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あの日の夏の思い出/105


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自分のトピックを作る
81: ハナミズキ [×]
2014-08-03 19:55:49

サナが将来についてぼんやり考えていると、ふと、前に疑問に思った事を思い出した。

あの時サイは何処にいたのだろう。
月が見えていたのは、この街の近隣周辺だけだったはず。
友達の家や女の人の家から、わざわざチャットをしにネットには繋がないだろう。
私なら繋がない。

外出していたとしても、やるなら家に帰ってからじゃないのかな?
じゃあ何処から?
時間的に夜の9時頃だったはずだし、そんな時間にいったい何処から?

近隣にある建物は、深夜11時まで営業しているデパートと、宿泊が可能なスポーツセンターにゲーセン・カラオケ・居酒屋・飲み屋に・・・あと、救急外来のある病院くらいしかない。

これらの何処かからかやっていた事になる。
・・・・・あっ!
月が見える場所・・・ここがポイントだ。


82: ハナミズキ [×]
2014-08-03 20:03:16

デパートは・・・見えないよね。
スポーツセンターは・・・見える。
ゲーセン・・・見えない。
カラオケ・・・見えない。
居酒屋・・・見えるかもしれない。
飲み屋・・・見えない。
病院・・・見える。

一つずつ消去法で考えてみた。
見える場所は、スポーツセンターと居酒屋と、病院、この3つだ。

スポーツセンターに泊まっていたとしたら、月は見えている。
居酒屋も、小部屋に窓があったとしたら、月は見えている。
病院はもちろん見えるだろう。

でも、サイに一番縁が無さそうな所は病院だよね。

将来の事について考えていたのに、いつの間にか横道に逸れてしまっていた。

83: ハナミズキ [×]
2014-08-03 20:24:32

秋風も強くなり、寒くなりだした11月頃に、サイが突然旅に出ると言い出した。
だからもうチャットには来ないと。

昔からの夢に、本格的に取り掛かるので、チャットをする暇がなくなるという。
行き詰まったり、疲れた時は着て欲しいと言ったけれど、余計な事は考えたくないから、無理だと言われた。

私は泣いた。
サイまで居なくなってしまう悲しさと寂しさが、押さえ切れなくなり泣いた。
もう、これっきり会えないのなら、いっそいま、この思いを伝えようかと思った。

「サイ・・・あのね
 サイの事が好き・・・。
 大好きなの・・・だから・・」

その言葉は最後まで言わせてはもらえなかった。

「あー、悪い。
 俺そー言うのダメなんだわ。
 遊びならいいんだけどさ、好きだとか愛してるとかってウザイだけなんだよな。
 んで、俺ルールで、その禁句ワードを言った時点で終了な。
 そー言う事だから、もう来ねーわ。
 じゃーな」

そういい残すと、サイは消えていった。
それ以来2度とサイの姿を見る事はなかった。

私は泣いた。
涙で自分が溺れてしまうかというほど泣いた。
友達だと思って信頼していた自分が腹立たしい・・・・。
忘れたいのに、忘れられないのも悔しい・・・。

泣いて泣いて、泣き暮らす日々が続き、やはり自分は誰からも愛されない子なのだと痛感したのだった。

84: ハナミズキ [×]
2014-08-03 20:31:33




サイの体調が最近余りよくない。
暑さのせいだろうか。
それでもサイは、最近受験勉強に集中する事にし、チャットに来なくなったマメの分も、少し無理を押して顔を出していた。
そして無理がたたったのか、軽い発作を頻繁に起こすようにもなっていた。

チャットをしている最中にも発作は来る。
発作が起こっている間は返事を返す事ができない。
会話の間隔が長くなる事もよくあった。
そういう時は、トイレに行っていたとか、飲み物を取りに行っていたとか、コンビニに行っていたなど、良い訳はさまざまだった。



85: 匿名 [×]
2014-08-03 20:39:35

二度と会うことはないんじゃなかったの?
関わってるみたいな文章ですが

86: 匿名さん [×]
2014-08-03 20:41:32

サイもつらい

87: ハナミズキ [×]
2014-08-03 20:43:15

昼食を食べている時に、いつもより激しい発作が起きた。
胸に激痛が走り、呼吸ができなくなる。
手に持っていた箸を落とし、食卓の椅子から転げ落ちた。

それを見ていたサイの母親が、慌ててサイの様子を確認し、救急車を呼んだ。
苦しんでいる息子を抱きかかえながら、背中を一心不乱にさすり、泣きじゃくっている。

軽い発作なら何回も経験しているが、意識がなくなるほどの発作は10年ぶりだったからだ。
あの時の悪夢が脳裏をよぎる。
あの時は、サイの心臓が1度止まったのだ。
医師の必死の救命措置により、なんとか息をぶり返し事なきを得たが、今回もまた、心臓が止まってしまうのではないかと、心配でならなかった。

救急隊員の的確な処置により、なんとか無事に病院に着き、しばらく入院する事となった。
検査をした結果、今度大きな発作を起こしたら、命の保証はできないと言われた。

度重なる発作により、サイの心臓がかなり弱くなってきているらしい。
元々サイは、20歳まで生きられないと宣告されていたのである。
その先刻の期日が、刻々と静かに擦り寄ってきていた。

88: ハナミズキ [×]
2014-08-03 20:52:01

心臓も安定して体調も少し戻ってきていた頃、サイの母親が医者のこう言われた。

「息子さんの心臓は、もう長くは持たないでしょう。
 ですからこれからは、息子さんの好きなように過ごさせてあげてください。
 もし何かあれば、直ぐに来てください」

それからのサイは、短期で入退院の繰り返しだった。
病室も個室をあてがわれ、パソコンも使っても良いと許可も出た。
そこからチャットをし、病気のことは一切隠していたのだった。

89: ハナミズキ [×]
2014-08-03 21:14:26

11月に入ったある日大きめの発作が怒った。
入院していたため命に別状はなかったものの、サイ自身ももうそろそろ限界を感じていた。

黙って姿を消すより、突き放して別れた方が後を引かず、サナも自分の事を忘れてくれるだろうと考えていた。
そして、新しい人生を歩んでくれるだろうと思っていた。
だからこそ冷たい言葉を吐いて突き放したのだ。

「あー、悪い。
 俺そー言うのダメなんだわ。
 遊びならいいんだけどさ、好きだとか愛してるとか、ウザイだけなんだよな。
 んで、俺ルールで、その禁句ワードを言った時点で終了な。
 そー言う事だから、もー来ねーわ。
 じゃーな」

文字を打ち込みながらサイは泣いていた。

「ごめんな・・・ごめんなサナ」

そう呟きながら。

サイ自身もなんとなく感じていた。
自分には新しい年を越せないだろうという事を。

発作の間隔が短くなり、その大きさも徐々に大きくなっていく。
そのため、体力や食欲も落ち、身体は痩せ細っていった。



そして12月25日、クリスマスの日に、サイは天に召されたのだ。

90: 匿名さん [×]
2014-08-03 21:20:34

サイは男だ

91: ハナミズキ [×]
2014-08-03 21:25:10




サイに冷たく突き放されたあの日から、サナの時間は止まったままだった。
パソコンのスイッチさえ入れていない。
入れてしまえばサイのことを思い出し、つい姿を探してしまうと思っていたから。

春になり、サナは3年生になった。
宿題で提出するためのレポートに必要な資料を、ネットで探さなければいけない。

スイッチを入れると、マメからスカイプにメッセージが入っていた。

「大学受かったぞー!」

みるとマメがスカイプに居るではないか。
サナが居る事に気が付いたマメは、チャットを飛ばしてきた。

「元気にしてたかー?」
「身体だけは元気だよ!」
「なんだよ身体だけってwww」
「色々あってねー。 
 マメはサイから何も聞いてないの?」
「・・・サイ?」

しばらく沈黙が続いた後

「・・・何も聞いてないよ」

これだけ言うのが精一杯のマメだった。

92: 匿名さん [×]
2014-08-03 21:27:42

マメもつらい

93: ハナミズキ [×]
2014-08-03 21:39:07

真実を告げるべきかどうか、マメは迷っていた。

「マメ、サイって今ごろ勉強を頑張っているのかな?
 病気とかしてないよね?
 マメのとこになにか連絡とか来ないの?」
「・・・・・・・。」

何も言えなかった。
いや、嘘を言いたくなかったのだ。

二人で話していても、サナは時折サイの事を振ってくる。
どうしてるかな。元気にしてるかなと。

あれから4ヶ月、サナは未だにサイの事を忘れてはいなかったのだ。
あの日からサナの時計は止まったままだった。
その事実を感じ取ったマメは圧決心をした。

「サナ、今度の日曜に会わないか?」

サナはマメと会うことで、自分の気持ちを整理する事ができるかもしれないと思い、OKの返事をした。

94: ハナミズキ [×]
2014-08-03 21:50:21

前回と同じ場所で待ち合わせをし、前回と同じ世にカラオケに行く。

何曲か歌った後に、マメが神妙な顔をしながら話し出した。

「なぁサナ、サイの事なんだけどさ、まだ好きなのか?」

サナは何も言わずにただうなずいた。

「サイの事なんか忘れて、他に好きなやつ作れないのか?」
「・・・サイは・・私の初恋だったんだ・・忘れられないよ・・・」
「・・・そっか。。」

マメはその姿を見て、サナの止まっている時間を動かす決心をした。

「あのなサナ・・・お前に見せようかどうかずっと迷ってたんだけど・・これ・・」

そう言ってカバンから一通の手紙を取り出してサナに渡した。
その手紙を受け取り、差出人を見てサナは驚いた。
サイからの手紙だったのだ。

「それ、本当はサナには見せるなってサイに言われてたんだ。
 でも、今のサナを見てたら、それが必要なのかもしれないって思ったから
 俺の独断で持ってきた・・・」

サナはその手紙を読んでみた。

95: ハナミズキ [×]
2014-08-03 22:11:41

サナ、ごめんな。
あんな突き放すような付けたい言葉を言って、本当にごめんな。
本当は俺もサナの事が好きだった。
実は俺、サナの顔知ってたんだ。
マメと二人でプリ撮っただろ?
それな、俺が撮ってこいって言って撮ってきてもらったんだ。
そんでそのプリな、いま俺が持ってる。
悪いな、黙ってて。

短い間だったけど、俺はサナと知り合えて幸せだったよ。
ちょっと気が強いけど、裏表のないサナが好きだった。
自分を飾らないサナが大好きだった。
俺が何か意地悪な事を言うと、拗ねてみせるサナが愛おしかった。
こんな気持ちを俺にくれたサナが本当に大好きだった。

できればこの先、俺と一緒に人生を歩んで欲しいとさえ思ってたんだ。
でも俺は、サナの事を幸せにしてやる事ができないんだ。
俺だけ幸せな気持ちになってごめんな。

俺って謝ってばかりだな。
でもここに書いてある事は、すべて本当の事で、本当の気持ちなんだ。
俺、何でこんなこと書いてるんだろうな。
死ぬ前に、自分の本当の気持ちを、何かの形で遺して置きたかったのかも知れないな。

俺はきっと、来年という未来を迎えられないと思う。
自分の体の事は自分で分かるんだよな。
俺の心臓は、もう長くは持たないってね・・。

だから俺は、この気持ちをこの手紙に、永遠に封印するとしよう。


サナ

大好きだ  

愛してる


                                     サイ

96: 匿名さん [×]
2014-08-03 22:14:21

サナつらい

97: ハナミズキ [×]
2014-08-03 22:35:43

サナは手紙を読みながら涙を流していた。
声を噛み殺しながら泣いている。
マメもまた、その姿を見ながら泣いていた。

そしてマメが言っていた『ある人』と言うのが、サイの事だったのだと分かったのだ。
目標も、希望も持てなかったサナだったが、将来サイのようは人を助ける手助けをしたいと思うようになった。
もし自分に、医学的知識が少しでもあったのなら、サイの様子にもいち早く気がついた事だろう。
そうすれば、もしかしたら、サイはいまもまだ、いや、これから先も、ずっとサナの側にいたかもしれない。

もう後悔はしたくない。
サイが好きだといってくれた自分を取り戻したい。
サナの時間はいま、動き出した。




それから数年後。
あの日の思いからサナは看護士になっていた。
どうしようもない暗闇の淵で、大切な人を亡くし、出口を見失い、途方にくれていたサナに、手を差し伸べてくれたのが、同じ大切な人を失ったマメだった。

二人は励ましあいながら、目標に向かって一歩ずつ歩んできた。
止まっていた時間は再び動き出し、いまはサイのように病気で苦しんでる人が1人でも減るようにと頑張っている。

医学は日々進歩をする。
二人はそれぞれに、誰かのために動き続けているのだ。








                               ―――  完  ―――

98: 匿名さん [×]
2014-08-03 22:37:30

ありがとうございました

99: ハナミズキ [×]
2014-08-03 22:40:32

読んでくれてありがとうございました。

今度は悲恋ものじゃないやつを書いてきたいですね(笑

100: 匿名さん [×]
2014-08-03 22:45:02

次回作はいつ頃ですか?

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