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【 魔女と王子 】旅路編/30


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自分のトピックを作る
■: ハナミズキ [×]
2014-08-20 16:01:01 

あらすじ

力を制御しコントロールする為の、視察と言う名目で修行の旅に出た、ブライアン改めイアンとサラ。
ブライアンはサラを1人の女性とみはじめていたが、サラからは昔と変わらず子共扱いをされる日々。

そんなサラに、1人の男としてみてもらいたいブライアンは、試行錯誤をする。



エピソード【魔女と王子様】はこちらになります。

  ↓↓↓↓↓

http://www.saychat.jp/bbs/thread/520332/1


1: 匿名さん [×]
2014-08-20 16:02:38

続編だな

2: ハナミズキ [×]
2014-08-20 16:49:57

この世界は、大きく分けて10の大陸から成り立っている。
各々の大陸には、魔王と呼ばれる統括者がおり、各大陸内にも、大小さまざまな国が栄えていた。
大陸内の国々を任され運営しているのが、その地の領主になる。

領主になれるのは、力を持った魔族か知的聡明な人間である。
ある国は魔族しか住んでいない所、またある国は人間しか住んでいない所、魔族と人間と仲良く暮らしている所などさまざまである。

各国を見て回り、より暮らしよい国を作るため、ブライアンとサラは旅に出た。
旅の道中、ブライアンの魔力のコントロール修行もかねての旅であった。

今回の旅においてブライアンは、「イアン」と名乗っていた。
旅に出る少し前から、イアンはサラの事を1人の女性として気になりだし、見た目の姿形もサラと変わらないか、少し上のような姿になり、そのまま成長は止まっている。

力の強い魔族ほど、一旦成長をし、その姿を長い年月保つものがいる。
普通の魔族は一旦成長し、その後はゆっくりと老化をするのだが、サラとブライアンは前者の姿を保つ方だ。



城を出てから数ヶ月が経った。
いまの所問題なく順調にきている。
ブライアンの魔力コントロールもほぼ完璧になってきた。
が・・・相変わらずサラには子共扱いされていた。
この旅行(視察)で、サラに少しでも1人の男としてみてもらいたいブライアンは、いままでの呼び方から脱し、イアンと名乗る事にしたのだ。

呼び方を変えたぐらいで何かが変わるわけでもない事は、百も承知だったが、とりあえずそこから始める事にした。

二人が着いた村は、領地に入ったとたんに、草原一面の花が二人を出迎えてくれた。
色とりどりの美しい花々、その花に群がる蝶やハチなどの虫たち。
自然豊かな花の町に着いた。

領地の人々は花を育て、それを生活の糧としている。
この大陸での花の生産量が一番多い国だ。
各小国にも輸出しており、この国に来れば無い花などないと言われているほど種類が豊富に栽培している。

そんな景色を、この旅のために作ったほろ馬車でのんびり街道を進んでいた。
ほろ馬車には、最低限の生活用品を積んで、村が無いところではこの馬車で寝るためだった。
そしてこの旅の間は、「旅の薬師」または「旅の占い師」として行動をしていた。

今回のこの村は、それほど大きいと言うわけではないが、花の買い付けの商人たちが大勢集まる村なので、宿屋も沢山あった。
二人が別々の個室を取る事も可能だ。

宿屋を探し個室を取り、荷物を預けると二人はさっそく村の視察に出掛けた。

3: ハナミズキ [×]
2014-08-21 15:51:41

人々の暮らしを見ながら街を歩いていると、どこからともなく良い匂いが漂ってきた。
食堂街に出たようだ。

店の中に入ると、店内は大勢の客がいる。
どうやらこの店は当たりのようだ。
二人は、その土地の郷土料理を必ず食べるのが、この旅での楽しみの一つになっていたので、さっそくウエイトレスを呼んで注文をする。
注文をしながら、この土地の情報を入手する事も忘れてはいない。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

「ここの郷土料理とそれに見合う物をお願いします」

「はい。かしこまりました」

ウエイトレスが去ろうとした時、イアンが呼び止めた。

「あの、すいません。
 僕たちは旅の者なんですが、この村にはとても綺麗で豊かな村で驚きました。
 きっと素晴らしい領主様が治めてるんですね」

「・・・以前の領主さまでしたらそれは素晴らしい方でしたけど
 新しい領主・・・」

ウエイトレスはハッとした顔をして口をふさいだ。
その慌てようを見逃すサラとイアンではなかった。
さらにイアンは、ウエイトレスの顔をまじまじと見つめながら

「ここら辺で商売をしてもよさそうなところはありますか?」

と尋ねた。

「それでしたら、そこの角を曲がった所に、誰でも商いが出来る場所があります。
 そちらに行かれたらいかがでしょう」

「ありがとうございます」

優しく、満面の笑みで微笑むイアン。
もし、効果音が出るとしたら ―― ずっきゅーん! ―― と言うような音が聞こえてきそうだ。
ウエイトレスの顔は見る見るうちに赤くなり、目がハートになっていく。

食事も終わり、いったん宿に戻って、商売道具などを積んでいるホロ馬車を引きながら、先ほどウエイトレスに教えて貰った場所に行く。
大勢の人が、そこで商いをしていた。
ある者は地べたに座りながら、またある者は屋台の上でと、売っているものもさまざまで、花、野菜、果物、日用雑貨、どれも手作りの品や家で栽培しているものらしい。

二人は開いている場所を探し、そこに店を構えた。
今日の看板は【 王家ご用達 薬師の店 】だ。

すると、【 王家ご用達 】と言う文字につられ、大勢の人が集まってきた。
その中の半分は、サラとイアンの容姿に目を引かれて吸い寄せられたと言っても過言ではない。
二人は手分けをして病人を診察し、薬を調合して渡していく。

だが、美しい娘のサラとイケメンのイアンはそこに立っているだけで人目を引く。
そんな二人に吸い寄せられてきた者は仮病を使って診てもらおうとしていた。
しかし、
仮病など、サラはもちろんの事、いまのイアンにとっても一目瞭然で分かってしまう。
診察するまでも無い。
ぴしゃりと断って次の人を通す。

4: ハナミズキ [×]
2014-08-21 16:46:52

サラの前に、どう見ても元気そうな子共が現れた。
聞くと、一緒に住んでいるおばあちゃんの足が悪く、まともに歩けないらしい。
歩くと痛みを感じ、ほとんど寝たきりだと言う。

でもおばあちゃんは、忙しいお母さんの手を煩わして、子供たちにも世話をしてもらう、そんな毎日がいやらしい。
家族に迷惑をかけてまで生きていたくないと言い出し、昨日から食事を取っていないらしい。
そんなおばあちゃんが可愛そうだから、おばあちゃんの足を治す薬が欲しいと言う。
おばあちゃんに元気になってもらって、もっと長生きしてもらいたいのだと。

薬だけで治すには、少し時間がかかるため、サラが直接おばあちゃんを診察して治す事にした。
喜んだその子共は、サラたちの仕事が終わるまで、近くで大人しく待っていた。

夕方になり、客足も減ってきたので、サラたちは、その子共の案内で家まで行くことになった。
子共の家に着くと、突然の来客で両親たちは驚いていた。
事情を説明すると、家の人は快く中に入れてくれ、部屋まで案内してくれた。

おばあちゃんは、涙しながら手をすり合わせている。
そして子共の頭を撫でながら

「ありがとう・・・ありがとう・・」

と、何度も言っていた。
父親も嬉しそうな顔をして

「ばーさん、王室の薬師様に診てもらえるなんて、こんなありがたい事はないな。
 直ぐに良くなるからな」

そう言うと、父親と母親は、サラたちに深々と頭を下げお礼を言った。

いつもならサラが診察をし治すのだが、今日はイアンにやらせる事にした。
イアンはサラに言われた通りに、おばあさんの足を片方ずつ丁寧に触り、病気の原因となっている箇所を探し出し、そこに自分の気を送り込む。
すると、見る見るうちに足の色艶が戻り、苦痛で顔を歪めていたおばあさんに笑顔が戻ってきた。

10分程度で治療が終わり、イアンはおばあさんの身体を支えながらベッドから起こし、足を床に下ろす。

「おばあさん、気分はどうですか?
 歩けますか?」

おばあさんは、「体中がポカポカしてとても気持ちがいいですよ」と言い、ベッドから立ち上がると、全く痛みを感じない事に更に驚いた。
痛みだけではない、身体が軽くなっている気さえもした。

これで明日から家族に迷惑をかけずに、子供たちの世話も、また昔みたいに出来ると大変喜んだ。
お代は幾らかと聞かれたが、見たところ、この家はとても貧しそうに見えた。

「代金でしたら、食事をご馳走してくれませんか?
 私たちお腹ぺこぺこで」

と、サラがはにかみながらそう申し出た。
パンと豆のスープだけで、とても貧しい食事だったが、なぜかどんなご馳走よりも美味しく感じた。

しかし、この家の周りには広大な土地があり、そこには色とりどりの花も栽培している。
それなのにこんなに貧しそうなのはなぜなのだろう。
不思議に思ったサラは聞いてみた。

「先代の領主様の時は良かったんですが、いまの領主様がこの村を統治するようになってからは
 売り上げの半分を持っていかれてしまうんです」

話を要約すると、いまの領主が先代の領主を殺して、その地位を奪い、大陸全域に出荷している、村の名産物の花に、いままで1割だった税金が5割に値上がり、そのため花に必要な肥料などの経費を差し引くと、ほんの少しのお金しか残らなくなったそうだ。

どうもその領主は強欲で、税金が払えないと働き手である男手や、若い娘を連れて行き、山の中にある秘密の栽培所で働かせているようだった。
しかし、その栽培所に連れて行かれた者は、誰一人として戻ってはきていないという。

そして、この家の長男であるニックも先月連れて行かれたらしい。
その話を聞いた二人は、何か裏があると確信をし、明日、丁度税の徴収があるらしいので、徴収に来る役人にわざと捕まり、栽培所にに居るニックを連れ戻してくると約束をした。

次の日、サラとイアンは、税の変わりに予定通り連行されていった。

5: ハナミズキ [×]
2014-08-21 17:18:03

着いた先は、領主の城の地下牢の様な所だった。
かなり大きめな地下牢で、そこには税の変わりに連れて来られた人たちが大勢いた。
この中にきっとニックも居るはずだと、サラとイアンは神経を集中さて探した。
居た。
向かい側の牢の中に入れられている人たちの中に、その姿を見つけたのだ。

二人の能力は特別なもので、誰かがある人物の話しをすれば、神経を集中するだけでその人物の姿が浮かび上がる。
その記憶を元に、隠れているであろう場所で、その姿を思い浮かべ意識を集中すると、隠されている場所が明るく光りだす。

この方法は、病の原因となる場所を特定する時にも使われていた。
また、この特技をいかし、探し物の依頼に応じた事もある。

ニックを見つけ出し、直ぐに助け出す事も可能だったが、なんの目的でこのような事をしているのか、二人はしばらく様子を見ることにした。

夕方になると、兵を引き連れた偉そうな風貌の男が1人現れた。

「ほぅ~、今回は商品になりそうだな。なかなかの上玉だ」

足のつま先から頭のてっぺんまで、何度もジロジロと嘗め尽くすように視線を張り巡らせる。
まるで蛇が獲物を品定めしているかのように。

「これなら明日の品評会に出してもいいだろう。高値がつくぞ」

いやらしい笑みを浮かべながら、舌なめずりをした。

偉そうな男たちが居なくなると

「なるほどな。そう言う事か。
 税の変わりに働かせるとか言いながら、奴隷として他国に売ってたんだな。
 だから誰も帰って来ないと言うわけか。
 酷い話だな」

「まったくね・・・。
 イアンはこの問題をどうしたいの?」

「ここに居る者も、栽培所とやらに居る者も、全員助けて、領主にはそれ相応の
 罰を受けてもらうさ」

「罰って?」

「世代交代。つまり極刑だな。
 領主の地下牢に俺たちが集められてるんだ、領主が何も知らないはずが無い。
 知っててその手助けをしてるんだからな。
 下手に生かしておいたらまた、なにかの悪巧みをする可能性がある。
 その前に悪の源は綺麗に掃除しといた方がいいだろ」

そんな話を隣で聞いていた少女が不思議そうな顔をして聞いてきた。

「あなた方はいったい・・・・」

サラは何も言わず、ただにこりと笑いかけただけだった。

6: ハナミズキ [×]
2014-08-22 16:29:45

次の日、サラたちと同じ牢の中にいた者たちだけが、全員外に連れ出された。
連れて行かれた場所はどこかの大きなお屋敷だ。
全員が手かせと足かせをはめられ、逃げられないようにされた。
パーティーでも行われるかのような、大きな部屋に連れて行かれ、その部屋の隅に1列に並ばされる。
しばらくすると、大勢の人たちがやって来て、一人ひとりを舐めまわすように見はじめ、値踏みをする。

立たされた後ろの壁には番号が書いてあり、人々は手にしている紙に番号と金額を書き、昨日地下牢に来た偉そうな男に手渡している。
全員が書き終わったのを見計らい、高値を付けた買い主がそれぞれやって来て連れて行く。
イアンの番になった時、二人は動いた。

「おい。これは国が禁止してる人身売買だろ。
 人身売買をした者は極刑だったはずだが、命はいらないと見えるな」

奴隷を購入しようとしていた男はカッとなり、イアンを殴りつけようとしたが、いつの間にかカセを外していたイアンに、逆に取り押さえられる事になる。
その騒ぎに気がついた兵士がかけつけ、イアンを拘束しようとしたが、その兵士達すらもなぎ倒してしまう。

偉そうな顔をしている男が魔法で拘束しようとするが、それすらもはねのけ、その反動で男は吹き飛ばされてしまった。

一方サラの方は、何の罪もない囚われてきた人たちを守るため、個々に薄い膜のような防護壁を身体全体にまとうように貼り付けて守っている。
あらかた片付いたころ、この村の領主が兵を引き連れてやって来た。

「きさまら。このような事をして無事で済むとは思ってまいな」

領主の号令とともに兵士たちが向かってくる。
イアンはきりがないので、魔法でその場に全員を足止めした。
ピクリとも微動だに動かない身体に困惑しながら、威勢のいい悪態だけはついてくる。

「無事では済まないのはお前の方じゃないのか?
 この国の法律では、人身売買は極刑だ。
 死をもって償わなければならないのは、お前たちのほうだろ」

「ふん。そんなもん魔王様にばれなきゃ問題はない!」

「もう俺にばれてるんだがな・・・」

「きさまにばれたくらい・・で・・・」

領主の顔がみるみる青ざめていく。
いま目の前にいる人物こそが、最近即位した大陸の魔王だと気がついたからだ。
領主はガックリと肩を落とし観念したようだ。

かくして、この領主とそれに加担した者は、その罪の重さにより全て処罰された。
ある者はその命で罪を償い、またある者は魔力を封じ込められ、その一生を人間として生きていかなければならない。
死ぬまで牢獄から出られない者もいる。

地下牢に入れられていた人たちや、栽培場で働かされていた者たちは全て解放され、自分たちの家に帰れる事になった。

サラとイアンは、ニックを連れて家へと向かった。
長男ニックが無事に帰って来た事に、家の者はみな大喜びで、二人に何度も何度もお礼を言っている。
二人が去った後、ニックからイアンがこの大陸の魔王様だという事を聞かされ、腰が抜けるほど驚いたのは言うまでもない。

そしてこの村に新しく就任した領主は、民思いの優しい人で、人々の暮らしは元のように穏やかな暮らしが帰って来たのだった。




――― つづく ―――

7: 匿名さん [×]
2014-08-22 17:08:04

もっとサラを出して

8: ハナミズキ [×]
2014-08-27 21:12:16

「今日はこの先にある町に泊まりましょう」

「次の町はどんな所なんだ?」

「かなり大きな町で、学問が盛んに行われてるわ。
 薬師になるための学問所や、官僚になるための学問所とか
 各種武芸館もあるわね」

「へぇ~、面白そうな町だね」

わくわくと心を躍らせながら、自分が知らなかった世界を知る喜びを隠しきれないイアンだった。

「イアンも見学がてら腕試ししてみたらどう?」

静かに、ひっそりとたたずむユリの様な可憐な笑みを浮かべ、ほろ馬車の馭者をしているイアンの横に座りながら微笑んだ。



町に着くとさっそく宿屋を探したが、今週は年に2回ある国家官僚・国府兵士・国家薬師の試験が行われる。
大陸全土から、官僚になるためや、武官になるため、国が認めた正規の薬師になるため、大勢の受験者が集まっており、町中人でごった返していた。
そのため、宿屋の空もなかなか見つからない。

「困ったわねぇ~・・・」

「サラ、この路地の奥の方に宿屋がありそうだけど、行ってみるか」

イアンが指をさす方向に歩いて行ってみると、なんともボロイ宿屋が一件建っていた。

「「・・・・・・・・・・・。」」

いかにも何かが出そうな雰囲気だ。
野宿をするよりはましだろうと、思い切ってドアを開けて中に入ってみる。
中に入ると、すぐ目の前にカウンターの様な受付があり、こじんまりとして意外と綺麗に掃除も行き届いている様子だった。

人影が見当たらないので、イアンが声をかけてみた。

「すみませーん」

奥の方から、この宿屋の亭主らしき人物が現れた。

「いらっしゃいませ。
 お泊りですか?」

「はい。二部屋お願いします」

「あ・・・すいません。
 今日は一部屋しか空いてないんですよ。 
 ツインの部屋でよろしいのでしたらあるんですが・・・。
 いかがいたしますか?」

旅に出る前は、同じ家に住んではいたものの、部屋は別々だった。
この旅に出てからは、野宿をする事も数回あったし、その時はほろ馬車の中で二人一緒に寝ることもあった。
一緒といっても、同じ布団で寝るという意味ではなく、小さな寝台がホロの中に組み込まれており、寝る時だけそれを壁から取り出す組み込み方式の寝台が備え付けられているのだ。
なので、同じ部屋であってもベッドが別々なら、二人にはなんの問題もなかった。

「では、それでお願いします」

9: ハナミズキ [×]
2014-08-27 21:48:03

2階のツインの部屋に通され、食事はこの宿でも取れるという。
6時から夕食の時間だそうで、その頃までに戻るように、街の道場に見学に行くことにした。

宿屋の亭主が言うには、陵武館という所がこの町で一番大きくて有名な道場らしい。
二人は教えられたその道場に行ってみる事にした。




中から威勢のいい声が鳴り響いている。

「もっと脇を締めろ!そんなんじゃ合格出来んぞ!」

「はい!」

――――  カキン カチン ガッキン  ――――

剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。



門をくぐり、受付の人に見学を申し込むと、練習場まで案内された。
しばらく練習場の隅の方で見学をしていると、そこの責任者らしき人物がこちらに向かってやって来る。

「あなたも練習に参加しませんか?」

「いいんですか?」

「かまいませんよ。
 今回の試験は魔王様もお越しになるようなので、みんな張り切っているのですよ。
 魔王様のお目に留まれば、王室付きの兵士になれますからね。
 あなた達もそれを狙って受けに来たんでしょ?」

サラとイアンはお互いの顔を見合わせながら、はて?いつ自分たちが今回の試験の見学に来ると言ったのかと不思議そうな顔をしていた。

イアンの代理で城に残っているダニエルからも何の連絡もないし、そんなデマがいったい何処から・・・。

イアンが見学のついでに、練習に参加させてもらっている間に、サラは ―― ビュン ―― と瞬間移動で城に戻り、ダニエルに確認を取った。

「ダニエル、あなた学問の都パルスに今回の試験を見に行く予定があるの?」

急に現れて変な事を聞くものだと思いながら

「いいえ。そのような予定はありませんが。
 何かありましたか?」

事の次第をかいつまんでダニエルに教えた。
サラは詳しい事情は、あとで調べて知らせると言い残しその場を去った。

10: ハナミズキ [×]
2014-08-27 22:41:32

陵武館に戻ってみると、当然のことながらイアンに勝てる相手など誰も居なかったようだ。
一通り見学が終わると陵武館を後にし、街の中にある店を見ながら散策した。
するとサラが突然立ち止まり、一軒の薬剤店に入る。
普段ならなかなか手に入らない、珍しい薬草が所狭しと陳列されている。
必要な物を必要な分だけ購入し、嬉しそうに、少女の様な笑みを浮かべて、購入した品物を大事そうに胸に抱きかかえながら歩きだす。

イアンはそんなサラを見ながら、なんと可愛らしく、愛くるしいのかと、恋心が日に日に大きくなっていった。

この人を独り占めしたい。
この人に、家族のようにではなく、異性として愛されたいと、そう思う気持ちは日を増すごとに大きくなっていく。

サラにとっても、これほど長い年月を、誰かと一緒に寝食を共にした事はなどなかった。
今まで気の遠くなるような人生の中で、こんなに楽しく、誰かを愛おしいと思った事も無かったのだ。
それだけサラは誰にも気を許してはいなかったのだった。

イアンが魔力のコントロールも大分出来るようになり、いつでも城に戻ってもいい状態なのに、いまだ城には戻ってはいない。
これがサラにとってどういう意味を成しているのか、サラ自身もまだ気が付いていなかった。

荷物を抱えながらぶらぶらしていると、町外れに小さな武術館を見つけた。
塀の上から首だけ出すように中を覗くと、先ほどの大きな武術館とは違い、身形が少し貧しい者たちが訓練をしていた。
指導している師範と思われる人を見ると、そこには見覚えのある顔が立って居た。

「サラ、あれはデニマール大将じゃないか?」

「ええ、そうね。
 彼は、先々王との約束を果たしたから、その望み通りここで剣術と魔術を教えてるのよ」

「先々王と言うと、母上か?」

「そうよ。私もその場に立ち会ったから間違いないわよ」

「でもなんでデニマールの様な優秀な武官が・・・辞める必要はないんじゃないか?」

「それはね、むかし、私があなたのお母さんの付き添いで、マルチ大陸の王に 
 会いに行った時の事なのよ。
 当時のその大陸は随分と荒れていてね、人々の暮らしもとても貧しかったの。
 力の強い者は力の弱い者を奴隷のように扱っていたり、人間なんて家畜同然の扱いだったわ。
 あなたのお母さんは、マルチ大陸から逃げてきた人にその話を聞いて、その大陸の王に会いに
 行こうとしたんだけど、他の大陸の王が、自分の大陸でもないのに勝手に意見する事が
 出来ないのよ。
 唯一できる者が居るとしたら、それはこの世界を作った私だけだったの」

イアンは真剣な表情をして聞いていた。

「マルチ大陸に行ってみると、それは酷いありさまだったわ。
 痩せ細った土地、干からびてる川は湖、人々は飢えと乾きで何人もの人が死んで
 そこら辺に死体が転がってた・・・・」

「その王はどうなったんだ?」

「任されてた土地も満足に面倒を見れない王など必要が無いから、消えてもらったわよ?」

真顔で言うサラを見つめながら

『・・・・鬼だな・・サラは・・』と思っていた。

「しばらく私がその大陸を代理で納めて、次の魔王の資質が有る者が現れてから交代したのよ。
 その間、両親を亡くして身寄りのない子供たちを、あなたのお母さんに預けて、マルチ大陸の
 治安や内政、その他もろもろが安定したら、子供たち本人にどちらで暮らしたいか決めさせて
 生活もちゃんと出来るように手配して、ある一定の年齢になってから帰したのよ。
 デニマールはね、その子供の一人なの。
 物凄く才能のある子だったから、王室付きで働いてもらう事になったのよ」

11: ハナミズキ [×]
2014-08-27 23:17:49

「それで、武官を辞めてここに引っ込んでる訳は何なんだ?」

「彼はこう言ったわ」


―――― サラ様、私の命は王陛下に拾って頂いた様な物です。
     他の大陸に住んで居る者を、見捨てる事が出来ないと
     拾って連れ帰っていただいたばかりか、衣食住に教育まで
     して頂きました。
     それに、何処の誰とも分からない私に、王室付きの武官にまで
     して頂き、大変感謝しております。
     あの日から私は、王陛下にこの命を捧げる決心をした次第であります。
  
     その王陛下がお亡くなりになったいま、私の使命も終わったかと
     存じ上げます。
     ですが、今度の王は魔力も何も持たない人間の王にございます。
     私は、生涯唯一ただ一人の主君王陛下たっての願いにより
     次の魔王であらせられるブライアン様がご即位なさるまでの間
     現王陛下をこの命に代えても守らせていただきとう存じます。

     ブライアン様が王陛下におなりあそばされた暁には、私はこの城を辞し
     ブライアン様の御ために、働いてくれる者を育成したいと思っている
     次第であります。                          ―――


「そう言ったのよ」

「・・・・・。」

イアンは何も言えなかった。
自分の知らない所で、何人もの人が自分を守ろうと、最善策を作ろうと働いていることなど全く知らなかったのだ。
知ってしまったからには最大限の援助をしたい。
そう思った。

話し終わった二人は門をくぐり、中に入っていった。

12: ハナミズキ [×]
2014-08-28 16:56:48

二人がこちらに近寄ってくる姿を見たデニマールは少し眉をひそめ、少し何かを考えている様子だ。

「何か御用ですかな、旅のお方」

頭の回転の速いこの男は、瞬時に判断したのだろう。
サラとブライアンが招待を隠し、大陸を回っている事に。

「少し見学をしてもいいか?」

「ええ。構いませんよ。ごゆっくりどうぞ」

あくまでも初対面の振りをする。

訓練の風景を見ていた二人は、顔をピクリと動かした。

「お気づきになられましたかな?」

「「ええ。(ああ)」」

二人は同時に返事をした。

年のころは2・3と言ったところだろう。
キレのある身のこなし、相手の行動の先を読む力、瞬時簿判断力、どれをとってもずば抜けていた。
それに、伸びしろがまだ見えていない。

――― 欲しい ――― イアンはそう思った。

「あの子は試験に出るのか?」

「いいえ。あの者たちは官僚や武官にはなれません。
 よほどの後ろ盾がない限りは・・・。」

官僚や武官になれる者は、平民以上の者であり、その日暮らしを虐げられているような者は、一番下っ端から始め、伸し上がっていくしかないのだ。

「イアン、あの子が気に入ったの?」

「サラ、俺、あの子を育ててみたい。ダメかな?」

サラはクスクスと笑いながら

「人を見る目は確かなようね。 
 館長、あの子を私たちに預けてはもらえないかしら」

「それはもったいないお言葉ですな。
 あなた方がそうお望みでしたら、こんなに喜ばしい事はありませんよ」

館長が子供を呼び、この者たちと一緒に旅に同行をしろというと、子供は目を丸くして驚いていた。
この二人が一体どんな人物なのかは、館長からは一切説明がない。
旅をしていればその内分かることだから、それまで楽しみにしていなさいと言うだけだった。

館長の言う事はいつも正しい。
館長の言う事を聞いていれば、自分のためになるという事は良く知っていた。
でも、何も話してくれないで、ただ一緒について行けというからには、何か事情がある二人なのだろうと判断をした。

見た感じ悪い人たちには見えない。
それどころか、どこか気品に溢れていて、なんと言ってもその容姿には目を引かれる。
絹糸のようにさらさらと風になびく金髪にグリーンの瞳・・・かっこいい。
女の人の方は、栗色の髪にブルーの瞳、綺麗というよりは可愛い・・・。
まるで天使の様だとさえ思える二人だった。

そんな事を考えながら、顔を紅く染めながらボーっとしていると

「この子の名前はクリスと言います。
 両親は数年前に亡くなってはおりますが、この子は魔族です。
 きっとあなた方のお役にたつと思いますよ」

「クリス、俺たちと一緒に来るか?」

「はい!お供させてください!」

嬉しそうに満面の笑みでそう答えた。

13: ハナミズキ [×]
2014-08-28 18:38:56

いつもと違うクリスの様子に気が付いた、同じ訓練生でもあり、同じ集落の子供たちが集まってきた。

「なんかあったのか?クリス」

クリスは嬉しそうに

「僕ね、この方たちと一緒に旅に同行することになったんだ!」

集まってきた子供たちは、サラとイアンを間近に見て、それぞれが顔を朱色に染めた。

「なんでクリスなんだ?!クリスより俺の方が強いのに!」

そう言ったのは集落一番のガキ大将ヤンだった。
ヤンはいかに自分の方が強いか、自分には才能があるかを語り始めた。
ヤンに限らず、ここに居る者たちはみな、武官や警備隊などのきちんとした職業につき、家族のために働きたいと思っている。
欲を言えば、どこかのお屋敷の警備や護衛武官として名をはせたいとも思っていた。
だが、いきなりそんな所に勤められるわけもなく、始めは何処かのお店などで用心棒として働き、その働きを認められヘッドハンティングされる日を夢見ているのだった。

お店の用心棒にしても、まだ年端もいかない子供を雇うはずもなく、いまはただひたすらに腕を磨くべく精進するしかなかったのだ。
それなのに、この訓練所に入ってまだ半年のクリスが、いきなり現れた旅の二人連れに用心棒として雇われたとなっては、ヤンや他の子供たちも面白くはないはずだ。

「クリスはこの訓練所に来てまだ半年だぜ?こんな奴が用心棒なんか勤まるはずないぜ!
 どうせなら俺にしときなよ、旅の人」

「ごめんね。クリスは用心棒に雇ったんじゃないのよ?」

「はぁ?!じゃあ、なんで連れて行くんだよ」

そうだそうだと子供たちがまくしたてる。

「クリスの将来を見越して連れて行くのよ?
 この子ならきっと、将来優秀な武官になれるわ。
 それに、イアンの片腕にもね」

クスリと笑いながらクリスの頭を撫でるのだった。
頭を撫でられたクリスは、顔を紅くしうつむいて困った顔をしている。



その時、門の方から爆音とともに黒い煙が上がった。
何事かと駆け寄ってみると、いかにも人相の悪そうな5人組が次々にこの訓練所を破壊し始めた。

子供たちの話によると、元々あったもう一軒の訓練所の館長が雇った人たちで、いままではそこに入門する人がほとんどだったが、そこの訓練所は、ノルマが達成できないと厳しい罰を与えられ、無料で教えてくれるのはいいが、そこを出て就職をしたのち、多大な寄付金と称しお金を毎月請求されるという。
教えてもらったその礼金というわけだ。

そこに対し、ここは礼金など一切受け取らず、その者の魔力に合った術を丁寧に指導してくれる。
そしてその能力を最大限伸ばしてくれる。
そんな噂が噂を呼んで、向こうから移ってくる人たちが増えたという。
それを逆恨みして、度々この様な嫌がらせを仕掛けてくるというわけだった。

館長のデニマールが一人で応戦していたが、今日は向こうに一人、結構な魔術使いがいるようだ。
デニマール一人では応戦しきれてはいなかった。
子供たちは怯え、泣き出す子も現れた。

「イアン・・・助けてあげて」

「了解!」

にやりと笑い駆け出す。

「あ・・・イアン!手加減はしなさいよ!」

「わかってるって」

サラは木の枝で子供たちを囲むように大きな円を描いた。

「みんな、この円から出てはダメよ? 
 この円の中にいれば安全だから、絶対に出ないようにね」

そう言って子供たちを自分のそばに呼び寄せ、抱きしめる。

イアンの参戦によりあっという間に片が付いたが、何故か警備兵隊たちが大勢押しかけてきた。
不法侵入及び、爆破破壊の犯人たちを取り押さえるためではなく、狙いはデニマール達の方だった。
イアンは警備兵隊たちに捕縛の術をかけ拘束した。
呪文も唱えず捕縛の術をかけたので、みな一体何が起こっているのかさえ分からない様子だ。

サラは防護壁で守られている円の外に出て、警備隊長に尋ねる。

「これはいったい何事ですか?」

「きさまら!いったい何をした!」

「聞いてるのはこちらですよ?
 私の質問に答えてくれなければ、捕縛は解きません」

「ほ・・・捕縛だと?!呪文も唱えず捕縛などできるはずがない!
 嘘を言うな!」

「あら・・・あなたは知らないのかしら?呪文を唱えず術をかけられる者がこの世に二人いる事を」

「はぁっ?!・・・そんな事出来る者と言えば、魔王様と伝せ・・・つ・・・」

何かを感じ取ったのか警備隊長の顔が見る見るうちに青ざめていく。

「ピンポーン♪正解。」

あわあわと慌てふためく警備隊長。

「で?誰に何を言われてここに来たのかしら?」

笑顔で問いながら右手で警備隊長のおでこに触れる。
サラに触れられた警備隊長は、顔面蒼白を通り越して今にも倒れそうな勢いだ。
それもそのはず、普段は気配を人間並みに抑えてはいるが、サラの采配ひとつで、サラが触れた者に対してだけその莫大な気を、全身に流れ込ませることができる。
流れ込まされた気に、ほんの少し力を加えただけで、その本体は一瞬にして消し去られてしまう程の
強い気だ。

気の強さは、魔族なら本能的に理解できる。

「・・・尚武館・・の・・・館長に・・・ここで子供の売・・り・・買いを・・・してると・・・」

ガクガクと震えながら話しだした。
話し終わるとサラは、イアンに捕縛を解くように言うと目をつむり静かにほほ笑んだ。
その直後、西の方角から物凄い爆音と黒い煙が上がったかと思うと、先ほど壊された門や屋敷が綺麗に元通りに戻っている。

「・・・・サラ・・・、やった?」

イアンが恐る恐る聞く。

「ん?人聞きの悪い事言わないでよね・・・ちょっと取り替えっこしただけじゃない」

ぷくぅっと少し膨れたように舌をペロッと出して笑った。

『容赦ねぇよな・・・この人は・・・』と思いながらはにかむイアンだった。

14: ハナミズキ [×]
2014-08-28 21:32:17

防護壁の中にいた子供たちには、外の様子は見えるものの、外の音は遮断されており、イアンが呪文も唱えず魔術を使った事などは全く知る由もなかった。
ただ、魔術で警備兵隊たちの動きを止めて、サラが警備兵隊に話をしに行った。
そういう風にしか見えていなかった。

しかし、二人とも人間の気配程度にしか気を出していなかったので、先ほどの魔術もデニマールがやったものだと思い込んでいた。





次の日、武術と魔術の試験を見学し、魔王が来ると言う噂がただの噂であり、今回の試験を盛り上げて受験生の数を少しでも増やし、この町の経済効果を計ろうという趣旨だった。
そのおかげかどうかは分からないが、経済効果はもちろんの事、優秀な人材もいつもより多く現れていた。
しかし、こんな人騒がせな事はもうするなと、魔王であるイアンに、領主がきつく咎められたのは言うまでもない。
が、その反面、良く行き届いた教育の場を、身分に関係なく平等に与えていることに関しては、魔王直々に感謝の言葉を頂いたのである。

魔王に直に言葉を頂いたばかりか、いままで噂でしか聞いた事のなかった伝説の魔女にも会う事が出き、その美しさにしばし見とれるほどだった。
人前には決して姿を現さないその魔女が、いまはこの大陸の魔王様と一緒に行動をしている。
これは国民にとっても、臣下にとっても大変名誉な事である。
そして何よりこの二人、お互いを信頼し合っている姿がとてもお似合いに見えた。






すべての用事が終わり、二人はクリスを迎えに行った。
訓練所に行くとすでにクリスはそこに居た。

両親はすでに亡くなってはいたものの、親戚の人が面倒を見てくれていたのだ。
しかしその家も生活が苦しく、日々の食べるものにさえ事欠くような生活だった。
だが決してクリスを邪魔者扱いをせず、我が子同然の愛情を注いでくれていた、そんな感情がサラとイアンに流れてきた。

クリスの資質をみいだし、共に旅に行こうと声をかけてくれた二人だったが、その二人の素性がまったく分からない事に不安を隠しきれていない保護者の気持ちも二人には流れてきた。

「あの、二人にお話があるんですが、ちょっといいですか?」

サラは少しでも不安を取り除いてあげようと、この保護者には本当の事を打ち明ける決心をした。
保護者二人とイアンを連れて別室に行き、自分たちの旅の目的とクリスを同行させる目的を話した。
当然のことながら保護者達は腰を抜かさんばかりに驚き、勿体ない勿体ない、ありがとうございますと、何度も何度もお礼を言い涙ぐんでいた。

定期的に連絡を入れる事と、クリスが一人前の働きをするようになったら、それに見合う賃金を払う事を約束し、3人はほろ馬車に乗り込みこの地を後にした。

そして新たに3人での旅が始まったのである。









―― つづく ――

15: 匿名さん [×]
2014-09-01 13:50:42

もう終わりなの?

16: ハナミズキ [×]
2014-09-01 21:29:54

すみません。
少し気分転換をしてました。

もう少し続くと思いますので
いましばらくお付き合いいただけると
嬉しく思います。

17: ハナミズキ [×]
2014-09-01 23:07:48

旅にクリスが加わり、3人での旅となったこの御一行様は、王室を離れて早3年の月日が流れていた。
クリスが加わってからの旅も、そろそろ1年が経とうとしていた。

この1年の間で、クリスは随分成長をした。
ほろ馬車での移動中は、サラに国歴・各領主の名前及びその家系の歴史・貴族の名前及びその家系の歴史・薬学など、さまざまな学問を鬼の様に叩き込まれた。
イアンからは剣術及び魔術を、馬車から降りている時や実戦で叩き込まれた。

見た目は14歳ほどの子供なのだが、その腕前と知識はA級ランクの実力を備え付けられた。
A級ランクというのは、武官なら中隊クラスの大将で、文官であれば各省庁のNo3当たりと言ったところだろうか。
だが本人には全くその自覚がなく、二人の前では従順かつ忠実な弟子に徹していた。








日暮れまでに次の町まで到着する事が出来ず、今日は途中の山間で野宿をすることになった。
近くに川などはないが、自然を意のままに操れるサラには、そんな事は関係がなかった。
目をつむり両手を天にかかげて、呪文も唱えずただつぶやくだけ。

「水の粒子よ、我に集え」

そうつぶやくだけで空にはキラキラとした粒子が集まり、それを吸収したサラが入れ物に手をかざしただけで水が湧き出てくる、摩訶不思議な魔術だ。
火を起こすために使う小枝もそうだ。
イアンが片手でクイッと右から左に手首の先を動かすだけで、森の中に散らばっている小枝が手元にやってくる。

クリスとこの二人の決定的な違いは、呪文を使って魔術を行うかそれとも呪文なしで魔術を行うかの違いだった。
ただ、イアンの魔術の凄さは訓練をつけてもらい、実戦でも目の当たりにしているので物凄く尊敬をしていた。
しかし、サラは普段魔力をほとんど使わず、学問の師匠としては尊敬していたが、魔術が苦手な人だと思い込んでいた。

イアンも、いつもサラを守るように戦っていたので、クリスは何の疑いも持っていなかった。
二人の正体も明かされていなかったので、勝手な憶測で、言葉使いと学問の知識量から推理すると、どこかの貴族のお嬢様ではないかと思っていた。
イアンは、そのお嬢様に同行している護衛騎士ではないかと、勝手に推測をしていた。

辺りが暗くなり夜も更けってくると、大勢の人の気配が感じられた。
クリスとイアンがおもむろに立ち上がり戦闘態勢に入る。
気配からして2・30人は居そうだ。
この山一帯を根城にしている山賊の様だ。
それも魔族の山賊一味だった。

いきなり放たれる風塵かまいたちや雷弾、葉切刀などをかわしながら、確実に敵を倒していく。
本来ならこの程度の人数は1分もかからないのだが、クリスのための実践として、イアンはサラを守ることに徹し、戦闘そのものはクリスに任せていた。
たまにクリスが絶ち損じた敵をイアンが倒すという、そんな戦術だった。

万が一クリスが怪我をすれば、サラが治癒の術で手当てをしてくれる。
この1年でクリスが学んだ事は、戦闘魔法はイアンで、回復と補助系の魔法がサラだという事だった。
つまり、サラに戦闘能力がないと判断していたのだ。

ほぼクリス一人の戦闘でも、この程度の魔族なら10分もかからない。
あっという間に倒すと風に乗せて近くの町にある役所に送りつけた。

「腕を上げたな」

「もう立派な騎士ね」

二人に褒められたクリスは嬉しさを隠しきれず、満面の笑みを浮かべ飛び上がって喜んでいる。

意気揚々と次の町に到着をしたが、街に入るなりいきなり警備兵に呼び止められ、通行手形を見せるように言われ、手渡した。

「お前たちはどこから来た」

「それに書いてある通り、王都から参りました」

「そうか。では我々に同行してもらおう」

「何故ですか?理由を教えてください」

「理由など知らぬわ。王都からの通行人はすべて城に連れてこいとのご命令だ」

サラとイアンは顔を見合わせうなずく。
しかしクリスだけは、訳が分からずガタガタと震えていた。
こういう所はやはりまだ子供であった。

ほろ馬車を取り囲むかのように警備兵に囲まれ、3人は城へと連行されて行った。

18: ハナミズキ [×]
2014-09-02 16:57:23

連行されたと言っても、縄や捕縛の術などはかけられておらず、騒がなければ何もしないと言うその兵士の言葉を信じ、前後で挟まれるような感じで歩いて付いて行った。
着いた先は牢屋などではなく、たいそう立派な貴賓室の様な所に通され、そこで迎えが来るまで大人しく待っていろと言うと、兵士たちは出て行ってしまった。

「サラ、これはいったいどういう事なんだ?探ったんだろ?」

「なんか今日は面白い事になりそうよ」クスクスと笑いながら言う。
「大丈夫よ、クリス。そんなに怖がらなくても」クリスを抱き寄せ背中をポンポンと叩いた。

サラに抱きしめられると気分が落ち着く。
何故だか分からないけど安心するのだ。
その理由をイアンは知っていた。
サラはその者(物)に触れただけで心の不安、体の疲れを取ってくれる不思議な力があった。
イアンも小さい時にはよくサラに抱きしめられていたからだ。
家族と離ればなれの寂しさや、魔族に人として理不尽に扱われていたくやしさ、親しい人が死んでしまう悲しみ、そんな時にいつもサラが抱きしめて、この世の理(ことわり)を教えながら、静かに心を癒していく不思議な力。
大きな愛情に包まれているかのように、しだいに気持ちが穏やかになっていく。

クリスが落ち着きを取り戻し、ゆっくりと目を開けてイアンの方をふと見てみると、早く離れろ。いつまでくっ付いてる気だ!と言う目つきで睨まれてしまった。
慌ててサラから離れ照れ笑いをするクリスだった。

「クリスも落ち着いたようだし、説明するわね」

3人は椅子に腰をかけ、サラの話を聞き始める。

「ここの領主は何処かで私たちの事を噂で聞いたみたいなの。
 その噂からすれば、今月中にはこの町を通過すると判断したのね。 
 例え領主だとしても、私達にはそう簡単に会えない事を知ってるから
 王都から来た者たちを片っ端から連れてきては謁見してるみたい。
 唯一分かっている情報は、イアン、あなたの姿形だけらしくて、該当する者達すべてを
 この城に連れてきては接待をしてるみたい」

「接待?なんでだ?」

「お近づきになりたいのと、恩を売っといて親しくなろうって魂胆じゃないかしら」

「今後色々と便宜を図ってもらおうって言う事か」

「その通りよ。それからね、この後私たちは離されるから、もしもの時のために
 あなたに術をかけとくわ」

サラは椅子から立ち上がり、イアンの側に行くと肩に手をかけ、深い口づけをした。
何気ないいちゃつきなら普段嫌と言うほど見せつけられていたクリスだったが、目の前で、それもよく知っている人物のラブシーン(?)は初めて見た。
目のやり場に困り、顔全体が真っ赤になっている。

「////////////」

「これでいいわ」

「今の術は・・・まさか」

「ふふっ、移し身の術よ」クスリと笑う。

「ちょっと待てよ!それじゃサラが・・」

そう言いかけるとイアンの口にサラの手で塞がれ、言葉を苛(さいな)まれた。

「大丈夫よ、私は。知ってるでしょ?・・・イアン」

サラは何があっても絶対に死なない。
それは分かっている。
分かってはいるが、サラに傷一つ負わせたくはないと言う男心も少しは分かってほしいと思うイアンだった。

しばらくすると兵士がやってきて、サラとクリスを連れて部屋を出て行ってしまった。
二人が連れてこられた場所には、先に連れて来られていた、王都からやって来た旅の者達だった。
姿形が該当する者以外はすべてこの部屋に入れて置くきだ。









領主の部屋では、臣下を数名集め報告書を見ながら審議をしていた。

「今日連れてこられた方の中に、本当に魔王様はいらっしゃるんでしょうか」

「今までの情報からすれば確率は高いですな」

「金髪・グリーンアイ・年の頃は二十歳前後。
 今日の3人の中に必ずいるはずだ」

「やはり魔王様というくらいですから、供の物も大勢釣れているのでは?」

「いや、学問の都に訪れた時には、お連れは1人だったと聞くぞ」

「ですが今回の中に二人で旅をしてる方はおらぬではないか」

「あれから1年近く経ってますぞ。従者も増えようて」

「ならば、王にだけしか分からぬ質問をして炙り出してみるか」

結局ほとんど何も確定しないままに晩餐会の時が来てしまった。

19: ハナミズキ [×]
2014-09-02 17:43:38

サラ達が入れられている部屋には、魔王候補1の連れである男4人。
この者たちは旅の行商人だった。
いくつかの国を1年かけて順番に周り、その生業で生計を立てていた。
この町に入るなり、いきなり警備兵に連行され、理由も聞かされていないので、ガクガクと震えている。

魔王候補その2の連れは、男女合わせて15人ほどだ。
この人達は旅の芸人だという。
いろんな国を周っていると、たまにこういうトラブルに巻き込まれるのか慣れているようだ。
疑いが晴れれば直ぐに解放される事をよく知っていた。

「今回は何の疑いで連れてこられたんだ?」

「知らねぇよ!それにしたってなんでヒジリだけ連れてかれたんだか・・」

「おぃ・・・もしかしてその連れてかれた人って、金髪でグリーンアイの青年か?」

「そうだよ。なんで知ってんだお前」

「やっぱりそうか・・・あの噂は本当だったんだな・・」

「噂ってなんだよ!知ってんなら教えろ!」

旅の行商人は、途中の町で聞いた噂を話し始めた。

「俺が聞いた話じゃな、この大陸の魔王様がお忍びで各小国を視察して歩いてるって話よ。 
 そんで、性質の悪い領主がいれば即刻お払い箱だっていう話だ」

「お払い箱って?」

「これだよ」片手で首をチョンと刎(は)ねる素振りをして見せた。

そこに居た者が皆一斉に生唾を飲み込む「ゴクリ」。

「おぃ、ねえちゃん。お前さんとこの連れも金髪にグリーンアイなのかぃ?」

「はい、そうです」

「・・・・しっかしねえちゃん・・・美人だな・・・ひっひっひ」

サラを舐めまわすようにジロジロと見だした。
するとクリスが突然サラの前に立ちはだかり、剣を構える。

「サラ様に指一本でも触れたら僕が許さないからな!」

「おぅおぅボーズ。威勢がいいねぇ」

ニヤニヤとしながら芸人の一人が嘲笑った。

「クリス、落ち着いて。ねっ?」

クリスに微笑みかけながら抱き寄せ落ち着かせた。
サラのその姿がまるで天使のように見えた男達は、羨ましそうにクリスを見ている。

だいたいの事情が呑み込めた部屋の人たちも、しだいに落ち着きを取り戻し、開放されるまで大人しく待つことにした。
しかし、いくら大人しく待っているとしても、いい加減お腹が空いてきた。

その時、急にドアが開き、衛兵が供の中から各自二人だけ付いてくるように言った。
行商人達はじゃんけんで行くものを決め、芸人一座は団長らしき人物と、先ほどいやらしそうに舐めまわしていた男の二人、そしてサラとクリスの計6人が、領主様主催の晩餐会に連れて行かれたのだった。

20: ハナミズキ [×]
2014-09-02 20:54:04

広い部屋の中央に細長いテーブルが置かれ、その上には見た事も無いようなご馳走が所狭しと並んでいる。
各々自分の連れの側に行き、空いてる席に座るように促される。
テーブルを囲むように、壁を背にして衛兵が立ち、こちらを見張っていた。

遠慮なく食べろと言われても、領主を目の前にしては食事も喉を通らない。
いくら見た事も無い美味しそうな料理を食べても、緊張のあまり味など全く分からない始末だ。
そんな中黙々と食べている者が若干5人ほどいた。
旅芸人の3人とサラとイアンだ。

サラとイアンは納得できるが、旅芸人のその図太さには驚きを隠せない。
先ほど別室で行商人から聞いた話を、魔王候補その2の青年の耳に入れ、見たところ魔王様さしき人物が見当たらない事を確認すると、即興で自分達がその魔王様一行の振りをしようという事にしたそうだ。
旅芸人なだけに役作りはお手の物で、団長が目付け役の従者で、スケベ親父風の男は魔王様を護衛する騎士と言う役割の様だ。

領主とその臣下達は、食事の様子を見ながら一組の人物達に狙いを定めた。

「ではそろそろ本題に入りとうございますが、皆様方にお越しいただきました訳は
 この国に魔王様がお通りになるとお聞きしまして、それなら我が城でごゆるりと
 休んでいただこうかと存じ上げた次第でございます」

「あら、それなら誰が魔王様なのかもうご存じなのですね?領主様」

領主である自分におくする事無く物申すその少女に目線を置いた。

「お前は誰に物申しておるのか分かっておるのか!」

臣下の一人が厳しい表情でたしなめてきた。

「あら、だって、誰が魔王様なのか知ってるなら、私達がいつまでもここに居てはまずいのでは?」

「ほほぅ。ではお前達は魔王様とその供の者ではないと言うのだな」

「それはどうかしら?領主様にはもうお分かりだと思っていましたが」

イアンがサラの横からクイクイと腕を突く。

「おぃ、サラ・・いい加減にしろよ・・」小声で呟いている。

その場の空気が一瞬にして凍りついたしまったので、旅芸人たちがその場をとりつくろう事にした。

「で、その魔王様にいったいどの様なご用件があるのでしょうか」

ふん、やはりな。と言う顔で話しだす。

「いえ、用件などは何もございません。
 せっかくこの地にお越し入りくださったのですから、少しばかりの歓迎の義にございます。
 ですが、私共の願いが一つだけあります」

サラとイアンの顔がピクリと動く。

「この地は見ての通り辺境の地でございます。
 魔王様に任されました土地を十分に使いましても、千年前からお承りましたブドウ園が
 手狭になってまいりまして、町外れの山ひとつ分開拓しとうございます」

「それなら直接王室の方に信書を出せば良い事だろ」

思わずイアンが口をはさむ。

「信書は何回も出しましたが、なにぶんこんな辺境の地にございましては、相手にされないので
 ございます。
 魔王様に謁見のお伺いを立てても、忙しいとの一点張りでお目通りが叶うはずもなく
 こうして無礼だとは思いましたが、直接お話を聞いてもらうほか思いつかなかったので
 ございます」

なるほど、そう言う訳だったのかと納得をした。

「それでその・・どうでしょうか魔王様・・」

領主の視線は旅芸人一行に向いていた。

『えっ?俺?一体なんて答えればいいんですか団長』小声で団長に聞く。

『今の話を聞いちゃ、了承するしかないだろうが、こんな大事なこと勝手に決めちまったら
 後で俺たちの命が無くなる事は確実だ。
 なんとかうまく誤魔化せ』

『誤魔化せって・・・いったいどうやって・・・』

「それは今すぐにでも許可をしたい所なんだが、私一人で決めかねる事案だな。
 一度城に戻り協議にかけなければならない。
 そう言う訳で今すぐに答えを出すのは待ってほしい」

「そうですか、分かりました」

サラとイアンはその無難な返答に関心をしたが、その議案が城に届くことは一生無い。
少し領主が可愛そうになってきた。
サラが透視をしたところ、領主の言っている事に間違いはなさそうだ。

「イアン、いいんじゃない?」

「そうだな。サラがそう言うなら本心なんだろうな」

周りの者が一斉にこちらを見る。
一番驚いているのが、なにをかくそうクリスだった。

――― ぇっ?えっ?えええぇぇぇぇぇっ!? ―――

声にならない声で口をパクパクさせている。

「それはいったいどういう意味ですかな?お若い方」

領主もいまいち把握していなかった。

「だ~か~ら~、開拓すれば良いって言ってんだよ」

「ですが魔王様がいましがた一度城に戻ってからと・・」

「その魔王が民の為になるなら明日からでもしてもいいと言ってるだろうが」

「ですって、領主様♪」

「「「「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」」」」」

部屋が揺れ動くようなどよめきが響いた。

「そんじゃ飯も食ったし、行くか」

「飯じゃなくてご飯でしょ?イアン。」

「はいはい。」

「返事は1回よ」ペシリとおでこを叩く。

「へーぃ」

クリスは驚きのあまり腰が抜けて立ち上がれないようだった。
そんなクリスをイアンが担ぎ上げ、3人はそのまま部屋を退室して先ほど居た部屋に戻るのだった。

サラ達はイアンにあてられた部屋に入り、大笑いをしている。

「ねっ?言った通り面白い事が起こったでしょ?」

「いやぁ~、まさかこういう展開になるとは思わなかったな(ハハハ」

「あ、あの・・・確認のために聞きますが、イアン様は魔王様なのですか?」

「あぁ、そうだよ。俺がこの大陸の魔王だ」

驚きはしたが、どこかでそうじゃないかと言う事は、以前から少し思っていた。
堂々として気品があって、魔術だって呪文を唱えず繰り出すその腕前は、一大陸の王に匹敵するのではと常々思っていたからだ。

「では・・あの・・サラ様は・・いったい・・」

魔王であるイアンに意見をし、行儀が悪いと怒り叩く。
イアンもサラには頭が上がらないようだが、サラの事を信頼しサラに危険が及ばないように片時も離れないその姿は、深く愛し合ってるようにも見える。
いったい二人はどういう関係なのだろうかと、不思議に思った。

「クリス」

「はい」

「伝説の魔女って知ってるか?」

「はい!知ってます!・・・・って・・・まさか・・・・」

「そのまさかだよ」悪戯っぽく言った後に、あははと笑い出した。

――― ぇっ?えっ?えええぇぇぇぇぇっ!? ―――

イアンとサラを交互に見ながら口をパクパクとさせていた。

『僕はなんて幸せ者なんだろうか。
 両親を亡くしてからは、おじさん達に親切にしてもらい
 今は魔王様と伝説の魔女様と一緒に旅をさせてもらってる。
 僕は・・・僕は・・・』

感謝と感激のあまり涙を流していた。

「ほらほら、泣かないの」

優しく抱きしめ頭を撫でるサラだった。







次の日、城を立つ際に、いまだ半信半疑な領主にむかい

「あの山で良いだな」

「はい、そうでございます」

イアンが山の方に手をかざしたかと思うと、山肌が姿を現した。
山に生えていた木々たちは、サラの変化樹木魔法で山一面にブドウの木となり、新たなブドウ畑が誕生をした。

「これでいいだろ」

魔王の力を目の当たりにした領主達は、恐れ敬いながら3人の姿が見えなくなるまで見送っていた。
とうとう二人の正体を知ってしまったクリスだったが、怖いと言うより、やはり尊敬の念の方が先にたったようだ。

「よし!次は海のある町に行こうぜ!」

「もぅイアンったら・・・遊びじゃないのよ?」

3人は海のある町に向かって馬車を進めるのであった。









―― つづく ――

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