れていたのだった。

起きている時ならば、優しく笑いかける夕月の顔が浮かぶ。
自分が怪我をした時には、心配そうに顔を覗き込み、手当てをしてくれた。
些細な事で、怒って、膨れる可愛い顔が脳裏に浮かび、そして消える・・・。
そして何より、「白夜、白夜」と、自分の名を呼ぶ、耳触りのいい声が忘れられなかったのだ。




百年が経ち、二百年が経った頃、白夜は一つの希望をみいだした。
自分はいまだ消えてはいない。
つまり、夕月は何処かで生きているという事だ。

人間の寿命は長くても百年だろう。
その期限をゆうに超えたにもかかわらず、自分はまだこの世に存在をしている。
もしかすると、夕月は違う時代の人間だったのかもしれないと、白夜は思い始めていた。
その推測に希望を託し、白夜は待った。

長い、長い時を待ち、あれから千年が過ぎた。


62: ハナミズキ [×]
2014-09-16 19:31:47

時代も移り変わり、近代化を遂げたこの国を、ただ流されるように見て来た白夜。
そんなある日、あの懐かしい「気」を感じたのだった。
白夜の耳が動く。
白夜の鼻がその匂いを感じ取った。
「気」と匂いのする方向に飛んで行く。

そこは人間が病気になった時に行く建物だった。
窓の外から中を眺めると、生まれたばかりの小さな赤ん坊が居た。
匂いは少し違うが、まぎれもなくそれは夕月の「気」だった。

人間がその赤ん坊の名前をこう呼んでいる。

「夕月ちゃんは元気でちゅね~」と・・・。

やっと出会えた。
夕月だ。
白夜は嬉しさのあまり、自分でも気が付かないうちに、大粒の涙を流していたのだった。



63: ハナミズキ [×]
2014-09-16 19:34:00

何故、東京に居るはずの夕月が、ここ京都で生まれたかと言うと、実は、夕月の母親が京都出身であり、里帰り出産をしていたのだった。
しばらくは実家で子育てをしていたが、夕月が生まれて三か月ほど経った頃に、東京に戻る事になった。

白夜は、夕月が生まれてからずっと、その側を離れようとはしなかった。
しかし、もしこの地を離れる事になれば、稲荷神から「気」を貰う事が不可能になる。
だが、夕月の側に居る限り、夕月から零れ落ちる「気」のみでも、生存は可能だ。
いつも空腹状態ではあるが、死ぬ事はない。

なによりその事を、一番望んでいるのが、当の白夜自身であった。




新しい家族を連れて、家に戻った夕月の母親を見た、当時の宮司(夕月の祖父)は驚いた。
夕月の母親の後を付いて歩くように、白狐が付いて来ていたからだ。

その白狐は、殺気や妖気などは感じられず、神に近いような気が感じられる。
いったい何処で、どういう経緯で嫁に付いてきたのかと思いきや、その白狐は、赤子の側を離れようとはしなかった。
赤子の顔を舐めたり、自分の尻尾で赤子をあやしたりと、何かと世話を焼いているようだ。

宮司はその白狐の事が気にはなっていたが、なかなか話しかける事が出来なかった。
それでもある日、意を決して聞いてみる事にする。

「白狐様、貴方はいったい・・・何故この子の元へ・・?」

白夜は尻尾を少し振りながら、優しい目で答える。

「約束をしたからだ」
「この子と・・・ですか?」

「あぁ。遠い昔にな」
「この子はいったい・・・」

「夕月は俺の・・・主だ」

驚いた宮司だったが、目の前の現実を受け入れるしかなかった。

月日も経ち、夕月が歩き回るようになる。
白狐の姿では守り切れなくなってしまう白夜が、次にとった行動が人型の半妖スタイルだ。
これならどんな危険からも守ってやれる。

転びそうになれば、その体を支え、いたずらをして火傷をしそうになった時は、自分が盾となり守る。
今ではそんな光景が当たり前の様に繰り広げられてはいるが、人型を取ったばかりの頃は、その姿を見た家の者達が驚いた。

いきなり中性的で美形の少年が現れ、しかも、その頭には耳があり、お尻には尻尾まで付いていたのだから。
その少年の正体が、夕月の仕鬼であることを知り、更に驚く。

神社に住む家族と言うだけ会って、仕鬼が神に近い存在だという事は、みんな知っている。
家の者はみな、白夜を敬い失礼のないように接していたのだが、夕月だけは違っていた。
物心つく前から一緒に居るので、いい遊び相手になっていたのだった。

耳にじゃれ付くのはまだいいが、夕月がかんしゃくを起こして、白夜の尻尾に噛みついた時には、家の中に居たみんなが、流石に凍り付いたようだ。
それでも白夜は、その痛みが嬉しかった。(決してマゾではない。)
夕月が側にいる。
この痛みも、自分が生きている証の痛みであり、また、共に生を歩いている証拠でもあるからだ。

しかし、尻尾を握られたり噛まれたりするのは、白夜にとってもくすぐったくてしょうがない。
ここは思い切って、完全なる人型を取る事にした。
人間嫌いだった白夜が人間のふりをするという事は、今までに無かった事だ。





激減りでは無いが、いつもお腹を空かせていた白夜。
「気」の摂取の仕方は知っている。
しかし、まだ三歳にもならないこの夕月から「気」を貰う事は出来なかった。
摂取した「気」の量により、夕月を殺してしまうかもしれないからだ。

そんな時は、気休めに人間の食べる物を食べていた。
ある日ミカンを食べていると、夕月がそれをジッと見つめて、白夜が口に入れたミカンを噛みつく様に、白夜の口元から奪い取ってしまった。
その一瞬の間だったが、それだけで白夜のお腹は膨れたのだった。

その時から白夜は、二度とお腹を空かせることはなかった。


64: ハナミズキ [×]
2014-09-16 19:35:39

更に時が過ぎ、ついにあの日がやって来る。

修学旅行三日目、晴明神社前でのあの光景だ。


「臨兵闘者皆陣裂在前!破邪退魔!!」

夕月の呪文に合わせ、白夜の黒鋼が物の怪を切り付ける。
親芋虫は粉々になり塵とかした。
しかし、数匹残っていた子芋虫が再び夕月に向かい襲ってきた。
とっさに避けようとした夕月だったが、バランスを崩し、段差を踏み外してしまう。
白夜が子芋虫に、狐火を放ち焼き殺し、夕月の方を振り向くと、段差から落ちた夕月の足元から白い光が湧き出ており、あっという間に夕月の体をその光が呑み込んでしまった。

「夕月いいいぃぃぃぃぃ!!!!!!」


白夜は力なくその場に座り込んだ。

夕月が消えた。
あの時と同じように、自分の目の前から消えた・・・。
助けられなかった・・・。
そのもどかしさと悔しさで、白夜はコンクリートの道路を力一杯叩くのだった。

「くそっ・・!クソッ!!クソオオォォォォ!!!!」

辺り一面にその声は木霊をした。









10話終了

65: ハナミズキ [×]
2014-09-16 19:54:19

◆ 帰還 ◆


白夜は漠然としてその場に座り込んだまま動かない。
そこに消えかかっていた晴明の霊魂がやってきて、白夜に語り掛ける。

「白狐よ。お前はまだ消えてはおらぬだろ。
 それが何を意味するものか分かっておるな。」

白夜は黙って聞いていた。

「それが答えだ。約束したのだろ。あの者と」

白夜はハッと我に返る。
確かに自分はまだ消えてはいない。
という事は、夕月はまだ生きている。
何処で?
千年前のあの時か?
いや違う。
あの後、夕月は大けがをして死にそうになっていた。
なら・・・戻ってくる・・・・?

もし夕月がこの時代に再び戻って来るのならば、一刻も早く見つけ出し、傷を治してやらなければならない。
その為には、俺は、今この場所を離れる事は出来ない。
そう思った白夜は、行方不明という事にして、人型を解除し白狐の姿に戻った。

この姿の方が人の目には触れず、行動範囲も広まり、小回りもきく。
毎日、毎日、晴明神社の前で、夕月が戻って来るのを待っていた。
自分が消えて居なくならない限り、夕月はきっと生きていると・・・。

待ち続ける事一週間。
その時が来たようだ。

夕月が消えた時と同じように、路面に白い光が包み込む。
その光が消えると、そこには夕月の姿があった。
千年前、消えた時に着ていた着物とは違う。
夕月は、一週間前に消えた時と同じ服装をしている。
血で服が汚れているという事もない。

しかし、この夕月は確かにあの時代から戻って来た夕月だった。
その証拠に、チラリと見えた夕月の胸元には、白夜との、同筋の印とする、真紅に染まる星型の様な痣が浮かび上がっている。

人型になった白夜は夕月を抱きしめ、その鼓動と息遣いを確かめるのだった。

「生きている・・・良かった・・・」

ホッと胸をなでおろす白夜の背後に、稲荷神の気配がした。
振り返りその姿を確認すると、

「白狐よ。我は約束を果たした。
 後はお前しだいだ。」

白夜はお礼を言い、すぐさま夕月を病院に連れて行った。
検査の結果、怪我などはしておらず、身体は無傷な状態だ。
しかし、衰弱が激しいようで、点滴などの治療を受けるが、三日ほど眠ったままで、目を覚ます気配が無い。

夕月の目が覚めたのは、こちらに戻って来てから四日目の事だった。
目覚めた夕月が最初に言った言葉は。

「白夜、泣かないの・・・。
 生きていてくれて・・・ありがとう・・」

で、あった。




この後二人は、いつもと同じような日常を過ごしたが、ただ一つ違っていたのが、夕月の霊力で、本来仕鬼として仕える為の白夜の力を、同筋をしたことにより、最大限に引き出せる能力を身に着けた事だ。

夕月と白夜も相変わらず仲がいい。
この二人を見ていると、ほのぼのとした気持ちになってくる。
いつか、この二人の子供が見られるかもしれない。
などと言う、淡い夢を見てしまう者も数名居たが、それが叶うかどうかは神のみぞ知る。
と言うところだろう。

そして、現代の陰陽師として、これからも夕月は活躍し続ける事だろう。













―  完  ―


66: 八代目やしろ [×]
2014-09-16 22:05:53

8888…
良かったです(´∇`*)

夕ちゃんの素直な可愛さと
白夜君の一途だけど
素直になりきれない
ひたむきな愛情が良かったv

ほんわかできました
勝手ながら次回作も
楽しみにしています(_ _*)


最初 [*]前頁 50レス ▲上へ

名前: 下げ

トリップ: ※任意 半角英数8-16文字
※画像を共有する場合は、外部の画像アップローダなどをご利用ください

規約 マナー
※トリップに特定文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます

【お勧め】
初心者さん向けトピック



[0]セイチャットTOP
[1]その他のテーマ
[9]最新の状態に更新
お問い合わせフォーム
(C) Mikle