>アオイ (月明かりの中に透かすように右手の甲を上にして翳し。間を置かずしてぐにゃん、と音もなく空間が曲がり、小さな背丈の人がたが形作られ揺らめいた後、輪郭を定めるとほぼ同時に静寂に響く非難がましい少女の“You're a slave driver!(こんなことに呼ばないで!)”。五月蝿い良いから早く行けと視線で告げ、彼女を生み出したその右手でしっしと追い払う仕草を加えれば深い深い溜息をつきながら夜の闇に消えていく、星霊のくせに大変生意気である。自分でも念を入れすぎている自覚がないではなかったが、事前に知れる術があるなら、わざわざ自分から水を刺されにいくこともないだろう、と思っていた。何より今日は3体処理した後で少し疲れていたから、他人がいるという状況に気が進まないというのもあったけれど。戻ってきた少女に客は他に誰もいないと報告を受け、礼を言って彼女の頬に右手を添えるとその姿は途端に霧散し。こつ、こつ、小さく靴の擦れる音を伴って柔らかな光の漏れる店の扉を前に、その取っ手をそっと引いてはそろりと猫のような身のこなしで入店。)